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『俺が好きなら跪け』(里つばめ/大洋図書H&C Comics)感想【ネタバレあり】

俺が好きなら跪け (HertZ&CRAFT)

俺が好きなら跪け (HertZ&CRAFT)

俺が好きなら跪け (H&C Comics CRAFTシリーズ)

俺が好きなら跪け (H&C Comics CRAFTシリーズ)

 
里つばめ先生の『俺が好きなら跪け』の感想です。
銀行員である同僚同士の物語。
受け攻め共に一筋縄ではいかないカップル。
二人が折に触れては繰り広げる駆け引きに大興奮。
また、お仕事物としても読み応え有り。
 

『俺が好きなら跪け』(2018年9月1日発行)

あらすじ

東都銀行に勤める松田は女性にだらしなく、性格にも難ありだが、優秀な銀行員。
そんな彼が目下ライバル視しているのが同期の加藤。
自分以上に女性にもてて、涼しげな顔で大口契約をものにしてしまう加藤は、松田にとって目の上のたん瘤でしかない。
ところがある日、残業で行内に残っていた松田は、当の加藤から告白されてしまい……。
 

総評

2019年現在、私が最も注目している作家の一人である里先生の著作。
先生が描かれるキャラは一筋縄ではいかないタイプが多いんですが、本作の主人公である松田と加藤もその例に漏れず。
分かりやすい「優しさ」やステレオタイプの「実は良い人でした」的な展開などは皆無。
それどころか、それぞれベクトルは違うものの、ぶっちゃけ人としてはアウトな部分も見受けられる。
松田は上昇志向が強く、何をするのにも手段を選ばないところがあるし。
加藤も無表情の下で何を考えているか分からないし。
 
しかし、それでも読者の目に魅力的に映るのが、「里先生マジック」とでも表現すればいいのか……。
物語が進行していく内に垣間見える、仕事に対する熱量や恋愛面で見せる一途さや、ちょっとした可愛げなど。
違った一面を発見するたびに、どんどん惹きつけられていく。
 
そんな食えない二人が繰り広げる駆け引きからも目が離せない。
加藤の真意が汲み取れず、松田はイライラ、読者はドキドキ。
だが松田も負けてはおらず。
仕事でねじ伏せてやろうと食らいつく。
それが加藤をさらに昂らせてしまうとも知らず……。
そのいわば無限ループがあまりにも美味しすぎて、終始ニヤニヤが止まりません。
 

俺が好きなら跪け 1

いやぁ、初回から松田の性格の悪さが炸裂ですね(笑)。
まあ、このぐらいアクが強くなければ、嫉妬と羨望が渦巻く出世競争の荒波を渡り切るのは難しいのかもしれませんが。
女性ともかなり遊んでいるようだけれど、芯の部分は冷めている。
無能な先輩に彼女を寝取られて腹は立っても、彼女自体にはまったくこだわってはいないようだし。
 
そんな松田が懸命になる数少ない要因が、仕事と加藤への対抗心。
この時点では加藤が鉄面皮の裏側の内面が汲み取りにくいですが、彼が松田のどこに惹かれたのかは分かるような気がします。
恋情がこもらないまでも、あんな視線を向けられれば、クールな加藤も煽られるだろうな。
そして、ラストの加藤の告白が、二人の新たな関係のはじまりを告げる。

俺が好きなら跪け 2

深夜の職場で、いけ好かない加藤に告白&キスされた松田。
だからといって、ここで恥じらうような殊勝さは一切なく、加藤との関係において「勝った!!」とマウント取ろうとしているのが実に彼らしい。
彼女を寝取った先輩に対する報復も手抜かりなく、そしてえげつない。
ビッチを切れて、ウザい先輩もコテンパンにできるという一挙両得。
ここまで突き抜けていると、いっそ清々しい。
 
だが、松田も加藤の前では調子が狂う。
松田に告白してきたくせに、相変わらず悠然としている加藤。
そうかと思うと、松田の皮肉に激昂したクソ同期から彼をかばったり。
加藤の真意が見えずに戸惑う松田。
それでもなけなしの負けん気を発揮するものの、性的な欲望を抱かれているのは承知しているので、二人っきりになるとどうしても加藤の一挙一動にビクついてしまう。
そんな松田を見る加藤の目がね、これまたたまらない。
まさに獲物をターゲットロックオンした猛禽類のそれ。

静かな中にも、機会があれば今にも喉笛に噛みついてやろうと虎視眈々と狙っている。
この緊張を孕んだ距離感に萌えるなという方が無理。
 

俺が好きなら跪け 3

前回、二人っきりの会議室で、加藤に「鍵かけろ」と言われて、「鍵?なんで…」って……。
ここまで来て、鍵かけてやる事とっつったら一つしかないだろ、松田~!!
いつもはあんなに強かなくせに、こういう時に限ってなんでここまでチョロいのか?
おまけに、加藤の手管に翻弄されて、簡単にイかされてしまうし……。
策を弄した(というほど大した事してませんが)加藤もビックリ。
 
