ボーイズラブのすゝめ

ボーイズラブ系のコミックス&小説の感想を中心に。

『俺が好きなら跪け』(里つばめ/大洋図書H&C Comics)感想【ネタバレあり】

俺が好きなら跪け (HertZ&CRAFT)

俺が好きなら跪け (HertZ&CRAFT)

俺が好きなら跪け (H&C Comics CRAFTシリーズ)

俺が好きなら跪け (H&C Comics CRAFTシリーズ)

 
里つばめ先生の『俺が好きなら跪け』の感想です。
銀行員である同僚同士の物語。
受け攻め共に一筋縄ではいかないカップル。
二人が折に触れては繰り広げる駆け引きに大興奮。
また、お仕事物としても読み応え有り。
 

『俺が好きなら跪け』(2018年9月1日発行)

あらすじ

東都銀行に勤める松田は女性にだらしなく、性格にも難ありだが、優秀な銀行員。
そんな彼が目下ライバル視しているのが同期の加藤。
自分以上に女性にもてて、涼しげな顔で大口契約をものにしてしまう加藤は、松田にとって目の上のたん瘤でしかない。
ところがある日、残業で行内に残っていた松田は、当の加藤から告白されてしまい……。
 

総評

2019年現在、私が最も注目している作家の一人である里先生の著作。
先生が描かれるキャラは一筋縄ではいかないタイプが多いんですが、本作の主人公である松田と加藤もその例に漏れず。
分かりやすい「優しさ」やステレオタイプの「実は良い人でした」的な展開などは皆無。
それどころか、それぞれベクトルは違うものの、ぶっちゃけ人としてはアウトな部分も見受けられる。
松田は上昇志向が強く、何をするのにも手段を選ばないところがあるし。
加藤も無表情の下で何を考えているか分からないし。
 
しかし、それでも読者の目に魅力的に映るのが、「里先生マジック」とでも表現すればいいのか……。
物語が進行していく内に垣間見える、仕事に対する熱量や恋愛面で見せる一途さや、ちょっとした可愛げなど。
違った一面を発見するたびに、どんどん惹きつけられていく。
 
そんな食えない二人が繰り広げる駆け引きからも目が離せない。
加藤の真意が汲み取れず、松田はイライラ、読者はドキドキ。
だが松田も負けてはおらず。
仕事でねじ伏せてやろうと食らいつく。
それが加藤をさらに昂らせてしまうとも知らず……。
そのいわば無限ループがあまりにも美味しすぎて、終始ニヤニヤが止まりません。
 

俺が好きなら跪け 1

いやぁ、初回から松田の性格の悪さが炸裂ですね(笑)。
まあ、このぐらいアクが強くなければ、嫉妬と羨望が渦巻く出世競争の荒波を渡り切るのは難しいのかもしれませんが。
女性ともかなり遊んでいるようだけれど、芯の部分は冷めている。
無能な先輩に彼女を寝取られて腹は立っても、彼女自体にはまったくこだわってはいないようだし。
 
そんな松田が懸命になる数少ない要因が、仕事と加藤への対抗心。
この時点では加藤が鉄面皮の裏側の内面が汲み取りにくいですが、彼が松田のどこに惹かれたのかは分かるような気がします。
恋情がこもらないまでも、あんな視線を向けられれば、クールな加藤も煽られるだろうな。
そして、ラストの加藤の告白が、二人の新たな関係のはじまりを告げる。

俺が好きなら跪け 2

深夜の職場で、いけ好かない加藤に告白&キスされた松田。
だからといって、ここで恥じらうような殊勝さは一切なく、加藤との関係において「勝った!!」とマウント取ろうとしているのが実に彼らしい。
彼女を寝取った先輩に対する報復も手抜かりなく、そしてえげつない。
ビッチを切れて、ウザい先輩もコテンパンにできるという一挙両得。
ここまで突き抜けていると、いっそ清々しい。
 
だが、松田も加藤の前では調子が狂う。
松田に告白してきたくせに、相変わらず悠然としている加藤。
そうかと思うと、松田の皮肉に激昂したクソ同期から彼をかばったり。
加藤の真意が見えずに戸惑う松田。
それでもなけなしの負けん気を発揮するものの、性的な欲望を抱かれているのは承知しているので、二人っきりになるとどうしても加藤の一挙一動にビクついてしまう。
そんな松田を見る加藤の目がね、これまたたまらない。
まさに獲物をターゲットロックオンした猛禽類のそれ。

静かな中にも、機会があれば今にも喉笛に噛みついてやろうと虎視眈々と狙っている。
この緊張を孕んだ距離感に萌えるなという方が無理。
 

俺が好きなら跪け 3

前回、二人っきりの会議室で、加藤に「鍵かけろ」と言われて、「鍵?なんで…」って……。
ここまで来て、鍵かけてやる事とっつったら一つしかないだろ、松田~!!
いつもはあんなに強かなくせに、こういう時に限ってなんでここまでチョロいのか?
おまけに、加藤の手管に翻弄されて、簡単にイかされてしまうし……。
策を弄した(というほど大した事してませんが)加藤もビックリ。
 
しかし、そこで変に乙女チック路線に入らず、「なら仕事で叩きのめしてやるよ!!」と奮起するのが加藤の良いところ。
今回は、彼の仕事に対する予想外の一本気さや誠実さが、凄く出ていたと思います。
悪態を吐きつつも有能さを認めている加藤に「お前と仕事してみたかったんだよ」と言われて、内心嬉しかったんだろうなという事が察せられたり。
仕事に対するスタンスの違いで、加藤と衝突したり。
この対等に渡り合っている感が大好き。
加藤は加藤で、セクハラ発言や軽くストーカー行為をかましつつも、松田と関わるうちに無表情な中に感情の片鱗が滲むようになってきた。
  

俺が好きなら跪け 4

加藤がどうしてそこまで松田に執着するのか明かされます。
彼にとって仕事は割とどうでも良くて、あくまで魚(松田)を釣るための手段でしかない点に慄く。
 
製薬会社の御曹司という立場。
努力せずとも、なんでも水準を遥かに超えた結果を出してしまう自分。
やっかみと陰口を叩くしか能のない同僚。
そんな色褪せた世界の中で、加藤にとって唯一自分に噛みついてくる「めんどうくさい」松田だけがビビットな存在だった。
親の後を継ぐのが既定路線の加藤と、「俺は俺のために仕事してんだよ」と嘯く松田の対比。
これは加藤のような人間が、松田の事を是が非でも手に入れてやると執着しても不思議ではない。
松田、無意識とはいえ、とんでもないのもを落としてしまいましたね。
 
後半は一転。
別れた彼女から逆襲されて、出勤禁止にまで追い込まれる松田。
仕事が順調に行っていただけに痛恨ですが、これは自業自得&因果応報というか……。
そんな失意の松田のもとへ、加藤がやってくる。
嵐の予感しかしません。
 

俺が好きなら跪け 5

松田を手に入れるためなら遠慮も躊躇もない加藤。
手段なんてどうでも良い彼だから、この機に乗じて抱きに来たというのも本心なんだろうけれど。
なんだかんだと言いつつ松田が心配だったのもうかがい知れる。
 
ここの濡れ場もヤバい。
加藤の言動は相変わらず容赦ないながら、反面、松田大好きオーラが駄々洩れ。
大業な表現はないものの、表情や言動の端々から滲み出ている想い。
ホントなんつー蕩け切った顔で松田を見ている事か……、それを松田が知らないのが、これまたにくい。

片や、松田はエロ可愛さMAX。
抵抗しつつも、加藤との体の相性はバッチリなので、ついつい流されてしまう。
あれだけ女慣れしているモテ男なのに……、普段との落差にキュンキュンする。
加藤がムカつくのは変わらないようですが、反面、気になって仕方がない様子。
 
そこで加藤はできる男なものだから、さらに畳みかけてくる。
 

お前はもう逃げられないんだよ。諦めろ。

松田、俺、あと2年もしたら親の会社に戻るだけれど、そのとき松田も一緒に来いよ。

 
加藤ほどの男にこんな事言われたら、さすがの松田も絆されるわ……。
ここで俺様強引攻め×流され受けでハッピーエンドかと思いきや、……さすが里先生、そうは問屋が卸さなかった。
 
次の瞬間、絶えず傲岸不遜だった加藤の意外な一面が明かされて大爆笑不可避。
松田の前では「金で解決したんだよ」とか、何事もなかったかのような顔しておいて、実は松田を助けるために土下座までしていた事が発覚。
へぇ~~~、はぁ~~~、ほぉ~~~(ニヤニヤ)。
惚れた松田の前では、やはり格好つけてたかったんだろうね。
普段は俺様マイペースでどこか超然とした彼が、とても身近な存在に感じられる。
こんな表情もできるんだねぇとしみじみ。
いつもと違って前髪を降ろしている事もあり、なんだか幼くも見える。
レアな赤面顔も相まって、松田でなくともからかいたくなります。
まさにギャップ萌えの宝庫のような男・加藤。
 
しかし、そこは曲者の加藤。
単に茶化されるだけでは済ませなかった。
 

僕と結婚して下さい!

 
この時の二人の表情の対比も絶妙でした。
跪いているのに「してやったり!」といった風な加藤と、衆人環視の中で男にプロポーズされて、青ざめ赤面する松田。
甘くはならず、どこか勝負チックな雰囲気が、この二人にピッタリ。
これからも、彼らはこんなシーソーゲームを続けていくんだろうなというのが感じられるラスト。
 

リテイク

5話の続きで、屋外デート(?)する二人。
平常運転の駆け引きだけれど、どことなく甘さが漂っているのは気のせいか?
高級腕時計の見返りが「俺のスマイル」なところは、さすが松田というか……。
それを本気に受け止めてしまっていそうな加藤……、もはやこの二人のやり取りは夫婦漫才にしか見えない。
 
その後も、加藤の松田に対する求婚は続く。
顔に出にくいけれど、加藤も必死なんだな。
何しろ、人生を共にしたいという希望のもと、アタックしている相手ですからね。
一見なんでもそつなくこなしてしまう男だからこそ、率直な「俺を好きになって」にグッとくる。
これは、松田が陥落する日も、そう遠くないでしょう(というか、すでに陥落している?)。
 

『OFF AIR イエスかノーか半分か』(一穂ミチ/新書館ディアプラス文庫)感想【ネタばれあり】

OFF AIR ?イエスかノーか半分か? (ディアプラス文庫)

OFF AIR ?イエスかノーか半分か? (ディアプラス文庫)

OFF AIR~イエスかノーか半分か~

OFF AIR~イエスかノーか半分か~

 
一穂ミチ先生の『OFF AIR イエスかノーか半分か』の感想です。
『イエスかノーか半分か』シリーズの同人誌収録作品や、付録ペーパーやブックレット、ブログに掲載された短編&ショートショートまで集めた作品集。
甘々から少し切ない物語まで作風も豊富。
大変ボリューミーで、ファンには嬉しい一冊。
シリーズ未読の方は、まず下記の三作から。
kashiwamochi12345.hatenablog.com
kashiwamochi12345.hatenablog.com
kashiwamochi12345.hatenablog.com
 

『OFF AIR イエスかノーか半分か』(2017年9月10日発行)

総評

同人誌や付録ペーパーなど、場合によっては入手困難な媒体に発表された短編などを収録した作品集。
ショートショートなども合わせて20作以上。
おまけに、三巻以降で計と潮が半同棲を始めた新居の間取りや、二人の設定ラフ画まで掲載。
『イエスかノーか半分か』シリーズが好きだけれど、見逃してしまった読者にとっては歓喜せざるを得ない一冊。
また、既読のファンも、多くの作品が一挙にまとめられているので、作品世界にどっぷりと浸る事ができます。

シリーズ全体を通して、様々な時期の二人や、本編とはまた別の角度から切り取った物語など、趣向も凝らされています。
この一冊を読むと、本編を再び読み返したくなる事請け合いです。
 

熱帯ベッド

計が結婚式の司会の仕事を翌日に控えた夜の、二人のラブラブ。
寝室ひとつとっても、声を商売道具にした計のプロ意識の高さが垣間見える。
そして、そっち方面では、相変わらず潮の掌で踊らされる計が面白い。
職場ではあんなにできる男なのに、どうしてプライベートではこんなにチョロいのか……。
あられもない声を出したくないからって、潮の口でふさぐって、それ、潮の思うツボだから。
 
計を独り占めできるのは潮だけに許された特権。
確かに売れっ子アナウンサー・国江田計の自分オンリーワン視聴の生放送って贅沢すぎ。
冒頭の一編からこの糖度って、最後のページをめくるまで、私の脳と心臓は持つのだろうかと心配になりました。
 

きょうのできごと

二人の特別ではないけれど、かけがえのない一日。
一時的に喉の調子がおかしくなった計。
そんな彼を面倒みる潮は、オカンみが凄いというか、なんだかんだ言いつつも献身的で優しい。
潮が作る料理も、凝ったメニューではないんだけれど、大らかで温かみがあって彼の人柄を表している。
「きょうのできごと」というより、むしろ「きょうの料理」というか……。
ポーチドエッグののったマフィンやストーブで煮込み料理など、軽く飯テロなレベル。
痛んだ喉用のはちみつ大根漬けにも、アナウンサーを生業にする計への愛情が感じられる。
まあ、計が喉をからした原因の半分ぐらいは潮にあるんですけれどね、主にベッドの上で酷使されたという意味で。
 

