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『OFF AIR イエスかノーか半分か』(一穂ミチ/新書館ディアプラス文庫)感想【ネタばれあり】

OFF AIR ?イエスかノーか半分か? (ディアプラス文庫)

OFF AIR ?イエスかノーか半分か? (ディアプラス文庫)

OFF AIR~イエスかノーか半分か~

OFF AIR~イエスかノーか半分か~

 
一穂ミチ先生の『OFF AIR イエスかノーか半分か』の感想です。
『イエスかノーか半分か』シリーズの同人誌収録作品や、付録ペーパーやブックレット、ブログに掲載された短編&ショートショートまで集めた作品集。
甘々から少し切ない物語まで作風も豊富。
大変ボリューミーで、ファンには嬉しい一冊。
シリーズ未読の方は、まず下記の三作から。
kashiwamochi12345.hatenablog.com
kashiwamochi12345.hatenablog.com
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『OFF AIR イエスかノーか半分か』(2017年9月10日発行)

総評

同人誌や付録ペーパーなど、場合によっては入手困難な媒体に発表された短編などを収録した作品集。
ショートショートなども合わせて20作以上。
おまけに、三巻以降で計と潮が半同棲を始めた新居の間取りや、二人の設定ラフ画まで掲載。
『イエスかノーか半分か』シリーズが好きだけれど、見逃してしまった読者にとっては歓喜せざるを得ない一冊。
また、既読のファンも、多くの作品が一挙にまとめられているので、作品世界にどっぷりと浸る事ができます。

シリーズ全体を通して、様々な時期の二人や、本編とはまた別の角度から切り取った物語など、趣向も凝らされています。
この一冊を読むと、本編を再び読み返したくなる事請け合いです。
 

熱帯ベッド

計が結婚式の司会の仕事を翌日に控えた夜の、二人のラブラブ。
寝室ひとつとっても、声を商売道具にした計のプロ意識の高さが垣間見える。
そして、そっち方面では、相変わらず潮の掌で踊らされる計が面白い。
職場ではあんなにできる男なのに、どうしてプライベートではこんなにチョロいのか……。
あられもない声を出したくないからって、潮の口でふさぐって、それ、潮の思うツボだから。
 
計を独り占めできるのは潮だけに許された特権。
確かに売れっ子アナウンサー・国江田計の自分オンリーワン視聴の生放送って贅沢すぎ。
冒頭の一編からこの糖度って、最後のページをめくるまで、私の脳と心臓は持つのだろうかと心配になりました。
 

きょうのできごと

二人の特別ではないけれど、かけがえのない一日。
一時的に喉の調子がおかしくなった計。
そんな彼を面倒みる潮は、オカンみが凄いというか、なんだかんだ言いつつも献身的で優しい。
潮が作る料理も、凝ったメニューではないんだけれど、大らかで温かみがあって彼の人柄を表している。
「きょうのできごと」というより、むしろ「きょうの料理」というか……。
ポーチドエッグののったマフィンやストーブで煮込み料理など、軽く飯テロなレベル。
痛んだ喉用のはちみつ大根漬けにも、アナウンサーを生業にする計への愛情が感じられる。
まあ、計が喉をからした原因の半分ぐらいは潮にあるんですけれどね、主にベッドの上で酷使されたという意味で。
 

This little light of mine

スケジュールがなかなか合わず、潮と共に過ごせない予感に一抹の寂しさを感じていた計。
そこへ、突然潮が現れて、二人は珍しく外でデートする事になる。
忘年会の途中なのに、コートも忘れて、潮について行っちゃう計が可愛すぎる。
親鳥に条件反射で付いていく雛みたい。
潮も計のために人気のない場所を選んだり、コーヒーを用意したりと、相変わらず出来た彼氏っぷり。
運河沿いの倉庫街というのもなかなか乙なもの。
ここで安易に青姦とかに流れないのも良い。
どうせ家に帰ったらイチャイチャするだろうけれど。
 

