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『世界のまんなか イエスかノーか半分か2』(一穂ミチ/新書館ディアプラス文庫)感想【ネタばれあり】

世界のまんなか?イエスかノーか半分か(2)? (ディアプラス文庫)

世界のまんなか?イエスかノーか半分か(2)? (ディアプラス文庫)

世界のまんなか?イエスかノーか半分か 2? (ディアプラス文庫)

世界のまんなか?イエスかノーか半分か 2? (ディアプラス文庫)

 
一穂ミチ先生の『世界のまんなか イエスかノーか半分か2』の感想です。
前作からおよそ1年後が舞台。
「ザ・ニュース」の裏番組「ニュースメント」とタレント・木崎了の出現により、仕事への葛藤や潮への苛立ちを覚えてしまう計。
それが一段落したかと思ったら、とんでもない展開が計と潮を待っていました。
今回も前作に負けず劣らず、恋愛小説としても、お仕事小説としても絶品。
 

『世界のまんなか イエスかノーか半分か2』(2015年6月10日発行)

あらすじ

前作からおよそ1年。
アナウンサーの国江田計は、世間に対しては周到な猫をかぶりつつも、素の自分を認めてくれる恋人・都築潮と共に幸せな日々と送っていた。
しかし、「ザ・ニュース」の裏番組「ニュースメント」の開始により、にわかに暗雲が立ち込め始める。
「ニュースメント」に出演しているタレント・木崎了が、実は昔アナウンサー志望で、自分が採用された代わりに彼が落ちた事を知ってしまった計。
だがそれに腐らず、努力を続け、実力を身に着けた木崎の存在感。
そして、プロデューサー・設楽の意向により、ロケばかりを任されスタジオに中々入れない事も重なって、計は己の仕事へのスタンスを見失いそうになる。
おまけにその事がきっかけで、潮とももめてしまい……。
 

感想

前作に引き続き、今回も大満足の一冊。
相変わらず、計の心の声やキャラの使い分けが楽しすぎ。
ここまで毒舌だと、いっそ清々しい。
それを潮がとんでもない懐の深さで受け止める。
今思うと、潮に出会わなかったら、計は色々な壁に行き詰って、アナウンサーという仕事も辞めてしまっていたかもしれない。
それほど計にとって潮の存在は大きい。
どこか歪な生活を送っていた計が、初めて見つけた憩い。
一方潮も、毒舌吐きながらも絶対妥協せず、仕事に対して真摯に向き合う計を尊敬している。
 
どちらも互いにベタ惚れで、かといって甘やかしすぎず、言うべき事はきちんと伝える。
二人が共にいる事がとても自然で、読者としても見ていて気持ちの良いカップル。
 
濡れ場も、前巻から変わらずニヤニヤさせてくれる。
特に中盤の露天風呂&鏡プレイの仲直りH。
フワフワした可愛いイラストからは想像できませんが、割とチャレンジャーなんですよね、この二人。
ムッツリな潮とツンデレな計の黄金比が素晴らしい。
下品になり過ぎず、匙加減も丁度良い。
 
今回はお仕事小説としても、さらに読み応えがアップしていました。
アナウンサーを志望していたわけではなく、ふっとした切っ掛けから、今の仕事についてしまった計。
そんな彼が、インプラントや舌の手術まで受け、情熱と実力を兼ね備えた同年齢の木崎に、コンプレックスにも似た脅威を抱く事に、強い説得力を感じました。
計は強烈な猫をかぶってきた事により、剥き出しの熱意やエネルギーを外に向かって表す経験に乏しい(アクセント辞典のエピソードからも、情熱を持っているのは明らかなんですが、本人がいまいち無自覚だった)。
この辺り、木崎もそうですが、「好き」が高じてアニメーション作家になった潮との対比も面白い。
いくら潮が正論で諭してくれてたとしても、素直になれない気持ちも分かります。
 
