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『ただいま、おかえり』(いちかわ壱/ふゅーじょんぷろだくとTHE OMEGAVERSE PROJECT COMICS)感想【ネタばれあり】

ただいま、おかえり (THE OMEGAVERSE PROJECT COMICS)

ただいま、おかえり (THE OMEGAVERSE PROJECT COMICS)

ただいま、おかえり (ザ オメガバース プロジェクト コミックス)

ただいま、おかえり (ザ オメガバース プロジェクト コミックス)

 
いちかわ壱先生の『ただいま、おかえり』の感想です。
オメガバース設定の物語。
オメガバースをご存じない方は↓をご参考に。
dic.nicovideo.jp
オメガバース設定に関しては、本作冒頭でも説明されているので、オメガバース物を初めて読まれる方もご安心を。
本作に関してはとりあえず、男女の他にα、β、Ωという二次性があり、急激な人口減少に伴い、男女問わず出産できる世界観である事を事前知識として持っていれば問題ありません。
弘(α)×真生(Ω)夫夫と、彼らの間に生まれた子供・輝の日常を描いたほのぼの家族物。
とにかく輝の可愛らしさに癒されます。
 

 

『ただいま、おかえり』(2016年6月24日発行)

あらすじ

弘と真生はα×Ωの番であり、男同士の夫夫。
二人は長男の輝と共に、郊外にある一軒家で家族仲良く暮らしていた。
ところが、二人の結婚を反対していた弘の父親が突如姿を現す。
以前、真生を傷つけた父親に憤りを感じる弘であったが、輝の存在により、冷えていた親子関係に変化が……。
 

総評

輝の一挙手一投足がキュート。
有体に言って天使。
笑顔をはじめ、ちょっと不機嫌な顔や泣き顔など、様々な表情や生き生きとした仕草を惜しみなく見せてくれる。
ぷにぷにのほっぺや手足にも触りたくなる。
気分はさながら親戚か近所のおばちゃん。
 
輝を大切に育てる弘×真生の発する雰囲気も温かい。
既に夫夫なので激しい恋愛描写などはありませんが、その分、家族に対する愛がいっぱい。
輝もまだ二歳で、子育てにおいても試行錯誤の連続でしょうが、この二人なら良い子に育ってくれるだろうなと、安心して見ていられる。
 
また本作はただハッピーなだけではなく、差別や偏見に関して考えさせる内容でもある。
大っぴらではないけれど、確かにそこにある先入観が、どれだけ他者を傷つけるか……。
しかし本作では、ただ絶望したり、斜に構えて見たりするのではなく、人がその問題へどのように向き合い、またその過程で家族や周囲の人々の存在にどれだけ力づけられるかを教えてくれます。
ジャンルに抵抗がないなら、是非多くの方に読んでいただきたい名作。
そして読後は、藤吉家の幸せを願わずにはいられなくなる事請け合いです。
 

ただいま、おかえり 第1話

藤吉家が尊すぎ!!
真生と輝にはデレデレですが、二人にもしもの事があったら何をやらかすか分からない弘。
弘と輝を優しく包み込む真生。
そして、可愛いの権化・輝。
三人の醸し出す空気は、周囲の人々の優しさも相まって柔らかい。
しかし、オメガバースという世界観ゆえ、世間ではΩに対する偏見や差別も確かにあるのが切ない。
形は違えども私達が生きる現代社会と重なる部分もあり、考えさせられます。
そんな中、弘×真生の関係性はもちろん、輝がどのように成長していくのかにも注目です。
 

ただいま、おかえり 第2話

輝と隣人の大学生・祐樹との交流。
両親以外の人々と接し慣れていない輝。
そして、人見知りな祐樹。
そんな二人が年齢を超えて、友情を育んでいく様にほっこり。
人間関係をなかなか器用にこなせず、「自分を駄目な人間だ」と思い込んでしまう祐樹。
しかし祐樹の不器用さは、純粋さの裏返しなのですが。
なんの先入観も持たない輝は、祐樹の良いところに気づく事ができる。
 
輝と祐樹を静かに見守る弘×真生も良いですね。
弘がささやかな焼きもちを焼いてしまうのはご愛敬。
あと祐樹は以前の真生に似ているようで、彼がどのような人生を送ってきたかも若干垣間見えます。
 

ただいま、おかえり 第3話

藤吉家のクリスマス。
クリスマスツリーを飾る三人。
てっぺんのお星様は輝で、その真下の一対のベルが弘×真生。
弘が幸せのあまりブルブルしちゃうのも分かるなぁ。
お星様がちょっとしたきっかけで落としてしまい、輝が泣いてしまうのも、両親を照らしてあげられなくなっちゃうからって……。
輝があまりにも思いやりのある子なので、弘ならずとも「天ッッ使…ッ!!!」と確信してしまうわ。
輝の名前の由来も良いですね。
とてもこの夫夫らしい。
 