なんにもいらない

オールアイニード

二人のクリスマス前後のお話。
期間限定のアナウンサーカフェでギャルソンをやる事になった計。
ラテアートにも挑戦。
プライドがエベレスト級だから、絶対予習していくタイプだと思ったら案の定。
何かと器用な潮に、後ろから抱きすくめられながら指導を受ける計の姿が、映画『ゴースト』とオーバーラップしてニヤニヤが止まらない。
その他にも、潮のクリスマスプレゼントを一生懸命思案したり、潮が作ったクリスマス用プロジェクションマッピングを見て本人に会いたくなったりと、計の潮大好きエピソードがいっぱい。
毒舌は変わらずですが、普通に惚気ぶっこんでくるから油断できない。
あと今回は珍しく、国江田さんがお仕事で読み間違いをしていましたね。
確かに「サンタ」と「サタン」は紛らわしいですが。
おまけに、時はクリスマス。
これからも毎年このネタでいじられそう。
早速、直後の「オールユーニード」でネタにされているし(笑)。
 

オールユーニード

「オールアイニード」の対になる作品で、こちらは潮視点。
正月休みに、計と潮が計の実家へ行く話。
もしかしなくても一大事ですが、気負わず、しかししみじみと温かい話になっているのが大変このシリーズらしい。
三巻で潮の家庭の事情を知った後だと、また違った感慨が胸を過る。
ナチュラルな自分を受け入れてもらえるのが、どんなに貴重な事なのかを再確認できる作品。
 
電話出演で片鱗を感じてはいましたが、計の母親・正枝さんが非常に面白い。
独特なテンポと発想の持ち主ですが、良い味出しています。
息子である計との関係も絶妙で、変に甘やかす事も美化する事もせず、この距離感を保つのは、彼を一己の人間としてきちんと認めていなければできない。
こういう人が母親だからこそ、計も外と内のギャップに折り合いをつけて生きてこれたのではないかと思う。
正枝さん自身は「自分は変わっている」という自覚があって、おそらくそれに葛藤を覚えた時期もあっただろうけれど、そんな彼女を支えるお人好し過ぎるほどお人好しなお父さんも素敵。
 
息子の恋人・潮に対する、それぞれのスタンスも興味深い。
正枝さんにとっては、計が素の自分を見せられる潮という存在がいてくれるだけで嬉しかったでしょうね。
それこそ男女なんて関係なく。
自分に似た計が、孤独な人生を歩むんじゃないかと内心心配だっただろうから。
お父さんはお父さんで、カニ鍋の食べ方を見ただけで、潮の人となりを悟るのが凄い。
正枝さんの夫を長年しているだけはあります。
 

「連れてきてくれて、ありがとう。俺、お前もお前の親も、好きだ」

 
潮にこう言ってもらえて、計も嬉しかったでしょうね。
 

ぼくの太陽

メモリーズ

小学生時代の計、潮、竜起が、それぞれテレビ局に社会科見学に行く話。
三人とも、今のキャラが完全に出来上がってますね。
竜起がうざ可愛い。
計の飼っている猫の完成度も凄い。
100円と世間体を天秤にかける小学生(普通、防犯カメラまで気にするか!?)。
二人とも、アナウンサーになるなんて思いもよらない様子。
潮の面倒見の良さも、すでにこの頃から。
 

イミテーション・ゴールド

カメラマン・錦戸さん視点のお話。
本編では明かされなかった彼の一面が綴られています。
口は悪いけれど、やはり良い人ですね。
現場では超強気ですが、女系家族の中でいまいち立場が弱いのも微笑ましい。
 
個人的には、例の同期と未だに付き合いが続いていたのには驚きました。
どんなに相手が落ちぶれても、当時の同僚に感じた輝きは、彼にとっては「イミテーション」では決してなかったんだろうな。
たとえ仕事や私生活が充実しても、錦戸さんがずっと縛られてきたものに、なんとも言えない人生の苦さを感じる。
彼の奥さんも、それを察しているようなのがこれまた深い。
 

