ボーイズラブのすゝめ

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『囀る鳥は羽ばたかない(3)』(ヨネダコウ/大洋図書H&C Comics)感想【ネタばれあり】

囀る鳥は羽ばたかない 3 (HertZ&CRAFT)

囀る鳥は羽ばたかない 3 (HertZ&CRAFT)

囀る鳥は羽ばたかない(3) (H&C Comics ihr HertZシリーズ)

囀る鳥は羽ばたかない(3) (H&C Comics ihr HertZシリーズ)

 
『囀る鳥は羽ばたかない(3)』の感想です。
銃撃事件を皮切りに、矢代を取り巻く環境は混迷を深めていく。
果たして、矢代を狙ったのは誰なのか?
また事態が緊迫化する中、矢代と百目鬼は、互いに対する想いを抑えられなくなっていく。
 

『囀る鳥は羽ばたかない(3)』(2015年6月1日発行)

あらすじ

舎弟の七原が行方不明になり、重傷を負いつつも陣頭指揮に立つ矢代。
なんとか七原の安否を突き止めるが、七原自身は矢代を傷つけた主犯として竜崎を名指しする。
どうやら、組長である平田が、情報を七原に吹き込んだようなのだが……。
そんな中、矢代を襲った実行犯が消され、竜崎及び彼が率いる松原組を突け狙う二人組が現れ、事件は新たな局面を迎える。
 

総評

まずカラー口絵が良いですね。
おそらく三角に連れてこられたばかりであろう矢代と、少年時代の百目鬼。
色々妄想が膨らみます。
 
本編に目を移すと、今回の物語もあらゆる意味で濃かった。
もちろん、矢代と百目鬼の関係にも目が離せませんが、脇のおっさん達の愛憎劇が凄まじい。
これだけバイプレイヤーに心血注いでる作品も、そうそうないでしょうね。
噛めば噛むほど味が出るスルメみたい(褒めてます)。
もう、ボーイズラブの範疇を超えている。
人間の心の裏の裏まで描いたヨネダ先生に拍手。
まさか竜崎に感動させられるとは、彼が登場時には思いもよりませんでした。
 
主人公の矢代と百目鬼の関係は、もうギリギリの綱渡り状態。
矢代の頑ななのに、触れなば落ちんといった風情がたまりません。
百目鬼も自分が抱く二律背反で苦しんでるし。
悩める男の色気プンプン。
二人ともいっその事綱から落ちたら楽なのかもしれないけれど、彼らの生き様を鑑みると安易に踏み外せとは言えない。
彼らがこの先どう折り合いをつけて生きていくのか、非常に気になります。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第11話

舎弟の七原が姿を消し、動き始めた矢代。
もちろん、一命を落としかけ昏睡状態に陥っていた彼が大丈夫なわけないんですが、事態を看過できない。
それこそ、今回の事態のマズさを文字通り一番肌身で思い知っているのは彼だから。
七原の女の視線ひとつで事実を見抜いたり、正体不明の追手を退けたりと、今回は彼の切れ者ぶりと剛胆さを堪能できました。
それを支える百目鬼も男前ですね(ついでに杉本も)。
また、全体的に緊迫した中にも「やぁだぁ――っ、もう今夜ヤるだなんてぇ~~~(ハート)、スケベなんだからぁ、ななタンはぁ」や(ったく、ヤりたくなっただろーが)にはニヤッとしましたが。
こんな奔放な矢代の舎弟を務めるのも大変だ。
 
今回、最も一番印象に残ったのは、百目鬼が矢代を着替えさせるシーン。
下手な濡れ場よりもエロスなんですが、それと同時に二人の背筋がピンっと伸びていて、神聖な儀式を彷彿とさせる。
矢代が撃たれた時の百目鬼の動揺をわざとからかう矢代だったが(矢代なりの気遣い?)、それを百目鬼は直球で撃ち返してくるからな、やはり怖いわ、この一途さ。
両者とも激痛に耐えているはずなのに、意地っ張りというか、本当に不器用で愛しい男達。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第12話

ある裏路地で、矢代を撃った男が正体不明の二人組に痛めつけられている。
かといって、彼らが矢代の味方というわけでもなく……。
やはり今回の件は竜崎が主犯ではなく、他の誰かがいる事を仄めかしている。
サスペンスとしても良質なのが本作の凄さ。
矢代の動きを中心に、随所で差し挟まれるその他のキャラの視点も物語を盛り上げます。
 
