ボーイズラブのすゝめ

ボーイズラブ系のコミックス&小説の感想を中心に。

『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(2)』(豊田悠/スクウェア・エニックスガンガンコミックスpixiv)感想【ネタばれあり】

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(2) (ガンガンコミックスpixiv)

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(2) (ガンガンコミックスpixiv)

 
豊田悠先生の『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(2)』の感想です。
今回も社員旅行に、黒沢の美人の元カノ(?)登場や同居話など内容盛りだくさん。
二人の仲の進展具合は亀の歩みですが、そのもどかしさに返ってニヤニヤしてしまいます。
 

 

『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(2)』(2019年5月22日発行)

あらすじ

黒沢と接する内に、もっと彼の事を知りたいと思うようになった安達。
だが、その気持ちが恋情からきているものか否かを判断できずにいる。
一方、黒沢は安達を振り向かせるために長期戦も視野に入れていた。
社員旅行中に一緒に出かける等、ゆっくり交流を深めていく二人。
しかし、黒沢の元カノ(?)の出現により、事態は急展開する。
 

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 第6話

特に大事件は起きませんが、小ネタが楽しい回。
前回、お泊りは断りつつも、黒沢の額へのキスには拒否感を示さなかった安達。
そんな彼に対して、微妙な匙加減で距離を詰めていく黒沢。
 

焦らずにゆっくり時間をかけて、確実に堕とす。

 
「落とす」じゃなくて「堕とす」なんだ……(遠い目)。
安達の言う通り、確かに諦めの悪いイケメンマジ怖い。
 
後半は安達と黒沢の駆け引き……、というかこれ、ぶっちゃけドラクエですよね!?
まあ、気弱な安達が策士の黒沢に敵うはずないんですが……。
徐々に外堀を埋められていく安達。
社員旅行のついでに、二人で横須賀の軍港めぐりクルーズに行く事が決定。
つーか、安達、チョロ過ぎないか?
そして、もしかして某艦艇擬人化ゲームやってません?
 

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 第7話

社員旅行へレッツラゴー(古)の回。
チャラい後輩・六角君登場。
当て馬の匂いがプンプンするぜ。
 
そして相変わらずの黒沢の安達に対するアタックぶり。
バスで安達の隣の席をかすめ取ったり(後輩騙すなよ(笑))、カラオケで美声を披露したりと、安達を振り向かせるためには手段を選びません。
しかしモテオーラが仇となり、肝心の安達の好感度はだだ下がり。
発散するカリスマで、六角の当て馬フラグをへし折ったのはさすがですが(というか、この会社全員、黒沢ファンクラブ化してるってヤバくないか?)。
 

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 第8話

あらすじが「社員旅行なう」って、いくらなんでも粗すぎませんか!?
夕飯時。
もちろん、黒沢は安達の隣をキープ。
なんか安達もツッコむのに疲れた模様。
 
そこへ黒沢を虎視眈々と狙う社内の美女軍団が出現。
一見言葉遣いは丁寧なのに、本音が……。
しかも瞳孔開いてるし……、コワッ!!(これは人の心が読める能力がなくても、真意が汲み取れそうな迫力)
 
気迫に押されて、ついつい宴会場から出てきてしまった安達。
そこで彼は、優しい女子社員・藤崎さんが酔っ払いに絡まれているのを見てしまう。
いつもは気弱な安達ですが、ここで女性を守るために懸命に立ち向かっていくのが偉い。
最終的には黒沢に助けられてしまうんですが。
いや、助けてくれたのはありがたいし、安達を大切にしているのは伝わってくるんだけれど、前回の六角といい、今回の藤崎さんといい、黒沢、安達と他の人間に恋愛フラグが立ちそうになると完膚なきまでに粉砕してきますよね。
安達の人の心を読む力も凄いですが、黒沢はそれ以上の野生の感的な何かを秘めていそうで戦慄します(笑)。
 

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 第9話

前回、黒沢に救ってもらった安達ですが、あらためて黒沢と自分の差を感じてしまい複雑な心境。
だが、能力により、黒沢が六角や藤崎さんに嫉妬して、見かけほど余裕がない事を悟る。
この辺り、安達が能力を使えて本当に良かったと思います。
さもなければ、安達は黒沢がどういう人間なのかも分からないまま、素直にお礼を言う事もできなかっただろうから。
 
黒沢にお礼を言われて、嬉しそうな黒沢の表情といったら……。
たまにムッツリですが、黒沢、滅茶苦茶いじらしいですね。
これは安達ならずとも、胸に刺さるものがあります。
 

描き下ろし・30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 第9.5話 その(1)

黒沢視点で、安達と入浴する話。
……といっても、大浴場で集団入浴なんですが。
安達にだらしない体を見られたくないから筋トレに勤しむとか、安達の浴衣姿に萌えるとか、黒沢の思考がもはや恋する乙女モード入ってます。
「目にカメラがついてればいいのに…」はさすがにアレですが……、でも推しを前にした人間の心境とも重なって、彼の気持ちは理解できなくもない。
 
黒沢、あれだけ安達を追いかけておきながら、本当に男に欲情できるかどうかは未確定だったのか。
策士なくせに、抜けているというかなんというか……。
まあ、その懸念も安達のぽよよんエロボディの前では杞憂に終わりますが。
というか、黒沢の安達の裸体を見た時の心の声がヤバい。
しかも、強すぎる心の声は水伝導するという親切設計(?)のせいで、すべて安達本人に筒抜け。
読んでるこっちが「うわぁぁあぁ!!」と頭掻き毟りたくなります(笑)。
これ、例えるならベッドの下に隠していたエロ本を母親に見つけられるようなもの……、むしろそれ以上に恥ずかしいか……(以前から黒沢の妄想は安達に駄々洩れなので今さらと言えば今さらですが)。
安達も「(ダイエットのために)運動しよ」って、気にするの、そこなんだ!!
この子も大概ズレてるな。
 

描き下ろし・30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 第9.5話 その(2)

再び黒沢視点で、横須賀の軍港クルーズにやって来た二人。
黒沢、2ページに1回は安達に好き好き可愛い可愛い言ってます(もちろん心の声)。
安達の心優しさを感じるたびに、急速に彼に惹かれていくのに、逆に安達が気遣うのは自分だけではない現実を憂いてしまう。
他の人間がいつか安達の良さに感ずいてしまうのではないかと、気が気じゃないんでしょうね。
 
だが、そこで安達が黒沢に対して嬉しい言葉をくれる。
安達が以前よりも積極的に動けるようになったのは、黒沢と共にいる事によって己に多少自信がついた為。
おまけに、安達の花丸な笑顔付き。
黒沢、良かったね!!
そして、安達沼にズブズブとハマっていく黒沢。
一人の人間をこんなに簡単に一喜一憂させるのは、確かに魔法のようですね。
 

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 第10話

あらすじ「色々あった社員旅行が無事終わった」に爆笑。
あれだけ盛りだくさんのイベントだったのに、安達の中ではワンセンテンスで終了なんだ。
気づいていたけれど、安達、ドライですね。
黒沢は超リリカルな日記とかしたためてそうですが。
 
しかし柘植との飲みの席でも黒沢の話をしてしまうのは、なんだかんだと言いつつも彼と一緒にいるのが楽しいからなんでしょうね。
はいはい、惚気乙。
柘植は柘植で、最近自分の小説に登場させるヒロインの傾向が変わってきたようで……、つーか、まんま例の宅配配達員くんじゃないか!!
安達と柘植、ちょっと見は接点なさそうだけれど、やはり類友というか……、自分の事に関しては鈍すぎ。
 
楽しい飲みの席ですが、安達は夜の街で黒沢と正体不明の美女がもめているのを目撃してしまう。
すわ、元カノ!?
そしてショックを受ける安達。
「……?なんだ、これ」って、診断結果はもしかしなくても嫉妬です。
おまけに泣き面に蜂とはこの事で、雨の中を濡れて返った安達は熱を出してしまう。
具合が悪い時って嫌な夢を見てしまいがちですが、彼もご多分に漏れず。
恋を成就させた事のない安達が、どんどん恋愛について消極的になっていく様がツラい。
「本当に実らせたいのなら、自分から積極的に動かないと……」と思ってしまう反面、彼が尻込みしてしまうのも分かります。
  
そんな時、当の黒沢は安達の家へお見舞いにやってくる。
果たしてどうなる?
 

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 第11話

具合の悪い安達のために、甲斐甲斐しく面倒を見てくれる黒沢。
片や安達は、やはりザッパーというか、無頓着というか……、男の一人暮らしとはいえ、体温計ぐらいは用意しないと親御さんが泣きますよ。
 
あんな美人の元カノ(?)がいるのに、自分のような人間に親切にしてくれる意味が分からないと自虐に陥る安達。
そんなの、黒沢が安達を好きだからに決まっているでしょうに。
恋愛経験のない事が安達にとっては拭えないコンプレックスになっているけれど、黒沢にとってはそれがとても貴重な事に思える。
黒沢、本当にイイ奴だなぁ。
内面もこれぐらい男前じゃないと、臆病な安達を受け止めるのは難しいでしょうね。
安達も己の黒沢への想いをやっと自覚し始めるが……。
 
そこへ件の謎の美女が登場。
「修羅場!?」と慌てる安達が、問題は瞬時に解決。
あ~、やっぱり、黒沢の姉上でしたか……、ほのぼのとしたこのシリーズだから、そんな事だろうと思った。
ルックスもそうですが、何気に押しが強いところが弟そっくり。
そして、フィクションに登場する弟持ちの姉の多くがそうであるように、彼女もジャイアニズムの体現者。
弟の部屋を自分一人で使うために、弟を安達に押しつける二人を同居させようとする始末。
だがこれは黒沢弟からしたら瓢箪から駒というか、「姉貴、グッジョブ!!」としか言いようがない。
おかげで黒沢弟の妄想がスゴイ事になっているというか……、これ、チャーミーグリーンのCMですか!?(古)
男友達同士のルームシェアのイメージ、明らかに間違ってるよ。
ツッコミどころの嵐。
とりあえず、これじゃただの新婚さん。
あと黒沢はチェック柄を着た安達が特にお気に入りだという事を把握しました。
 
そんな訳で、黒沢姉弟にぶんぶん振り回される安達なのでした(風邪も一気に吹き飛びましたね)。
 

描き下ろし・30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 柘植編 その(2)

柘植、宅配配達員くんをヒロインのモデルにして小説一本書き上げるくらい執着しているくせに、まだ恋心に無自覚だったんかい。
安達といい、このコンビ、鈍いにもほどがある。
おまけに柘植編は話数が少ない分、両想いになるのはいつになる事やら……。
そして宅配配達員くんの名前も……、もしかしたら二人が両想いになるまでお預け?(遠い目)
宅配便受け取った時の控えに、苗字ぐらい記してありそうですが……。 