This little light of mine

スケジュールがなかなか合わず、潮と共に過ごせない予感に一抹の寂しさを感じていた計。
そこへ、突然潮が現れて、二人は珍しく外でデートする事になる。
忘年会の途中なのに、コートも忘れて、潮について行っちゃう計が可愛すぎる。
親鳥に条件反射で付いていく雛みたい。
潮も計のために人気のない場所を選んだり、コーヒーを用意したりと、相変わらず出来た彼氏っぷり。
運河沿いの倉庫街というのもなかなか乙なもの。
ここで安易に青姦とかに流れないのも良い。
どうせ家に帰ったらイチャイチャするだろうけれど。
 

なんにもいらない

オールアイニード

二人のクリスマス前後のお話。
期間限定のアナウンサーカフェでギャルソンをやる事になった計。
ラテアートにも挑戦。
プライドがエベレスト級だから、絶対予習していくタイプだと思ったら案の定。
何かと器用な潮に、後ろから抱きすくめられながら指導を受ける計の姿が、映画『ゴースト』とオーバーラップしてニヤニヤが止まらない。
その他にも、潮のクリスマスプレゼントを一生懸命思案したり、潮が作ったクリスマス用プロジェクションマッピングを見て本人に会いたくなったりと、計の潮大好きエピソードがいっぱい。
毒舌は変わらずですが、普通に惚気ぶっこんでくるから油断できない。
あと今回は珍しく、国江田さんがお仕事で読み間違いをしていましたね。
確かに「サンタ」と「サタン」は紛らわしいですが。
おまけに、時はクリスマス。
これからも毎年このネタでいじられそう。
早速、直後の「オールユーニード」でネタにされているし(笑)。
 

オールユーニード

「オールアイニード」の対になる作品で、こちらは潮視点。
正月休みに、計と潮が計の実家へ行く話。
もしかしなくても一大事ですが、気負わず、しかししみじみと温かい話になっているのが大変このシリーズらしい。
三巻で潮の家庭の事情を知った後だと、また違った感慨が胸を過る。
ナチュラルな自分を受け入れてもらえるのが、どんなに貴重な事なのかを再確認できる作品。
 
電話出演で片鱗を感じてはいましたが、計の母親・正枝さんが非常に面白い。
独特なテンポと発想の持ち主ですが、良い味出しています。
息子である計との関係も絶妙で、変に甘やかす事も美化する事もせず、この距離感を保つのは、彼を一己の人間としてきちんと認めていなければできない。
こういう人が母親だからこそ、計も外と内のギャップに折り合いをつけて生きてこれたのではないかと思う。
正枝さん自身は「自分は変わっている」という自覚があって、おそらくそれに葛藤を覚えた時期もあっただろうけれど、そんな彼女を支えるお人好し過ぎるほどお人好しなお父さんも素敵。
 
息子の恋人・潮に対する、それぞれのスタンスも興味深い。
正枝さんにとっては、計が素の自分を見せられる潮という存在がいてくれるだけで嬉しかったでしょうね。
それこそ男女なんて関係なく。
自分に似た計が、孤独な人生を歩むんじゃないかと内心心配だっただろうから。
お父さんはお父さんで、カニ鍋の食べ方を見ただけで、潮の人となりを悟るのが凄い。
正枝さんの夫を長年しているだけはあります。
 

「連れてきてくれて、ありがとう。俺、お前もお前の親も、好きだ」

 
潮にこう言ってもらえて、計も嬉しかったでしょうね。
 

ぼくの太陽

メモリーズ

小学生時代の計、潮、竜起が、それぞれテレビ局に社会科見学に行く話。
三人とも、今のキャラが完全に出来上がってますね。
竜起がうざ可愛い。
計の飼っている猫の完成度も凄い。
100円と世間体を天秤にかける小学生(普通、防犯カメラまで気にするか!?)。
二人とも、アナウンサーになるなんて思いもよらない様子。
潮の面倒見の良さも、すでにこの頃から。
 

イミテーション・ゴールド

カメラマン・錦戸さん視点のお話。
本編では明かされなかった彼の一面が綴られています。
口は悪いけれど、やはり良い人ですね。
現場では超強気ですが、女系家族の中でいまいち立場が弱いのも微笑ましい。
 
個人的には、例の同期と未だに付き合いが続いていたのには驚きました。
どんなに相手が落ちぶれても、当時の同僚に感じた輝きは、彼にとっては「イミテーション」では決してなかったんだろうな。
たとえ仕事や私生活が充実しても、錦戸さんがずっと縛られてきたものに、なんとも言えない人生の苦さを感じる。
彼の奥さんも、それを察しているようなのがこれまた深い。
 

ぼくの太陽

ついに、二巻で語られていた、計の黒歴史のひとつ「ラブホで元素の周期表をセクシーに読む企画」の全貌が明らかに。
一見恥じらいつつも、腸煮えくりかえってたんだろうな(笑)。
それを動画サイトで聞いている彼氏。
新手のプレイですか?
あと、これまた計が潮に知られたくなかったお仕事「お上品な口調で官能的な絵満載の美術展のナビゲーションをする音声ガイド」とかね。
それを偶然入った美術館で、潮が聞いてしまうという……。
これも一種のラッキースケベ?
その他にもどんな仕事だって、計は悪態吐きつつも実直かつ完璧にこなしちゃうんだぞ、どうだ、俺の彼氏は凄いだろうという、つまりは潮の惚気いっぱいのお話。
音声ガイドのせいもあって、潮もいつも以上に滾ってます。
はいはい、ご馳走様としか言いようがない。
 

その他掌篇

ねないこだれだ

第一巻で計の正体を悟りつつも、その事を黙っている潮の話。
二人のキーアイテムの一つであるアクセント辞典に、計の似顔絵を描いた時の心境が綴られています。
潮が「国江田さん」と「オワリ」、両方大好きだという事がよく伝わってくる。
「俺はお前に、何をしてやれる?」という潮の計に対するスタンスは、この頃から一貫していますね。
 

真夜中のラブレター

第一巻所収の「両方フォーユー」で、潮がアメリカにとんぼ返りした時の計視点。
潮の家で、彼が描いた自分の似顔絵を偶然見つけた計。
うわぁ、これ潮本人よりも、計の方が居たたまれない気分になりますね。
イラストに潮の愛が如実に表れていそう。
計がすぐにでも潮の顔を見たくなっちゃう気持ち、分かります。
でも、会えるのはまだ先。
甘酸っぱい。
 

あなたの知らない世界

第二巻の「そうちゃん」ネタ。
竜起、怖いもの知らず過ぎ。
カウントが折り返しになった時点で「ギャーーー!!!」と悲鳴を上げたくなりました。
下手なホラーより背筋が寒くなるのはなぜ?
そうちゃん、カウント0になったら、一体何をする気だったのか?
知りたかったような……、知りたくなかったような……。
そうちゃん、マジで自然現象も操りそうな底知れなさがありますからね。
 

世界をとめて

第二巻で計の記憶が戻った直後の話。
普段の二人の日常がどれほどかけがえのないものなのか、失いそうになって初めて分かる。
潮が計だけに、花火の動画のディレクターズカット版を見せてあげるのが良い。
いつもは仕事に対して愚痴をこぼさない潮が本音を表すのも、計が彼にとって特別な人だから。
 

Change The World

第二巻で計と潮がもめた時、温泉に行ってしまった潮を計が追いかけてくる直前の話。
潮にとって、計ってビックリ箱みたいな存在なんだなと。
計への想いを語る潮の内心があまりにも雄弁で、こちらが赤面したくなります。
 

特別に試食させていただきました

ぽんぽん飛び交う国江田計のキャッチコピーが楽しく、テンポの良いショートショート。
でも、スタッフ(潮)、試食というよりも、毎回完食しているような気がしないでもない今日この頃。
 

VOICELESS

最も有効なしゃっくりを止める方法。
でも、この方法を計に施せるのは潮だけという……。
仕事先では使えないのが、唯一にして最大の難点。
 

JUST LIKE a Chocolate

バレンタインと潮が嫉妬する話。
バレンタインチョコの交わし方があまりにも計らしくて爆笑。
超効率重視。
色気もへったくれもない。
ゴデ〇バの名前の由来も一刀両断。
まあ、確かに超マニアックな羞恥プレイとしか思えませんが。
潮もバレンタインは一見平気そうなのに、そこには妬くんだ(笑)。
潮自身も結構羞恥プレイ好きそうですが、やはり独り占めしておきたい模様。
 

おうちのあかり

第三巻で二人が半同棲を始めた後。
計が目撃した不思議な夜のお話。
幸せだけれど儚い、一瞬の邂逅。
確かに夢や幻かもしれないけれど、そこで見た光景や潮の母親の輝く笑顔は、計にとって紛れもない「リアル」だったから。
それを胸に抱きながら、計はこれからも潮を愛し続けていくのでしょう。
 

カントリーロード

潮と彼の祖母の語らいと、彼が新しい「おうち」を見に行く話。
潮のおばあちゃん、軽やかで、孫の事を温かく見守っていてくれて素敵。
娘や婿である潮の両親に対して、複雑な想いもあっただろうけれど、幸せな時があったのも確かで。
それを潮に教えてあげられるのは彼女だけ。
潮の父親も、彼の秘書も、その点は不器用そうだから。
こういう小さなエピソードの積み重ねが、いつかきっと雪解けをもたらしてくれる。
 

オールフィクション

NHK様は偉大だというお話と、竜起はやはり只者じゃなかった件。
冒頭の(※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係がありません)がシュール。
でもNHKが伏字になっていない時点でお察し(笑)。
竜起は男前なんだか、単にザッパーなんだか、……まあ、九分九厘後者なんでしょうが、選挙特番に新たな伝説を刻んだ事は確実。
 

放送上の演出ではありません

生放送中にとんでもない爆弾を投げてくる竜起と、それを見事に打ち返す計(後で大乱闘必至)。
局内でも密かに名物コンビで通ってそう(計が切れそうですが)。
 

くにえだくんとあそぼう

計と潮の、安上がりだけれど甘~い遊戯(not エロ)。
まあ、ゲーム後はエロにはなだれ込みそうですが。
なんだかんだで素直かつ真面目な計と、要領の良い潮。
プレイスタイルに、二人の性格がよく出てますね。
 

太陽がいっぱい

なんとなく懐かしいサンシャイン池崎ネタ。
国江田計のうそっこ個人情報。
捏造のはずなのに、貯金額とキャッシュの暗証番号が微妙にリアルでイヤ(笑)。
ラストのオチも……、まさかのリバ!?
 

はつなつの星座

第三巻後のお引越し話。
荷物運びから事務手続きまで、ほとんど潮任せな点に爆笑。
色々やらかしたとはいえ、これでもキレない潮って、やっぱ偉大だななぁ。
本人、これでまったく無理していないっていうのが凄い。
懐が深いを通り越して、もしかして底が抜けてませんか?
そして、二人の新居にちゃっかり出入りしている竜起。
でも、もちろん、初夜だから追い出される(笑)。
「営む」、「営まない」でイチャイチャする二人にニヤリ。
 

bless you

18歳の頃の二人のニアミス。
ここで「運命的な出会い」とかやっちゃうと返って冷めてしまうんですが、必要以上にドラマティック&非現実的ではないのが一穂先生らしい。
心の琴線に触れるか触れないか……。
そのあやふやさの匙加減がお見事。
 

デイドリームビリーバー

描き下ろし作品。
「ザ・ニュース」のOPの続きをずっと作りたがっていた潮が、とうとう作業に着手し、完成させた話。
「ザ・ニュース」のOPは、二人にとっても思い出深い作品。
二人の脳裏にも、自分達の出会いから今までの色々な出来事が過ったのではないでしょうか?
様々な人々に接し、紆余曲折を経る事によって、人として成長してきた計と潮。
それが作品に反映された事は、想像に難くありません。
 
完成した続編を見て、潮の父親は何を感じたでしょうか?
潮と彼の父親は今回直接言葉を交わしていないけれど、そこには会話と同じくらい、もしくはそれ以上に濃厚なコミュニケーションがあったのではないかと感じずにはいられませんでした。
そして、潮の父親がさらに潮を理解するのに一役買う計。
潮、本当に素敵なパートナーを得ましたね。
本作はこの一冊の追尾を飾るのに相応しい作品だと思います。
一穂先生にとって計と潮が主人公のお話はこれで書き収めかもしれませんが、二人はこれからも共に歩み、物語はこの先もずっと続いていくんだなと信じられる、そんな余韻を残してくれるラストでした。
 

『その恋、自販機で買えますか?』(吉井ハルアキ/三交社Charles Comics)感想【ネタばれあり】

その恋、自販機で買えますか?【特典付き】 (シャルルコミックス)

その恋、自販機で買えますか?【特典付き】 (シャルルコミックス)

その恋、自販機で買えますか? (Charles Comics)

その恋、自販機で買えますか? (Charles Comics)

 
吉井ハルアキ先生の『その恋、自販機で買えますか?』の感想です。
元々は個人のSNSで発表され、人気に火のついた作品。
自動販売機補充員(28)×会社員(32)の年下攻め。
アラサーが滅茶苦茶可愛い恋愛しています。
 

『その恋、自販機で買えますか?』(2019年2月25日発行)

あらすじ

会社人の小岩井歩は、意を決して、自分の勤務する会社に出入りする自動販売機補充員の山下諒真に声をかける。
実は歩はゲイで、山下にずっと惹かれていた。
幸い山下も歩に好意的で、ラ〇ンのアドレスを交換したり、一緒に食事へ行ったりする仲になる。
だが、恋に臆病な歩は、なかなか積極的になれないでいた。
一方山下も、歩がとても大事にしているストラップの贈り主に嫉妬してしまい……。
 

