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『無邪気なわんこと猫かぶり』(にやま/竹書房バンブーコミックスmoment)感想【ネタばれあり】

無邪気なわんこと猫かぶり【完全版(電子限定描き下ろし付)】 (moment)

無邪気なわんこと猫かぶり【完全版(電子限定描き下ろし付)】 (moment)

無邪気なわんこと猫かぶり (バンブーコミックス moment)

無邪気なわんこと猫かぶり (バンブーコミックス moment)

 
にやま先生の『無邪気なわんこと猫かぶり』の感想です。
素直で飾らないわんこ系攻めと、好きな人の前で理想を演じ続けて疲れてしまったアラフォー受けによるラブコメディ。
変に奇をてらわず、25歳×39歳の可愛い恋を楽しめます。
随所に散りばめられた笑いや、受けである八木の友人・誠治の存在が、二人の恋愛に花を添えてくれる。
 

『無邪気なわんこと猫かぶり』(2016年4月30日発行)

あらすじ

悪友・田島誠治の半ば無理矢理な誘いで、街コンに参加する事になってしまった八木尚人。
彼はそこで14歳年下の赤坂徹と出会う。
他者との関係でついつい猫をかぶってしまう臆病な自分と違い、屈託なく誰からも愛されるような赤坂に苛立ちを覚える八木。
だが彼の内心とは裏腹に、なぜか赤坂には懐かれてしまう。
連絡先も知らせず、これで会う事もないだろうとホッとしたのもつかの間、八木は仕事先で赤坂と再会してしまう。
なんと赤坂は、八木が営業担当を務める工場の工員だった。
しかも火事でアパートにいられなくなった赤坂と、ひょんなきっかけから家に住まわせることになってしまい……。
 

総評

恋や人間関係に悩める39歳係長(後に課長)が最高にキュートな一冊(女性的という意味ではない)。
彼のようなウジウジしてしまうタイプがブレイクスルーをするには、やはり赤坂のようなあっけらかんとした人間が必要なんだな。
これで赤坂が狂犬化したり、八木が赤坂へのコンプレックスを下手にこじらせてしまうと面倒くさいんですが(それはそれで読み手としては面白いですが)、本作の場合は上手く抑制が効いていて、成人男性同士の可愛い恋愛や、キャラの紡ぎ出す笑いに安心して浸る事ができる。
 
また八木の友人である誠治もイイ味を出している。
コメディ面を受け持ったり、二人の心の核心を突いたりと、まさにキューピットとして大活躍な彼ですが、本作のスピンオフである『僕のおまわりさん』では主人公を務めています。
ちなみにその作品には赤坂とはまた違ったタイプのわんこ系攻めが登場。
つくづくおっさん受け好きにとって居心地の良い世界。
 
kashiwamochi12345.hatenablog.com
 

無邪気なわんこと猫かぶり 第1話

八木と赤坂との出会いから同居開始まで。
終始引き気味の八木に対して、赤坂が押せ押せムードですが、それでも彼から嫌な感じを受けないのは、根底に優しさがあるからなんでしょうね。
本書のタイトルの通り、無邪気なんだけれど、決して愚かではない。
本人は意識していないだろうけれど、現代社会において彼のようにシンプルに生きる事が如何に難しいか……。
電子書籍限定のおまけを見た限りでも、家族に大切にされて育った事もうかがえる。
勤め先の社長さんが、息子や孫のように可愛がってしまうのも分かる。
一方、八木も赤坂に苦手意識を持ちながら、彼の素直さについついほだされてしまう。
一見人当たりが良いのに、実は人間関係に不器用なアラフォーの厄介さに焦点を当てながらも、随所に仕込まれたネタでクスリとさせてくれる。
つかみは万全な初回でした。
 