『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(1)』(豊田悠/スクウェア・エニックスガンガンコミックスpixiv)感想【ネタばれあり】

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(1) (ガンガンコミックスpixiv)

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(1) (ガンガンコミックスpixiv)

 
豊田悠先生の『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(1)』の感想です。
pixivコミックスで連載中の作品。
comic.pixiv.net
社内一のイケメン・黒沢と、30歳まで童貞で触れた人の心を読める力を手に入れてしまった地味っ子・安達が繰り広げるラブコメディ。
黒沢の色々な濃い本音を読んでしまい、時にときめき、時にドン引く安達の慌てぶりが面白い。
 

『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(1)』(2018年9月7日発行)

あらすじ

30歳まで童貞を貫いた安達清は、不思議な能力を手に入れてしまった事に気づく。
それは、触れた人間の本心を読めてしまう力。
ある朝、同僚で社内でもモテモテ&上司の覚えもめでたい黒沢優一の心を読んでしまった安達は、黒沢の片思い相手が自分だと知ってしまう。
黒沢の爽やかな外見に隠されたムッツリさや、自分への直向きな想いに翻弄されてしまう安達だったが……。
 

総評

童貞をこじらせ、他者の心を会得してしまった安達の戸惑う姿がとにかくキュート&可笑しい。
まるで小動物を見ているような微笑ましさを覚えます。
確かに派手さはありませんが、なぜ周囲の人々は彼の魅力に気づかないのか……、この作品世界の人間の目は節穴か?
一方、相手の黒沢もムッツリで安達に関しては妄想過多な部分もありますが、ド変態まではいかないので万人が受け入れやすいキャラクター。
ルックスが良く、仕事も出来る上に、他者が気づきにくい安達の真面目さや優しさ、心遣いを汲み取る事ができるという外面・内面兼ね備えたイケメン。
そんな一見正反対な二人が繰り広げるドタバタラブコメディ(主にドタバタしているのは安達ですが)。
30歳男子達が学生のような初々しい恋愛をしています。
第1巻に関しては性描写も皆無なので、ボーイズラブ初心者や過激な表現が苦手な方にもおススメできる作品です。
 

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 第1話

とりあえず、安達が貴重な(?)童貞を風俗で散らさないで良かったです。
もしそんな感じで童貞卒業していたら、黒沢がマジ泣きしそう。
 
涼しい顔して脳内は妄想まみれな黒沢と、彼の心の声に振り回される安達に爆笑。
紙媒体の方はどうなっているのか分かりませんが、電子書籍版では黒沢の本音部分がピンクに色分けされているのにもジワジワ来る。
確かに安達のうなじの黒子はやらしーけれど。
しかし黒沢は単にムッツリなだけではなく、根っから良い奴ですね。
そして、意中の安達にそれが伝わって良かった。
 
ラストは急展開。
残業していて終電を逃してしまった安達が、急遽黒沢の家に泊まる事に……。
この時の黒沢の妄想もスゴイ。
「一定の文字数を超過した妄想は映像化する」って、それなんて便利機能(?)。
そして、黒沢の妄想内の安達の可愛さといったら……。
黒沢は「萌え」の何たるかを分かっていますね。
 

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 第2話

黒沢の家に泊まる事になった安達。
マンガ好きという共通項も見つかり、黒沢と一緒にいると意外と楽しいことに気付きます。
しかしそれもつかの間、「安達が着たら可愛いだろうなと思って妄想用に買っておいたパジャマ」って(笑)。
爽やか顔の下で何考えてんだ!?
救いようのないド変態ではないけれど、変態紳士の資格(?)は十分あるのではないかと。
安達に直接的な被害は出ていないのでギリギリセーフという感じ?
ちなみに黒沢、安達が着たパジャマ、洗わないで保存しておきそうな気が……。
 
黒沢の想いを知っている安達は、黒沢が接近してくるだけで落ち着かない。
片や、黒沢も安達の寝顔を見てしまい、トキメキがおさまらず。
互いに眠れぬ夜を過ごす、可愛い30歳男子達なのでした。
 

描き下ろし・30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 第2.5話

安達が泊まった翌日の、黒沢視点のお話。
顔良し・スタイル良し・性格良しな上に料理も出来てしまうとは、なんて完璧超人?
しかも気取ったシャレオツな料理ではなく、卵焼きなど、温かみのある家庭料理というところがポイント高い(しかも安達の好みはリサーチ済みという……)。
今回は失敗してしまいましたが、安達を餌付けできる日も近そう。
 

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 第3話

安達と黒沢の上司のダメっぷりが際立つ第3話。
安達への態度にも目に余るものがあったんですが、焼肉の優待券くれたので「まあ、今回だけは許そう」(何様?)と思ったら……。
期限切れってどういう事!?
この人にだけは、安達の仕事ぶりをどうこう言われたくないんですが……。
 
食事に行くなど、黒沢と時間を共有する内に、どんどん居心地が良くなってしまう安達。
しかし、黒沢の気持ちに答えられないくせに、彼を利用しているようで罪悪感を感じてしまう。
そして、安達から距離を取られてしまい傷つく黒沢。
二人とも真面目で善良なだけに、すれ違いが切なすぎる。
 
ラストは謎の眼鏡男子登場。
安達の関係者のようですが、彼もなかなかカッコいい。
 

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 第4話

前回ラストに登場したのは、安達の数少ない友人・柘植。
クールな外見と、恋愛小説家という職業のギャップが良いですね。
前回、黒沢を傷つけてしまい、恋愛相談にのってもらう安達。
柘植は職業柄、こういう話題に関しては頼りがいがあるなぁと感心していたら……。
だが、なんと彼も童貞だった!?
「机上の空論」に爆笑。
でも経験ないながらも、ツボは抑えてますね。
 
日は改まって、珍しく仕事でトラブルになってしまう黒沢。
何やら厄介な客に絡まれたようで。
そこで助け舟を出したのは安達。
初めて人の心を読む能力を積極的に使いましたね。
しかも黒沢のために。

というか、前回の上司といい、この世界の中高年層、どうなってるの?
いつものケーキが出てこないからって不機嫌になるってどういう事?
そういう細やかな気配りができるか否かで、その会社の力量を測ってるのかもしれないけれど、ちょっとなあ……。
 
なにはともあれ、黒沢を助けられて良かった。
今日ばかりは安達がヒーローという事で、課内の皆で飲み会。
ところが、そこで始まってしまったのは定番の王様ゲーム。
そして、これもお約束という感じですが、王様の命令で安達と黒沢がキスする事になってしまい……。
 

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 第5話

いやぁ、黒沢、マジでできた男だな。
額にキスというのもスマートですね。
安達の唇にキスしたいのは山々だろうけれど、きちんと彼を思いやりつつ、場の空気を読む事ができるんだから。
安達にキスを嫌がられたと思って、落ち込む後ろ姿にも人間味に溢れています。
彼なら安達を安心して任せられるんだがね……、と気分はさながら娘を嫁に出す父親。
 
その後、黒沢のもとへ本心を伝えに行く安達もカイグリカイグリしたくなるくらい良い子だった。
「嫌とかそんなんじゃ…」って、これは黒沢ならずとも期待してしまうというもの。
そして、黒沢が安達に口づけ用としたその瞬間……。
これもお約束でお邪魔虫参上。
課長といい、この会社の人材、碌な事しないんですが……(遠い目)。
 

描き下ろし・30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 黒沢編

黒沢視点のお話で、彼がなぜ安達に惚れたのかが明かされます。
美形な黒沢ですが、それゆえに葛藤を抱えていたんですね。
だからこそ、仕事や対人関係についても人一倍頑張っている。
そして、その陰ながらの努力をちゃんと見ていてくれたのが安達なんですよね。
おまけに具合が悪い時に膝枕してくれた上に、可憐な笑顔を向けられてしまえば惹かれるなという方が無理。

 
むしろ、安達はなぜ今までこんなラブいイベントについて語ってくれなかったのが不思議です。
まさか忘れてないよね!?(笑)
本当の小悪魔って安達みたいな人を言うのではないかと思いました。
 

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい バレンタイン編

安達からチョコを貰えるのかと思ったら、女性社員からの預かりものだと知った後の黒沢の虚無顔に噴き出す。
 

あー、期待して損した。
バレンタインとか、マジ嫌い。
無くなればいいのに。

 
モテ男なのに……、今、世の中の男性8割ぐらいを敵に回したな、黒沢。
まあ、実際、貰い過ぎても収拾つかなくなりそうだし、肝心の本命がくれないのでは……、彼の気持ちは分からなくもありませんが。

でも諦めきれない黒沢は、安達にチョコを渡す。
ここで黒沢、やっぱり気遣いさんだなと感じるのが、超気合いの入った高級チョコではなく、コンビニでも売っているようなチョコを渡している点。
安達が抵抗なく受け取れる価格帯を読んでいますね。
さすがです。
お返しにもらえたのは、安達のとびきりの笑顔。
黒沢、「バレンタイン最高!!!!」って、アンタ、たった2ページ前にバレンタインをディスってたばかりでしょうに。
無茶苦茶強烈な手のひら返しを見た。
 

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 柘植編

柘植主役の番外編。
彼もまさかの魔法使いの仲間入り!!
この巻の描き下ろしイラストによると、30歳にまで童貞の男性がすべて魔法使いになれるわけではないらしい。
安達も、柘植も、選ばれし勇者達(?)なのですね。
 
そんな彼が突然恋に落ちる。
相手は名も知らぬ、ヤンキー風の宅配配達員。
この子もギャップ萌えですね。
柘植の飼い猫・うどんちゃん(名前(笑))と抱っこしていると可愛いの相乗効果が凄まじい。
 

描き下ろし・30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 柘植編 another side

うどんちゃんで件の宅配男子(早く名前が知りたい)を釣ろうとしている柘植。
とりあえず、無表情で萌えるのヤメテ、面白すぎるから。
案の定、宅配男子にも不審がられています。
しかし、うどんちゃんの話をしている内に、「怪しいヤツ」から「いい飼い主(ちょっと怪しい)」にランクアップ(?)できたよ。
よかったね、柘植!!

