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『くそくらえ純愛』(風緒/竹書房バンブーコミックス 麗人uno!)感想【ネタばれあり】

くそくらえ純愛 (バンブーコミックス 麗人uno!)

くそくらえ純愛 (バンブーコミックス 麗人uno!)

 
風緒先生の『くそくらえ純愛』の感想です。
「同じ相手とは二度と寝ない」主義を持っていた峯谷と滝野。
しかし、彼らは単に身持ちが緩い人間ではなく、どちらも過去に拭いきれない心の傷を負っています。
そんな二人がトラウマにケリをつけ、徐々に歩み寄っていく物語です。
 

『くそくらえ純愛』(2019年2月7日発行)

あらすじ

アパレル系セレクトショップで雇われ店長をしている峯谷は、過去に失恋を経験した経緯から「同じ相手とは二度と寝ない」と心に決めていた。
しかし、偶然寝た一見チャラ男が同じ主義だったため、己が言うはずだった言葉を相手に先に告げられてしまう。
自分の事は棚上げして、頭にきてしまう峯谷だったが……。
そんなある日、峯谷の店に暴漢が現れた事件がきっかけで、件の男と意外な再会を果たす。
彼……、滝野はなんと警察官だった。
滝野が決まった恋人を作りたくない理由や、彼の実像を知るたびに、峯谷はどんどん気になっていき「俺たち、セフレになんねえ?」と申し出る。
 

総評

タイトルや表紙の勢いとは打って変わって、かなり抑圧的な物語でした。
それぞれ過去に捕らわれ、自縄自縛に陥っている二人。
そんな彼らがどのように殻を打ち破って、恋愛を成就させるのか……。
ラストは割とあっさりとした解決で賛否が別れそうですが、逆に読者が必要以上の負荷を感じず、読みやすいとも言えます。
峯谷も滝野もトラウマ持ちですが、変に「悲劇の主人公」に祀り上げていないのも良かった(特に峯谷)。
決して聖人ではない厄介な人間だからこそ、互いに素の自分を包み込んでくれる無二の相手を見つけられて本当に良かったなと。
 

くそくらえ純愛 #01

二人の出会いからセフレになるまで。
峯谷が滝野にハマっていく様が丁寧に描かれています。
 
峯谷がずっと貫いてきた主義を覆すだけあって、滝野は非常に魅力的ですね。
奇をてらった感じはありませんが、ルックスや性格も良く、床上手で、おまけに謎めいた部分や寂しげな横顔を見せられたら、峯谷ならずとも惹かれずにはいられないでしょう。
二人で初めて朝食をとった時、「こんな朝は久しぶりだと思ってな」と安らかな表情されたらたまらない。
本当に罪な男ですね。
峯谷も「ただのセフレ」、「ちゃんとうまくやれる」と自分に言い聞かせているのは、すでに手遅れの証拠。
 
峯谷も決してナヨナヨしておらず、キックボクシングが得意で、割と武闘家なところが気に入りました。
時に受けには、攻め以上に雄々しくいてもらいたい人間の私。
 

くそくらえ純愛 #02

滝野と肉体関係を継続させつつも、他の男と寝る事を止めない峯谷。
彼のトラウマの原因も明かされます。
あえて深い関係を築かないのは、自分の重たい恋情に歯止めをかけるため。
それでも滝野にお誕生日のお祝いの言葉を貰っただけで喜んでしまうのが、可愛いけれど切ない。
 
一方、滝野は自分の本質を峯谷に理解してもらえて嬉しそう。
彼もまた、峯谷と一緒にいる事に心地よさを感じているのが分かる。
 
後半では、峯谷が以前寝た男に監禁&媚薬を盛られてしまう。
「同じ相手とは二度と寝ない」主義によって、手酷いしっぺ返しを受けてしまいましたね。
峯谷のこれまでの行いを変に美化しなかったのは良かったと思います。
犯人の所業は褒められた事ではありませんが、気持ちは理解できるなぁ。
峯谷も自分がトラウマ持ちだからといって、他の人間にトラウマ植え付けてしまうのは許されない。
 
昔の恋人の事もあって、峯谷の拘束された姿を発見した滝野はショックだったでしょうね。
そして、ある種の自業自得とはいえ、滝野との別れを決断した峯谷が痛々しい。
 

くそくらえ純愛 #03

今回は前回までとは一転、滝野の峯谷に対する想いがクローズアップされています。
峯谷と連絡が取れない事に焦ったり、峯谷の店の近くを見回ってしまったり、峯谷を拉致した男への怒りを隠せなかったり。
普段は自制心溢れる男が、一人の人間の存在によって制御ができなくなっていく様にはなかなか見ごたえがあります。
たとえセフレとしてだけでも峯谷を引き留めておきたいのは、彼を愛してしまったから。
 
それでも過去を思うと、「好き」と正面切って言い出せない。
峯谷を大切に思えば思うほど、それが足枷になっていく。
彼の心の傷が如何に深いかが伝わってきます。
一方の峯谷も、彼の自分に対する想いを察しますが、このままでは八方塞がりの二人。
 

くそくらえ純愛 #04

滝野の昔の恋人登場。
彼の人物像は少し意外でした。
彼を見る滝野の視線は、恋人というよりも、手のかかる弟へ向ける兄のそれに近いですね。
今は新たな恋人を見つけて、穏やかな生活を送る彼に「滝野さんにも、ちゃんとした相手、見つけて欲しい」と背中を押される滝野。
 
片や、滝野を忘れられない峯谷でしたが……。
彼は恋心が重いというよりも、もう少し物事の後先を考えた方が良いかもしれない(笑)。
いくら滝野が好きだからとはいえ、自分から無鉄砲に危険へ突っ込んでいってしまうんだから。
これから滝野も気が気じゃありませんね。
この状況で「お前は俺が好きだから無茶をしたって解釈で間違いないか?」と言えてしまう滝野も、何気に大物ですが。
 
しかし、何はともあれ無事結ばれる二人。
滝野、これまで自分を律してきたから、一度解き放たれると押さえが効かなくなっちゃいましたね。
出会った時の濡れ場とは、目の必死さや優しさがまったく違う。
峯谷に対してベタ甘。
あとかなりの天然ちゃんと見た。
峯谷も「お前の重さなんて、どうってことないって言ったろ」となんの躊躇もなく口にしてくれる、懐の広い彼氏に巡り合えて本当に良かった。
 

くそくらえ純愛 #05

これまでの痛みや苦しみを払拭するかのような、峯谷と滝野のラブラブな生活。
私生活の充実が外面にも出て、モテモテになっていく峯谷。
元々ルックスが良い上に、纏う空気も柔らかくなって……、これはお客さんも放っておかない。
滝田による峯谷の店近辺の巡回が捗りそうな予感。
 
ペアのマグカップで浮かれてしまうのも可愛い。
この二人、物事に対する価値観や恋愛観が似ているのも良いですね。
相手によっては重荷になってしまう想いの深さも、互いにきちんと受け止められそう。
 

描き下ろし・おまけ。

第四話直後、一緒にお風呂に入る二人。
昔の男を想定して、風呂の大きな部屋を選んだという峯谷。
その事に嫉妬メラメラの滝野。
まあ、それも今の二人にとっては、恋を盛り上げるスパイスなんですけれどね。