無邪気なわんこと猫かぶり 第2話

ワチャワチャしつつも、楽しそうな同居生活から始まる第2話。
もはや赤坂が超人懐っこい大型犬に見えてならない。
プリンに執着するアラフォーも可愛いです。

八木の家の居心地が良すぎて、ついつい新しい部屋探しが滞ってしまう赤坂。
 
そんなある日、男性同士の恋愛をテーマにした映画(『愛の風来坊』って凄いタイトル(笑))や泥酔して素直になった八木の仕草に悶々としてしまった赤坂は、八木をソファへ押し倒してしまう。
このシーンの八木のエロ可愛さと言ったら……(鼻血)。
赤坂に抱く方か抱かれる方か聞かれて、「どっちだろうね。…教えない」って……、それ、おあずけされたわんこに率先して「よし!」と言ってるようなもの。
罪深いですね、この39歳。
そりゃあ、赤坂も若いし、素直だから滾ってしまう。
このシーンの赤坂の脳内には思わず笑ってしまいましたが……、なんで攻め=ヒゲ!?(『愛の風来坊』の影響か?)
片や、アルコールで虚飾がはがれて、寂しさを素直に露呈してしまう八木。
イヌ科の赤坂は、いよいよ放っておけないでしょうね。
 

無邪気なわんこと猫かぶり 第3話

前夜の件がきっかけで、それぞれが自分の気持ちに気づき始める回。
八木はもちろん赤坂との間に予防線を引くが、「空気は読むものじゃない。吸うものです」とばかりに、またまたワンコのようにじゃれつく赤坂。
成り行きで買い物デートみたいになったが、赤坂のちょっとした一言に寂しさを覚える……、あぁ、切ない。
そこで現れたのが二人のキューピット・誠治。
焼肉おごってくれた上に(八木と赤坂、容赦なく食べ過ぎ(笑)。この辺り、お似合いの二人だと思った)、八木と赤坂にイイ感じに発破をかけてくれる。
超テキトーだけれど、人の心の機微を見通す鋭い観察眼。
なんだかんだ言いつつも、孤独に生きる八木が、友達として心配なんでしょうね。
 
日は変わって……。
ソファで転寝する赤坂を見つめる八木。
一度にぎやかで楽しい生活を味わってしまったら、それをなくすのを恐れてしまうのは、極めて真っ当な感情。
 

「僕は君が好きなのかな」
(中略)
「…君の理想のタイプは…?」

 
ここの八木の横顔が超色っぽい。
赤坂の前では理想を演じる必要はないと思うんだけれど。
なかなか一歩を踏み出せないジレジレ感がたまらん。
 

無邪気なわんこと猫かぶり 第4話

八木の「僕は君が好きなのかな」という言葉を、実は眠ったふりをして聞いてしまった赤坂。
前回、八木への気持ちを自覚したものだから、こうと決めたら一直線な彼は有頂天。
片や、八木はただ「好き」という感情だけで、突っ走れるようなタイプではないし、今までの人間関係における挫折感もあるから。
己の赤坂への恋情をマイナスにしか取れない。
この辺り、同じセリフ一つに対しても、八木と赤坂が感じた想いが真逆で、二人のキャラの違いが如実に出ている。
対比の妙ですね。
 
なぜか自分から離れていこうとする八木に、天真爛漫な赤坂もさすがに沈み込む。
おまけに八木が女性と楽しそうにしているのも目撃してしまったし……。
しかし、赤坂はそこで諦めなかったのがエライ。
超ピュアで不器用な告白の言葉を八木に贈る。
ここで街コンでの八木のイライラに、赤坂が気づいていたのは地味にビックリしましたが(単純かもしれないけれど、やはりバカではないんですよね)。
「鶏が先か?卵が先か?」みたいな混乱には噴き出しましたが……いや、二人が幸せならどっちでもいいですやん。
人間関係や自分を偽る事に疲れた八木も、これには癒されたでしょう。
 

君なら理想の僕じゃなくても好きでいてくれる…ってこと?