『S宿二丁目ラブアワー』(露久ふみ/オーバーラップリキューレコミックス)感想【ネタばれあり】

S宿二丁目ラブアワー【単行本版】【電子限定描き下ろし漫画付き】 (リキューレコミックス)

S宿二丁目ラブアワー【単行本版】【電子限定描き下ろし漫画付き】 (リキューレコミックス)

S宿二丁目ラブアワー (リキューレコミックス)

S宿二丁目ラブアワー (リキューレコミックス)

 
露久ふみ先生の『S宿二丁目ラブアワー』の感想です。
女装男子・京子(仮名)×(元)バリタチ・泉のラブコメディ。
見かけと中身にギャップのある肉食系な攻めと、負けず嫌いだけれどちょろい受けのやり取りが面白い。
京子の甥・秀一×年上の幼馴染・旭の物語も収録。
 

『S宿二丁目ラブアワー』(2019年5月25日発行)

あらすじ

東京勤務を機に大阪から引っ越してきた駅員・泉吉継は、ゲイ寄りのバイ(タチ専門)。
ある日、駅構内で自分好みの美形(女装男子)と言葉を交わした事をきっかけに、初めてS宿二丁目へ足を踏み入れる。
偶然入ったバーで、件の美形・京子(仮名)と再会を果たす泉。
とんとん拍子でベットインする事になるが、実は彼はS宿二丁目では知らぬ者はいないほど有名なバリタチだった。
バージンを奪われた上に、気持ち良くなってしまった事にプライドが傷ついた泉は、今度こそ自分が京子を抱くと意気込むが……。
 

総評

女装系バリタチ・京子さんにネコちゃんにされてしまった泉が、なんとかタチに返り咲いてやると奮闘しつつ、京子さんに返り討ちに合う話。
泉の良く言えば不屈の闘志、言い方を変えると懲りない性格が楽しい。
そりゃあ、京子さんのように複雑な内面を秘めていそうな人間にとっては、新鮮な存在でしょうね。
そして、次第に泉に対して本気になっていく。
一方、泉も最初は京子(本名・京哉)に勝つ事が目的だったのに、彼の様々な面を垣間見てハマっていく。
二人が徐々に距離を縮めていく過程にニヤニヤ。
意外な展開や大きな事件は起きませんが、その分、安心して二人の恋愛に浸る事ができます。
 
そして、本書には京哉の甥・秀一と年上の幼馴染・旭の恋を描いた「ダーリンの上手な育ち方」も収録。
この作品を読むと、京哉一人が個性的なのではなく、一族ぐるみでおかしいんだろうな。
 
ちなみに一族の家系図「狩野なる一族」には、本書一番の笑いを貰いました。
一族総資産1055億円って……、他にもツッコミどころ満載。
あまりにも規模が大きすぎて、受け二人が引いてます(笑)。
玉の輿とか喜んでる場合じゃない。
とりあえず、泉も旭もこれから何かと苦労しそうですが頑張って。
 
そう言えば、京哉の兄・京一も独身で、彼にも何かBL的な物語がありそうな雰囲気。
この一族、総攻めなのかもしれないけれど、京一はビジュアル的に受けだと嬉しいなぁ(あくまで個人的な感想です)。
 

S宿二丁目ラブアワー GONG:1

京子さん、今思うと出会った当初から泉に目をつけているような……(笑)。
泉が自分から二丁目に来なくても、何らかの方法で接触計っていたような気がします。
それぐらい朝飯前でやってのけそうな京子さん。
そして、彼の掌の上でコロコロ転がされてもめげない泉のキャラが秀逸。
バージン奪われたにもかかわらず、悲壮感は一切なし。
それどころか、京子さんに対して競争心燃やしてしまっているのが面白い。
 

S宿二丁目ラブアワー GONG:2

冒頭から、二丁目における京子さんの武勇伝に驚嘆。
どんなバリタチも、彼の前では可愛いネコちゃんとなってひれ伏すんですね。
泉も負けん気に一層火が付いていますが、相手が悪いんじゃないかな?(遠い目)
 
その京子さんはかなり泉を気に入ってしまったようで、自宅にまで呼んでしまう。
二丁目の面々から見ると、それはかなりイレギュラーな事のようですが。
おまけに、正式に交際まで申し込んでいますしね。
ミステリアスな笑顔を絶やさない京子さんですが、泉に対してはかなり本気モード?
そんな事は露知らぬ泉は、攻めの座をかけて京子さんに勝負を挑み、その度に返り討ちに合う。
京子さんも只者ではありませんが、泉も大概チョロ過ぎ。
チョロインの称号(?)を進呈したいぐらい。
 

S宿二丁目ラブアワー GONG:3

京子さん、もとい京哉の本気が前面に出てきた回。
女装も鳴りを潜め、泉に本名を呼んでもらいたがったりと、今までどこか飄々していた彼の違った一面が見えてきてギャップ萌え。
泉を抱く時の必死さが、初回とは明らかに違う。
そんな京哉に、泉も思わず絆されてしまう。
けれども、今までずっとタチだったこだわりを捨てる事もできない。
 
そこで別のタチと寝てみようというのがぶっ飛んでいますが(笑)。
泉の相手をしようとしたラーメン屋のヒロさんも相当良い度胸してます。
伝説のバリタチの恋人に手を出そうというのだから。
恋情まではいかないまでも、泉に対してかなり興味を持っていそうな気が……。
しかし、不本意ながら京哉への恋情を自覚してしまった泉は、土壇場でヒロを拒んでしまう。
泉本人が気づかぬうちに、彼の心に京哉の存在が深く刻まれてしまったんですね。
うわぁ、甘酸っぱい。
 
だが、せっかく自分の本心に気付いたのに、ヒロさんとホテルから出てきたところを京哉に見られてしまった泉。
恋愛物ではありがちな展開とも言えますが、京哉は本音が見え辛い人間だからドキドキするなぁ。
 

S宿二丁目ラブアワー GONG:4

修羅場になるとは思っていたけれど、まさかここまで乱闘になるとは予想していませんでした。
でも、京哉を殴ってでも本音を吐き出させる泉と、愛しているから泉を殴れない京哉と、二人のキャラの特徴が良く出ています。
その代わり、京哉は間男ポジションのヒロさんをとんでもない目にあわせていましたけれど。
これ、打ちどころが悪かったら死(ガクブル)。
 
京哉は普段飄々としているけれど、実は不器用なタイプだな。
本当は嫉妬メラメラなのに、それを素直に表現できない。
おそらく今まで彼を周囲にいた人々は、誉めそやすか、恐れるかのどちらかで、腹を割った人間関係を築いたことがなさそう。
だからこそ、泉のように正面切って向かってくる相手に惹かれてしまったのでしょう。
 
何はともあれ、あらためて両想いになった二人。
しかし、ラストでは泉の天然っぷりが炸裂。
この子、よく今までバックバージン守ってこれたなぁ。
まあ、こういう部分も含めて、京哉にとってはたまらないんでしょうね。
 

ダーリンの上手な育ち方

表題作と同じ世界観の物語ですが、こちらの方が発表されたのは早い。
京哉の甥・狩野秀一と、彼の年上の幼馴染・須磨旭のお話。
 
タイトルが「育て方」ではなく「育ち方」なのがミソ。
受けの旭が何もせずとも、勝手に育ち、勝手に迫ってくる秀一。
冒頭のピュアなショタと、現在のギャップが凄い。
幼い頃の初恋をこじらせて、旭が何気なく言った条件(高収入・高身長・高学歴)を軽く超えてきた。
おまけにさすが京哉の甥っ子という感じで、美形な上に一筋縄ではいかない性格。
旭は完全に外堀埋められてしまっています。
スパダリ系年下攻めが好きな方は、大変美味しくいただけるであろう作品。
 

描き下ろし・後日談

京哉が経営するバーで顔を合わせた京哉×泉と秀一×旭。
泉、本来であれば旭みたいな感じの子がタイプなんですね。
久しぶりに視線が攻めに戻っている。
だが、秀一がそれを許すわけがなく……。
というか、この子、本当に旭以外の一切に関心がなさそう。
そして、むしろ遺伝子レベルで狩野一族が苦手なのに、京哉と付き合っているって、よっぽどの愛がないと難しいと思うんですが。
その後はもちろん、旭に色目を使った事で、京哉からお仕置きをされてしまう泉。
ラストは「色々と懲りた泉くんであった」という〆で終わっていますが、彼はあまり懲りていないような……、気のせいか?
 

『ただいま、おかえり ーかがやくひー』(いちかわ壱/ふゅーじょんぷろだくとTHE OMEGAVERSE PROJECT COMICS)感想【ネタばれあり】

ただいま、おかえり -かがやくひ- (THE OMEGAVERSE PROJECT COMICS)

ただいま、おかえり -かがやくひ- (THE OMEGAVERSE PROJECT COMICS)

ただいま、おかえりーかがやくひー (オメガバース プロジェクト コミックス)

ただいま、おかえりーかがやくひー (オメガバース プロジェクト コミックス)

 
いちかわ壱先生の『ただいま、おかえり ーかがやくひー』の感想です。
オメガバース設定のほのぼの家族物『ただいま、おかえり』の続編。
kashiwamochi12345.hatenablog.com
新たな家族・陽も加わって、藤吉家はさらに賑やかに……。
そして、今回は真生がずっと避けていた故郷へ里帰りする事になります。
真生はずっと抱いていた愁いを払拭する事ができるでしょうか?
 

『ただいま、おかえり ーかがやくひー』(2017年6月24日発行)

あらすじ

弘、真生、輝の三人家族に長女・陽も加わって、幸せにますます拍車のかかる藤吉家。
弘の実家とも、以前のわだかまりがありつつも、少しずつ距離を縮めていく。
そこへ、真生の伯父から「久々に地元へ帰ってこないか?」という誘いのメールが届く。
両親は既に他界してしまったが、胸に残る鬱屈を整理するため、帰省する事を決心する真生だったが……。
 

総評

サブタイトルからして良いですね。
「かがやくひ」=輝と陽の事。
子供達は弘と真生を照らしてくれる宝物のような存在。
二人がいれば、弘と真生はどこまでも強くなれる。
そして、そんな両親の生き様を見て、輝と陽は優しく、強く育っていくんでしょうね。
まさに好循環。
 
今回は真生にとって、色々と辛かったですね。
彼のこれまでの孤独や薄幸の一端を再び垣間見ました。
どれだけ幸せに身を浴しても癒えない傷。
かさぶたは何かをきっかけに容易く剥がれてしまう。
 
しかし、この世の中で彼だけが弱いのではなく、完璧な人間などはもちろん存在しない。
真生が自分を卑下してしまうのは、彼がそれだけ必死に生と対峙している事の証です。
そして、人は不完全な存在だからこそ、家族をはじめとした大切な人々と支え合って生きていく。
そんな、日常の生活に忙殺されて忘れてしまいがちな事を、読者へ再確認させてくれる作品。
本作を読了後は、家族の事が無性に大切に思えてなりません。
そして内に秘めるのではなく、たとえ言葉足らずだとしても、きちんと感謝を伝えようという気になります。

 

