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『ただいま、おかえり ーかがやくひー』(いちかわ壱/ふゅーじょんぷろだくとTHE OMEGAVERSE PROJECT COMICS)感想【ネタばれあり】

ただいま、おかえり -かがやくひ- (THE OMEGAVERSE PROJECT COMICS)

ただいま、おかえり -かがやくひ- (THE OMEGAVERSE PROJECT COMICS)

ただいま、おかえりーかがやくひー (オメガバース プロジェクト コミックス)

ただいま、おかえりーかがやくひー (オメガバース プロジェクト コミックス)

 
いちかわ壱先生の『ただいま、おかえり ーかがやくひー』の感想です。
オメガバース設定のほのぼの家族物『ただいま、おかえり』の続編。
kashiwamochi12345.hatenablog.com
新たな家族・陽も加わって、藤吉家はさらに賑やかに……。
そして、今回は真生がずっと避けていた故郷へ里帰りする事になります。
真生はずっと抱いていた愁いを払拭する事ができるでしょうか?
 

『ただいま、おかえり ーかがやくひー』(2017年6月24日発行)

あらすじ

弘、真生、輝の三人家族に長女・陽も加わって、幸せにますます拍車のかかる藤吉家。
弘の実家とも、以前のわだかまりがありつつも、少しずつ距離を縮めていく。
そこへ、真生の伯父から「久々に地元へ帰ってこないか?」という誘いのメールが届く。
両親は既に他界してしまったが、胸に残る鬱屈を整理するため、帰省する事を決心する真生だったが……。
 

総評

サブタイトルからして良いですね。
「かがやくひ」=輝と陽の事。
子供達は弘と真生を照らしてくれる宝物のような存在。
二人がいれば、弘と真生はどこまでも強くなれる。
そして、そんな両親の生き様を見て、輝と陽は優しく、強く育っていくんでしょうね。
まさに好循環。
 
今回は真生にとって、色々と辛かったですね。
彼のこれまでの孤独や薄幸の一端を再び垣間見ました。
どれだけ幸せに身を浴しても癒えない傷。
かさぶたは何かをきっかけに容易く剥がれてしまう。
 
しかし、この世の中で彼だけが弱いのではなく、完璧な人間などはもちろん存在しない。
真生が自分を卑下してしまうのは、彼がそれだけ必死に生と対峙している事の証です。
そして、人は不完全な存在だからこそ、家族をはじめとした大切な人々と支え合って生きていく。
そんな、日常の生活に忙殺されて忘れてしまいがちな事を、読者へ再確認させてくれる作品。
本作を読了後は、家族の事が無性に大切に思えてなりません。
そして内に秘めるのではなく、たとえ言葉足らずだとしても、きちんと感謝を伝えようという気になります。

 

ただいま、おかえり ーかがやくひー 第1話

『ただいま、おかえり』の描き下ろしから少し遡って、陽誕生直前から出産まで。
冒頭から輝があまりにも天使過ぎて、弘と同じくむせび泣きたくなるわ……。
 
弘の父親の知人から無神経な発言を受けてしまい傷つく真生。
たとえオメガバースでなくとも、現実でもありそうな一場面に考えさせられます。
出産直前という事もあり、真生はナーバスになってしまう。
でも、それはひたすら孤独だった輝の出産時とは違い、今は陽の誕生を一緒に喜んでもらいたい人が増えたから=「幸せ」の証拠でもあるんですよね。
苦しい時に我が事のように親身になってくれる、祐樹のような人間が真生の側にいてくれて本当に嬉しい。
そして、真生を支えてくれるのは、なんと言っても大事な家族。
互いの存在が生きる糧になるって素晴らしい。
 

ただいま、おかえり ーかがやくひー 第2話

初っ端、輝と陽の「うぇへへへへっっ(ハート)」があまりにも可愛すぎて変な声が出ました。
輝、松尾には今まであまりデレなかったけれど、共に兄ポジションという事で仲間意識が芽生えたようで……、良かったね、松尾(笑)。
ちなみに第1話で明かされましたが、松尾家は男夫婦に息子三人(松尾が長男)の男系家系だそうで、それもすごく見てみたい。
 
