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『その恋、自販機で買えますか?』(吉井ハルアキ/三交社Charles Comics)感想【ネタばれあり】

その恋、自販機で買えますか?【特典付き】 (シャルルコミックス)

その恋、自販機で買えますか?【特典付き】 (シャルルコミックス)

その恋、自販機で買えますか? (Charles Comics)

その恋、自販機で買えますか? (Charles Comics)

 
吉井ハルアキ先生の『その恋、自販機で買えますか?』の感想です。
元々は個人のSNSで発表され、人気に火のついた作品。
自動販売機補充員(28)×会社員(32)の年下攻め。
アラサーが滅茶苦茶可愛い恋愛しています。
 

『その恋、自販機で買えますか?』(2019年2月25日発行)

あらすじ

会社人の小岩井歩は、意を決して、自分の勤務する会社に出入りする自動販売機補充員の山下諒真に声をかける。
実は歩はゲイで、山下にずっと惹かれていた。
幸い山下も歩に好意的で、ラ〇ンのアドレスを交換したり、一緒に食事へ行ったりする仲になる。
だが、恋に臆病な歩は、なかなか積極的になれないでいた。
一方山下も、歩がとても大事にしているストラップの贈り主に嫉妬してしまい……。
 

総評

このレベルの作品でSNSで読めるなんて、つくづく良い時代になったなあと感動。
とにかく主人公二人がかわうぃーーー!!!
アラサー男子が、まるで思春期のようにモダモダした恋愛を繰り広げています。
彼らの不器用な言動すべてが愛おしい。
気になる相手に声をかけるのにもいちいち勇気を振り絞ったり、反対に相手の心が読めなくて、最初の一歩が踏み出せなかったり……。
読者は彼らのもどかしくも甘酸っぱい交流を、ひたすら固唾を呑んで見守るのみ。
 
ストーリー的には、大事件やひねった展開があるわけではないけれど、丁寧な心理描写やエピソードの積み重ねが好感度を抜群。
派手さはないものの、かゆい所に手が届く。
「そうそう、こういうのが読みたかったの」と、恋愛物の醍醐味を思い出させてもらいました。
ストラップの伏線などは、張り方も回収の仕方も上手いなと感心してしまいました。
登場人物の人数も、主人公二人に歩の同僚かつ相談相手の大石さん(既婚者)と必要最小限ですが、それが返って功を奏していて、二人の恋愛に集中できます。
 
吉井先生の絵柄も大好き。
美麗というわけではないんですが愛嬌がある。
表情のバリエーションも豊か。
反面、変に誇張しすぎてもいない。
こういう、外見的にはどこにでもいそうな普通の男性が、恋愛に一生懸命向き合っている姿にキュンキュンしてしまいます。
 

その恋、自販機で買えますか? 第1話

歩が山下に初めて声をかけてから、食事の誘いにOKするまで。
何気ない風を演じて山下に声をかけた歩が、内心では心臓バクバクだった事に、読者であるこちらもドキドキ。
 
自分はゲイだけれど、相手はどういうつもりで接してくれているのか……。
山下の好意の正体が分からず戸惑ったり。
ラ〇ンの返答一つにも緊張や喜びを感じたり。
そんな歩に共感を覚えずにはいられませんでした。
 
一方、山下は歩と違い、どちらかというと無表情なんですが、ちょっとした動作に感情がのってくるタイプ。
たとえば歩を食事に誘う時、手をギュッと握りしめたり、歩の答えを待ってじーっと見つめているのにも、緊張感が漂っています。
また、彼の目を通して見た歩のキュートな事この上ない。
女性的というわけではなく、素朴な可愛らしさ。
それだけで、山下がこの時点で、歩に対してかなりの好意を抱いているのが伝わってきます。
彼が鉄面皮ゆえに、最後の「っしゃ!!」も効果的。
「良かったね!」と、まるで友達の恋を応援しているような気分になる。
 

その恋、自販機で買えますか? 第2話

念願の食事に行って、二人はどんどん打ち解けていく。
場所がいかにもなデートスポットではなく、居酒屋でカレーライスを一緒に食べるというシチュエーションも、この作品にピッタリ。
取り留めない話をしながら、互いの事を少しずつ知っていく過程にキュンキュン。
ちょっとした言動から、相手の優しさや心遣いが伝わってくるのも格別。
山下への気持ちがいちいち顔に出てしまう歩はもちろん、無表情なのに心中では歩にときめいている山下がたまらん。
そして、彼は相当なムッツリと見た。
 
後半は急展開。
山下が好きだからこそ、歩はゲイである事を告げ、また山下も勢いに乗って、自分の想いを告白してしまう。
このシーンの指先の動きが絶妙(くっついたり離れたり)。
真っ赤になる歩も可愛い。
しかし、恋に不慣れな歩は、返事を保留にしてしまう。
 
出会ったばかりで、まだまだ距離感を測りかねる二人。
歩の思わせぶりなストラップの存在も、読者の興味を誘います。
 

その恋、自販機で買えますか? 第3話

前回の告白により二人のもどかしさ全開。
返事は保留にされてしまったものの、ストレートに歩へ向き合う山下が男前。
映画デートでも、なかなかの包容力を見せてくれる。
 
でも、実際は不安でいっぱい。
このシリーズ、当初は山下の真意が分からず歩の方が困惑を覚えていたのが、この回ではその関係性が逆転しているように見える。
「あの、オレ、本気ですからね」の、眉尻を下げたちょっと頼りなさげな表情だったり、歩の例のストラップを気にしたり。
歩の事を加速度的に好きになっていくのに、勢いのままにした告白が微妙な結果に終わり……。
宙ぶらりんになったおかげで不安になっていくという、山下の心情変化に大変説得力があるし、山下の違った側面も見えてきました。
 
ラストはまたまた急展開。
電車が運転見合わせになり、急遽山下の家に行く事になった歩。
恋愛物ではド定番のイベントですが、ニヤニヤが止まらない。
 

その恋、自販機で買えますか? 第4話

よく考えたら、好きな相手の家に行くって、かなり大事なんじゃ…!?