ぼくの太陽

ついに、二巻で語られていた、計の黒歴史のひとつ「ラブホで元素の周期表をセクシーに読む企画」の全貌が明らかに。
一見恥じらいつつも、腸煮えくりかえってたんだろうな(笑)。
それを動画サイトで聞いている彼氏。
新手のプレイですか?
あと、これまた計が潮に知られたくなかったお仕事「お上品な口調で官能的な絵満載の美術展のナビゲーションをする音声ガイド」とかね。
それを偶然入った美術館で、潮が聞いてしまうという……。
これも一種のラッキースケベ?
その他にもどんな仕事だって、計は悪態吐きつつも実直かつ完璧にこなしちゃうんだぞ、どうだ、俺の彼氏は凄いだろうという、つまりは潮の惚気いっぱいのお話。
音声ガイドのせいもあって、潮もいつも以上に滾ってます。
はいはい、ご馳走様としか言いようがない。
 

その他掌篇

ねないこだれだ

第一巻で計の正体を悟りつつも、その事を黙っている潮の話。
二人のキーアイテムの一つであるアクセント辞典に、計の似顔絵を描いた時の心境が綴られています。
潮が「国江田さん」と「オワリ」、両方大好きだという事がよく伝わってくる。
「俺はお前に、何をしてやれる?」という潮の計に対するスタンスは、この頃から一貫していますね。
 

真夜中のラブレター

第一巻所収の「両方フォーユー」で、潮がアメリカにとんぼ返りした時の計視点。
潮の家で、彼が描いた自分の似顔絵を偶然見つけた計。
うわぁ、これ潮本人よりも、計の方が居たたまれない気分になりますね。
イラストに潮の愛が如実に表れていそう。
計がすぐにでも潮の顔を見たくなっちゃう気持ち、分かります。
でも、会えるのはまだ先。
甘酸っぱい。
 

あなたの知らない世界

第二巻の「そうちゃん」ネタ。
竜起、怖いもの知らず過ぎ。
カウントが折り返しになった時点で「ギャーーー!!!」と悲鳴を上げたくなりました。
下手なホラーより背筋が寒くなるのはなぜ?
そうちゃん、カウント0になったら、一体何をする気だったのか?
知りたかったような……、知りたくなかったような……。
そうちゃん、マジで自然現象も操りそうな底知れなさがありますからね。
 

世界をとめて

第二巻で計の記憶が戻った直後の話。
普段の二人の日常がどれほどかけがえのないものなのか、失いそうになって初めて分かる。
潮が計だけに、花火の動画のディレクターズカット版を見せてあげるのが良い。
いつもは仕事に対して愚痴をこぼさない潮が本音を表すのも、計が彼にとって特別な人だから。
 

Change The World

第二巻で計と潮がもめた時、温泉に行ってしまった潮を計が追いかけてくる直前の話。
潮にとって、計ってビックリ箱みたいな存在なんだなと。
計への想いを語る潮の内心があまりにも雄弁で、こちらが赤面したくなります。
 

特別に試食させていただきました

ぽんぽん飛び交う国江田計のキャッチコピーが楽しく、テンポの良いショートショート。
でも、スタッフ(潮)、試食というよりも、毎回完食しているような気がしないでもない今日この頃。
 

VOICELESS

最も有効なしゃっくりを止める方法。
でも、この方法を計に施せるのは潮だけという……。
仕事先では使えないのが、唯一にして最大の難点。
 

JUST LIKE a Chocolate

バレンタインと潮が嫉妬する話。
バレンタインチョコの交わし方があまりにも計らしくて爆笑。
超効率重視。
色気もへったくれもない。
ゴデ〇バの名前の由来も一刀両断。
まあ、確かに超マニアックな羞恥プレイとしか思えませんが。
潮もバレンタインは一見平気そうなのに、そこには妬くんだ(笑)。
潮自身も結構羞恥プレイ好きそうですが、やはり独り占めしておきたい模様。
 