ただいま、おかえり ーかがやくひー 第1話

『ただいま、おかえり』の描き下ろしから少し遡って、陽誕生直前から出産まで。
冒頭から輝があまりにも天使過ぎて、弘と同じくむせび泣きたくなるわ……。
 
弘の父親の知人から無神経な発言を受けてしまい傷つく真生。
たとえオメガバースでなくとも、現実でもありそうな一場面に考えさせられます。
出産直前という事もあり、真生はナーバスになってしまう。
でも、それはひたすら孤独だった輝の出産時とは違い、今は陽の誕生を一緒に喜んでもらいたい人が増えたから=「幸せ」の証拠でもあるんですよね。
苦しい時に我が事のように親身になってくれる、祐樹のような人間が真生の側にいてくれて本当に嬉しい。
そして、真生を支えてくれるのは、なんと言っても大事な家族。
互いの存在が生きる糧になるって素晴らしい。
 

ただいま、おかえり ーかがやくひー 第2話

初っ端、輝と陽の「うぇへへへへっっ(ハート)」があまりにも可愛すぎて変な声が出ました。
輝、松尾には今まであまりデレなかったけれど、共に兄ポジションという事で仲間意識が芽生えたようで……、良かったね、松尾(笑)。
ちなみに第1話で明かされましたが、松尾家は男夫婦に息子三人(松尾が長男)の男系家系だそうで、それもすごく見てみたい。
 
とにかく一生懸命お兄ちゃんをしている輝が愛しい。
洋服のボタンをはめる等自分の事はなるべく自分でやろうとしたり、お気に入りのぬいぐるみを陽に譲ってあげようとしたり……、頭ナデナデしたくなります。
妹が可愛くて仕方がないんですね。
しかし、そんな輝もまだ3歳で甘えたい盛り。
あまりにも頑張り過ぎて知恵熱を出してしまう。
こういう時に輝への愛情を惜しみなく表す弘と真生は良い両親。
家族4人で少しずつ成長していければ幸せ。
 

ただいま、おかえり ーかがやくひー 第3話

今回は真生が特に可愛かった(藤吉家は全員「可愛い」がデフォルトですが)。
ワイドショーの浮気特集に感化されて、弘に「好き」と言葉で伝えて切れていない事に悩む真生。
でも浮気を警戒して「好き」と言うのも弘に失礼だとモダモダしてしまうのがピュア。
そうした誠実さも、弘が愛してやまない真生の美点の一つだと思うのですが。

 
そこで輝が、また大切な事を教えてくれる。
愛する人に「好き」と伝えるのに理由はいらない。
そして、「好き」という言葉によって、言った側も言われた側も、両方温かな気持ちになれる。
 
真生の気持ちに寄り添える弘はつくづくスパダリだな。
確かに以前の卑屈な真生なら、弘がもし浮気をしても容認にしていたかもしれない。
弘は真生が以前よりも良い意味で欲張りになってくれて嬉しいんだろうな。
 
あと真生自身は無意識だけれど、ベッドの中では結構「好き」「好き」言っていたようで……(笑)。
弘の「今日カウントしてあげようか?」に若干サドっ気を感じる。
まあ、真生はM気味だと思うので、その点でもバランスの取れた夫夫だなと。
とりあえずご馳走様でした。
 

ただいま、おかえり ーかがやくひー 第4話

弘の実家で輝の端午のお節句を祝うお話。
じいちゃん、豪邸に住んでいるだけあって、愛する孫のためにとても豪華なこいのぼりを用意しましたね。
名前旗付きなのも凄いなぁ。
輝と陽の写真を撮りまくる弘と彼の父親は、なんだかんだと言いつつも似た者同士。
これからイベントがある度に、カメラやハンディカムをフル稼働させそうな二人(笑)。
 
今回は弘の母親も本格的に登場。
既に両親を亡くしている真生に対して「ご両親の分まで私に何か力になれたらいいのだけど」と気遣う優しいお母さん。
だが「結婚を許してもらえただけで十分」と真生はそこで一歩引いてしまう。
弘と結婚する前に比べて、大分強くなった真生ですが、それでも弘の両親に受け入れてもらう事に慣れていないんですね。
冒頭で彼のもとに来た伯父のメールも影響しているのでしょうけれど。
 
そこで偶然、輝が藤吉家の嫁に代々受け継がれてきた打掛を見つける。
お母さん、この打掛を真生のために用意しておいたんですね。
以前の経緯があるから、互いに多少ぎこちなくなってしまいますが。
そんな不器用な家族の潤滑剤になるのは、やはり子供達の存在。
そして弘の父親もさすが年の功というか、良い事言いますね。
 

たとえ遅れてでも、祝福の気持ちを相手に伝えることが大切…。

 
真生の打掛姿も、慈愛に満ちていてとても奇麗でした。
弘が惚気たくなるのも分かります。
しかし、弘も普段は察しが良いくせに、変なところで朴念仁というか……。
真生が打掛姿を見られて弘にだけ照れるのは、弘の事を伴侶として愛しているからに決まってるじゃないですか!
 
ラストは家族の愛をあらためて確認して、里帰りする事を決意した真生。
昔、逃げるように故郷を出てしまった真生ですが、今の彼ならきっと大丈夫に違いない。
 

描き下ろし・ただいま、おかえり ーかがやくひー 第5話

弘のお誕生日&真生の里帰りにあたって弘の胸中。
第4話と第6話の間に、本巻描き下ろしとして変則的に差し込まれた回ですが、弘の心情や弘×真生の関係性を掘り下げるのに絶妙でした。
以前、両親を亡くした真生が帰省した際には、弘は同行せず待っていたんですね。
打って変わって、今回は家族全員で故郷へ帰る事の意味。
 
今回、真生が弘の「一緒に地元へ行きたい」という申し出を受け入れたのは、過去に向き合う決心をしたため。
前の帰省の時にはできていなかった覚悟を、輝や陽を授かったのをきっかけに築く事ができた。
それも、今も昔も変わらず真生を支えてくれる弘の存在があったればこそ。
日々成長していく部分と、それでも変わらない大切な想いとの対比が美しい。
 
輝から弘への、初めてのプレゼントも素敵。
輝の健やかな成長を感じられるのが、弘にとっては最高の贈り物。
弘はこの似顔絵を、これからもずっと大切にしていくでしょう。
 
ラストは真生の従兄・和彦が顔出し。
真生とは何やら因縁がありそう。
 

ただいま、おかえり ーかがやくひー 第6話

真生の故郷にやって来た藤吉家+祐樹&松尾。
祐樹と松尾、藤吉家にとってすっかり家族のくくりになってます(笑)。
 
前回初登場した真生の従兄・和彦はなんと真生の許嫁だったんですね。
真生には複雑な感情を抱いているようで、伯父さんから預かってきた手紙も渡してくれない。
和彦の態度は決して褒められたものではないけれど、彼の気持ちも分からなくはない。
真生の両親や和彦を始めとした親族は、真生を虐げたかったわけではなく、それどころか彼を守りたいと思っていたからなおさら、思いやりを踏みにじられたような気がしたんでしょうね。
一方、真生も両親や故郷を愛しつつも、たった一人のΩである孤独や息苦しさに耐えられず逃げ出してしまった。
単純な善悪二元論では断ずる事のできない問題に唸らざるを得ない。
 
真生も罪悪感があるから、和彦に何も言い返せなかった。
そこで、彼の味方になってあげられるのは、やはり弘を始めとした家族。
真生を弱者としてしか扱えなかった郷里の人々とは違い、弘は真生の中にある直向きな強さを汲み取る事ができた。
でも、これは和彦達が一概に悪いというのではなく、様々な巡り合わせやタイミングの結果なんですよね。
「真生と、彼の両親が分かりあう手段がもっとあったのでは?」とか、「真生が弘と出会わなければどうなっていただろう?」など、ついついIFを考えてしまう。
自分らしく、幸せに生きていくとはどういう事なのか?
そうした事を考えさせてくれる、いちかわ先生の作品は本当に深い。
 

ただいま、おかえり ーかがやくひー 第7話

お前が傷つかない以上に大切なことなんてひとつもないよ。

 
弘にこんな風に言ってもらえる真生は幸せですね。
それでも、真生は自分が大切にしているものまで否定されるのが怖くて仕方がない。
しかし、それは種族なんて関係なく、本来誰もが持ちうる感情。
だからこそ、人間は大切な人と寄り添って、愛を確かめ合いながら歩んでいく。

翌朝、再び和彦と見える真生。
輝はさながら真生を守る騎士。
真生が見せる、愛情に溢れた笑顔が全ての答えですね。
和彦も根は良い人だけれど、真生に対する未練から、前回のような態度を取ってしまった。
真生への執着は刷り込みなのか、情なのか、和彦自身も判別できないようですが、表情に微かに滲む切なさを目にしてしまうと、彼にも是非幸福をつかんでほしくなります。
 
終盤は真生の両親が眠る場所へお墓参り。
野の花が咲き乱れる奇麗な場所。
真生の母親が残した手紙の文言と相まって、心が温かくなると同時に泣けてくる。
生きている内に分かり合えなかったのは残念ですが、真生も家族や大切な友人をこの場所に連れてくる事ができて良かったです。
ご両親もきっと天国から見守ってくれているはず。
 
ラストは素朴だけれど、感動的な永遠の誓い。
真生と結婚できないと知って大ショックを受ける輝。
多くの幼児が一度は経験する壁ですね(笑)。
残念だけれど、まぁちゃは既にぱぱのもの。
それなら牧師はどうでしょうという事で、すぐに立ち直るのも可愛い。
 

おつかい大作戦 ~デビュー編~

日テレ系列の某人気番組風味で、初めてのおつかいに挑戦する輝。
ミッションは、じーじへの手紙をポストに投函する事。
しかし、中々ポストまで到達できずに、何度も家に帰ってきてしまう輝がキュート。
見守る弘・祐樹・松尾もコミカル。
 
結局、にわか雨が降り出して、計画は出かけていた真生に傘を届ける事に変更。
無事にミッションコンプリートできて、めでたしめでたし。
無表情でRECしている弘が怖い(笑)。
ついでにじーじへの手紙も出す事ができました。
手紙の上半分と下半分の温度差にも爆笑。
 

『ただいま、おかえり』(いちかわ壱/ふゅーじょんぷろだくとTHE OMEGAVERSE PROJECT COMICS)感想【ネタばれあり】

ただいま、おかえり (THE OMEGAVERSE PROJECT COMICS)

ただいま、おかえり (THE OMEGAVERSE PROJECT COMICS)

ただいま、おかえり (ザ オメガバース プロジェクト コミックス)

ただいま、おかえり (ザ オメガバース プロジェクト コミックス)

 
いちかわ壱先生の『ただいま、おかえり』の感想です。
オメガバース設定の物語。
オメガバースをご存じない方は↓をご参考に。
dic.nicovideo.jp
オメガバース設定に関しては、本作冒頭でも説明されているので、オメガバース物を初めて読まれる方もご安心を。
本作に関してはとりあえず、男女の他にα、β、Ωという二次性があり、急激な人口減少に伴い、男女問わず出産できる世界観である事を事前知識として持っていれば問題ありません。
弘(α)×真生(Ω)夫夫と、彼らの間に生まれた子供・輝の日常を描いたほのぼの家族物。
とにかく輝の可愛らしさに癒されます。
 