矢代の右腕、想像以上に悪そう。
本人は相変わらず脳内ピンクな事言っていますが、彼一流の強がりとも取れる。
松原組にやって来た矢代達。
百目鬼の容赦のなさに目を見張る。
矢代を護れなかった無念を経た彼は、視線のどう猛さが違う。
これは狂犬どころか、作中でも言われている通り、まるで重戦車だ。
矢代の前に立ちはだかる者は、誰かれ構わず粉砕する勢い。
指を詰めた事といい、ずぶずぶと極道にハマっていっている百目鬼。
矢代は大切なものほど、自分からかけ離れた奇麗なところに置いておきたがる傾向があるから、こんな百目鬼を見て複雑だっただろうな。
 
竜崎の舎弟に煙草を押しつけたり、死の接吻(死んでいない)をかます矢代も、いつも通りえげつないですが、やはり強がっていた。
意識を失い、影山のところへ担ぎ込まれる。
ここで影山に痛いところを突かれる百目鬼は、やはり20代の青年ですね。
矢代を失いかけてから、余裕なんで吹き飛んでいる。
片や、矢代もケガによる発熱で朦朧としているから、色々と抑えが効かない。
久我と部屋を出ていきそうな百目鬼を、無意識に引き止めてしまう矢代。
こんないじらしい事をされてしまったらたまらないでしょう、男なら。
おまけに矢代は欲情して、自慰まで始めてしまうし……。
百目鬼は「俺がやります」なんて言い出すし……。
普段は自分の想いを抑圧し過ぎるほどしている、二人の箍が外れていく過程がエロティックすぎ(鼻血)。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第13話

竜崎への制裁の為、いよいよ一人、竜崎の根城へ乗り込もうとしている七原から始まる第13話。
降りしきる雨音、階段に響く足音などがいまにも聞こえてきそう。
ドアに手をかける七原の手のアップと横顔が、読者の緊張感を掻き立てる。
 
場所は打って変わって、矢代と百目鬼 in 診察室。
百目鬼、「嫌なら言って下さい」って、矢代は本能的に嫌じゃないから困ってるんですよ(第7話と立場が逆ですね)。
今まで矢代が百目鬼をフェラしてきたのは、百目鬼が不能ゆえにすれすれのラインで性行為が成立せず、抑制が効いていた。
しかし自分がされる側はマズい。
矢代には自分がこの上もなく高ぶってしまう予感があったから。
 
ここで、映画館で百目鬼にフェラを拒否された事に関して、あんな涼しい顔をしていた矢代が、実はショックを受けていた事が明かされる。
この時の百目鬼の真意は、さすがの矢代も汲み取れなかったんだ(映画館内、暗かったしね)。
だとしたら、あの後でジュースを買ってきたり、百目鬼の肩に頭を預けた時の矢代の心中は如何ばかりだったのか、想像すると無茶苦茶萌えるんですが。
えっ、矢代可愛すぎない!?
 
百目鬼の奉仕に得も言われぬ快感を覚えてしまう矢代。
だが、これは同時に恐怖でもある。
百目鬼ほど矢代を大切にする人間はいない。
いずれ彼の身を亡ぼすのではないかというぐらいの勢いで。
百目鬼の在り方は、今までの矢代の生き様を根底からひっくり返す。
そして今回はもう一歩踏み込んで、もし百目鬼が本気になれば、自分などは容易く抑え込まれてしまう事を矢代は自覚してしまった。
さらに矢代は追い込まれていく。
そこへ……。
 
杉本、そこに直れや~~~!!!
空気を読まずに杉本参上。
読者の怒りを一身に受けた彼ですが、矢代的には一応救世主?
 

すみません、先生に見られるような所で…。

 
矢代と同じく「えっ、謝るとこ、そこ?」とポカーンとしてしまいました。
一見忠犬に戻ったかに見える百目鬼ですが、やはり熱を持て余していたか。
もう矢代の痴態を見ても、何も感じなかった頃には戻れません。
  
一方その頃、矢代を取り巻く状況は時々刻々と変化していた。
矢代を撃った実行犯は消され、潜伏している竜崎もまた、例の二人組を前に逃げ場に窮していた。
そして黒幕はやっぱりアンタだったか、平田……。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第14話