総評

このレベルの作品でSNSで読めるなんて、つくづく良い時代になったなあと感動。
とにかく主人公二人がかわうぃーーー!!!
アラサー男子が、まるで思春期のようにモダモダした恋愛を繰り広げています。
彼らの不器用な言動すべてが愛おしい。
気になる相手に声をかけるのにもいちいち勇気を振り絞ったり、反対に相手の心が読めなくて、最初の一歩が踏み出せなかったり……。
読者は彼らのもどかしくも甘酸っぱい交流を、ひたすら固唾を呑んで見守るのみ。
 
ストーリー的には、大事件やひねった展開があるわけではないけれど、丁寧な心理描写やエピソードの積み重ねが好感度を抜群。
派手さはないものの、かゆい所に手が届く。
「そうそう、こういうのが読みたかったの」と、恋愛物の醍醐味を思い出させてもらいました。
ストラップの伏線などは、張り方も回収の仕方も上手いなと感心してしまいました。
登場人物の人数も、主人公二人に歩の同僚かつ相談相手の大石さん(既婚者)と必要最小限ですが、それが返って功を奏していて、二人の恋愛に集中できます。
 
吉井先生の絵柄も大好き。
美麗というわけではないんですが愛嬌がある。
表情のバリエーションも豊か。
反面、変に誇張しすぎてもいない。
こういう、外見的にはどこにでもいそうな普通の男性が、恋愛に一生懸命向き合っている姿にキュンキュンしてしまいます。
 

その恋、自販機で買えますか? 第1話

歩が山下に初めて声をかけてから、食事の誘いにOKするまで。
何気ない風を演じて山下に声をかけた歩が、内心では心臓バクバクだった事に、読者であるこちらもドキドキ。
 
自分はゲイだけれど、相手はどういうつもりで接してくれているのか……。
山下の好意の正体が分からず戸惑ったり。
ラ〇ンの返答一つにも緊張や喜びを感じたり。
そんな歩に共感を覚えずにはいられませんでした。
 
一方、山下は歩と違い、どちらかというと無表情なんですが、ちょっとした動作に感情がのってくるタイプ。
たとえば歩を食事に誘う時、手をギュッと握りしめたり、歩の答えを待ってじーっと見つめているのにも、緊張感が漂っています。
また、彼の目を通して見た歩のキュートな事この上ない。
女性的というわけではなく、素朴な可愛らしさ。
それだけで、山下がこの時点で、歩に対してかなりの好意を抱いているのが伝わってきます。
彼が鉄面皮ゆえに、最後の「っしゃ!!」も効果的。
「良かったね!」と、まるで友達の恋を応援しているような気分になる。
 

その恋、自販機で買えますか? 第2話

念願の食事に行って、二人はどんどん打ち解けていく。
場所がいかにもなデートスポットではなく、居酒屋でカレーライスを一緒に食べるというシチュエーションも、この作品にピッタリ。
取り留めない話をしながら、互いの事を少しずつ知っていく過程にキュンキュン。
ちょっとした言動から、相手の優しさや心遣いが伝わってくるのも格別。
山下への気持ちがいちいち顔に出てしまう歩はもちろん、無表情なのに心中では歩にときめいている山下がたまらん。
そして、彼は相当なムッツリと見た。
 
後半は急展開。
山下が好きだからこそ、歩はゲイである事を告げ、また山下も勢いに乗って、自分の想いを告白してしまう。
このシーンの指先の動きが絶妙(くっついたり離れたり)。
真っ赤になる歩も可愛い。
しかし、恋に不慣れな歩は、返事を保留にしてしまう。
 
出会ったばかりで、まだまだ距離感を測りかねる二人。
歩の思わせぶりなストラップの存在も、読者の興味を誘います。
 

その恋、自販機で買えますか? 第3話

前回の告白により二人のもどかしさ全開。
返事は保留にされてしまったものの、ストレートに歩へ向き合う山下が男前。
映画デートでも、なかなかの包容力を見せてくれる。
 
でも、実際は不安でいっぱい。
このシリーズ、当初は山下の真意が分からず歩の方が困惑を覚えていたのが、この回ではその関係性が逆転しているように見える。
「あの、オレ、本気ですからね」の、眉尻を下げたちょっと頼りなさげな表情だったり、歩の例のストラップを気にしたり。
歩の事を加速度的に好きになっていくのに、勢いのままにした告白が微妙な結果に終わり……。
宙ぶらりんになったおかげで不安になっていくという、山下の心情変化に大変説得力があるし、山下の違った側面も見えてきました。
 
ラストはまたまた急展開。
電車が運転見合わせになり、急遽山下の家に行く事になった歩。
恋愛物ではド定番のイベントですが、ニヤニヤが止まらない。
 

その恋、自販機で買えますか? 第4話

よく考えたら、好きな相手の家に行くって、かなり大事なんじゃ…!?

 
歩さん、今頃、気づいたんかい!!(笑)
コンビニの棚に並ぶゴムも見ないふり見ないふり。
 
片や、山下も想いを寄せる歩を家に泊めるのだから意識しまくり。
恋愛初心者の歩はいまいち疎いですが、山下はより具体的に色々妄想しちゃったんでしょうね。
それに煽られて、歩の羞恥心も膨らんでいく。
 
その後も、彼シャツならぬ彼スウェット(体格差に萌え)に始まり……。
ひょんな事から山下の上から下までくまなく目撃してしまった歩(ナニが凄かったんですかね、ニヤニヤ。←セクハラ案件)。
リラックスした山下の笑顔。
互いを意識しつつ、背中合わせで眠る二人。
王道ハプニングの連続で、お腹いっぱい夢いっぱい(?)。
 
特に、やっぱりストラップの事が気になって仕方がない山下や、彼の「…好きになってくれたらいいのになぁ、オレのこと」にはキュンとしました。
これは、歩じゃなくても絆されるわ……。
 

その恋、自販機で買えますか? 第5話

お泊り以降、なんだか壁のできてしまった歩と山下。
互いの事が大切だからこそ、一歩引いてしまう気持ち、すごく分かる。
 
前回までもそうでしたが、歩の感情と連動した表情の目まぐるしい変化に、読者もぶんぶん振り回されます。
特に夜の街で、山下と偶然顔を合わせてからの一連。
山下に優しくされてときめいたり、次の瞬間には山下に距離を取られて悲しくなったり、まるで感情のジェットコースター。
好きだからこそ、相手の一挙手一投足に反応してしまう。
「時間をとらせちゃったね。ごめんね」の、余裕を装った年上の仮面と、次のページの子供のように傷ついた表情の対比も上手い。
これは山下ならずとも、放っておけなくなります。

そして、やっと明かされるストラップの来歴。
あぁ、そういう事だったんだなぁと……、大どんでん返しはありませんが、この二人にピッタリなエピソード。
そして笑っちゃ悪いけど、真実を知った後の山下の表情に爆笑。
うわぁ、これは恥ずかちい……。
歩の怯えや恥じらいも理解できますが、もっと早く言ってあげれば良かったのに(笑)。
 
そんな訳で憂いも解消し、結ばれる二人。
このシーン、初めてのキスも、歩の敬語交じりの告白も、いちいちぎこちなくて悶えます。
そして、再び山下の家に行く事になった歩。
果たしてどうなる?
 

その恋、自販機で買えますか? 第6話

32歳童貞処女の破壊力、マジぱない。
物慣れないしぐさや言葉で、男の劣情のスイッチ押しまくり。
彼シャツ&生足で、前回の時よりも進化(?)してるし。
歩の言動すべてが、山下のツボにサクサク刺さっていて笑った。
「止めないでほしい」って、いや、頼まれずとも止められない止まらないから!!
 
今回は初心者の歩を考慮して素股でしたが、彼を気遣いつつも適度に強引な山下の塩梅が最高でした。
二人が互いの名前を呼び合っているだけで萌える。
いやぁ、年下攻めって本当にいいもんですね~。
 
ラストのベランダでのシーンもラブラブ。
こういう感情の擦り合わせって、お付き合いする上で非常に大事ですよね。
 

描き下ろし

祝・合体!!(もっとオブラートに包め)
 
もうね、歩のあまりの健気さとチャーミングさに語彙力が死にました(大体いつも死んでますが)。
ネットで男同士のやり方を調べるのは良いとして、当の山下に「準備の仕方を教えてほしい」とは、ちょっと天然が過ぎるのでは!?
そりゃあ、山下も「オレがしますよ、洗浄」となります。
 
今回、唯一の不満は、この洗浄シーンが割愛されていた点。
WHY!?なぜ!?
こうなったら、長年研ぎ澄ましてきた妄想力で脳内補完するしかない。
それでも歩の本音を汲み取ろうとする山下は天晴な男気ですが、歩本人に「あの………、俺も山下くんと、し、したいから…」なんて可愛い顔で言われたら、なけなしの理性も砕け散ります。
むしろ、健康な20代成人男性が、こんな恋人の傍でよく1か月も耐えたもんだ。
 
吉井先生の描くHシーンがこれまた楽しい。
がっついているんだけれど、下品にならず。
二人が相手を本当に好きなんだなとホッコリ。
歩も無事初体験が済んでなにより。
それどころかあまりにも気持ちが良すぎて、「もしかしてM……」と悩みは尽きませんが。
相方も洗浄で若干Sに目覚めたようなので、ちょうど良いバランスなんじゃないでしょうか?(笑)
 

『おうちのありか イエスかノーか半分か3』(一穂ミチ/新書館ディアプラス文庫)感想【ネタばれあり】

おうちのありか?イエスかノーか半分か(3)? (ディアプラス文庫)

おうちのありか?イエスかノーか半分か(3)? (ディアプラス文庫)

おうちのありか ~イエスかノーか半分か (3)~ (ディアプラス文庫)

おうちのありか ~イエスかノーか半分か (3)~ (ディアプラス文庫)

一穂ミチ先生の『おうちのありか イエスかノーか半分か3』の感想です。
今回は、今までいつも計を支えてくれた潮が窮地に陥ります。
明かされた潮の意外な過去。
計を守るために、別れを決意する潮。
果たして、計は潮を取り戻す事ができるのか?
 

『おうちのありか イエスかノーか半分か3』(2016年6月30日発行)

あらすじ

付き合い始めてから二年。
公私ともに順調な計と潮。
しかし一転、計が衆議院の解散総選挙に出馬するという記事が週刊誌に掲載された事により、周囲はにわかにざわつき始める。
時同じくして、潮に来た仕事のオファーが立て続けにキャンセルされる事態に……。
潮はその裏に、ある人物の思惑がある事に気付く。
おまけに、計のプライベートの秘密まで握られてしまい……。
潮は計を守るために、別れを決意するが……。
 

感想

今回は主人公二人はもちろん、読者にとっても辛いストーリーでした。
いつも後ろでどっしり構えていてくれる潮がいないだけで、こんなに安定感を欠き、ここまで不安を煽られるとは……。
そんな潮の出自が明かされた今作。
電話出演のみではあるものの、家族の姿が垣間見えた計と比べて、潮についてはバックグラウンドがまったく見えなかったため「何かがあるな」とは予想していましたが。
二人の幸せなシーンとは反比例して、前半からせり上がってくるような胸騒ぎ。
そして、彼が背負うものは想定以上に重かった。
 
潮が訥々と語る過去が悲しい。
ただただ親に恨みつらみをぶつけるのではなく、一個人としての生き方を認めつつも、決定的な面でどうしても相容れない親子の姿が切ない。
読んでいて、一穂先生、本当に上手いなと思うのは、潮の父母を安易に悪役にするわけではなく、かといって必要以上に美化するでもなく、その塩梅が非常にリアルな点。
 
どうして潮の両親は、そこまで無茶をせざるを得なかったのか?
たとえ人の子の親だとしても、万能な人間ではないという、当たり前だけれど残酷な事実が胸に迫る。
本作の後半を読むと、その事情が見えてくるのですが、それを知っても全面的に受け入れるのは難しい。
もっと違う道がなかったのか?
ましてや、父母の置かれた状況を知らなかった潮なら、なおさらそう考えずにはいられなかったと思います。
潮と彼の父親、両方の気持ちが理解できるからこそ、読者も遣る瀬無さを味わう。
 
こうした割り切れない想いや自分の在り方を突き詰めてきたからこそ、潮はあれほど度量の広い男になり得たんだろうな。
本人も自覚している通り、潮が計との別れを選んだのはエゴとも言えるけれど、それでも自分が惚れた、アナウンサーとして進化し続ける計を失くしてしまう事はどうしてもできなかった。
潮は計の一部分だって失えないのは、前巻ですでに証明済みですし……、そういう、ある意味、欲張りな男なんです、潮は。
また、母を守れなかった父のようにどうしてもなりたくなくて、自分は精一杯愛する人を守ろうしたんだと思います。
いつもは飄々としている潮の、計に対する拙いけれど深い、そんな愛に感動を覚えました。
 
まあ、守られた計にしてみたら「勝手に決めやがって!ふざけんな!」という感じでしょうが(笑)。
今回の計は本当に格好良かった。
潮に別れを告げられた直後、あまりにも傷つく彼に、読者であるこちらも胸が痛みます。
ですが、基本的には潮を諦めようなんて選択肢は鼻っから存在しないのが、実に彼らしい。
しかし、もし潮と出会わなければ、計はこれほどまでに何かに貪欲になる事ができただろうか?
ここまで形振り構わぬ行動に出られただろうか?