 

『ただいま、おかえり』(2016年6月24日発行)

あらすじ

弘と真生はα×Ωの番であり、男同士の夫夫。
二人は長男の輝と共に、郊外にある一軒家で家族仲良く暮らしていた。
ところが、二人の結婚を反対していた弘の父親が突如姿を現す。
以前、真生を傷つけた父親に憤りを感じる弘であったが、輝の存在により、冷えていた親子関係に変化が……。
 

総評

輝の一挙手一投足がキュート。
有体に言って天使。
笑顔をはじめ、ちょっと不機嫌な顔や泣き顔など、様々な表情や生き生きとした仕草を惜しみなく見せてくれる。
ぷにぷにのほっぺや手足にも触りたくなる。
気分はさながら親戚か近所のおばちゃん。
 
輝を大切に育てる弘×真生の発する雰囲気も温かい。
既に夫夫なので激しい恋愛描写などはありませんが、その分、家族に対する愛がいっぱい。
輝もまだ二歳で、子育てにおいても試行錯誤の連続でしょうが、この二人なら良い子に育ってくれるだろうなと、安心して見ていられる。
 
また本作はただハッピーなだけではなく、差別や偏見に関して考えさせる内容でもある。
大っぴらではないけれど、確かにそこにある先入観が、どれだけ他者を傷つけるか……。
しかし本作では、ただ絶望したり、斜に構えて見たりするのではなく、人がその問題へどのように向き合い、またその過程で家族や周囲の人々の存在にどれだけ力づけられるかを教えてくれます。
ジャンルに抵抗がないなら、是非多くの方に読んでいただきたい名作。
そして読後は、藤吉家の幸せを願わずにはいられなくなる事請け合いです。
 

ただいま、おかえり 第1話

藤吉家が尊すぎ!!
真生と輝にはデレデレですが、二人にもしもの事があったら何をやらかすか分からない弘。
弘と輝を優しく包み込む真生。
そして、可愛いの権化・輝。
三人の醸し出す空気は、周囲の人々の優しさも相まって柔らかい。
しかし、オメガバースという世界観ゆえ、世間ではΩに対する偏見や差別も確かにあるのが切ない。
形は違えども私達が生きる現代社会と重なる部分もあり、考えさせられます。
そんな中、弘×真生の関係性はもちろん、輝がどのように成長していくのかにも注目です。
 

ただいま、おかえり 第2話

輝と隣人の大学生・祐樹との交流。
両親以外の人々と接し慣れていない輝。
そして、人見知りな祐樹。
そんな二人が年齢を超えて、友情を育んでいく様にほっこり。
人間関係をなかなか器用にこなせず、「自分を駄目な人間だ」と思い込んでしまう祐樹。
しかし祐樹の不器用さは、純粋さの裏返しなのですが。
なんの先入観も持たない輝は、祐樹の良いところに気づく事ができる。
 
輝と祐樹を静かに見守る弘×真生も良いですね。
弘がささやかな焼きもちを焼いてしまうのはご愛敬。
あと祐樹は以前の真生に似ているようで、彼がどのような人生を送ってきたかも若干垣間見えます。
 

ただいま、おかえり 第3話

藤吉家のクリスマス。
クリスマスツリーを飾る三人。
てっぺんのお星様は輝で、その真下の一対のベルが弘×真生。
弘が幸せのあまりブルブルしちゃうのも分かるなぁ。
お星様がちょっとしたきっかけで落としてしまい、輝が泣いてしまうのも、両親を照らしてあげられなくなっちゃうからって……。
輝があまりにも思いやりのある子なので、弘ならずとも「天ッッ使…ッ!!!」と確信してしまうわ。
輝の名前の由来も良いですね。
とてもこの夫夫らしい。
 

ただいま、おかえり 第4話

発情期と風邪が被ってしまい、寝込んだ真生の代わりに、弘、祐樹、そして弘の同僚で幼馴染でもある松尾で輝の御守。
三人の男達の、いかにも慣れてない感が微笑ましい。
特に今ひとつ輝に懐かれておらず、振り回される松尾が面白い。
 
そして多彩な表情を見せてくれる輝は、今回も天使。
笑顔が可愛いのはもちろんですが、三人が苦労して作ったうどんを、ものすごく残念そうに食べている表情に噴き出してしまいました。
真生の傍にいたいけれど、一生懸命我慢する姿も健気。
 
弘は自分がΩであるという事を厄介だと感じつつも、家族を始めとした優しい人々が寄り添ってくれるからやっていけるんでしょうね。
輝に笑いかける顔があまりにも穏やかで泣けてくる。
弘も子育て等で手探り状態の部分もあるけれど、これからも家族を守っていくという誠実さと頼りがい、なにより真生と輝が大好きなんだという愛が溢れていて良いですね。
最後は真生の体調も回復して良かった。
 
三人を見ている祐樹と松尾の間になにかが芽生える予感?
そしてラスト、藤吉家の前に停まった高級車に乗る男の正体は……。
 

ただいま、おかえり 第5話

弘の父親登場。
前回で弘の実家とは没交渉だという事が明かされた藤吉家。
やはり、二人が結婚に至るまでは色々あったんですね。
弘の実家は名家のようですし。
Ωが社会的に置かれた状況については第1話から丁寧に伏線が張られていたので、この辺りのお話は大変説得力があります。
 
弘が神経質になってしまうのも分かるなぁ。
自分の愛する人を最も傷つけるのが実父だというのが余計辛い。
 

あの人は真生が嫌いなんじゃない。
オメガだからダメなんだ。
説得のしようもない。

 
これは個人的な好き嫌いよりもさらに深刻な問題。
社会通念上そうなってしまっているのを覆すのは難しい。
Ω達が虐げられてきた過去を思うと胸が痛みます。
 
それと対比するように、弘の父親を前にした真生の強さが印象的。
優しげで争いを好まない真生。
しかし、家族の為ならどこまでも強くなれるんでしょうね。
弘の父親から逃げずに、きちんと話をしたいというのも、弘を愛しているからこそ。
つくづく良い伴侶を持ちましたね、弘。
 
輝も相変わらず泣き虫だけれど、家族を守りたいという想いは両親と同じ。
弘と真生を支えてくれる「誰より心強いヒーロー」です。
 

ただいま、おかえり 第6話

再び弘達のもとを訪れた父親。
前回から気付いていましたが、一筋縄ではいかない御仁ですね。
弘がお茶を出した時の「ばしゃっ」に笑いました。
けれども、弘の父親の不器用な面も垣間見える。
彼なりに歩み寄っているようなんだけれど、どうしても弘の神経を逆なでしてしまう。
 
弘と真生の出会い。
そして、真生が妊娠した時の事も語られます。
自分を卑下して生きてきた真生が、弘の子供を授かる事によって変わる姿に感動しました。
弘と真生を「家族」にしたのは、輝の存在なんですよね。

松尾も良い奴だなぁ。
 
そして、輝によって弘の父親も変わる。
悪い事をしたと後悔しているなら、きちんと謝罪しないと。
大人達の間にあった精神的なしこりを、一気に取り払ってしまう輝の純粋さが凄い。
先入観や偏見、プライドや意地などに囚われがちな大人に、最も大切な事を教えてくれる。
弘が「敵わん…」と呟いてしまうのも分かります。
 
終盤は、祐樹や松尾を始めとした弘の同僚達を呼んで、輝のお誕生パーティー。
弘の父親は単なる爺馬鹿に進化(?)。
そしてまさかの真生第二子妊娠発覚(そんな事まで悟ってしまう輝、只者じゃない)。
弘が滂沱の涙を流していますが、彼の父親も同じ感じになりそう。
なんだかんだと言いつつ似た者親子だし。
とにかく皆が幸せで、大団円に相応しいラストでした。
 

描き下ろし・お久しぶりです、また会う日まで

弘の実家を訪れた藤吉家+祐樹&松尾。
おぉ、早速輝の妹・陽ちゃんが誕生したんですね!!
輝は弘似だけれど、ひなちゃんは真生似。
輝と合わせて、可愛さの二乗……、いや、百乗くらい?
出張先から戻れず、孫二人に会えない爺馬鹿が哀れ。
 
広い家を舞台に、かくれんぼを始めた面々。
頭隠して尻隠さずなど、幼児の生態が面白すぎ。
 
真生にとっては辛い事のあった弘の実家だけれど、それが今の幸せな生活に繋がっているからこそ懐かしく思える。
人が少しずつ集って、まるで宝物のようになるって素敵な考え方ですね。
 

『食べてもおいしくありません』(山田2丁目/リブレビーボーイコミックスデラックス)感想【ネタばれあり】

食べてもおいしくありません【電子限定かきおろし付】 (ビーボーイコミックスDX)

食べてもおいしくありません【電子限定かきおろし付】 (ビーボーイコミックスDX)

食べてもおいしくありません (ビーボーイコミックスデラックス)

食べてもおいしくありません (ビーボーイコミックスデラックス)

 
山田2丁目先生の『食べてもおいしくありません』の感想です。
世界人口の9割を占める「オニ」と、希少種になってしまった「ヒト」が繰り広げる異種族間ラブコメディ。
 

『食べてもおいしくありません』(2019年5月10日発行)

あらすじ

世界人口の9割を、頭にツノのある「オニ」が占め、今や希少種となった「ヒト」と共存する世界。
大きなツノを持ち、校内でも注目される穂高が体調を崩しているところを偶然助けた日和。
だが、それがきっかけで、日和が「ヒト」だという事が穂高にばれてしまった。
ずっと隠していた正体を知られてしまい焦る日和だったが、おまけに穂高に「おいしそうな匂いがする」と迫られてしまい……。
 

総評

「オニ」と「ヒト」が共存するという作品世界。
「オメガバースの亜種っぽいな」というのが第一印象でした。
dic.nicovideo.jp
個人的には、折角独自の設定を編み出したのにも関わらず、今ひとつ活かしきれていないのが残念だなと。
互いに「オニ」や「ヒト」である事への葛藤があるわけでもなく。
「ヒト」が自分達の正体を隠す必然性もあまりなさそう。
作中で「ヒトはオニを惑わす」と言っていますが、その事によって「ヒト」が迫害されている様子もない。
 
そもそも「ヒト」が1割しかいないという事なんですが、確かに珍しいけれど、10人に1人というのはそれほど少なくない。
たとえば日本人の血液型別の比率を見ると、AB型の占める割合が100%中のおよそ9%だそうです。
それを鑑みると、「オニ」と「ヒト」との間で、あまりにも知識の擦り合わせがなされていなさすぎではないでしょうか?
 