今回はいつもよりもさらにおっさん密度が高い。
もはやボーイズラブとは思えない渋さ。
平田が竜崎を利用し、なぜこんな強硬手段に及んだかが語られている。
度を越した嫉妬と妄執は、時に愛よりも強烈に人を縛り付ける。
 
平田の恐ろしさをまざまざと思い知らされました。
今思うと、三角がある種の特別待遇で連れてきた時から、矢代は平田の怨嗟の対象でしかなかった。
そこですぐに矢代を消さないのが平田の怖さで、彼は20年近くの間ずっと妬みをため込んで、今は自分の組の若頭まで任せていた。
敬愛する三角の意向を汲んでの事でしょうが、その歪んだ関係に背筋がゾッとする。
だが、そんな平田でも見過ごせないような事態が起きた。
最後の最後で三角が自分よりも矢代を選ぶのは、平田にしたら許し難かったでしょうね。
また、それを冷静に分析し、自分が喉から手が出るほど欲しいものをあっさり捨てようとする矢代の態度が、また平田の憎悪を掻き立てる。
  

バカは使いようだな。

 
しかし、平田が「バカ」と見下した竜崎にも譲れないものがあった。
若かりし頃の竜崎と矢代の、とあるひと時。
この矢代を見る竜崎の目が、なぜか百目鬼のそれと重なる。
どんなに貶められても汚れない奇麗なものに対する憧憬や、自分にはそれを手にできないという諦めがこもっているからでしょうか?
 

囀る鳥は羽ばたかない 第15話

翌朝。
再び事件を追い始めた矢代達。
知略家である矢代は、すでに平田の企みに気づき始めている。
平田の自分に向けられた嫉妬も、以前からすでにお見通しだったのでしょう。
ここで、あえて平田のところを張らせていた人間を引かせるのが凄い。
おそらく、三角の立場を慮っての事だろうけれど、当の三角も感づき始めてるから……、事態はいよいよ混迷を極めていく。
 
引き続き情報を得るために、矢代は刑事に体を差し出そうとする。
ここの矢代と百目鬼の痴話げんかまがいのやり取り。
先ほどまで冷静な裁可を下していた矢代と同一人物とは思えない。
軽口をたたくうちに、自分を袋小路に追いつめていく。
一方、百目鬼は……。
 

見たくありません。
でもやめて欲しいとは言えません。
それがあなたのしたいことなら仕方がありません。

 
理性と欲望のせめぎ合い。
その拮抗が崩れた時、二人の関係はどうなってしまうのか……。

 
その後も矢代を抱きに来た刑事(端的に言ってクズ)を挟んで、二人の抜き差しならない想いはさらにヒートアップしていく。
百目鬼の前では露悪ぶるくせに、ここぞのところで百目鬼をかばう矢代の健気さ。
そして矢代が乱暴されている部屋の前で待っている百目鬼。
傍にいるためには口出ししないのが前提条件なのに、矢代への独占欲は抑えがたいものに育っている。
もう当初の二人のバランスなどはとうに壊れているのを二人とも悟っているのに関わらず、それに縋っているようにしか見えない。
形だけでもなんとか取り繕うために。
ラストのコマの、百目鬼に奉仕されても苦しそうな矢代の表情が切ない。
  

囀る鳥は羽ばたかない 第16話

うわぁ、百目鬼、絶対敵に回したくないという杉本の意見に激しく同意。
だがこのクズも自業自得。
矢代をあれだけ痛めつけた上に、百目鬼の家族を当て擦るって、自ら重戦車の前に飛び出すのも動議。
おまけに杉本の逆鱗にまで触れて愚かすぎる。
なんだかんだ言って、杉本も矢代の事大事に思ってるんだなとホッコリ(このシーンでホッコリするってかなり感覚マヒしてる)。
 
一方、矢代と百目鬼。
さらに一線超えてしまったというか……。
矢代はついに最中に百目鬼を求めるような事言ってしまいましたね。
おまけに百目鬼にアレ飲まれちゃうし……。
そこで「普通」にこだわるのが、矢代らしいっちゃらしいですが。
百目鬼が部屋を去った後、彼を思って自分を慰めるのがエロ過ぎ。
 
片や、百目鬼も矛盾を抱えて葛藤していた。
矢代を護りたい。
でも同じくらいの熱量で汚したい。
父親の所業もブレーキになり、二律背反で雁字搦めになっている。
正直、矢代の傍にいるのは苦行にも等しいんだけれど、それでも彼の傍を離れるなんて思いもよらないんだろうな。