そう考えると、今回の展開は非常に感慨深い。
 
計からしたら、潮の父親の思惑などはもちろん与り知らぬし、「潮=自分の安全地帯」を奪っていく者は、須らく敵なんですよね。
計が潮を取り戻そうとするのは、もはや生存本能に近い。
それは、当の潮であっても止められない熱量で。
だからこそ、計が潮のもとへたどり着く過程の尋常ではない必死さや、潮の父親に切った啖呵に心を揺すぶられました。
そして、お姫様(潮)を攫って行く姿は、まさに王子様。
これは潮でなくとも惚れ直します。
潮の父親もぼやいていますが、息子さん、色々な意味でとんでもないのを引っかけてきちゃいましたね。
 
本作のテーマは、タイトルにもある通り「おうちのありか」。
計と潮が様々な時間を共有した家が、あまりにも呆気なく壊されてしまったのにはショックを受けました(本当に自分でも驚くほど衝撃的だった)。
二人のこれまでの思い出が、走馬灯のように脳裏を駆け抜けたぐらい。
「一穂先生、容赦ないな」と、計と同じく打ちのめされました。
でも、読み進めていく内に、それはどうしても必要なプロセスだったのだと、読者は悟ります。
家を失っても涙を流す事すらできない不器用な潮を、計があえてひっぱたいて泣くように仕向けてあげるシーンにジーンときました。
互いが互いを支える、本当に良いカップル。
 
そして、相手がいる場所こそが、自分達の還るべき「おうちのありか」であるという答えに、二人は最終的にたどり着く。
それぞれの理由から、ありのままの自分を受け入れてもらえる場を持てなかった、どこか不安定な計と潮が、出会い、恋をして、やっと手に入れた、かけがえのない居場所。
「居場所=人生の軸足」を手に入れたからこそ、計はアナウンサーとして、潮はアニメーション作家として、より輝く事できる。
 
そんな二人が、新たな住処を手に入れて、再びスタートを切った事に胸が熱くなりました。
子供の頃の潮が家族と住んでいた家が、新居になっているというのも良いですね。
潮達一家がかつて壁に残した手形。
時は皆に平等に流れ、取り返しのつかない事もあるけれど、そこには幸せだった頃の痕跡が残り続ける。
今は道を分かってしまっても、いつかは父親とも理解し合えるのではないかという余韻を残しつつ。
とても素敵な大団円でした。
 

『恋するインテリジェンス ultimate (1) ペーパーワークス集』(丹下道/幻冬舎バーズコミックス リンクスコレクション)感想【ネタばれあり】

 
丹下道先生の『恋するインテリジェンス ultimate (1) ペーパーワークス集』の感想です。
武笠×深津の「恋するインテリジェンス class:rookie 003」や針生×眞御の「恋するテーブルマナー~愚かにならぬ「恋」など「恋」ではない~」などをはじめ、カラーイラストやショートショート、付録ペーパーなどに掲載された4コマを集めた一冊。
とにかくボリューム、カップリングの多彩さ、クオリティが凄まじい。
『恋するインテリジェンス』にハマった読者なら大満足できる事請け合い。
 

『恋するインテリジェンス ultimate (1) ペーパーワークス集』(2019年1月24日発行)

あらすじ

バディである深津を愛してやまない武笠。
だが、なぜかVIPの集まるパーティーなどに、深津を同伴する事はなかった。
仕事にも関わらず、なぜバディである自分を誘ってくれないのか?
解せない深津は、武笠が白戸と出席するパーティーに潜り込むが……。(「恋するインテリジェンス class:rookie 003」)
 

総評

一言、これはスゴイ。
『恋するインテリジェンス』ファンならマストアイテムの一冊。
質と量、共にすさまじく、読者を圧倒してくれます。
カップリングも豊富で、お馴染みの武笠×深津や針生×眞御はもちろん、今までメインを張った事のないカプや、財務省、厚生労働省、法務省のカプまで網羅している。
冒頭の相関図だけで圧巻。
関係者数は軽く数十人を上回り、カップル数も膨大。
Kヶ関はボーイズラブの桃源郷ですね。
 
個人的には、まだ全容を明かされていない鶏楽×藍染、春日×木菜、午通堂×千散、聖前×桃月が取り上げられていて感無量。
第118期、大好きだ。
厚労省の「愛と狂気のラボラトリー」に登場した脇カプも、各々これで終わらせてしまうにはもったいない濃さ。
法務省の鷹見×楚和も、まだ完全にくっついたとは言えないし(それどころか後退)。
とにかくメインで読みたいカプが多すぎる。
丹下先生、お体壊さない程度で良いので、是非ともよろしくお願い致します。
 

恋するインテリジェンス class:rookie 003

深津があまりにも自分の魅力に無頓着なので「は!?」となります。
「俺が見劣りするからかな…」って、お願いだからちゃんと鏡見て!!(その鈍さが、また可愛いんですが)
これは武笠が隠したくなるのも分かります。
こんな初々しい子、食えない面々が集うパーティーに出したら、狼の群れにウサギを放り込むようなものですからね。
とりあえず誤解は解けて良かったですが、パーティー会場から消えたバカップルのあおりを食らって、白戸が働いていたのかと思うと泣けてきた(笑)。
今回ばかりは春日に叱られてもしゃーない。
 
春日といえば、掌返した時のニコちゃんマークですが、彼がメインの話になったら、とんでもない数に上りそう。
それはそれでウザ面白い。
 

リンクス2014年9月号 読者プレゼントペーパー

針生×眞御と土門×円。
攻めに良いように仕込まれて、変な癖を身に着けてしまったピュアな受け達。
武笠はこの頃は比較的真面だったんだな。
まさか後に、上司と同じような破廉恥を職場で働く事になるとは想像もしていなかったでしょう。
 

リンコレダッシュ4コマ 1

針生×眞御と土門×円。
愛する受けを前に、相変わらずろくでもない事を企む攻め達。
ボーイズラブを読んでいると、男性のアレを表す様々な表現に出会うんですが、コズミックはお初でした。
ちょっと規模が広大過ぎやしませんか?
まあ、眞御と一緒にいる時の針生って、大体ビックバン起こしてますけどね(?)。
 

「恋するテーブルマナー~愚かにならぬ「恋」など「恋」ではない~」

テーブルマナーというか、ベッドマナーがあまりにもローカルルールな針生×眞御。
針生の愚か指数と変態メーターが、尋常でなく振り切れ過ぎていて、一周まわって「コイツ、天才か!?」と大絶賛したくなった。
有能な変態ほど性質の悪いものはいない。
眞御を堪能するためなら、手段を選びませんからね。
眞御ちゃんの「申し訳ない」とお口もごもごに萌えつつも、海(?)召喚には笑ってしまった(潮吹きすぎたせい?(セクハラ))。
そして「もうっ、最低ッ!!!!」にラブコメヒロインみを感じる今日この頃。
 

恋するインテリジェンス2 4種プレゼントペーパー

土門×志山、針生×眞御と、厚労省の岩倉×奥名、如月×秀永、文能×西海。
常連の前2カップルに対して、厚労省も負けていません。
 
特に秀永さんの美魔女(?)っぷりがスゴイ。
奇跡の45歳(神子主幹に一服盛られてないか?)。
おまけに眼鏡着脱で2度オイシイ。
本当に神子ハーレムには、はずれなし。
 
麻取のブレイン・文能も口から生まれてきたような男というか、交渉能力が半端ない。
「コップに溜められないなら、直接飲んじゃえばいいんじゃない?」は「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」に並ぶ歴史的名言。
優秀な頭脳の無駄遣い有効利用、ここに極まれり。
 

リンコレダッシュ4コマ 2

針生×眞御と厚労省の小林×佐合。
眞御ちゃんの債務返済生活、どんな闇金に借りるよりも過酷ですね(笑)。
そして、小林×佐合は、本編であれだけいかがわしい雰囲気醸し出しておいて、まだだったという驚愕の真実。
 

Private SEX ~恋人たちのなんのイベントもないただスペシャルな日~

針生×眞御の淫語プレイ&69。
普通の日だろうが、スペシャルな日だろうが、時も場所も関係なく、いつでも全力投球な二人。
眞御は普段はあんなに有能なのに、プライベートではなぜこんなにもチョロいのか?
危機管理能力、仕事に全振りしているとしか思えないんですが。
 

恋するインテリジェンス3 4種プレゼントペーパー

土門×志山4編と、鷹見×楚和、武笠×深津、針生×眞御が各1編ずつ。
志山家男子の円溺愛っぷりが異常。
土門にとって聞き逃せない事実がズルズルと出てくる。
円の義弟は土門にとってかなりの難敵と見た。
円に対して劣情を抱いてそうな香りがプンプンしているので、ある意味、志山次官よりヤバいかも。
義兄×義弟は、それはそれで美味しいですが(土門に抹殺されそうな発言)。
 
鷹見×楚和の交換日記に爆笑。
どう考えても二歩進んで三歩下がってるんですが(つまりは後退)、鷹見もちゃんと現実を見ようぜ(肩ポン)。
 
武笠×深津は、武笠の膝の上にちょこんと座る深津が可愛すぎた。
針生・武笠師弟にとってwin-winな課題。
針生、下手に部下を敵に回さないところが策士過ぎ。
結局、痛い目見てますが。
 
針生×眞御は、眞御ギャルソンコスプレに、針生と同じくはぁはぁ。
お医者さんプレイも、是非お待ちしております。
眞御ちゃん、なぜいつものアレを「普通」だと思ってしまうのか?
さすがの先森もドン引き。
でも超テキトーなアドバイスしかくれない。
あの変態は、どう考えても不治の病でしょう。
 

リンコレダッシュ4コマ 3

土門×円。
恋人の父にこれだけ堂々と変態発言かませる土門の、鋼を通り越したセラミックメンタルを見習いたい。
お貴族様って皆、こんな感じなんですかね?(風評被害)
「嫌がらせ」って、あながち否定できないところが(笑)。
 

恋するインテリジェンス4 4種プレゼントペーパー

針生×眞御、武笠×深津、鶏楽×藍染、柳×先森。
針生・武笠のポンコツ師弟っぷりが炸裂。
この「親」にして、この「子」有り。
針生の「若いヤツのプレイは斬新すぎてよく分からん」発言は、まさに「お前が言うな!!」。
望遠鏡、ちゃっかり採用してるしね。
実はその望遠鏡の考案者、深津なんですけど。
 
自分の苦肉の策が、変態上司のプレイに利用されているとは露知らず、自分が濡れすぎな事に悩める深津。
いや、百万歩ぐらい譲って、上司の藍染はどうなのか、気にするのは良いんですが……。
 

け、鶏楽さん、藍染さんって、どれぐらい、ぬ、濡れますか?

 
どうして、よりにもよって一番アンタッチャブルな人に、そういう事聞くの!?
おかげで、藍染がとんでもない目に……。
まだ正面から「藍染さん、普段どれくらい濡れますか?」と質問された方がマシだったんじゃ……。
 
先森の幼児プレイも凄かった。
ボーイズラブ界で、キモいモブを描かせたら上手い人ランキングがあったら、丹下先生、上位ランカー必至ですね(褒めてます)。
プロフェッショナルな先森ですら、我慢できない超難関任務。
これに対応できる藍ちゃんは慈母か何かですか?
しかし、よくよく考えてみれば、このおっさんと針生辺りが普段やっている事ってあまり大差ないような……。
人間、顔面偏差値って大切なんだなと実感。
 

リンコレダッシュ4コマ 4

鶏楽×藍染。
 

甘やかされたヤツは、ろくな人間にならない。

 
すっごい正論&説得力(鶏楽をしみじみと眺めつつ)。
藍ちゃんの下について、鶏楽の嫉妬光線に常時晒される深津に、心の底から同情を禁じ得ない。
 

恋するインテリジェンス class:rookie001.5続 SIDE武笠

時間は遡り、両想いになる以前の武笠×深津。
武笠が未だ深津の本性を知る前ですが、この頃からすでにかなりメロリンラブ。
下半身もとんでもない事になってます。
確かに、こんな奇麗な子に一生懸命ゴムつけれもらえたら、色々はち切れそうになるのは納得できますが。
国内最大サイズ通り越して、海外進出に爆笑。
これ、茶々入れてるの、誰だろう?
そして、何気に郷土×藤野もスゴイ事になってる。
第128期官のTCは、皆さん、ご立派なモノをお持ちなんですね。
 
あと、おまけの針生×眞御。
眞御ちゃん、針生を煽りすぎ。
針生が暴走するのは99.9%は本人のせいですが、残りの0.01%は眞御の責任もあると思う。
 

官僚シリーズ 描き下ろしmini★mini小冊子 国重×宝生

厚労省の国重×宝生。
年下攻めを掌で転がす眼鏡受け。
国重は、このシリーズにしては珍しく純情なカワイイ系攻めだなっと思っていたら、あら大変。
油断したら牙を剥くタイプだった。
さすが腐っても麻取(麻取の認識がオカシイ)。
国重のいつもとは違う「雄」の表情を垣間見てドキドキしてしまう宝生に萌え。
 

官僚シリーズ 描き下ろしmini★mini小冊子 聖前×桃月

わぁぁあぁ、大好き!!(告白)
この二人、本省を留守にしている事が多く、あまりお目にかかれないのが残念ですが、少女漫画チックなトキメキを貰いました。
桃月が現在のようなルックスになった意外な経緯。
「ピーチ嬢」……、室長、絶対面白がってる。
桃月、実は中身は滅茶苦茶普通の男の子なんですね。
だが、そこが良い。
あのあざとさとキュートさは努力の賜物(適性もバッチリだったんだけれど)。
 
聖前の王子様オーラも半端ない。
360度どこから見ても爽やか。
桃月がいつも髪につけているオーナメントは、聖前がプレゼントしたものだったんですね。
それをずっと身に着けている桃月。
うわぁ、甘酸っぱい。
二人とも相手が大好きだという事が伝わってきて、こちらの方が赤面。
 

官僚シリーズ 描き下ろしmini★mini小冊子 郷土×藤野

元同級生がバディを組んでしまったという事で、モダモダ感がたまらない。
郷土は既にヤる気満々なんですが、藤野が超照れ屋さんだから、友達からステップアップするのはなかなか難しい。
この二人のI倉実習もヤバいですね。
郷土、新たな扉を開いてしまったとしか思えない。
 
そう言えば、武笠と同じく、郷土のブツも海外進出レベルだった。
 

針の穴にI雲のしめ縄を入れてこそのTCだぞ。

 
またまたすげぇ迷言が飛び出しましたが(TCはナニかの職人ですか?)、藤野はそういった意味でも苦労しそう。
 

官僚シリーズ 描き下ろしmini★mini小冊子 文能×西海

剥かれる西海に対して、着こんだままの文能がエロ過ぎ。
西海がまた追いつめたくなるタイプで、Sっ気ある文能と相性抜群(西海自身は不本意でしょうが)。
ラストの実況中継調のナレーションに爆笑。
直飲みすら未達成の他メンバーを差し置いて、文能、大差で爆走中。
さすが、麻取のブレイン、そこにシビれる!あこがれるゥ!
 