ただいま、おかえり 第4話

発情期と風邪が被ってしまい、寝込んだ真生の代わりに、弘、祐樹、そして弘の同僚で幼馴染でもある松尾で輝の御守。
三人の男達の、いかにも慣れてない感が微笑ましい。
特に今ひとつ輝に懐かれておらず、振り回される松尾が面白い。
 
そして多彩な表情を見せてくれる輝は、今回も天使。
笑顔が可愛いのはもちろんですが、三人が苦労して作ったうどんを、ものすごく残念そうに食べている表情に噴き出してしまいました。
真生の傍にいたいけれど、一生懸命我慢する姿も健気。
 
弘は自分がΩであるという事を厄介だと感じつつも、家族を始めとした優しい人々が寄り添ってくれるからやっていけるんでしょうね。
輝に笑いかける顔があまりにも穏やかで泣けてくる。
弘も子育て等で手探り状態の部分もあるけれど、これからも家族を守っていくという誠実さと頼りがい、なにより真生と輝が大好きなんだという愛が溢れていて良いですね。
最後は真生の体調も回復して良かった。
 
三人を見ている祐樹と松尾の間になにかが芽生える予感?
そしてラスト、藤吉家の前に停まった高級車に乗る男の正体は……。
 

ただいま、おかえり 第5話

弘の父親登場。
前回で弘の実家とは没交渉だという事が明かされた藤吉家。
やはり、二人が結婚に至るまでは色々あったんですね。
弘の実家は名家のようですし。
Ωが社会的に置かれた状況については第1話から丁寧に伏線が張られていたので、この辺りのお話は大変説得力があります。
 
弘が神経質になってしまうのも分かるなぁ。
自分の愛する人を最も傷つけるのが実父だというのが余計辛い。
 

あの人は真生が嫌いなんじゃない。
オメガだからダメなんだ。
説得のしようもない。

 
これは個人的な好き嫌いよりもさらに深刻な問題。
社会通念上そうなってしまっているのを覆すのは難しい。
Ω達が虐げられてきた過去を思うと胸が痛みます。
 
それと対比するように、弘の父親を前にした真生の強さが印象的。
優しげで争いを好まない真生。
しかし、家族の為ならどこまでも強くなれるんでしょうね。
弘の父親から逃げずに、きちんと話をしたいというのも、弘を愛しているからこそ。
つくづく良い伴侶を持ちましたね、弘。
 
輝も相変わらず泣き虫だけれど、家族を守りたいという想いは両親と同じ。
弘と真生を支えてくれる「誰より心強いヒーロー」です。
 

ただいま、おかえり 第6話

再び弘達のもとを訪れた父親。
前回から気付いていましたが、一筋縄ではいかない御仁ですね。
弘がお茶を出した時の「ばしゃっ」に笑いました。
けれども、弘の父親の不器用な面も垣間見える。
彼なりに歩み寄っているようなんだけれど、どうしても弘の神経を逆なでしてしまう。
 
弘と真生の出会い。
そして、真生が妊娠した時の事も語られます。
自分を卑下して生きてきた真生が、弘の子供を授かる事によって変わる姿に感動しました。
弘と真生を「家族」にしたのは、輝の存在なんですよね。

松尾も良い奴だなぁ。
 
そして、輝によって弘の父親も変わる。
悪い事をしたと後悔しているなら、きちんと謝罪しないと。
大人達の間にあった精神的なしこりを、一気に取り払ってしまう輝の純粋さが凄い。
先入観や偏見、プライドや意地などに囚われがちな大人に、最も大切な事を教えてくれる。
弘が「敵わん…」と呟いてしまうのも分かります。
 
終盤は、祐樹や松尾を始めとした弘の同僚達を呼んで、輝のお誕生パーティー。
弘の父親は単なる爺馬鹿に進化(?)。
そしてまさかの真生第二子妊娠発覚(そんな事まで悟ってしまう輝、只者じゃない)。
弘が滂沱の涙を流していますが、彼の父親も同じ感じになりそう。
なんだかんだと言いつつ似た者親子だし。
とにかく皆が幸せで、大団円に相応しいラストでした。
 

描き下ろし・お久しぶりです、また会う日まで

弘の実家を訪れた藤吉家+祐樹&松尾。
おぉ、早速輝の妹・陽ちゃんが誕生したんですね!!
輝は弘似だけれど、ひなちゃんは真生似。
輝と合わせて、可愛さの二乗……、いや、百乗くらい?
出張先から戻れず、孫二人に会えない爺馬鹿が哀れ。
 
広い家を舞台に、かくれんぼを始めた面々。
頭隠して尻隠さずなど、幼児の生態が面白すぎ。
 
真生にとっては辛い事のあった弘の実家だけれど、それが今の幸せな生活に繋がっているからこそ懐かしく思える。
人が少しずつ集って、まるで宝物のようになるって素敵な考え方ですね。