おうちのあかり

第三巻で二人が半同棲を始めた後。
計が目撃した不思議な夜のお話。
幸せだけれど儚い、一瞬の邂逅。
確かに夢や幻かもしれないけれど、そこで見た光景や潮の母親の輝く笑顔は、計にとって紛れもない「リアル」だったから。
それを胸に抱きながら、計はこれからも潮を愛し続けていくのでしょう。
 

カントリーロード

潮と彼の祖母の語らいと、彼が新しい「おうち」を見に行く話。
潮のおばあちゃん、軽やかで、孫の事を温かく見守っていてくれて素敵。
娘や婿である潮の両親に対して、複雑な想いもあっただろうけれど、幸せな時があったのも確かで。
それを潮に教えてあげられるのは彼女だけ。
潮の父親も、彼の秘書も、その点は不器用そうだから。
こういう小さなエピソードの積み重ねが、いつかきっと雪解けをもたらしてくれる。
 

オールフィクション

NHK様は偉大だというお話と、竜起はやはり只者じゃなかった件。
冒頭の(※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係がありません)がシュール。
でもNHKが伏字になっていない時点でお察し(笑)。
竜起は男前なんだか、単にザッパーなんだか、……まあ、九分九厘後者なんでしょうが、選挙特番に新たな伝説を刻んだ事は確実。
 

放送上の演出ではありません

生放送中にとんでもない爆弾を投げてくる竜起と、それを見事に打ち返す計(後で大乱闘必至)。
局内でも密かに名物コンビで通ってそう(計が切れそうですが)。
 

くにえだくんとあそぼう

計と潮の、安上がりだけれど甘~い遊戯(not エロ)。
まあ、ゲーム後はエロにはなだれ込みそうですが。
なんだかんだで素直かつ真面目な計と、要領の良い潮。
プレイスタイルに、二人の性格がよく出てますね。
 

太陽がいっぱい

なんとなく懐かしいサンシャイン池崎ネタ。
国江田計のうそっこ個人情報。
捏造のはずなのに、貯金額とキャッシュの暗証番号が微妙にリアルでイヤ(笑)。
ラストのオチも……、まさかのリバ!?
 

はつなつの星座

第三巻後のお引越し話。
荷物運びから事務手続きまで、ほとんど潮任せな点に爆笑。
色々やらかしたとはいえ、これでもキレない潮って、やっぱ偉大だななぁ。
本人、これでまったく無理していないっていうのが凄い。
懐が深いを通り越して、もしかして底が抜けてませんか?
そして、二人の新居にちゃっかり出入りしている竜起。
でも、もちろん、初夜だから追い出される(笑)。
「営む」、「営まない」でイチャイチャする二人にニヤリ。
 

bless you

18歳の頃の二人のニアミス。
ここで「運命的な出会い」とかやっちゃうと返って冷めてしまうんですが、必要以上にドラマティック&非現実的ではないのが一穂先生らしい。
心の琴線に触れるか触れないか……。
そのあやふやさの匙加減がお見事。
 

デイドリームビリーバー

描き下ろし作品。
「ザ・ニュース」のOPの続きをずっと作りたがっていた潮が、とうとう作業に着手し、完成させた話。
「ザ・ニュース」のOPは、二人にとっても思い出深い作品。
二人の脳裏にも、自分達の出会いから今までの色々な出来事が過ったのではないでしょうか?
様々な人々に接し、紆余曲折を経る事によって、人として成長してきた計と潮。
それが作品に反映された事は、想像に難くありません。
 
完成した続編を見て、潮の父親は何を感じたでしょうか?
潮と彼の父親は今回直接言葉を交わしていないけれど、そこには会話と同じくらい、もしくはそれ以上に濃厚なコミュニケーションがあったのではないかと感じずにはいられませんでした。
そして、潮の父親がさらに潮を理解するのに一役買う計。
潮、本当に素敵なパートナーを得ましたね。
本作はこの一冊の追尾を飾るのに相応しい作品だと思います。
一穂先生にとって計と潮が主人公のお話はこれで書き収めかもしれませんが、二人はこれからも共に歩み、物語はこの先もずっと続いていくんだなと信じられる、そんな余韻を残してくれるラストでした。