官僚シリーズ 描き下ろしmini★mini小冊子 午通堂×千散

魔性の女ならぬ男に翻弄される常識人攻めにニヤニヤ。
道徳的な午通堂と退廃的な千散の、組み合わせの妙。
千散の手練手管も絶妙。
「計算?」、「いや、本音?」、「やっぱり計算?」と脳内でグルグルしている午通堂。
妖艶な中に一途さが見え隠れする千散。
はぁぁあぁ、このカップルも大好き。
 

恋するインテリジェンス5 4種プレゼントペーパー

差形&円の後輩・本郷慶太。
麗しい受け二人に頼られる超美味しいポジション。
反面、誰とは言わないが、某主計局のヤバイ二人の殺意を一身に受けているという……。
本人も納得済みとはいえ、財務省は彼に危険手当を払ってあげた方がいいのでは?
 
古賀×差形。
古賀にとっては、差形以外は本当にどうでも良いんだなと。
だが場所は考慮しろ。
目撃しちゃった部下が可哀想だから(これも変則的なセクハラ?(笑))。
 
武笠×深津。
「夢で見た深津のお誘いポーズ!!」の煌めきと、ムクムク立ち上がるナニの禍々しさのギャップに笑いが止まらない。
そして、いつでも何度でも騙されるちょろイン・深津。
藍ちゃんの後を継ぐのは難しいんじゃないかな?
どちらかというと、眞御ちゃん路線に進む事をおススメする。
 
第128期官BCの井戸端会議。
「BC×BC、たまにはいいじゃん!」と微笑ましく眺めていたら……。
白戸×木菜が想像以上にシャレにならなくて、笑顔が凍り付いた。

春日×木菜とは別腹で、白戸×木菜も美味しいですが。
THE 昼ドラ展開。
春日がとんでもない事になりそう。
 

リンコレダッシュ4コマ 5

古賀×差形。
あの関白宣言ならぬ淡白宣言は、本当に何だったのか?
古賀はこの絶倫で、よく19年間耐えてきましたね。
『恋するインテリジェンス』七不思議のひとつ。
耐えすぎて、悟りを啓ける領域に達してそう(その割には万年煩悩まみれですが)。
 

恋するインテリジェンス アニメイト購入特典ペーパー

Kヶ関の官僚達は全員、名刺に(攻)、(受)表記しておけばいいと思うの。

『世界のまんなか イエスかノーか半分か2』(一穂ミチ/新書館ディアプラス文庫)感想【ネタばれあり】

世界のまんなか?イエスかノーか半分か(2)? (ディアプラス文庫)

世界のまんなか?イエスかノーか半分か(2)? (ディアプラス文庫)

世界のまんなか?イエスかノーか半分か 2? (ディアプラス文庫)

世界のまんなか?イエスかノーか半分か 2? (ディアプラス文庫)

 
一穂ミチ先生の『世界のまんなか イエスかノーか半分か2』の感想です。
前作からおよそ1年後が舞台。
「ザ・ニュース」の裏番組「ニュースメント」とタレント・木崎了の出現により、仕事への葛藤や潮への苛立ちを覚えてしまう計。
それが一段落したかと思ったら、とんでもない展開が計と潮を待っていました。
今回も前作に負けず劣らず、恋愛小説としても、お仕事小説としても絶品。
 

『世界のまんなか イエスかノーか半分か2』(2015年6月10日発行)

あらすじ

前作からおよそ1年。
アナウンサーの国江田計は、世間に対しては周到な猫をかぶりつつも、素の自分を認めてくれる恋人・都築潮と共に幸せな日々と送っていた。
しかし、「ザ・ニュース」の裏番組「ニュースメント」の開始により、にわかに暗雲が立ち込め始める。
「ニュースメント」に出演しているタレント・木崎了が、実は昔アナウンサー志望で、自分が採用された代わりに彼が落ちた事を知ってしまった計。
だがそれに腐らず、努力を続け、実力を身に着けた木崎の存在感。
そして、プロデューサー・設楽の意向により、ロケばかりを任されスタジオに中々入れない事も重なって、計は己の仕事へのスタンスを見失いそうになる。
おまけにその事がきっかけで、潮とももめてしまい……。
 

感想

前作に引き続き、今回も大満足の一冊。
相変わらず、計の心の声やキャラの使い分けが楽しすぎ。
ここまで毒舌だと、いっそ清々しい。
それを潮がとんでもない懐の深さで受け止める。
今思うと、潮に出会わなかったら、計は色々な壁に行き詰って、アナウンサーという仕事も辞めてしまっていたかもしれない。
それほど計にとって潮の存在は大きい。
どこか歪な生活を送っていた計が、初めて見つけた憩い。
一方潮も、毒舌吐きながらも絶対妥協せず、仕事に対して真摯に向き合う計を尊敬している。
 
どちらも互いにベタ惚れで、かといって甘やかしすぎず、言うべき事はきちんと伝える。
二人が共にいる事がとても自然で、読者としても見ていて気持ちの良いカップル。
 
濡れ場も、前巻から変わらずニヤニヤさせてくれる。
特に中盤の露天風呂&鏡プレイの仲直りH。
フワフワした可愛いイラストからは想像できませんが、割とチャレンジャーなんですよね、この二人。
ムッツリな潮とツンデレな計の黄金比が素晴らしい。
下品になり過ぎず、匙加減も丁度良い。
 
今回はお仕事小説としても、さらに読み応えがアップしていました。
アナウンサーを志望していたわけではなく、ふっとした切っ掛けから、今の仕事についてしまった計。
そんな彼が、インプラントや舌の手術まで受け、情熱と実力を兼ね備えた同年齢の木崎に、コンプレックスにも似た脅威を抱く事に、強い説得力を感じました。
計は強烈な猫をかぶってきた事により、剥き出しの熱意やエネルギーを外に向かって表す経験に乏しい(アクセント辞典のエピソードからも、情熱を持っているのは明らかなんですが、本人がいまいち無自覚だった)。
この辺り、木崎もそうですが、「好き」が高じてアニメーション作家になった潮との対比も面白い。
いくら潮が正論で諭してくれてたとしても、素直になれない気持ちも分かります。
 
さらに、最近ではスタジオの仕事がメインだったのに、慣れないロケや設楽の鋭い指摘などが、計の疲弊に拍車をかける。
ただ彼を追いつめるのも仕事なら、また鼓舞するのも仕事だった。
そして、設楽や「ザ・ニュース」のMC・麻生や、頑固一徹のカメラマン・錦戸など、業界の年長者達の言葉や仕事への取り組み方。
彼らバイプレイヤーが、過保護になり過ぎず、かといって突き放し過ぎず、良い距離感を保って、若い計の背中を押してくれる。
 
最終的にアナウンサーとして、そしてテレビに関わる人間として、大事なものをつかんだ火事の生中継には目頭が熱くなりました。
ここで、本作において計が苦労させられたロケの経験や、錦戸との信頼関係が活きてくるのも良い。
潮もナイスアシストしてくれて……、潮が傍にいてくれれば、計はどこまでも強くなれるのではないでしょうか?
 
そんな感じで、騒動は収束に向かうかと思いきや……。
後半はまさかの展開。
計の記憶喪失事件。
これにはしばし茫然。
視点も潮にスイッチして、物語がひっくり返ったような感覚。
 
毒舌も巨大な猫も消え、奇麗な「国江田さん」だけになってしまった計。
読者である私ですらとんでもない喪失感を味わったのだから、潮のショックは如何ばかりか……。

いつもは大樹のように鷹揚に構えている潮ですが、さすがにこれはキツイ。
今まではいつもどこか余裕を残していた潮が、「国江田さん」と「計」の狭間で揺れるのが大変新鮮でした。
おまけに「国江田さん」が、素直な好意を向けてくるものだから、これなんて拷問?
「国江田さん」、健気で可愛すぎだし。
潮に手料理まで作ってくれるし。
台所に共に立つ姿が、まるで新婚さん。
 
しかし、元々「国江田さん」と「オワリ」をほぼ同時に好きになった潮なんだから、どちらかを取捨選択なんてできるわけがない。
両方合わせて、潮の愛してやまない「計」なんだから。
この辺りは潮の男気や、計への想いが伝わってきて、萌えが止まりません。
潮は本当にいい男だなとあらためて実感。
 
ここで、伏線として張られていた壁ドンがきっかけで、まさか記憶が戻るとは思いませんでしたが。
これ、番宣の名を借りた、潮に対する愛の告白じゃん、ヒューヒュー!!
「国江田さん」も確かにキュートで捨てがたいんだけれど、いつもの計が戻ってきてくれて、安心感が半端ない。
国江田計はやはりこうでなくちゃ!!
 
その後はもちろん二人のイチャラブ(できれば「国江田さん」バージョンも見てみたかったのは秘密です)。
ここで折角、あの超プライド高い計様がフェラしてくれると言っているのに、微妙な応答する潮がね(笑)。
ムッツリな上に、Sっ気あるのは気づいていましたが。
しかしなんのかんの計をおちょくりつつも、いつも以上にがっついちゃってる潮に燃える。
まあ、今回は仕方がない。
「国江田さん」にも煽られっぱなしだったし、計を失うかもしれない焦燥感に苦しんだから。
 
ラストは意外な形で「ニュースメント」が失速してしまう。
勢いで口にしてしまった不用意な言動が致命傷になにかねないのが、現実社会とマッチしています。
こういう、何気ないけれどリアルなエピソードを作り、読者をハッとさせるのがお上手ですね、一穂先生。
TV放送、及び生番組の怖さの一端を思い知ると同時に、麻生さんのアンカーマンとしての鋭敏さも示しているのがお見事。
 
あと木崎がどうして旭テレビにこだわったのかも明かされました。
あの底知れない麻生さんを「そうちゃん」呼びって……(笑)。
木崎とそうちゃんが普段どんな会話を繰り広げているのか非常に気になります。
まあ、そうちゃん、確か奥さんいたから、この二人がボーイズラブ方面に流れる事はないだろうけどさ、チッ(?)。

『恋するインテリジェンス(6)』(丹下道/幻冬舎バーズコミックス リンクスコレクション)感想【ネタばれあり】

恋するインテリジェンス (6) (バーズコミックス リンクスコレクション)

恋するインテリジェンス (6) (バーズコミックス リンクスコレクション)

恋するインテリジェンス  (6) (バーズコミックス リンクスコレクション)

恋するインテリジェンス  (6) (バーズコミックス リンクスコレクション)

 
丹下道先生の『恋するインテリジェンス(6)』の感想です。
今回は第118期官の先森篠雅と柳介次の物語。
先森大好きな柳に対して、なぜ先森があれほどまでに塩対応なのか?
また、秋草室長をはじめとした第108期官(先森や柳などから見ると「親世代」)の事も徐々に明かされてきて、大変興味深い巻でした。
 

『恋するインテリジェンス(6)』(2018年11月24日発行)

あらすじ

仕事では息の合った働きを見せる先森と柳のバディだが、彼らには恋人関係を解消した過去があった。
現在室長を務める秋草がまだ補佐だった時代に発生した、D国の秘密文書に纏わる失態で、秋草と当時のバディ・我玄は破局。
その件で責任を感じた先森も、柳に別れを告げた。
だがその後も、柳は変わらず先森に対して誠意を示し続け、先森も内心では彼を忘れきれない。
しかし、柳に好意を寄せる女性の存在や、彼になにかある度に傷つく自分に嫌気がさした先森は、あらためて二人の関係を完全に終わらせようと決断する。
 