まあ、先生自身が「ケモミミ感覚のツノ」とおっしゃっているので、そこを掘り下げるのは野暮かもしれませんが。
ただゆるふわ設定なのは百歩譲っても、恋愛物としても、コメディとしても、エロ重視にするにしても、振り切れていない感があります。
巨ツノとか、日和の発する匂いやフェロモンにホイホイされる当て馬とか、エピソードを広げようと思えば広げられたでしょうけれど、いずれも小さくまとまってしまっている。
ボケ×ボケで、モダモダと堂々巡りしている日和と、彼に対する「好き」を自覚しきれない穂高はそれなりに可愛いんですけれどね。
逆に主人公二人にキャラ萌えできないとかなり厳しい。
 

『くそくらえ純愛』(風緒/竹書房バンブーコミックス 麗人uno!)感想【ネタばれあり】

くそくらえ純愛 (バンブーコミックス 麗人uno!)

くそくらえ純愛 (バンブーコミックス 麗人uno!)

 
風緒先生の『くそくらえ純愛』の感想です。
「同じ相手とは二度と寝ない」主義を持っていた峯谷と滝野。
しかし、彼らは単に身持ちが緩い人間ではなく、どちらも過去に拭いきれない心の傷を負っています。
そんな二人がトラウマにケリをつけ、徐々に歩み寄っていく物語です。
 

『くそくらえ純愛』(2019年2月7日発行)

あらすじ

アパレル系セレクトショップで雇われ店長をしている峯谷は、過去に失恋を経験した経緯から「同じ相手とは二度と寝ない」と心に決めていた。
しかし、偶然寝た一見チャラ男が同じ主義だったため、己が言うはずだった言葉を相手に先に告げられてしまう。
自分の事は棚上げして、頭にきてしまう峯谷だったが……。
そんなある日、峯谷の店に暴漢が現れた事件がきっかけで、件の男と意外な再会を果たす。
彼……、滝野はなんと警察官だった。
滝野が決まった恋人を作りたくない理由や、彼の実像を知るたびに、峯谷はどんどん気になっていき「俺たち、セフレになんねえ?」と申し出る。
 

総評

タイトルや表紙の勢いとは打って変わって、かなり抑圧的な物語でした。
それぞれ過去に捕らわれ、自縄自縛に陥っている二人。
そんな彼らがどのように殻を打ち破って、恋愛を成就させるのか……。
ラストは割とあっさりとした解決で賛否が別れそうですが、逆に読者が必要以上の負荷を感じず、読みやすいとも言えます。
峯谷も滝野もトラウマ持ちですが、変に「悲劇の主人公」に祀り上げていないのも良かった(特に峯谷)。
決して聖人ではない厄介な人間だからこそ、互いに素の自分を包み込んでくれる無二の相手を見つけられて本当に良かったなと。
 

くそくらえ純愛 #01

二人の出会いからセフレになるまで。
峯谷が滝野にハマっていく様が丁寧に描かれています。
 
峯谷がずっと貫いてきた主義を覆すだけあって、滝野は非常に魅力的ですね。
奇をてらった感じはありませんが、ルックスや性格も良く、床上手で、おまけに謎めいた部分や寂しげな横顔を見せられたら、峯谷ならずとも惹かれずにはいられないでしょう。
二人で初めて朝食をとった時、「こんな朝は久しぶりだと思ってな」と安らかな表情されたらたまらない。
本当に罪な男ですね。
峯谷も「ただのセフレ」、「ちゃんとうまくやれる」と自分に言い聞かせているのは、すでに手遅れの証拠。
 
峯谷も決してナヨナヨしておらず、キックボクシングが得意で、割と武闘家なところが気に入りました。
時に受けには、攻め以上に雄々しくいてもらいたい人間の私。
 

くそくらえ純愛 #02

滝野と肉体関係を継続させつつも、他の男と寝る事を止めない峯谷。
彼のトラウマの原因も明かされます。
あえて深い関係を築かないのは、自分の重たい恋情に歯止めをかけるため。
それでも滝野にお誕生日のお祝いの言葉を貰っただけで喜んでしまうのが、可愛いけれど切ない。
 
一方、滝野は自分の本質を峯谷に理解してもらえて嬉しそう。
彼もまた、峯谷と一緒にいる事に心地よさを感じているのが分かる。
 
後半では、峯谷が以前寝た男に監禁&媚薬を盛られてしまう。
「同じ相手とは二度と寝ない」主義によって、手酷いしっぺ返しを受けてしまいましたね。
峯谷のこれまでの行いを変に美化しなかったのは良かったと思います。
犯人の所業は褒められた事ではありませんが、気持ちは理解できるなぁ。
峯谷も自分がトラウマ持ちだからといって、他の人間にトラウマ植え付けてしまうのは許されない。
 
昔の恋人の事もあって、峯谷の拘束された姿を発見した滝野はショックだったでしょうね。
そして、ある種の自業自得とはいえ、滝野との別れを決断した峯谷が痛々しい。
 

くそくらえ純愛 #03

今回は前回までとは一転、滝野の峯谷に対する想いがクローズアップされています。
峯谷と連絡が取れない事に焦ったり、峯谷の店の近くを見回ってしまったり、峯谷を拉致した男への怒りを隠せなかったり。
普段は自制心溢れる男が、一人の人間の存在によって制御ができなくなっていく様にはなかなか見ごたえがあります。
たとえセフレとしてだけでも峯谷を引き留めておきたいのは、彼を愛してしまったから。
 
それでも過去を思うと、「好き」と正面切って言い出せない。
峯谷を大切に思えば思うほど、それが足枷になっていく。
彼の心の傷が如何に深いかが伝わってきます。
一方の峯谷も、彼の自分に対する想いを察しますが、このままでは八方塞がりの二人。
 

くそくらえ純愛 #04

滝野の昔の恋人登場。
彼の人物像は少し意外でした。
彼を見る滝野の視線は、恋人というよりも、手のかかる弟へ向ける兄のそれに近いですね。
今は新たな恋人を見つけて、穏やかな生活を送る彼に「滝野さんにも、ちゃんとした相手、見つけて欲しい」と背中を押される滝野。
 
片や、滝野を忘れられない峯谷でしたが……。
彼は恋心が重いというよりも、もう少し物事の後先を考えた方が良いかもしれない(笑)。
いくら滝野が好きだからとはいえ、自分から無鉄砲に危険へ突っ込んでいってしまうんだから。
これから滝野も気が気じゃありませんね。
この状況で「お前は俺が好きだから無茶をしたって解釈で間違いないか?」と言えてしまう滝野も、何気に大物ですが。
 
しかし、何はともあれ無事結ばれる二人。
滝野、これまで自分を律してきたから、一度解き放たれると押さえが効かなくなっちゃいましたね。
出会った時の濡れ場とは、目の必死さや優しさがまったく違う。
峯谷に対してベタ甘。
あとかなりの天然ちゃんと見た。
峯谷も「お前の重さなんて、どうってことないって言ったろ」となんの躊躇もなく口にしてくれる、懐の広い彼氏に巡り合えて本当に良かった。
 

くそくらえ純愛 #05

これまでの痛みや苦しみを払拭するかのような、峯谷と滝野のラブラブな生活。
私生活の充実が外面にも出て、モテモテになっていく峯谷。
元々ルックスが良い上に、纏う空気も柔らかくなって……、これはお客さんも放っておかない。
滝田による峯谷の店近辺の巡回が捗りそうな予感。
 
ペアのマグカップで浮かれてしまうのも可愛い。
この二人、物事に対する価値観や恋愛観が似ているのも良いですね。
相手によっては重荷になってしまう想いの深さも、互いにきちんと受け止められそう。
 

描き下ろし・おまけ。

第四話直後、一緒にお風呂に入る二人。
昔の男を想定して、風呂の大きな部屋を選んだという峯谷。
その事に嫉妬メラメラの滝野。
まあ、それも今の二人にとっては、恋を盛り上げるスパイスなんですけれどね。
 

『ホテル王はそれを我慢しない』(慧/KADOKAWAフルールコミックス)感想【ネタばれあり】

ホテル王はそれを我慢しない (フルールコミックス)

ホテル王はそれを我慢しない (フルールコミックス)

 
慧先生の『ホテル王はそれを我慢しない』の感想です。
ホテルマン達の恋を描いた『エリートの理性も限界だ』のスピンオフですが、こちら単体でも楽しめます。
ラスベガスのホテル王×フロントクラーク。
攻めがホテル王という事で、もっと浮世離れした物語を想像していたんですが、地に足の着いた手堅い作品になっていると思います。
 

『ホテル王はそれを我慢しない』(2019年5月17日発行)

あらすじ

ジェンムホテル東京でフロントクラークを勤める陣野健人は、あるバーでアルフ・スキナーというアメリカ人と出会う。
アルフに出会い頭から絡まれた上に、ビリヤード勝負で勝ち逃げされてしまった健人は、「次は俺が勝つ」と意気込む。
しかしアルフの正体は、なんとジェンムホテルの海外アドバイザーとして来日した、ラスベガスのホテル王だった。
おまけに何の因果か、アルフに気に入られてしまい、同じ仕事に取り組む事になった健人だったが……。
 

総評

同じくジェンムホテルを舞台にした『エリートの理性も限界だ』のスピンオフ作品。
ですが、こちら単体だけでも、内容は把握できます。
実際、私も現時点では『エリートの理性も限界だ』を未読ですが、十分楽しむ事ができました。
 
三白眼受けが気になって手に取った作品ですが、健人の気の強さや上昇志向の裏に隠された対人関係の拙さはかなりツボ。
攻めのアルフに簡単にはなびかず、強引に迫られたら腹パンや柔道技も辞さないのもポイント高い。
受けたるもの、これぐらいの気概は見せてくれないと。
仕事に対しても真摯に向き合っている。
さすがに後輩の古坂にあたってしまったのはどうかと思いますが、フォローして、自分の弱点をきちんと受け止められたのは彼にとってプラスになった。
これから先、アルフと共に歩んでいけばこれからもっと素敵なホテルマンに成長できるのではないでしょうか?
 
一方、攻めのアルフはホテル王という事で、どんな強烈キャラかと思いきや、破天荒だけれど割と気さくな兄ちゃんですね。
口が悪く、肉親へのコンプレックス持ちだが、変に歪んでいない。
有能でポジティブなのに、健人にどうアプローチして良いか分からず悩む姿にキュンとしてしまいました。
大の男が不器用で可愛い恋愛をしている。
健人の前だと幼さすら感じます。
好きな子に意地悪しながら、様子見している小学生みたい。
だからこそ、ホテル王の時の風格との対比が活きてくるのですが。
 
そんな健人とアルフが互いに感化される事で、己の欠点を見つめ、改善していく。
そして相手が自分にとってかけがえのない人間だと気づき、二人の間に恋が芽生えるという王道ストーリー。

恋人であると同時に、ビジネスパートナーとして互いを認め合っているのも良い。
贅沢を言えば、もっとお仕事シーンを拝みたかったけれど。
奇抜さはありませんが、その分安心して読める一冊です。
  

ホテル王はそれを我慢しない 第1話

アルフの、スリルを求める傍若無人な夜の顔と、「いかにもできる男」なホテル王の顔のギャップがたまりません。
そして、立場が上のアルフに態度を取り繕う事ができず、ついつい反抗的な視線を向けてしまう健人。
賭けで無理矢理キスされて、その後に腹パンで報復するのが良い。
個人的はここでナヨってしまうような受けは苦手なので……、受けはこれぐらい強きじゃないと手応えがない。
おそらくアルフも、健人のそういう部分を気に入ったのではないでしょうか?
現段階では物珍しい玩具扱いですが……。
健人もとんでもないのを引っかけてしまいましたね。
 

ホテル王はそれを我慢しない 第2話

アルフの友人で、これまた香港のホテル王のルオ・ウォン来日。
ちょっとこの辺り、ホテル王密度高すぎない!?
 