しかし、そこで変に乙女チック路線に入らず、「なら仕事で叩きのめしてやるよ!!」と奮起するのが加藤の良いところ。
今回は、彼の仕事に対する予想外の一本気さや誠実さが、凄く出ていたと思います。
悪態を吐きつつも有能さを認めている加藤に「お前と仕事してみたかったんだよ」と言われて、内心嬉しかったんだろうなという事が察せられたり。
仕事に対するスタンスの違いで、加藤と衝突したり。
この対等に渡り合っている感が大好き。
加藤は加藤で、セクハラ発言や軽くストーカー行為をかましつつも、松田と関わるうちに無表情な中に感情の片鱗が滲むようになってきた。
  

俺が好きなら跪け 4

加藤がどうしてそこまで松田に執着するのか明かされます。
彼にとって仕事は割とどうでも良くて、あくまで魚(松田)を釣るための手段でしかない点に慄く。
 
製薬会社の御曹司という立場。
努力せずとも、なんでも水準を遥かに超えた結果を出してしまう自分。
やっかみと陰口を叩くしか能のない同僚。
そんな色褪せた世界の中で、加藤にとって唯一自分に噛みついてくる「めんどうくさい」松田だけがビビットな存在だった。
親の後を継ぐのが既定路線の加藤と、「俺は俺のために仕事してんだよ」と嘯く松田の対比。
これは加藤のような人間が、松田の事を是が非でも手に入れてやると執着しても不思議ではない。
松田、無意識とはいえ、とんでもないのもを落としてしまいましたね。
 
後半は一転。
別れた彼女から逆襲されて、出勤禁止にまで追い込まれる松田。
仕事が順調に行っていただけに痛恨ですが、これは自業自得&因果応報というか……。
そんな失意の松田のもとへ、加藤がやってくる。
嵐の予感しかしません。
 

俺が好きなら跪け 5

松田を手に入れるためなら遠慮も躊躇もない加藤。
手段なんてどうでも良い彼だから、この機に乗じて抱きに来たというのも本心なんだろうけれど。
なんだかんだと言いつつ松田が心配だったのもうかがい知れる。
 
ここの濡れ場もヤバい。
加藤の言動は相変わらず容赦ないながら、反面、松田大好きオーラが駄々洩れ。
大業な表現はないものの、表情や言動の端々から滲み出ている想い。
ホントなんつー蕩け切った顔で松田を見ている事か……、それを松田が知らないのが、これまたにくい。

片や、松田はエロ可愛さMAX。
抵抗しつつも、加藤との体の相性はバッチリなので、ついつい流されてしまう。
あれだけ女慣れしているモテ男なのに……、普段との落差にキュンキュンする。
加藤がムカつくのは変わらないようですが、反面、気になって仕方がない様子。
 
そこで加藤はできる男なものだから、さらに畳みかけてくる。
 

お前はもう逃げられないんだよ。諦めろ。

松田、俺、あと2年もしたら親の会社に戻るだけれど、そのとき松田も一緒に来いよ。

 
加藤ほどの男にこんな事言われたら、さすがの松田も絆されるわ……。
ここで俺様強引攻め×流され受けでハッピーエンドかと思いきや、……さすが里先生、そうは問屋が卸さなかった。
 
次の瞬間、絶えず傲岸不遜だった加藤の意外な一面が明かされて大爆笑不可避。
松田の前では「金で解決したんだよ」とか、何事もなかったかのような顔しておいて、実は松田を助けるために土下座までしていた事が発覚。
へぇ~~~、はぁ~~~、ほぉ~~~(ニヤニヤ)。
惚れた松田の前では、やはり格好つけてたかったんだろうね。
普段は俺様マイペースでどこか超然とした彼が、とても身近な存在に感じられる。
こんな表情もできるんだねぇとしみじみ。
いつもと違って前髪を降ろしている事もあり、なんだか幼くも見える。
レアな赤面顔も相まって、松田でなくともからかいたくなります。
まさにギャップ萌えの宝庫のような男・加藤。
 
しかし、そこは曲者の加藤。
単に茶化されるだけでは済ませなかった。
 

僕と結婚して下さい!

 
この時の二人の表情の対比も絶妙でした。
跪いているのに「してやったり!」といった風な加藤と、衆人環視の中で男にプロポーズされて、青ざめ赤面する松田。
甘くはならず、どこか勝負チックな雰囲気が、この二人にピッタリ。
これからも、彼らはこんなシーソーゲームを続けていくんだろうなというのが感じられるラスト。
 

リテイク

5話の続きで、屋外デート(?)する二人。
平常運転の駆け引きだけれど、どことなく甘さが漂っているのは気のせいか?
高級腕時計の見返りが「俺のスマイル」なところは、さすが松田というか……。
それを本気に受け止めてしまっていそうな加藤……、もはやこの二人のやり取りは夫婦漫才にしか見えない。
 
その後も、加藤の松田に対する求婚は続く。
顔に出にくいけれど、加藤も必死なんだな。
何しろ、人生を共にしたいという希望のもと、アタックしている相手ですからね。
一見なんでもそつなくこなしてしまう男だからこそ、率直な「俺を好きになって」にグッとくる。
これは、松田が陥落する日も、そう遠くないでしょう(というか、すでに陥落している?)。