総評

ずっと気になっていた柳×先森のお話。
クールさで鳴らしている先森の意外な一面が次々と見られて、目から鱗。
柳の代わりに、彼がプレゼントしてくれたライオンのぬいぐるみを抱きしめて寝ているとか、可愛いが過ぎない!?
また怜悧な仮面の下に、彼が様々な想いを隠してきたのも痛ましい。
柳が昔と変わらず労わってくれているのが分かるから、余計辛かっただろうな。
柳が負傷して、彼にもしもの事があったらと震えてしまったり、ジェシカに嫉妬したり。
でもそれを上手に表に出せない不器用さが、もどかしくも愛しい。
 
そして、そんな先森を待ち続ける柳の一途さも格好いい。
今まで先森大好きっ子の万年思春期みたいな面がクローズアップされてきましたが、良い意味で印象が覆りました。
精神的にとても成熟していますね、彼。
かと言って、枯れているわけではなく、ギラギラした部分も秘めていて。
先森との関係性を経る事により、どんどんいい男に変貌していったんだろうな。
 
今回は柳×先森の物語ももちろんですが、彼らが別れる原因となった秋草室長他第108期官の話もドラマティックで、大変読み応えがありました。
また、この第108期官が美味しそうな面子ばかりなんだ、これが。
108期のメンバーは皆、多忙で本省にいる事が少ないって、そんな殺生な……。
現在、秋草室長と我玄の関係がどうなっているのか、そしてこれからどうなっていくのかも、非常に気になります。
柳×先森の事はひと段落つきましたが、食指が動く人物やカプがさらに大量投入されたという、嬉しい悩みの尽きない巻でした。
 

恋するインテリジェンス class:#118-1

仕事ではナイスコンビネーションを見せるのに、二人っきりになった途端、微妙な雰囲気を醸し出す先森と柳。
先森に何らかの心の引っ掛かりがあり、柳からあえて距離を置いている様子。
 
今回は前巻の「差形怜司の解答 ~数式は鷹に恋をする~」と同時間軸のお話。
鶏楽が藍染絡みで仕事放棄して、蔵本はまだルーキーなのに、とんでもない事に巻き込まれてます。
鶏楽の下に付くって、人生ハードモード通り越して、ナイトメアモードだなと同情。
つーか、鶏楽、切れ者なのに、藍ちゃんいないと使い物にならな過ぎ(笑)。
確かこの時、藍染と連絡取れないというのも、半日ぐらいの間だけだったんですよね。
藍ちゃん、どこの箱入りお姫様ですか?
秋草室長からは「それぐらいお前らで解決しろ。じゃあな」とありがたいお達しだし、フォローする牛通堂も大変だ。
常識人が苦労する、そんな『恋するインテリジェンス』。
その頃、秋草室長は因縁浅からぬ感じの男と再会していましたとさ。
 
場面は変わって、I倉を乗り切っても、まだまだ研修が続くルーキーズ。
高笠はプレゼント攻撃が激しすぎて、当の深津に若干引かれ気味。
これだから、くそボンボン(蔵本命名)は……。
まあ、なんだかんだで仲良くやっているようではありますが。
一方、I倉を経た事により、返って微妙な空気になっている供威×黒瀬などもいる。
指先が触れ合っただけでギクシャクするとか、甘酸っぱいですね(ニヤニヤ)。
 
そんな彼らが受ける研修は……。
 

先森先生が男をめろめろにする方法を披露してくれるぞ!!

 
先森のバディである柳が、一番うっきうきわくわくしていて噴き出しました。
「遠足前の小学生か!?」というぐらいのテンション。
あなた、いつも任務で先森のお色気シーンは見慣れてるんじゃないの!?
柳は、先森を待ち続ける大人の男の愁いと、同じく先森を前にした時の思春期的なノリの落差が面白い。
 

恋するインテリジェンス class:#118-2

先森教官のお色気実習。
まず使われている教材に爆笑。
やはり第二巻「恋するインテリジェンス operation 001」の時のカリム王子誑し込み動画、お手本として使われていたんですね。
かけ値なしにお見事なテンプテーションだったから。
この映像は、これからも外務省で大事に引き継いでいってもらいたいですね。
眞御ちゃんが知ったら憤死する事確実ですが。
 
続いてルーキー達の実技演習。
まず武笠×深津。
結果は……ダメだ、こいつら(笑)。
深津、棒だし(これはこれで可愛いですが)、武笠は深津相手だと常時扉がオープン状態だし。
他の面々も、I倉パスしたとはいえ、まだまだ実践レベルからはほど遠い。
TC×TCやBC×BCは確かに無茶苦茶見てみたいけれど。
 
比べて、柳×先森は貫禄の駆け引きですね。
柳はあれだけはしゃいでいたのに、ヤる時はヤるのがさすが。
なんだか途中から私情が混じっていましたが。
それに対する先森の対応がスゴイ。
結局、最後は力技!?
 
後半は、私が密かに推している鶏楽×藍染と春日×木菜が、たくさん摂取できて大満足。
鶏楽、藍ちゃんに構ってもらうためだけに、熱々のコーヒーを自らにかぶるって、相当ぶっ壊れていますね。
長年付き合いのある同期ですらドン引き。
藍ちゃんになにかあったら、鶏楽は果たしてどうなってしまうのか、見たいような、見たくないような……。
調整役の牛通堂も、鶏楽に手を焼いてますね。
一歩間違えると、敵対勢力よりも性質が悪いから。
藍ちゃんも鶏楽に甘々。
深津といい、この親子はチョロ過ぎ。
 
春日×木菜の、恋するクズ男の華麗な手のひら返しも面白い。
春日と一緒にいる柳が、もの凄く真面に見えるのは気のせい?
春日×木菜がメインのお話も是非読んでみたい。
柳が呪っているように、春日がこのままフられ続けるのも、それはそれで一驚ですが。
 
今回は謎に包まれていた秋草室長についても、様々な事実が発覚。
バディだった我玄の存在。
秋草室長、今までTCかBCか曖昧でしたが、我玄と並ぶとBC以外のなにものでもない色香。
我玄も渋い。
酸いも甘いも嚙み分けた44歳同士、美味しすぎ。
そして、秋草室長、先森と眞御、両方の師匠だったんですね。
一人のトレーナーに、二人のトレーニーって有りなんだ。
しかも、あの腕利き二人を仕込んだって……。
それだけでも、室長が飛びぬけて優秀な人物だという事が察せられます。
 

恋するインテリジェンス class:#118-3

深津の訓練レポート(ぶっちゃけ苦情)がきっかけで、Hがねちっこい事を春日と聖前の両先輩に指導された武笠は、「一般的」とは何かと哲学的な命題(?)を模索中。
しかし、春日の指導(という名の脅し)もアレですが、聖前も王子様スマイルの裏に一癖も二癖も厄介なものを持ってそう。
 

とりあえず針生主任に相談してみるか。

 
武笠、なぜ普段の針生の所業を散々見ていて、そういうチョイスになるのか!?
もう入り口からして間違ってるから。
あの人も「一般的」から相当かけ離れるから。
 
早々に針生の眞御ちゃんセクハラを目撃してしまった武笠。
……これは予想以上にひどい。
そのルックスと眞御への愛があるから許されてるが(いや、許されないか)、訴えられてもおかしくないレベル。
言葉のチョイスがもうね、ド変態以外のなにものでもない。
眞御ちゃん、一発と言わず殴っていい。
高笠も相談する人はちゃんと選べ。
国際情報統括官組織に「一般的」なTCが存在するかどうかは、甚だ疑問だけれど。
ひょっとしたら、砂漠の中から砂金を見つけるぐらいの確率じゃないでしょうか?
 
一方、柳×先森は徐々にシリアスムードになってきました。
柳は本当に懐深いですね。
苦労して手に入れた招待券が無駄になってしまったのに、あんな風に悠然と構えていられる人間はそうそういない。
先森も柳の心遣いは身に染みてわかっているんだろうけれど、それに素直に寄り掛かれないのには、よっぽどの理由があるわけで……。
柳が潜入調査で負傷してしまった時の先森の怯えなどからも、彼が柳を愛しているのは明らか。
 
後半は、とうとう先森と柳の関係が拗れた原因が明らかになる過去編に突入。
皆、若ッ!!
柳×先森の初々しさも捨てがたいが、我玄×秋草が凄くイイ。
秋草の気まぐれな猫のような奔放さと辣腕家ぶり。
そんな彼を包み込む我玄の安定感。
最高ですね。
今更だけれど、このシリーズ、気になるカップルが多くてキリがない。
 

恋するインテリジェンス class:#118-4

今回はとにかく切なかった。
彼らの任務である諜報活動は、いつも危険と隣り合わせなのだなとあらためて実感。
互いを愛しつつも、道を違えていく秋草と我玄。
秋草以上に大切なものなどない我玄と国防に命を懸ける秋草は、ついにバディを解消せざるを得なくなってしまう。
 
任務に関する失態、そして秋草と我玄の関係破綻に、責任を感じずにはいられない先森。
彼が恋人としての柳に別れを告げたのは、秋草への絶対的な忠誠心もあっただろうけれど、秋草と我玄に自分と柳の姿を重ねずにはいられなかったんでしょうね。
我玄が秋草の盾になったように、柳もまた、先森に何かあったら身を賭しても守ろうとする一途な男だというのが分かっていたから。
柳はそんな先森の決断を尊重し、ずっと見守っている。
千散の言う通り、いい男ですね。
危うい仕事に身を置いているからこそ、先森には後悔してほしくありませんが。
 
しかし、先森の複雑な心情に追い打ちをかけるように、柳にベタ惚れな当て馬・ジェシカ嬢が現れる。
「これは面白くなって参りました」と、千散と同じくニヤニヤが止まらない。
 

恋するインテリジェンス class:#118-5

空気の読めない女・ジェシカ(BCの視線が痛い)の登場や、柳になにかがある度に動揺する自分に嫌気がさしてしまう先森。
そんな彼に、いつもはジャイアンな秋草室長も「親」らしい言葉をくれる。
彼なりに柳と先森の現状に思うところがあっただろうし、なんだかんだ振り回しつつも「子」である先森が可愛いんだろうな。
だが、先森の決意は固く、柳との関係を決定的に終わらせようとするが……。
 
中盤は、古き良き月9ばりのすれ違いを乗り越えつつ、大逆転で見事ゴールイン。
先森の一世一代のデレがたまらん!!
冒頭のぬいぐるみを抱きしめるシーンといい、今回の先森、ちょっと可愛すぎない!?
いつものツンツンも大好きだけれど、今回の破壊力はちょっと次元が違いました。
 
柳もよくぞここまで待ち続けました。
男気が報われてましたね。
どさくさ紛れのプロポーズも良かった。
冒頭のエンゲージリングの伏線も無事回収。
 
そんな訳で、柳は幸せそうで大変結構ですが、今までの反動で発汗がとんでもない事になってます(笑)。
深津を前にした武笠辺りもそうだけれど、病院行く事をおススメする。
先森が愛しいあまり、自律神経が狂ってるとしか思えないんですが。
 

恋するインテリジェンス class:#118-6

もう二人の間を阻むものは何もないという事で、先森の自宅で久しぶりに抱き合うご両人。
柳、いつものテンションの割には、比較的普通のセックスするのにちょっとビックリ。
つーか、やはり針生・武笠師弟が「一般的」ではないんだなと……。
まあ、あの二組の場合は、受けが超初心者で流されっぱなしになってしまうのも敗因(?)の一つですが(だからってヤりたい放題していいわけじゃない(笑))。
その点、先森はデれつつも、手綱を放していない感がありますからね。
この域に達するには、眞御と深津もさらに研鑽が必要。
 
しっかし前回に引き続き、今回も先森が可愛くて仕方なかったです。
味折の件を実は気にしていたのももちろんですが、極めつけのぬいぐるみ抱きしめ事件。
柳からもらったぬいぐるみを、彼だと思って何年も大事にしているとか……。
普段の塩とのギャップが尊すぎる。
これは柳じゃなくとも、発狂するぐらいの健気さ。
 
後半は秋草室長がとんでもない男前だった件。
これは「秋草室長、一生お傍でお仕えします!!」ってなるわ……。
先森も「親」の前では、あんな表情するんだなと感慨深い。
それにしても、我玄と室長の関係って現状どうなってる&この先どうなっていくんだろう?
この二人のアダルティな話も、今後に是非期待したい。
 
ラストはバカップル……というか、先森バカが悪化した柳のターン。
柳が「好き(ハート)」しか言えないマシンになってますが、先森も何のかんの言いつつも、やぶさかではない様子でめでたしめでたし。
 

描き下ろし・俺だけが知ってる先森のこと

柳視点で、彼が先森を如何に愛しているかという話。
本編読んだら、そんな事は読者も先刻承知済みなんですが、本人的にはまだまだ全然語り足りなかったようです(いいぞ、もっとやれ)。
全編通してノロケの垂れ流し。
とにかく「かわいい(ハート)」、「好き(ハート)」、「愛してる(ハート)」のオンパレード。
 
片や、先森のツン成分多め&口が悪いですが、それもまた良きかな。
それが、たまに垣間見えるデレをさらに引き立てる。
Hシーンも#118-6が比較的大人しかったので(アレで?)、今回はかなりアクロバティックな体位にも挑戦。
なんか濡れ場というよりも、新手のペア競技に見えない事もないですが、二人が幸せならそれでオールオーケー。

『イエスかノーか半分か』(一穂ミチ/新書館ディアプラス文庫)感想【ネタばれあり】

イエスかノーか半分か【電子限定SS付き】 (ディアプラス文庫)

イエスかノーか半分か【電子限定SS付き】 (ディアプラス文庫)