ついつい流れで、ルオと共にアルフの部屋(マンションのワンフロア貸し切り)に来てしまった健人。
アルフと働く事になって、同僚からさらなるやっかみを受けてしまい苛立ちを隠せません。
しかし、ここでアルフが直球のド正論。
両方にプラスになるような関係を築いて良い仕事をするというのは、他者の陰口を気にするよりもよほど建設的。
こういう考え方、好きだなぁ。
あと確かに媚びは売られてませんね、ケンカなら売られたけれど(笑)。
健人もアルフの言葉に感銘を受けて見直す。
一方、アルフも単に順風満帆なお坊ちゃんではなく色々抱えているようですが、健人から嬉しい言葉を貰い、余計彼の事を気に入ってしまう。
 
健人にグイグイ迫るアルフでしたが、ホント歯に衣着せぬというか……、ぶっちゃけこれ、健人じゃなくても怒るわ……。
健人も柔道技をかけたりと、易々とマウントを取らせないけれど(凄まじい濡れ場(?))、結局イかされてしまい、怒りが収まらない。
片やアルフはそんな健人が面白くて仕方ないという……、健人にとっては、ある意味悪循環なのでした。
 

ホテル王はそれを我慢しない 第3話

二人の、人としての課題が見えてくる回。
昨日のアルフとのアレコレもあり、一層イライラが増していく健人。
だが、後輩にあたるのは宜しくありませんね。
表と裏を上手く使い分けているつもりでも、必要以上にストレスをためるのは無理している証拠。
 
アルフはアルフで、傲岸不遜な言動の下に不器用な素顔を隠している。
つーか、ルオに対して「健人の事を好きになった」と言うのは許せるとして、ヌいた話、それ必要!?(笑)
口説き文句も……、これは健人に「遊んでいるだけ」と思われても仕方がない。
「賭け」、「賭け」言っているのも、父親や出来の良い兄と比べて、「運」しか誇れるものがないからなんですけれどね。
個人として評価してもらった事のないアルフにとって、素の自分を見つめ、ぶつかってくる健人は貴重な存在。
惚れてしまうのも分かります。
 

ホテル王はそれを我慢しない 第4話

肉親へのコンプレックスに苦しみつつも、健人を手に入れる事を諦めず、基本ポジティブなアルフは見ていて気持ちが良い。
一方、健人もアルフのおかげで、人間関係が良い方向へ向かう。
そして、ルオが一芝居打ってくれたおかげで、アルフへの想いも自覚し始める。
ちなみにルオはバイで、男同士の場合は受けなんですね。
それはそれで見てみたい。
 
今まで仏頂面や怒りの表情がほとんどだった健人ですが、今回は笑顔やテレ顔など、様々な表情を大盤振る舞いでした。
酔っぱらってアルフにキスした時のしてやったりな顔や、告白の台詞「好き…かもな!」の余裕のなさも好き。
「かも」が余計かもしれませんが、彼の素直になり切れない性格が表れている。
反面、体はとても素直ですけれどね(笑)。
結ばれた翌朝、足腰立たなくなって「べちゃ」っとなっちゃう姿が可愛い。
ホテル王はソッチ方面も我慢しませんね。
この二人、無事両想いになれましたが、これからも波瀾万丈そうな予感がするので是非続編希望です。

描き下ろし・AFTER STORY

健人の同僚で『エリートの理性も限界だ』の受け・二上保貴が登場。
ちなみに攻めの河南も第3話に出ています。
 
お付き合いは始めたものの、まだまだ互いの事をあまり知らない二人。
牛丼屋って意外と庶民的だなぁ、片方はホテル王なのに。
しかし、そこが良い。
 
食事の後はもちろん(?)アルフの部屋へ連行される健人。
行為に慣れない初々しさが返ってエロス。
健人に「かも」が付いてない「好き」を未だ言ってもらえないアルフも可愛い。

『交渉人は疑わない』(榎田尤利/大洋図書SHY NOVELS)感想【ネタばれあり】

交渉人は疑わない 【イラスト付】 交渉人シリーズ (SHY NOVELS)

交渉人は疑わない 【イラスト付】 交渉人シリーズ (SHY NOVELS)

交渉人は疑わない (SHYノベルズ)

交渉人は疑わない (SHYノベルズ)

 
榎田尤利先生の『交渉人は疑わない』の感想です。
こちらはシリーズ第二弾なので、未読の方はまず↓から。
kashiwamochi12345.hatenablog.com
相変わらず口八丁と度胸でトラブルを乗り越えていく芽吹の生き様が痛快。
そして今回、芽吹は兵頭が過去に逮捕された経緯を知る事になります。
際どいながらも、今まで一線超えなかった二人の関係に変化も。
 

『交渉人は疑わない』(2008年10月30日発行)

あらすじ

溝呂木功という売れっ子ホストから依頼を受けた芽吹。
溝呂木は結婚妄想を抱くストーカーまがいの客・氏家織羽に付きまとわれていた。
別の女性との結婚を控えている溝呂木は、織羽を説得してほしいと言う。
ところが、芽吹が事前調査を行ううちに見えてきた、一見人当たりの良い溝呂木の別の顔。
しかも彼の行動の裏は、意外な人物の企みが隠されていた。
おまけに、溝呂木の亡き兄が兵頭の兄貴分だったため、芽吹は兵頭が以前逮捕された理由を知ってしまい……。
 

感想

前巻と同じく、つかみから引き込まれる。
悪辣なホストに入れ込んで、消費者金融にまで手を出してしまった女性を説得するため、新人ホストとしてホストクラブに潜り込んだ芽吹。
あの芽吹がホストというだけで面白いんですが、そこへ兵頭やアヤカも加わり、笑いがどんどん重層化していく。
にわか法律相談所に始まり、「アッキー」呼び、とうが立った新人ホスト(実年齢32歳なのに25歳はさすがに……)、ホストクラブにも関わらず男性の太客など、ネタは尽きない。
芽吹と兵頭のやり取りは、もはや良質なコントの域。
 
そして本編。
溝呂木の依頼を受けた事により、騒動の渦中に巻き込まれていく芽吹。
おまけに溝呂木は兵頭と因縁の間柄であった事が発覚し、物語は意外な方向へ転がっていく。
前回、兵頭に半殺しにされた鵜沢が絡んでくるとは思いませんでしたが……、懲りない男ですね。
 
ボーイズラブ物としては登場人物も多いし、凡百の作家だと煩雑になってしまう事もしばしばだが、本作の場合、読者は流されるようにスルスルと読めてしまう。
この辺り、榎田先生はさすがというか、起承転結など構成の基礎をしっかり押さえているため、きちんと統制が取れている。
キャラクター同士の賑々しいやり取りを随所に散りばめられつつも、物語の流れがブレる事もない。
また、芽吹の信念であると同時に、本作の肝である「自分が後悔しないために、相手を信じ抜く」というテーマ性も貫かれているのも大きい。
それが芽吹の仕事のみならず、兵頭との関係にも重なってくるのが上手い。
 
また今回は、芽吹と兵頭がやっと一線超えるという大事件が起きました。
大変エロスだったのはもちろんなんですが、どことなくユーモラスなのが、とても彼ららしい。
芽吹が変にナヨナヨしてないのが、何気に一番嬉しかったです。
肉体的には受け入れる側でも、彼は立派に一本立ちした男ですから。
兵頭は念願叶って、芽吹と結ばれて良かったですね。
兵頭は芽吹以上にロマンチストだし。
「交換条件で一線超える約束をしても、気持ちが伴っていなければ意味がない」という点に、芽吹への深い愛を感じました。
事後の姿も、ちょっとお間抜けだけれど可愛かった。
組を率いる若頭として、部下にはとても見せられない姿ですが、芽吹の前だからこそ、リラックスして素の自分を晒せるんでしょうね。
 
キャラクター各自に目を向けてみると、芽吹は今回も魅せてくれました。
硬軟取り混ぜたバランスが絶妙。
土下座ぐらいで傷つくような安いプライドを持っていないところがカッコイイ。
溝呂木を連れて行かせない為、手錠をはめてしまったのには笑いましたが……、頭がいいくせに抜けているというか……。
 
決して善人とは言えない、しかも自分を陥れようとした溝呂木を、それでも信じようと決めた芽吹。
いくら彼が変わる片鱗が見えたからとはいえ、これは常人にはできない。
兵頭やキヨの反応の方が普通です。
しかし、芽吹は一本筋を通してしまう。
兵頭が言うように、確かに「驕り」と取られても不思議ではない。
だが芽吹は「自分が後悔しない為」と揺るがない。
両親の自殺により感じたような、取り返しのつかない後悔は二度と御免だというのもあるでしょうが、根底には彼の人としての温かさが溢れている。
そして実際、溝呂木を助けてしまう。
さゆりさんが終章で述べている通り、芽吹は万人を救えるような英雄ではないけれど、それでも自分を頼ってくる依頼人達に寄り添いたいという気持ちに嘘はなく。
だからこそ、人々は彼のもとに集ってくる。
 
そんな芽吹ですが、今回は兵頭との関係にあらためて葛藤していました。
ヤクザや暴力は認められないけれど、兵頭という一己の人間にはどんどん惹かれていく。
しかも兵頭が以前殺人罪で収監されていたのも重なって……、どこで二人の関係に折り合いをつけるか……。
そこで兵頭のボディーガードである伯田さんがナイスアシスト。
一度腹を括ってしまえば動じない芽吹が非常に男らしい。
ラストでは見事兵頭の真意を代弁して、「周防組の若頭」ではなく「兵頭寿悦」という一人の男をしっかり支えている。
 