とにかく一生懸命お兄ちゃんをしている輝が愛しい。
洋服のボタンをはめる等自分の事はなるべく自分でやろうとしたり、お気に入りのぬいぐるみを陽に譲ってあげようとしたり……、頭ナデナデしたくなります。
妹が可愛くて仕方がないんですね。
しかし、そんな輝もまだ3歳で甘えたい盛り。
あまりにも頑張り過ぎて知恵熱を出してしまう。
こういう時に輝への愛情を惜しみなく表す弘と真生は良い両親。
家族4人で少しずつ成長していければ幸せ。
 

ただいま、おかえり ーかがやくひー 第3話

今回は真生が特に可愛かった(藤吉家は全員「可愛い」がデフォルトですが)。
ワイドショーの浮気特集に感化されて、弘に「好き」と言葉で伝えて切れていない事に悩む真生。
でも浮気を警戒して「好き」と言うのも弘に失礼だとモダモダしてしまうのがピュア。
そうした誠実さも、弘が愛してやまない真生の美点の一つだと思うのですが。

 
そこで輝が、また大切な事を教えてくれる。
愛する人に「好き」と伝えるのに理由はいらない。
そして、「好き」という言葉によって、言った側も言われた側も、両方温かな気持ちになれる。
 
真生の気持ちに寄り添える弘はつくづくスパダリだな。
確かに以前の卑屈な真生なら、弘がもし浮気をしても容認にしていたかもしれない。
弘は真生が以前よりも良い意味で欲張りになってくれて嬉しいんだろうな。
 
あと真生自身は無意識だけれど、ベッドの中では結構「好き」「好き」言っていたようで……(笑)。
弘の「今日カウントしてあげようか?」に若干サドっ気を感じる。
まあ、真生はM気味だと思うので、その点でもバランスの取れた夫夫だなと。
とりあえずご馳走様でした。
 

ただいま、おかえり ーかがやくひー 第4話

弘の実家で輝の端午のお節句を祝うお話。
じいちゃん、豪邸に住んでいるだけあって、愛する孫のためにとても豪華なこいのぼりを用意しましたね。
名前旗付きなのも凄いなぁ。
輝と陽の写真を撮りまくる弘と彼の父親は、なんだかんだと言いつつも似た者同士。
これからイベントがある度に、カメラやハンディカムをフル稼働させそうな二人(笑)。
 
今回は弘の母親も本格的に登場。
既に両親を亡くしている真生に対して「ご両親の分まで私に何か力になれたらいいのだけど」と気遣う優しいお母さん。
だが「結婚を許してもらえただけで十分」と真生はそこで一歩引いてしまう。
弘と結婚する前に比べて、大分強くなった真生ですが、それでも弘の両親に受け入れてもらう事に慣れていないんですね。
冒頭で彼のもとに来た伯父のメールも影響しているのでしょうけれど。
 
そこで偶然、輝が藤吉家の嫁に代々受け継がれてきた打掛を見つける。
お母さん、この打掛を真生のために用意しておいたんですね。
以前の経緯があるから、互いに多少ぎこちなくなってしまいますが。
そんな不器用な家族の潤滑剤になるのは、やはり子供達の存在。
そして弘の父親もさすが年の功というか、良い事言いますね。
 

たとえ遅れてでも、祝福の気持ちを相手に伝えることが大切…。

 
真生の打掛姿も、慈愛に満ちていてとても奇麗でした。
弘が惚気たくなるのも分かります。
しかし、弘も普段は察しが良いくせに、変なところで朴念仁というか……。
真生が打掛姿を見られて弘にだけ照れるのは、弘の事を伴侶として愛しているからに決まってるじゃないですか!
 
ラストは家族の愛をあらためて確認して、里帰りする事を決意した真生。
昔、逃げるように故郷を出てしまった真生ですが、今の彼ならきっと大丈夫に違いない。
 

描き下ろし・ただいま、おかえり ーかがやくひー 第5話

弘のお誕生日&真生の里帰りにあたって弘の胸中。
第4話と第6話の間に、本巻描き下ろしとして変則的に差し込まれた回ですが、弘の心情や弘×真生の関係性を掘り下げるのに絶妙でした。
以前、両親を亡くした真生が帰省した際には、弘は同行せず待っていたんですね。
打って変わって、今回は家族全員で故郷へ帰る事の意味。
 
今回、真生が弘の「一緒に地元へ行きたい」という申し出を受け入れたのは、過去に向き合う決心をしたため。
前の帰省の時にはできていなかった覚悟を、輝や陽を授かったのをきっかけに築く事ができた。
それも、今も昔も変わらず真生を支えてくれる弘の存在があったればこそ。
日々成長していく部分と、それでも変わらない大切な想いとの対比が美しい。
 