イエスかノーか半分か (ディアプラス文庫)

イエスかノーか半分か (ディアプラス文庫)

 
一穂ミチ先生の『イエスかノーか半分か』の感想です。
クレイアニメーション作家×キー局のアナウンサー。
冒頭から主人公・計の性格&毒舌がインパクト抜群ですが、ただのギャグと勢いの作品ではありません。
お仕事小説としても優秀で、主人公である計と潮が、それぞれ一人の人間として如何に仕事と真剣に向き合っているかが伝わってきます。
 

『イエスかノーか半分か』(2014年11月8日発行)

あらすじ

旭テレビのアナウンサーで、確かなアナウンス能力と爽やかな王子様系のキャラで頭角を現す国江田計には、誰にも言えない秘密があった。
それはとんでもない猫かぶりだという事。
使えないスタッフやたるんだ同僚達を、内心では「愚民」と呼び、キャラに合わない古ジャージ、サングラス、マスクで正体を隠して牛丼などを片手に周囲を散歩するのが、彼の日課であり癒しだった。
ところがある日、素の状態で夜の街を歩いていた計は、昼間、仕事で出会ったクレイアニメーション作家・都築潮と再会してしまう。
幸い正体はバレず、とっさに「オワリ」という偽名を使った計だったが、なぜか潮と友達のような関係を結ぶ事に。
さらに潮は猫をかぶった「国江田さん」が好きなようで、事態はいよいよややこしくなってしまう。
交流する内にどんどん潮に惹かれていく計は、自分の本性を偽る事に苦痛を覚えはじめるが……。
おまけに、局の看板アナウンサー・麻生圭一のガン発覚により、夜のニュース番組「ザ・ニュース」のMCに急遽抜擢されてしまい、仕事の面でも大きな壁に突き当たってしまう。
 

感想

「イエスかノーか半分か」

まず計が長年飼っているとんでもない猫(自分のイメージにそぐわないものは完全に排除する徹底ぶり)と、周囲の人間を心中で「愚民」と呼んで憚らない、立て板に水の毒舌に口があんぐり。
テンポと小気味の良さで、否応なく一気に引き込まれるような感覚を味わいます。
しかしかなり強烈な毒舌でも、計から嫌な感じを受けないのは、彼の言っている事が当を得ているのと、彼がなんだかんだ言いつつも、アナウンサーとして研鑽を怠らない頑張り屋だから。
器用である事は確かだけれど、決して天才ではないんですよね、彼は。
 
片や、攻めの潮はマイペースかつ包容力のあるタイプ。
己に嘘をつかず泰然自若と生きている彼に、ほぼ24時間全方位に向かって気を張っている計が、素の自分を受け入れてもらい、どれほど癒されたのが納得できる。
当初は外面の良い「国江田さん」に惹かれたように見せかけて(実際、騙されていたんだけれど)、実は計の本質をきちんと見抜いていたのにもトキめきます。
ボロボロに使い込んだアクセント辞典を見て「国江田さん」に絆されたり、「オワリ」の正体を知らないとはいえ、当の本人に向かって「国江田さん」を褒めるエピソードなどにもニヤニヤが止まりませんでした。
 
計の正体を悟るまでは、潮も悩んだだろうな。
なんせ「国江田さん」と「オワリ」、まったくタイプの異なる人間を、ほぼ同時に好きになってしまったんだから。
彼の性格を鑑みるに、計の正体を知った後は、騙された怒りよりも、返って腑に落ちてすっきりした爽快感が勝ったに違いない。
計の正体を見抜いたきっかけも振るってます。
まさにアナウンサーという職業ならではの理由。
そして潮は計の事を本当に良く見てるんだなという事が、如実に伝わってくる。
 
計を支えつつ、でも甘やかしすぎない言動に、潮が一己の職業人として計を認めているのが伝わってくる。
潮に対する計の気持ちも、もちろん同じ。
二人の関係は恋人であると同時に、気心の知れた親友のようでもあり……。
二人が牛丼や焼き鳥を摘まみながら、駄弁っているのを想像するだけで微笑ましい。
いかにも「THE 男子」という感じで。
 
Hシーンも、その延長線上にあって、ぽんぽん飛び交う会話が面白い。
だからこそ、いつもは超強気な計が、潮に甘えたり、縋ったりするギャップがたまらん。
これには、普段は滅多に動じない潮も、さすがにメロメロですね。
 
お仕事小説という観点から見ると、華やかな舞台裏には、地味な工程や、目に見えぬ様々な努力があるんだなというのが、一つ一つの場面を丁寧に積み重ねる事によって語られています。
そして、どんなに逃げたいような状況でも、立ち向かわなければならない、ここぞという時がある事も。
実はそれはほとんどすべての職業に共通していて、社会人経験がある読者なら感慨を覚える方も少なくないはず。

 
特に熱い展開だったのは、クライマックスで計が「ザ・ニュース」初回のMCを務める場面。
潮の言葉に背中を押されつつ、見事やり遂げた計は、アナウンサーとしても、人間としても一皮剥けたのが感動的。
本番中は、読者である私も、脳内でドーパミンがドバドバ出まくるぐらい興奮してしまいました。
 

「両方フォーユー」

両想いになった後、賑々しくも幸せな日々を送る二人でしたが「もし潮以外に計の本性を受け入れる人間が現れたらどうなるのか?」という、中々重いテーマを孕んでいる続編。
二人の間に立ちはだかる当て馬(本人のキャラからすると、あまり「立ちはだかる」って感じじゃないけれど)で、計の後輩アナウンサー・皆川竜起の人物造形がかなり濃い。
計も樹も相当イイ性格していますが、竜起は同等か、それ以上の逸材。
あっけらかんと本音丸出しなのに、底知れないものを感じる。
潮ですら最初は「国江田さん」に緊張気味だったのに、竜起は計の本性を知ってもこゆるぎもしませんでしたからね。
おまけに仕事に関してもなかなか有能だし。
う~ん、侮れない。
 
仕事の都合で潮はアメリカに行ってしまい、その隙をついて、竜起が計にグイグイ迫ってくる。
さらに潮と電話でギクシャクしてしまった計は、ついに竜起に流されてしまいそうになるが……。
潮、緊急帰国してくれたのはありがたいけれど、受けにプロレス技を手加減無しでかける攻め、初めてみたかもしれない。
私が知ってるボーイズラブの「お仕置き」と明らかに違う(笑)。
まあ、それぐらい計を愛しているという気持ちの裏返しなんですけれど。
一方、計も単に自分の素を認めてくれる相手としてだけではなく、一個人としての潮が大好きなんだという事を再確認。
 
好きな相手を他人とシェアするなんて冗談じゃないですよね。
いつもは鷹揚な潮が、竜起に対して本気で怒っている姿が格好良い。
竜起に計の猫かぶりをばらさないように口止めするのも含めて、アフターフォローも万全。
両成敗という感じで、竜起に対して計に謝罪するように言うのも、同い年にも関わらず保護者の風格。
マジでできた彼氏ですね。
 
ここで若干しおらしくなりつつも、絶対謝罪したくないマンな計が非常に「らしい」ですが。
一応失恋したはずなのに、まったく悲壮感ナッシングな竜起もスゴイ。
彼に関しては、最後までつかみどころが見つからなかった。
のらりくらりとかなり振り回してくれたはずなのに、主人公二人や読者に悪感情を抱かせないのが、只者じゃありませんね。
まあ、その辺りは、竜起が主人公になっている番外編に譲るとして。
 
竜起が退散した後は、計の部屋でラブラブイチャイチャ。
これまで二人の関係は潮の自宅の中でほぼ完結していたような気がしますが、それだとなんとなく対等な二人らしくない。
計の部屋で二人が抱き合う事によって、本当の意味で彼らが結ばれたのを感じとる事ができました。
 
Hシーンと言えば、今回はラストを含めて三回となかなか豊富だった印象。 
個人的に萌えたのは、中盤のテレフォンチョメチョメ。
前々から何となく察していましたが、潮はかなりのムッツリだと確信。
言葉責めがいちいち楽しそうでなにより。
片や、無意識に潮のツボを撃ち抜いていく計も色っぽかった&可愛かった。
潮も不意打ちで、何度もイかされそうになってましたからね(笑)。
 
計も女性との交際経験はあるようだけれど、ずっと猫をかぶり続ける事に終始していたから、恋愛や性を楽しんだ経験ってほぼ皆無なんでしょうね。
だから同じ男同士にも関わらず、潮のツボが今ひとつ理解できず、不用意に連打しちゃうんだろうな。
だが、そこが良い。
これは潮も、さぞ開発し甲斐があるでしょう。

『恋するインテリジェンス(5)』(丹下道/幻冬舎バーズコミックス リンクスコレクション)感想【ネタばれあり】

恋するインテリジェンス (5) (バーズコミックス リンクスコレクション)

恋するインテリジェンス (5) (バーズコミックス リンクスコレクション)

恋するインテリジェンス (5) (バーズコミックス リンクスコレクション)

恋するインテリジェンス (5) (バーズコミックス リンクスコレクション)

 
丹下道先生の『恋するインテリジェンス(5)』の感想です。
今回は志山円の上司で、財務省関税局の課長・差形怜司と、彼と19年付き合っている、同じく財務省主計局の課長・古賀親國の物語がメイン。
差形はいつも円と土門をからかったりと飄々とした印象でしたが、この巻を読んで、それがガラリと変わりました。
 

『恋するインテリジェンス(5)』(2018年3月24日発行)

あらすじ

関税局課長の差形は、高校の後輩である古賀と19年間付き合いながらも、基本的にはヘテロの古賀と一度も肉体関係を結ぶ事ができずにいた。
満たされない想いを抱きつつ、他の男と関係を持ちながらも、古賀を手放せない差形。
だがある日、自分達の暮らす家に化粧品が残されていたり、見知らぬ人物から避妊具が送られてくるなど、古賀の裏に女性の影を見つけてしまう。
自分達が一緒にいるために苦肉の策で作ったルールが破られたと疑念を抱き、差形は古賀との別れを決意するが……。(「差形怜司の解答 ~数式は鷹に恋をする~」)
 

総評

恋をこじらせて○○年の人がうようよする『恋するインテリジェンス』ですが、それでも19年は長い。
赤子がそろそろ成人するぐらいの期間。
純粋に年数でいうと「初恋のシュヴァルツリステ」の鷹見×楚和の方が上かもしれないけれど、古賀×差形は生活を共にして、同衾などもしてますからね。
それで清い仲。
どうなってるの、N国の官僚のメンタル?
純愛通り越して、ちょっと怖いと思ったのは秘密です。
 
差形は土門×円との絡みを見ていると、もっと厄介なのを想像していたんですが、意外と言ってはなんですがすごく一途な人でした。
むしろ手強いのは相方の古賀。

フィクションだと、普段は細目&本気モードで開眼する人物は食わせ者だと相場が決まっているんですが、古賀もその例に漏れず。
鶏楽との、策士同士の対決も迫力があり、見応え抜群。
 
古賀がこれまで差形を抱かなかった理由も凄まじい。
何その絶望的な逆説。

出自のせいか、古賀はこれからも鬱屈したものを抱えているのは変わらないと思うので、この先、差形とどんな風に生きていくのか非常に気になります。 
 

恋するインテリジェンス class:rookie 002-6

武笠×深津の二度目の話。
武笠の懊悩が超平和で和みました。
忙しい教官に時間割いてもらって打ち明けた相談がそれ!?
そりゃあ、先森も青筋たてたくなります。
 
ぷらいべえとじぇっと。
ごうかきゃくせん。
えっ、それ、百歩譲って新婚旅行とかではなく、二度目のデートの話なんですよね!?
相変わらず御曹司の金銭感覚が崩壊してる。
深津がドン引く姿が目に浮かぶような……。
 
先森、藍染、千散、桃月の第118期BCハーレムと、それに翻弄される若造・武笠にも爆笑。
武笠は有能なのに、このなんか器用になり切れない初々しさの塩梅が良いですね。
いかにもお坊ちゃま。
演奏家などを、自分が雇っている人をすべて「さん」付けして呼んでいる点など、話し方にも生粋の育ちの良さが垣間見える。
しかし今はとりあえず、全速力で逃げて超逃げて。
怒りと嫉妬のあまり、鶏楽さんの瞳孔が開いてますよ。
鶏楽にとっては、藍ちゃんの手を握っただけで万死に値するというのが、ヒシヒシと伝わってきました。
 
後半はラブラブH。
深津から想いを返してもらえて良かったですね、武笠。
恒例の(?)「はあはあ」も当然スゴイ事になっている。
あまりにもスゴイので、何度言っているか素でカウントしてしまったじゃないか。

さすがに「私は、今、何をやっているんだ……?」と途中で我に返って止めたけれど。
発汗も半端ない。
正直、今すぐ病院に担ぎ込んだ方が良いレベル。
なんか霧(?)まで発生してるんですが……、深津への愛が深すぎて人体の法則まで捻じ曲げる男。
 
ラストは針生と眞御の逢瀬を間接的に邪魔する武笠。
次回は針生の復讐必死ですね。
ホント何やってるんだ、このポンコツ師弟。
 

差形怜司の解答 ~数式は鷹に恋をする~

ひいいぃぃいぃ、19年溜め込んだ鬱憤が完全に危険水域を超えていますね。
二人とも平穏を装いつつも、差形の「全部嘘だ」が恐ろしい。
長い前振りはすべて、差形が古賀と共にいるために時間をかけて身に着けた虚妄だった。
 