「俺はあいつが好きだから、そんなことはできないんですよ」

 
これは芽吹から無意識にサラッと出た台詞なんですが、それゆえに彼の偽らざる本音。
芽吹も心底から兵頭を愛し始めているのが伝わってきてジーンと来ます。
 
一方、相手の兵頭ですが。
スマートだけれど、この上もなく不器用な男。
人一倍愛情深いくせに、その表し方を知らない。

彼がある人の罪をかぶって自首した理由も切ない。
家族のように慕っていた相手に直接会えなくとも、影ながら手を差し伸べているのも……、ホントイイ男だな、兵頭。
そんな彼の気持ちを察する事のできる、芽吹のような存在がいてくれて本当に良かった。
 
あと極上の男なんですが、決まり切らないのも彼の魅力。
後先考えずに溝呂木と手錠で繋がった芽吹に、お仕置きでいたずらを仕掛けたものの、木乃伊取りが木乃伊になっちゃっているのには笑ってしまいました。
溝呂木は作中かなりやらかしていますが、ここで兵頭に怒られるのは理不尽(笑)。
至近距離で芽吹の色っぽい声を聴かされたら、そりゃあ、欲情するなというのが無理な話でしょう。
 
脇役ではキヨと智紀にカップル成立の気配。
長身でぼんやりとしている攻めに、小さい(禁句)受けがギャンギャン噛みついている様子が可愛い。
そして芽吹の司法修習時代の友人・七五三野。
出番はそう多くありませんが、芽吹への過保護っぷりが凄まじい。
無論、それを見て、兵頭が黙っているわけもなく。
共に芽吹に執着しつつも、正反対の男達の大人げない舌戦にもニヤニヤが止まりませんでした。
 

『僕のおまわりさん(2)』(にやま/竹書房バンブーコミックスmoment)感想【ネタばれあり】

僕のおまわりさん 2 (バンブーコミックス moment)

僕のおまわりさん 2 (バンブーコミックス moment)

 
にやま先生の『僕のおまわりさん(2)』の感想です。
両想いになってから季節は巡り、とうとう同棲生活を始めた誠治と晋。
前巻よりもさらにラブ度がアップ。
誠治の友人で『無邪気なわんこと猫かぶり』で主役を務めた赤坂×八木もたくさん登場し、晋×誠治を盛り立ててくれます。
kashiwamochi12345.hatenablog.com
 

『僕のおまわりさん(2)』(2019年4月30日発行)

あらすじ

晋の10年越しの片思いが実り、お付き合いを始めた誠治と晋。
季節は移り変わり、誠治の自宅で同棲生活を開始する。
長年思い続けた人を手に入れて、晋は幸せいっぱい。
しかし誠治は、色恋沙汰から長年離れていた自分では、晋を満足させられないのではないかと悩んでしまい……。
 

総評

大事件が起きるわけでも、捻った物語が展開するわけでもありませんが、晋×誠治が終始ラブラブで癒される一冊。
読者は深く考える必要はなく、二人のラブラブに浸っていればすべて良し。
エロもさらに充実していて、一話に付き1回はサービスシーンがあるという親切設計(?)。
 
とにかく晋ちゃんの性欲が凄い。
片想いしていた10年以上分を取り返しているような勢い。
一方、誠治は事後に干からびているのが……(笑)。
晋ちゃん、四十路の恋人にはもうちょっと手加減してあげないと(無理か)。
 
そんな誠治ですが、今回は晋への気持ちが以前よりも一層高まっているのを感じました。
今までは晋→誠治がクローズアップされてきた本作ですが、普段は飄々とした誠治が晋の事で悩んだり、晋に身も心も染め上げられてしまっている様は新鮮。
「晋ちゃん、長年の想いが報われて本当に良かったね!」としか言いようがない。
 
既に両親を亡くして天涯孤独な誠治と、幼少時に恵まれているとは言えない家庭生活を送ってきた晋。
同棲する事により、これから二人(+チコたん)で共に生きるという方向性を見つけていく。
その過程に、心がぽかぽかと温まりました。
 

僕のおまわりさん 第1話

嬉し恥ずかし同棲生活スタート。
晋の脳内がお花畑。
合鍵、「ただいま」の練習、風呂上がりでホカホカの恋人と、定番ネタだけれどツボを押さえてくる。
チコたんに「さん」付けしているのも可愛い。
田島家では彼女の方が先輩ですからね。
 
片や誠治は、珍しくお悩み中。
どう考えても杞憂なんですが……、オカン、上等じゃないですか。
元々晋は誠治の面倒見の良さに惹かれた部分も多大にあるし。
それでも不安になってしまうのは、誠治が晋を大切に思っている事の証ですが。
 
誠治が一緒にいてくれるだけで「奇跡」と思える晋が素敵。
その気持ちを、いつまでも忘れずにいてほしい。
誠治に対する、わがままにもならない、ささやかなリクエストも良い。
確かに誠治からのキスは今までありませんでしたね。
大体晋の方が我慢できなくてガンガン行ってしまうから。
 
ラブラブHの後の賢者タイム。
だが晋の頭の中は爛れまくり。
これ、賢者タイムとは少し違うような……。
「毎日イチャイチャし放題」って、毎日ヤる気!?
 
だがそうは問屋が卸さなかった。
一転、晋ちゃん試練の時。
これだけ燃え上がっているのに、誠治の大腸検査の為に半月のおあずけは確かにキツイ(笑)。
 

僕のおまわりさん 第2話

二人が自分達の関係を見つめ直す話。
赤坂×八木もナイスアシスト。
これから一緒に生活していくうえで、互いの意見をすり合わせていくのは大切。
ちょっとした行き違いも、放置しておくと致命傷になりかねないから。
どちらかが一方的に我慢するのは違う。
その事に、この二人らしく向き合います。
人間関係において普遍のテーマですが、必要以上にシリアスになり過ぎない、その匙加減がちょうど良い。
 
H解禁の幸せに浸り過ぎて、真顔(「前科何犯!?」という感じの凶悪面)になる晋。
大腸検査をした医師の鋭い指摘(ソコを使い込んでるかまでわかっちゃうのね)。
ネコのおっさん達の微妙な恋愛談義。
祝・初ドライと、今回も見どころがいっぱい。
誠治、すでに晋に身も心も染め上がられちゃってるんだなとニヤニヤが止まりませんでした。
 

僕のおまわりさん 第3話

一泊二日の温泉旅行へ行く二人。
赤坂×八木も参戦。
まず四人が宿泊する旅館の名前にクスッとなりました。
「菊門」って……、ボーイズラブ勢御用達しですか?
 
作中でも言われていますが、今回は賑やかな修学旅行といった趣き。
4人で一緒に新幹線の中で雑談したり、自然の中を散策したり、一緒に温泉に入ったり。
元気な年少組と比較して、バテバテの四十路ーズがオカシイ。
なんだかんだ言いつつも仲良しですよね、この二人。
八木が孤独だった誠治の事を気遣って、「…仲本くんが来てくれて良かった」としみじみ呟くのにも、二人の友情が感じられる。
面映いから、正面切ってそれを示す事はないだろうけれど。
 
あと客観的に見ると、晋ってかなりスパダリ要素を兼ね備えてるんだな。
ルックスも良いし爽やか。
仕事に向き合う姿勢も格好いいし。
誠治と二人きりの時は、あまりにガツガツしているので気づきにくかったですが。
あと晋・ゴ〇ラに続く二つ名・巨晋兵にも爆笑。
晋ちゃんの名前、汎用性(?)高すぎ。
 
そして、今回の旅行は晋の誕生日と重なった事もあり、夜はおじさん頑張りました。
精一杯の誘惑&フェラ&誕生日カードと見紛うゴムのコンボ。
晋にとっては最高のプレゼント。
ゴムの空き袋も、取っておく気満々なのが可愛い。
 
これは晋も張り切らざるを得ない。
おかげで誠治は大変な目に……。
翌朝の二人の落差。
夜に何ヤッてたか一目瞭然。
まったくそういう発想に至らない赤坂のピュアさが眩しいです。
 
ラストは再び新幹線で帰路につく二人。
両親を亡くした誠治と、幼い時に親の離婚を経験した晋。
そんな二人の「隣にいる人とこれから一緒に生きていく」という想いが感じられて、読者である私の心もほっこりとなりました。
 

僕のおまわりさん 第4話

風邪を引いてしまった事と、なんと店に空き巣が入った事が重なり、晋という「家族」がいてくれる幸福をあらためて噛みしめる誠治のお話。
大切なものを手に入れて、誠治は初めて今までの己の孤独を知ったんでしょうね。
 
病気の自分を気遣ってくれる言葉。
自分のために用意されたおにぎりとスープ。
惜しみなく降り注ぐ愛情。
温かいんだけれど、同時に胸を締め付けられる。
前回の八木ではありませんが、誠治の側に晋が来てくれて本当に良かった。
 
あと今回のMVPはチコたんと牧。
チコたん、番犬ならぬ番猫。
牧は「デキてるんだろう」と二人の事を揶揄いつつ、本当に付き合っていると知ったら無茶苦茶驚きそう。
 

僕のおまわりさん 第5話

二人の年越し。
晋の見た夢が斬新。
第2話以降、何気に晋から餅認定されている誠治。
というか、誠治のゆるキャラ化が著しいような……、気のせい?
誠治が餅の妖精でも躊躇なく愛せる晋の懐が深すぎ。
いや、むしろ誠治のぽよんぽよんな腹肉大好きですよね、晋は。
「幸せ太り」を諫めるでもなく、返って「俺といるのを幸せと思ってくれてる?」とハッピーになってしまうし……。
 
Hシーンは、その「幸せ太り」な誠治を風呂場&駅弁で頂いてしまうという……、晋ちゃん、飽くなき探究者。
体格差があるとはいえ、凄まじい怪力。
さすが晋・ゴ〇ラで巨晋兵。
足場の悪い風呂場で、個人的には萌えつつもヒヤヒヤしてしまったのは秘密です。
 
終盤では、急遽仕事に出なければいけなくなってしまった晋。
警察官、やはりハードな職業ですね。
でも最終的には、誠治が来てくれて、おまけにこれからの将来の約束を貰えて幸せ。
晋の最も欲しい言葉を易々とくれる誠治の笑顔。
このシーンの、あまりにも幸せ過ぎて、眉間に力を込めて泣きそうな眼をしている晋にもグッとくる。

 
年明けと共に口付ける二人。
これからも末永くお幸せに。
 

描き下ろし

第一巻描き下ろしと対になっている感じ。
前回は誠治がおまわりさんの制服を着用していたので、今回は晋の番。
制服姿の晋は凛々しくてカッコいい。
しかし、頭の中はいつも通り誠治くんとのスケベでいっぱい。
つーか、この回、ほぼ晋の妄想だったんかい!!(爆笑)
願望駄々洩れ。
前回は「別にコスプレが好きなわけじゃない」みたいな事を宣っていましたが、絶対大好きだよね。
晋の妄想上の誠治の台詞「制服だとイケない気分になるな」に、晋のコスプレ好きが凝縮しているような気がします。
最終的には、誠治となら何でもオーケーなんだろうけれど。