ボーイズラブのすゝめ

ボーイズラブ系のコミックス&小説の感想を中心に。

『蜜通』(エナリユウ/笠倉出版社CROSS NOVELS)感想【ネタばれあり】

蜜通【特別版】(イラスト付き) (CROSS NOVELS)

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エナリユウ先生の『蜜通』の感想です。
初恋の男の息子にアラフォー弁護士が迫られる超年下攻め。
かなりアクが強いですが、深みのある人物造形や緻密な心理描写を求める方におススメの作品。
 

『蜜通』(2019年2月9日発行)

あらすじ

高校生時代のクラスメイト・星野に多額の借金の申し出を受けた弁護士・榛名晄介。
実は星野は、榛名が密かに思い続けた初恋の相手だった。
星野を貶めつつも見捨てられない榛名は、彼や彼の息子・涼一の面倒を見る事になる。
だがその5年後、星野はガンで他界。
星野の意向を汲み、涼一を養子にするが、彼が高校生の時に榛名がゲイだとバレてしまう。
涼一の生活は荒れ、榛名もまた涼一を避ける生活を送る。
しかし、涼一が社会人になった頃、「アンタのことが好きだ」と告白され、体も翻弄されてしまい……。
 

感想

榛名の生い立ち、星野と涼一が榛名と同居する事になった原因、榛名への愛憎を持て余して荒んだ生活を送る高校生時代の涼一など、内容的には決して明るくはありません。
正直、とても読者を選ぶ作品。
ただ、ハマる人にはもの凄くハマる中毒性の高さも兼ね備えていると思います。

一文一文もとことん考え抜かれていて、主人公の榛名や涼一ばかりではなく、脇役のちょっとした一言にハッとさせられる事もしばしば。
 
困窮した生活と生活能力のない親の為、コンプレックスに苛まれてきた榛名が、なぜ星野のような一見冴えない男にこれほど捕らえられたのか?
星野からもらったリップクリームの空の入れ物を、肌身離さずずっと持ち続ける未練。
榛名と涼一の、法律的には養子にも関わらず、親子とは言い難い微妙な関係。
罪悪感や背徳感を抱えつつも、遥かに年下の、しかも初恋の相手の実子である涼一に惹かれていく想い。
ゲイとして、仕事を趣味にして生きてきた一人の男性の心情が、針を通すような綿密さで描かれています。
彼の高慢さの影に隠された優しさや弱さ、怯えなどが真に迫っていて、読者であるこちらも痛いくらい。
 
一方、攻めの涼一も、なぜ彼が義父である榛名にそこまで執着するのかが、物語全体を通して、強烈なリアリティを伴って胸に迫ってきます。
涼一にとって、榛名はまさに運命の人だったんだなと。
借金の形として、自分の母親の遺骨の一部を榛名に差し出したり、榛名を守りたいがために養子に入った経緯など、幼いながらにもの凄いものを背負っていた涼一。
終盤で明かされた、星野が榛名を頼った理由にも慄然としてしまった。
冒頭のシーンに象徴されるような、榛名と星野のパワーバランスが一気にひっくり返るインパクト。
お人好しな男の、どうしようもない打算。
涼一がこれに気づいた時には、複雑な心境だっただろうな。
 
ボーイズラブで主人公の初恋の相手というと、とても煌びやかな存在を想像してしまいますが、星野はどこにでもいるような地味な男性。
だが本作においては、絶対的な存在感を放っています。
榛名も涼一も、良きにつけ悪きにつけ、彼を忘れる事は一日としてないだろうから。
ただ父親の狡さを含む、様々な葛藤を乗り越えてきた涼一だからこそ、年長の榛名を包みこめる懐の深さを身につけられたんでしょうね。
 
脇役に目を向けると、榛名の大学時代の同級生で現同僚、そしてセフレでもあった岩下がイイ味を出していました。
ある意味、二人のキューピット役でもある。
初登場時は「なんか嫌なヤツそうだなぁ」と思っていましたが、その予想はハズレ。
包容力、財力、知力、容姿を兼ね備えた大人の男。
涼一が榛名を奪われるのではないかと、危機感を持つのも分かります。
榛名はあまり気付いてなさそうですが、岩下なりに彼を愛していただろうし、涼一も同じ人間を想う者として、それを感じ取っていたに違いない。
ただ岩下の場合は大人過ぎたのが仇になって、機会を逸してしまったような気がする。
榛名のようなウジウジした男を手に入れるためには、涼一のような若さゆえの無謀さで挑まないと難しいんでしょうね。
 
とにかく葛藤や軋轢を乗り越え、榛名と涼一とが結ばれた瞬間は幸福感でいっぱい。
二人とも長年飢えていた気持ちを、やっと満たす事ができた。
榛名はセフレがいたのにも関わらず、操を立てて、後ろの純潔を死守してきたのは正直凄まじいなと思いましたが。
なんせ涼一は若いから、これから榛名も色々な意味で付いていくのが大変そう。
それも幸せな悩みに他ならないだろうけれど。
 

二人の日々

本編の一か月後、一年後、八年後、それぞれを、攻めの涼一視点で描いた短編。
二人が両想いになった事や、語り手の涼一の性格もあり、本編よりも数十倍明るい雰囲気。
同じお話の中でも、時間経過に伴う二人の変化がきちんと感じられて、エナリ先生、やはりかなりの技量を持った書き手さんだなと。
二人のジェネレーションギャップや榛名の加齢も感じつつ、二人が積み重ねていく日常が愛しい。
涼一が相変わらず岩下に嫉妬していたり、二人が共同で車を買ったりなど、ちょっとしたエピソードにもニヤニヤしてしまいます。
年齢差による懸念なども吹き飛ばして、涼一がひたすら晄介さん大好きを貫いているのが気持ち良い。
 
あと涼一が若いという事もあって、二人のエロエロ日記でもある。
ちょっとS入っていたり、ガラココ使ったお道具プレイあり、消防士×弁護士のコスプレありと、バリエーションもなかなか豊富(全体的に榛名がチョロ過ぎ)。
涼一がレスキュー隊で体を鍛えている為、様々なプレイに対応できるのが美味しい。
40台のおっさん(八年後に至ってはアラフィフ)にもう少し手加減してやれよと思わないでもないが、これぐらいしないと榛名の不安は払しょくできませんからね。
そこがまた面倒くさ可愛いんですけれど。