そして19年前の彼の傷つく様が切ない。
他の男と寝る理由が、最も愛する男を満たせず傷ついた自尊心を束の間癒す為って辛すぎる。
それでも手放せないって……、綱渡りのような無茶を犯しているとわかっていつつも、古賀の事が大切なんだな。
一方、柔らかい雰囲気を纏った古賀がふっとした瞬間に見せる素顔も厳しい。
 
差形が円をついつい虐めたくなってしまうのも分かるなぁ。
自分がこんなに苦しい恋愛をしているのに、あんなバカップルを職場で見せつけられたらね。
 

差形怜司の解答 ~数式は鷹に恋をする~ 2 前編

一見穏やかだけれど、実情は際どい岐路に立たされている差形と古賀。
おまけに官僚同士なものだから、仕事に関しても駆け引きめいた事をしなければならない。
これは心が休まらない。
差形がこんなに不器用で人間臭いとは、想像できなかった。
 
今回は基本的に財務省が中心の物語ですが、外務省や法務省など、各省庁の横のつながりが見えたのが面白かったです。
「初恋のシュヴァルツリステ」の鷹見×楚和はまだ本格的にくっついていなかったんですね。
3巻以来、ずっとこんな膠着状態が続いていたとは……、鷹見、可笑しすぎ気の毒すぎ。
まあ、モテ男がツンデレに振り回されるのは大好物なので、個人的には「もっとやってくれ」とお替り要求したいくらいですが(ヒドイ)。
気の毒と言えば、鶏楽の尻ぬぐいさせられる蔵本もおもしろ可哀想だった。
格上の二人を前に冷や汗タラタラ。
しかし鶏楽の下についていたら、否でも実力がつきそうですが。
ハッ、もしかして、鶏楽、そこまで見越して……るわけないか、彼の頭の中はほぼ100%藍染が占めているから(蔵本の事も0.001%ぐらいは考慮してくれているかもしれないけれど)。
 
今までトレーニーがいない事で、あまりクローズアップされなかった牛通堂も登場。
差形と友達だったんだ(ついでに鷹見とも)。
第118期TCの中ではかなりの常識人と見た。
なんかあまりにも真面過ぎるがゆえに、真っすぐだけれど歪んだ恋をしている差形の地雷踏み抜いたり、差形と古賀の痴話げんかに巻き込まれて哀れ。
古賀もあんまり威嚇してやるなよ(笑)。
 

差形怜司の解答 ~数式は鷹に恋をする~ 2 中編

冒頭、高校時代の差形と古賀。
これもまたとんでもない出会いだな。
王子様キャラがエロい先輩の魅力に撃沈した瞬間。
これで19年もまとまらなかったんだから、二人のこじらせ具合が尋常じゃないのをあらためて痛感する。
 
時間は戻って現在。
古賀が自分達のルールを破り、秘密を作っているらしき事に疲弊していく差形。
古賀が女性と密会しているのを目撃してしまい、キスも拒まれ、ラストは決定的な避妊具のプレゼント。
この辺りは読んでいて本当に辛かったです。
 

差形怜司の解答 ~数式は鷹に恋をする~ 2 後編

ついに古賀へ別れを切り出す差形。
対して、開眼し本性を表した古賀は、身も縮むほどの迫力ですが格好良かったです。
仕事の都合上、居合わさせた鶏楽も、イイ感じで煽ってくれる。
鶏楽、今まで藍染のヒモ成分が強かったですが、無茶苦茶できる男ですね。
そのギャップが良い(まあ、藍ちゃん以外の事象には基本的に興味なさそうですが)。
古賀と鶏楽、切れ者同士の丁々発止のやり合い。
こういうの大好き。
古賀と鶏楽は、この先も好敵手になっていきそうだ。
 
続いて、古賀に関するモヤモヤの一端の種明かしもされる。
千散、怖っ!!
ここまでするか!?
有能だからこそ、とことん標的を追いつめるえげつなさにガクブル。
まあ、痴話げんかに牛通堂を利用した差形の自業自得と言えない事もないが。
しかしそこは差形も常人ではないので、負けじと報復。
キャットファイト面白すぎ。
この二人も後々まで遺恨が残りそう。
 
自宅に戻り、あらためて想いをさらけ出す差形と古賀。
この人達も長年一緒にいるくせに、大概話し合いが足りない。
一度寝たら別れへのカウントダウンが始まるから抱けないって、とんでもない二律背反。
曲者揃いの『恋するインテリジェンス』の中でも、古賀の業の深さはトップクラスだと思います。
そんな古賀に差形がしてあげられるのは、とことん愛し愛され、ただ古賀の信頼を勝ち得る事のみ。
19年かかりましたが、やっと本質にたどり着きましたね。
 
ついに念願かなって結ばれる二人。
差形のシャツガーター、エッロっ!!
あんなストイックなシーツの下に、こんなとっておきのブツを隠していたとは……。
そして古賀よ、「性欲があまりない」ってどの口が言う!?
それ、単に好きな人とした事がなかったからでしょう!?
いわば本命童貞ってヤツ(このシリーズ、そういう人が枚挙に暇がないけれど)。
最初はどちらかというと差形が押し気味でエロい先輩全開でしたが、結果的には古賀のすげぇテクと絶倫具合(比喩じゃなく一晩中ヤってそう)で、あの経験豊富な差形がメロメロって、やはり只者じゃありませんね。
19年溜め込んだモノも伊達じゃなかった。
一度箍が外れたら歯止めが効かなくなるのは、このシリーズの攻めとしてはお約束。
 
ラストは再び見える古賀と鶏楽。
鶏楽、藍ちゃんが絡まなければフツーに仕事のできるイイ男なのに。
藍ちゃんが関わってくると、途端にプッツンしますね。
読者としては、それが面白いんですが。
一方、古賀も差形がいればその他の有象無象はどうでもいいって感じで、たとえ差形と思いは通じても、今まで抱えてきた仄暗さはこれからも変わらないんだろうな。
この二人、唯一の相手以外は眼中になしというスタンスが、とても似ています。
互いになんとなく気に食わないのも、所謂近親憎悪もあるんじゃないかと。

 

土門の饅頭怖い作戦

もはやお家芸となった土門と志山次官の不毛な戦い。
志山次官が土門を「害虫」とスマホへ登録しているのにボディーブロー食らいました。
どんだけ気に入らないの!?
土門は土門で、煽り芸を極めているというか、志山次官から円のプライベート写真やビデオをせしめようという作戦。
あれ、土門の一人勝ちかと思いきや、ラストで「……パパノホウガカッコイイデス……」という、強烈なクロスカウンター食らってた。
まさか三巻の伏線がここで活きてくるとは思いもよらなかったんだぜ。
まあ、最終的に割を食うのはいつも円なんですけどね(土門にベッドでスゴイお仕置きされそう)。
 

武笠深津のバディ訓練日誌

訓練とは名ばかりの、武笠と深津バカップルのエロ。
なんか武笠の手練手管が、師匠の針生に急速に似てきているような気がしないでもない(武笠は不本意かもしれないが)。
深津も平常運転でチョロ過ぎ。
藍染のトレーニーである以上、将来的には「フェミニン系エッチで物慣れたお兄さん」ポジションの後継者と目されていたと思うんですが、その道はかなり険しそう。

『蜜通』(エナリユウ/笠倉出版社CROSS NOVELS)感想【ネタばれあり】

蜜通【特別版】(イラスト付き) (CROSS NOVELS)

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【Amazon.co.jp 限定】蜜通(ペーパー付き) (CROSS NOVELS)

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エナリユウ先生の『蜜通』の感想です。
初恋の男の息子にアラフォー弁護士が迫られる超年下攻め。
かなりアクが強いですが、深みのある人物造形や緻密な心理描写を求める方におススメの作品。
 

『蜜通』(2019年2月9日発行)

あらすじ

高校生時代のクラスメイト・星野に多額の借金の申し出を受けた弁護士・榛名晄介。
実は星野は、榛名が密かに思い続けた初恋の相手だった。
星野を貶めつつも見捨てられない榛名は、彼や彼の息子・涼一の面倒を見る事になる。
だがその5年後、星野はガンで他界。
星野の意向を汲み、涼一を養子にするが、彼が高校生の時に榛名がゲイだとバレてしまう。
涼一の生活は荒れ、榛名もまた涼一を避ける生活を送る。
しかし、涼一が社会人になった頃、「アンタのことが好きだ」と告白され、体も翻弄されてしまい……。
 

感想

榛名の生い立ち、星野と涼一が榛名と同居する事になった原因、榛名への愛憎を持て余して荒んだ生活を送る高校生時代の涼一など、内容的には決して明るくはありません。
正直、とても読者を選ぶ作品。
ただ、ハマる人にはもの凄くハマる中毒性の高さも兼ね備えていると思います。

一文一文もとことん考え抜かれていて、主人公の榛名や涼一ばかりではなく、脇役のちょっとした一言にハッとさせられる事もしばしば。
 
困窮した生活と生活能力のない親の為、コンプレックスに苛まれてきた榛名が、なぜ星野のような一見冴えない男にこれほど捕らえられたのか?
星野からもらったリップクリームの空の入れ物を、肌身離さずずっと持ち続ける未練。
榛名と涼一の、法律的には養子にも関わらず、親子とは言い難い微妙な関係。
罪悪感や背徳感を抱えつつも、遥かに年下の、しかも初恋の相手の実子である涼一に惹かれていく想い。
ゲイとして、仕事を趣味にして生きてきた一人の男性の心情が、針を通すような綿密さで描かれています。
彼の高慢さの影に隠された優しさや弱さ、怯えなどが真に迫っていて、読者であるこちらも痛いくらい。
 
一方、攻めの涼一も、なぜ彼が義父である榛名にそこまで執着するのかが、物語全体を通して、強烈なリアリティを伴って胸に迫ってきます。
涼一にとって、榛名はまさに運命の人だったんだなと。
借金の形として、自分の母親の遺骨の一部を榛名に差し出したり、榛名を守りたいがために養子に入った経緯など、幼いながらにもの凄いものを背負っていた涼一。
終盤で明かされた、星野が榛名を頼った理由にも慄然としてしまった。
冒頭のシーンに象徴されるような、榛名と星野のパワーバランスが一気にひっくり返るインパクト。
お人好しな男の、どうしようもない打算。
涼一がこれに気づいた時には、複雑な心境だっただろうな。
 
ボーイズラブで主人公の初恋の相手というと、とても煌びやかな存在を想像してしまいますが、星野はどこにでもいるような地味な男性。
だが本作においては、絶対的な存在感を放っています。
榛名も涼一も、良きにつけ悪きにつけ、彼を忘れる事は一日としてないだろうから。
ただ父親の狡さを含む、様々な葛藤を乗り越えてきた涼一だからこそ、年長の榛名を包みこめる懐の深さを身につけられたんでしょうね。
 
脇役に目を向けると、榛名の大学時代の同級生で現同僚、そしてセフレでもあった岩下がイイ味を出していました。
ある意味、二人のキューピット役でもある。
初登場時は「なんか嫌なヤツそうだなぁ」と思っていましたが、その予想はハズレ。
包容力、財力、知力、容姿を兼ね備えた大人の男。
涼一が榛名を奪われるのではないかと、危機感を持つのも分かります。
榛名はあまり気付いてなさそうですが、岩下なりに彼を愛していただろうし、涼一も同じ人間を想う者として、それを感じ取っていたに違いない。
ただ岩下の場合は大人過ぎたのが仇になって、機会を逸してしまったような気がする。
榛名のようなウジウジした男を手に入れるためには、涼一のような若さゆえの無謀さで挑まないと難しいんでしょうね。
 
とにかく葛藤や軋轢を乗り越え、榛名と涼一とが結ばれた瞬間は幸福感でいっぱい。
二人とも長年飢えていた気持ちを、やっと満たす事ができた。
榛名はセフレがいたのにも関わらず、操を立てて、後ろの純潔を死守してきたのは正直凄まじいなと思いましたが。
なんせ涼一は若いから、これから榛名も色々な意味で付いていくのが大変そう。
それも幸せな悩みに他ならないだろうけれど。
 

二人の日々

本編の一か月後、一年後、八年後、それぞれを、攻めの涼一視点で描いた短編。
二人が両想いになった事や、語り手の涼一の性格もあり、本編よりも数十倍明るい雰囲気。
同じお話の中でも、時間経過に伴う二人の変化がきちんと感じられて、エナリ先生、やはりかなりの技量を持った書き手さんだなと。
二人のジェネレーションギャップや榛名の加齢も感じつつ、二人が積み重ねていく日常が愛しい。
涼一が相変わらず岩下に嫉妬していたり、二人が共同で車を買ったりなど、ちょっとしたエピソードにもニヤニヤしてしまいます。
年齢差による懸念なども吹き飛ばして、涼一がひたすら晄介さん大好きを貫いているのが気持ち良い。
 
あと涼一が若いという事もあって、二人のエロエロ日記でもある。
ちょっとS入っていたり、ガラココ使ったお道具プレイあり、消防士×弁護士のコスプレありと、バリエーションもなかなか豊富(全体的に榛名がチョロ過ぎ)。
涼一がレスキュー隊で体を鍛えている為、様々なプレイに対応できるのが美味しい。
40台のおっさん(八年後に至ってはアラフィフ)にもう少し手加減してやれよと思わないでもないが、これぐらいしないと榛名の不安は払しょくできませんからね。
そこがまた面倒くさ可愛いんですけれど。