 
歩さん、今頃、気づいたんかい!!(笑)
コンビニの棚に並ぶゴムも見ないふり見ないふり。
 
片や、山下も想いを寄せる歩を家に泊めるのだから意識しまくり。
恋愛初心者の歩はいまいち疎いですが、山下はより具体的に色々妄想しちゃったんでしょうね。
それに煽られて、歩の羞恥心も膨らんでいく。
 
その後も、彼シャツならぬ彼スウェット(体格差に萌え)に始まり……。
ひょんな事から山下の上から下までくまなく目撃してしまった歩(ナニが凄かったんですかね、ニヤニヤ。←セクハラ案件)。
リラックスした山下の笑顔。
互いを意識しつつ、背中合わせで眠る二人。
王道ハプニングの連続で、お腹いっぱい夢いっぱい(?)。
 
特に、やっぱりストラップの事が気になって仕方がない山下や、彼の「…好きになってくれたらいいのになぁ、オレのこと」にはキュンとしました。
これは、歩じゃなくても絆されるわ……。
 

その恋、自販機で買えますか? 第5話

お泊り以降、なんだか壁のできてしまった歩と山下。
互いの事が大切だからこそ、一歩引いてしまう気持ち、すごく分かる。
 
前回までもそうでしたが、歩の感情と連動した表情の目まぐるしい変化に、読者もぶんぶん振り回されます。
特に夜の街で、山下と偶然顔を合わせてからの一連。
山下に優しくされてときめいたり、次の瞬間には山下に距離を取られて悲しくなったり、まるで感情のジェットコースター。
好きだからこそ、相手の一挙手一投足に反応してしまう。
「時間をとらせちゃったね。ごめんね」の、余裕を装った年上の仮面と、次のページの子供のように傷ついた表情の対比も上手い。
これは山下ならずとも、放っておけなくなります。

そして、やっと明かされるストラップの来歴。
あぁ、そういう事だったんだなぁと……、大どんでん返しはありませんが、この二人にピッタリなエピソード。
そして笑っちゃ悪いけど、真実を知った後の山下の表情に爆笑。
うわぁ、これは恥ずかちい……。
歩の怯えや恥じらいも理解できますが、もっと早く言ってあげれば良かったのに(笑)。
 
そんな訳で憂いも解消し、結ばれる二人。
このシーン、初めてのキスも、歩の敬語交じりの告白も、いちいちぎこちなくて悶えます。
そして、再び山下の家に行く事になった歩。
果たしてどうなる?
 

その恋、自販機で買えますか? 第6話

32歳童貞処女の破壊力、マジぱない。
物慣れないしぐさや言葉で、男の劣情のスイッチ押しまくり。
彼シャツ&生足で、前回の時よりも進化(?)してるし。
歩の言動すべてが、山下のツボにサクサク刺さっていて笑った。
「止めないでほしい」って、いや、頼まれずとも止められない止まらないから!!
 
今回は初心者の歩を考慮して素股でしたが、彼を気遣いつつも適度に強引な山下の塩梅が最高でした。
二人が互いの名前を呼び合っているだけで萌える。
いやぁ、年下攻めって本当にいいもんですね~。
 
ラストのベランダでのシーンもラブラブ。
こういう感情の擦り合わせって、お付き合いする上で非常に大事ですよね。
 

描き下ろし

祝・合体!!(もっとオブラートに包め)
 
もうね、歩のあまりの健気さとチャーミングさに語彙力が死にました(大体いつも死んでますが)。
ネットで男同士のやり方を調べるのは良いとして、当の山下に「準備の仕方を教えてほしい」とは、ちょっと天然が過ぎるのでは!?
そりゃあ、山下も「オレがしますよ、洗浄」となります。
 
今回、唯一の不満は、この洗浄シーンが割愛されていた点。
WHY!?なぜ!?
こうなったら、長年研ぎ澄ましてきた妄想力で脳内補完するしかない。
それでも歩の本音を汲み取ろうとする山下は天晴な男気ですが、歩本人に「あの………、俺も山下くんと、し、したいから…」なんて可愛い顔で言われたら、なけなしの理性も砕け散ります。
むしろ、健康な20代成人男性が、こんな恋人の傍でよく1か月も耐えたもんだ。
 
吉井先生の描くHシーンがこれまた楽しい。
がっついているんだけれど、下品にならず。
二人が相手を本当に好きなんだなとホッコリ。
歩も無事初体験が済んでなにより。
それどころかあまりにも気持ちが良すぎて、「もしかしてM……」と悩みは尽きませんが。
相方も洗浄で若干Sに目覚めたようなので、ちょうど良いバランスなんじゃないでしょうか?(笑)