 
八木の笑顔がとてつもなく可愛かった。
赤坂がぶわっとなるのも分かります。
降っていた雨が止んで、雲間から光が射す演出も、ベタですが良い。
晴れて両想いになり、抱きしめ合う二人。
そして……。
 

おっさんとキスやセックスができんのかってことだよ。

 
突如出てきた誠治の顔の劇画っぷりにくっそ笑いました。
えっ、今までのこっぱずかしい告白劇、よりによって友達んちの目の前で繰り広げてたって事!?
これ、絶対生涯からかわれ続ける案件じゃん。
誠治の言っている事もえげつないよね。
まあ、行きつく先は結局そこなんだけれどさ。
 
じゃあできる事を直ちに証明しましょうとばかりに、早速自宅で愛し合う八木と赤坂。
いや、こんなアラフォーなら余裕で抱けるだろう(即答)。
エロさと健気さが絶妙なハーモニーで、とろけるほど美味しゅうございました(なぜか食レポ調)。
ラストで田島に報告しようとする赤坂もブレませんね。
いや、報告される方も困るでしょう。
誠治、ペッて感じで渋柿でも食ったような顔しそう(ヤツの事だから逆に面白がって、八木に対してセクハラまがいの話を振りまくるかもしれないが)。
 

無邪気なわんこと猫かぶり 第5話

八木と赤坂が付き合い始めて一か月。
他者に対して自分達の関係を誤魔化さない赤坂は、怖いもの知らずなんだけれど愛情に溢れていて、八木も幸せそう。
そして蜜月だから、もちろんヤる事ヤりまくり。
八木さん、「平日はだめ」ってそんな殺生な……、でも赤坂につぶらな瞳で懇願されれば結局断れない。
「い、1回だけなら」って、もうこのわんこに「待て!」を教えるのは無駄っぽい。
しつけは最初が肝心だから!!
 
そうこうしている内に、工場勤務の赤坂は夜勤シフトに入ってしまう。
そうなると昼夜が逆転し、二人の生活はすれ違いの連続。
互いが恋しくてたまらない二人の様子やメールのやり取りにニヤニヤ。
特に「しばらくしません」と言ってしまった手前、おくびにも出せませんが、八木が自分の体の熱を持て余してムラムラしてしまうのがね……、ムフフ。
ちょっと前まで「一人が楽」なんて言っていたのに、本当に恋って人を変えますね。
 
やっと夜勤も明け、お疲れモードで帰ってきた赤坂。
彼のキーホルダーが地味にヤギな事に地味に萌えました。
八木さんの名前とかけてるんですよね、可愛すぎる。
まあ、家で待っていてくれた彼の恋人はもっと可愛いんですけれどね。
誘いたくても「みっともないんじゃないか?」と尻込みしてしまうの、ホントどうしてくれようかと思うくらいキュート。
とりあえず「おっさん、カワイイよ!!」と100回くらい心の中で唱えた。
そして、そんな八木を察しの良い赤坂が受け止めてあげるのがね、本当にバランスの良いカップルだなと。
 
ここからの八木さんが本当にエッロ!!
フェラに騎乗位と、吹っ切れたアラフォーの本気を見た。
いや~、エロい年上受け、最高だな!!
これで恥じらいも完備しているとか隙がなさすぎる。
ちょっと前まで「一人が楽」なんて(以下省略)。
一方、攻めの赤坂は夜勤が祟ったとはいえ、イった途端お休み三秒……、せめて抜いてあげなよ(笑)。
 

描き下ろし・おまけ

誠治の家で鍋パーティーした事がきっかけで、二人はこたつを購入する事に……。
こたつで色々したいのを一切取り繕わない赤坂はさすが。
やはり天然は最強だな。
八木も赤坂の影響か、人前でいちゃつく事に抵抗がなくなってきているような気がする。
それを「チッ」という感じで眺めている誠治(まあ、もうすぐあなたにも素敵な彼氏ができるから)。
にやま先生の描く会話はテンポが良く、いくら読んでも飽きない。
惜しむらくは、こたつHが1コマで終わってしまった事。
正直、もっと見たかった。