さらに、最近ではスタジオの仕事がメインだったのに、慣れないロケや設楽の鋭い指摘などが、計の疲弊に拍車をかける。
ただ彼を追いつめるのも仕事なら、また鼓舞するのも仕事だった。
そして、設楽や「ザ・ニュース」のMC・麻生や、頑固一徹のカメラマン・錦戸など、業界の年長者達の言葉や仕事への取り組み方。
彼らバイプレイヤーが、過保護になり過ぎず、かといって突き放し過ぎず、良い距離感を保って、若い計の背中を押してくれる。
 
最終的にアナウンサーとして、そしてテレビに関わる人間として、大事なものをつかんだ火事の生中継には目頭が熱くなりました。
ここで、本作において計が苦労させられたロケの経験や、錦戸との信頼関係が活きてくるのも良い。
潮もナイスアシストしてくれて……、潮が傍にいてくれれば、計はどこまでも強くなれるのではないでしょうか?
 
そんな感じで、騒動は収束に向かうかと思いきや……。
後半はまさかの展開。
計の記憶喪失事件。
これにはしばし茫然。
視点も潮にスイッチして、物語がひっくり返ったような感覚。
 
毒舌も巨大な猫も消え、奇麗な「国江田さん」だけになってしまった計。
読者である私ですらとんでもない喪失感を味わったのだから、潮のショックは如何ばかりか……。

いつもは大樹のように鷹揚に構えている潮ですが、さすがにこれはキツイ。
今まではいつもどこか余裕を残していた潮が、「国江田さん」と「計」の狭間で揺れるのが大変新鮮でした。
おまけに「国江田さん」が、素直な好意を向けてくるものだから、これなんて拷問?
「国江田さん」、健気で可愛すぎだし。
潮に手料理まで作ってくれるし。
台所に共に立つ姿が、まるで新婚さん。
 
しかし、元々「国江田さん」と「オワリ」をほぼ同時に好きになった潮なんだから、どちらかを取捨選択なんてできるわけがない。
両方合わせて、潮の愛してやまない「計」なんだから。
この辺りは潮の男気や、計への想いが伝わってきて、萌えが止まりません。
潮は本当にいい男だなとあらためて実感。
 
ここで、伏線として張られていた壁ドンがきっかけで、まさか記憶が戻るとは思いませんでしたが。
これ、番宣の名を借りた、潮に対する愛の告白じゃん、ヒューヒュー!!
「国江田さん」も確かにキュートで捨てがたいんだけれど、いつもの計が戻ってきてくれて、安心感が半端ない。
国江田計はやはりこうでなくちゃ!!
 
その後はもちろん二人のイチャラブ(できれば「国江田さん」バージョンも見てみたかったのは秘密です)。
ここで折角、あの超プライド高い計様がフェラしてくれると言っているのに、微妙な応答する潮がね(笑)。
ムッツリな上に、Sっ気あるのは気づいていましたが。
しかしなんのかんの計をおちょくりつつも、いつも以上にがっついちゃってる潮に燃える。
まあ、今回は仕方がない。
「国江田さん」にも煽られっぱなしだったし、計を失うかもしれない焦燥感に苦しんだから。
 
ラストは意外な形で「ニュースメント」が失速してしまう。
勢いで口にしてしまった不用意な言動が致命傷になにかねないのが、現実社会とマッチしています。
こういう、何気ないけれどリアルなエピソードを作り、読者をハッとさせるのがお上手ですね、一穂先生。
TV放送、及び生番組の怖さの一端を思い知ると同時に、麻生さんのアンカーマンとしての鋭敏さも示しているのがお見事。
 
あと木崎がどうして旭テレビにこだわったのかも明かされました。
あの底知れない麻生さんを「そうちゃん」呼びって……(笑)。
木崎とそうちゃんが普段どんな会話を繰り広げているのか非常に気になります。
まあ、そうちゃん、確か奥さんいたから、この二人がボーイズラブ方面に流れる事はないだろうけどさ、チッ(?)。