輝から弘への、初めてのプレゼントも素敵。
輝の健やかな成長を感じられるのが、弘にとっては最高の贈り物。
弘はこの似顔絵を、これからもずっと大切にしていくでしょう。
 
ラストは真生の従兄・和彦が顔出し。
真生とは何やら因縁がありそう。
 

ただいま、おかえり ーかがやくひー 第6話

真生の故郷にやって来た藤吉家+祐樹&松尾。
祐樹と松尾、藤吉家にとってすっかり家族のくくりになってます(笑)。
 
前回初登場した真生の従兄・和彦はなんと真生の許嫁だったんですね。
真生には複雑な感情を抱いているようで、伯父さんから預かってきた手紙も渡してくれない。
和彦の態度は決して褒められたものではないけれど、彼の気持ちも分からなくはない。
真生の両親や和彦を始めとした親族は、真生を虐げたかったわけではなく、それどころか彼を守りたいと思っていたからなおさら、思いやりを踏みにじられたような気がしたんでしょうね。
一方、真生も両親や故郷を愛しつつも、たった一人のΩである孤独や息苦しさに耐えられず逃げ出してしまった。
単純な善悪二元論では断ずる事のできない問題に唸らざるを得ない。
 
真生も罪悪感があるから、和彦に何も言い返せなかった。
そこで、彼の味方になってあげられるのは、やはり弘を始めとした家族。
真生を弱者としてしか扱えなかった郷里の人々とは違い、弘は真生の中にある直向きな強さを汲み取る事ができた。
でも、これは和彦達が一概に悪いというのではなく、様々な巡り合わせやタイミングの結果なんですよね。
「真生と、彼の両親が分かりあう手段がもっとあったのでは?」とか、「真生が弘と出会わなければどうなっていただろう?」など、ついついIFを考えてしまう。
自分らしく、幸せに生きていくとはどういう事なのか?
そうした事を考えさせてくれる、いちかわ先生の作品は本当に深い。
 

ただいま、おかえり ーかがやくひー 第7話

お前が傷つかない以上に大切なことなんてひとつもないよ。

 
弘にこんな風に言ってもらえる真生は幸せですね。
それでも、真生は自分が大切にしているものまで否定されるのが怖くて仕方がない。
しかし、それは種族なんて関係なく、本来誰もが持ちうる感情。
だからこそ、人間は大切な人と寄り添って、愛を確かめ合いながら歩んでいく。

翌朝、再び和彦と見える真生。
輝はさながら真生を守る騎士。
真生が見せる、愛情に溢れた笑顔が全ての答えですね。
和彦も根は良い人だけれど、真生に対する未練から、前回のような態度を取ってしまった。
真生への執着は刷り込みなのか、情なのか、和彦自身も判別できないようですが、表情に微かに滲む切なさを目にしてしまうと、彼にも是非幸福をつかんでほしくなります。
 
終盤は真生の両親が眠る場所へお墓参り。
野の花が咲き乱れる奇麗な場所。
真生の母親が残した手紙の文言と相まって、心が温かくなると同時に泣けてくる。
生きている内に分かり合えなかったのは残念ですが、真生も家族や大切な友人をこの場所に連れてくる事ができて良かったです。
ご両親もきっと天国から見守ってくれているはず。
 
ラストは素朴だけれど、感動的な永遠の誓い。
真生と結婚できないと知って大ショックを受ける輝。
多くの幼児が一度は経験する壁ですね(笑)。
残念だけれど、まぁちゃは既にぱぱのもの。
それなら牧師はどうでしょうという事で、すぐに立ち直るのも可愛い。
 

おつかい大作戦 ~デビュー編~

日テレ系列の某人気番組風味で、初めてのおつかいに挑戦する輝。
ミッションは、じーじへの手紙をポストに投函する事。
しかし、中々ポストまで到達できずに、何度も家に帰ってきてしまう輝がキュート。
見守る弘・祐樹・松尾もコミカル。
 
結局、にわか雨が降り出して、計画は出かけていた真生に傘を届ける事に変更。
無事にミッションコンプリートできて、めでたしめでたし。
無表情でRECしている弘が怖い(笑)。
ついでにじーじへの手紙も出す事ができました。
手紙の上半分と下半分の温度差にも爆笑。