ボーイズラブのすゝめ

ボーイズラブ系のコミックス&小説の感想を中心に。

『囀る鳥は羽ばたかない(6)』(ヨネダコウ/大洋図書H&C Comics)感想【ネタばれあり】

囀る鳥は羽ばたかない 6 (HertZ&CRAFT)

囀る鳥は羽ばたかない 6 (HertZ&CRAFT)

囀る鳥は羽ばたかない(6) (H&C Comics ihr HertZシリーズ)

囀る鳥は羽ばたかない(6) (H&C Comics ihr HertZシリーズ)

 
ヨネダコウ先生の『囀る鳥は羽ばたかない(6)』の感想です。
肉体関係を持った後、矢代に置いていかれた百目鬼。
百目鬼の存在を振り払うように、全てにケリをつけるために動く矢代。
平田との抗争にいよいよ決着の時。
そして、矢代と百目鬼の関係は新たなステージへ……。
 

『囀る鳥は羽ばたかない(6)』(2019年5月1日発行)

あらすじ

真相を察した三角によりじわじわと追いつめられていく平田。
ついには三角を裏切って三和会と盃を交わす話もご破算になり、共謀していた豪多組の組長・仲本を殺害してしまう。
平田に仲本殺害の罪を擦り付けられ、豪多組の残党に狙われる矢代。
そんな彼が銃撃されたところを間一髪救ったのは、捨ててきたはずの百目鬼だった。
矢代は百目鬼を拒みつつも、再び行動を共にする事になるが……。
 

総評

第6巻も読み応え抜群でした。
様々な人間達の打算や策謀。
ボーイズラブ作品の中でも、そのストーリーテリングの巧みさは抜きんでています。

長かった平田との戦いにもとうとう決着がつきました。
作品内時間ではおそらく数日である事が信じられないぐらいの密度と熱量。
矢代と平田の対決、そして三角の平田に対する断罪も凄かった。
平田の所業はどう見積もっても最悪で、到底同情できるような人間ではない。
だが、一人の人間に長年執着し、それでも振り向いてもらえなかった末路を思うと、なんとも言えない苦さと虚しさが胸を去来します。
 
矢代と百目鬼の関係も、今まで以上に痛々しかった。
「好き」や「愛している」という感情で動くには、あまりにも壮絶な人生を歩んできた矢代。
最も癒してくれるはずの相手が、矢代の今までの人生とアイデンティティを脅かすというのが酷すぎる。
ただ現時点で百目鬼ができるのは、矢代をひたすら追いかける事だけで。
百目鬼が矢代を愛し、守ろうとすればするほど、矢代を傷つける。
この二人がどうしたら幸せになれるのか……、読者である私にも見当がつかない。
 
ラストの展開も悲しかったものの、「やはりそうなったか……」と静かに納得している自分もいる。
これは矢代という人間が生きていく上で必要なプロセスだったんだなと。
しかし、これからもこの作品はもちろん続いていくので、二人の歩む道はまたいつか交差する。
その時、彼らがどうなるのか、楽しみで仕方がありません。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第29話

冒頭、幼少時の大人びた百目鬼と、現在矢代に置いていかれて寄る辺を失くした子供のような彼の対比が秀逸。
けれども、ここで引き下がるようなら、百目鬼も最初から矢代みたいな厄介な男に惚れてない。
矢代に捨てられて狂犬度がアップした彼の視線にゾクゾク。
甘栗(仮名)もイイ感じに百目鬼を煽ってくれる。
 
後半は「ここで黒羽根の姪のトモちゃんの話題が絡んできたかぁ」と驚嘆。
さすがヨネダ先生、展開に穴がない。
そうですよね。
三角ほどの男が、平田の証言を易々と鵜呑みにするわけがなかった。
しかも半身とも言えた黒羽根に関わる事なんだから。
平田については部下として情をかけつつも、長年警戒してきたというわけですか。
どう転んでも、尋常な神経ではないですね。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第30話

三角が平田の外堀を埋めていく。
表立っては動けなくても、三和会の幹部も使って、やり方は如何様にもあるという感じ。
矢代を見張らせていた二人組も、一見ギャグ要員かと思いきや、とんでもない連中でした(ガクブル)。
彼らの車の荷物シートみると「銃刀法とは……」と茫然としてしまう。
一方、平田は豪多組の仲本と決裂寸前。
どんどん追い込まれていきますね。
まるで蟻地獄。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第31話

前回に引き続き、おじさん達の怖い駆け引き。
まあ、三和会の盃が受けられない以上、平田に仲本とつるんでいるメリットはないわけで(逆にデメリットしかないし)仲本を殺害。
ホント先に殺ったもん勝ちの世界。
おまけにその罪を矢代に被せる念の入れよう。
おかげでパパン(三角)は矢代の事が心配でしょうがない。
その親心が、平田の矢代に対する憎悪に一層火をつけるんですが。
 
ここで三角の前に姿を現す平田の面の皮にも驚かずを得ない。
平田には現状三角の反対勢力を味方に付けるぐらいしかできないが、それを一切表に出さない度胸は、もはや常人には理解不能。
おまけに矢代に恨みのある刑事・井波まで投入してくるとは……。
このシリーズって、捨てキャラが本当にいませんね。
ヨネダ先生の作る緻密な物語構成に脱帽。
 
そして後半は、すべてを置き去りにして、一人決戦の場所に赴こうとする矢代。
通して読むと、矢代なりの目算があるんですが、水臭い事この上ない。
矢代なりに周囲の人間を大事に思っての行動でもあるけれど……。
舎弟である七原達からしたら無力感半端じゃないでしょうね。
 
そんな矢代の前に現れたのが、やっと追いついた百目鬼。
このシーンの百目鬼の顔つきが、以前と明らかに違う。
二人が別れて時間的にはそれほど経過していないのに、凄味が急激に増した。
人間って決定的な「何か」があると、短時間でここまで変わってしまうものなんだなと。
それを目の当たりにしてしまい、何だか空恐ろしささえ感じてしまう。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第32話

矢代と百目鬼のやり取り。
このシーン、コマ割り、画面効果、テンポなど、すべてが最高。
 
予想はしていたけれど、どちらにとっても痛い。
ことさら露悪的になり、百目鬼を傷つけるような言葉を次々に吐く矢代。
だが、矢代の側を離れないと決めてしまった百目鬼はもう揺るがない。
純粋でひたむきな中にも、矢代を何があっても手放さないというエゴを感じます。
たまらなく魅力的なんですが、それと同時に矢代が感じる脅威もさらに増していく。
 
一方、影山診療所の面々。
七原、やっぱりアホの子だなぁ。
場が和むから大好きだけれど。
ビッチが良くてヤ〇マンがダメって、どういう基準なの?(まあ、確かに矢代にはないけれど)
しかし、付き合いが長いだけあって、矢代の事はよく見ている。
確かに、矢代と影山の腐れ縁の秘訣は、影山が矢代の事を分かっているようで分かっていない、そして分かっていないようで分かっている……、その逆説のバランスにあるんでしょう。
そして影山の、百目鬼×矢代の関係の把握してなさ加減に笑う。
核心突いてるくせに、本当に微妙な匙加減で外してきますね、この人。
 
ラストは矢代の命令で、平田を拉致しに来た甘栗達。
いよいよ物語もクライマックスが近い。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第33話

空港近くの倉庫にやって来た矢代達。
涼しげな顔を装っていても、矢代の体はボロボロ。
巻数は重ねてはいますが、銃撃からまだそう経っていないはず。
おまけにずっと極限状態が続いている。
 
ここでは前回とは一転、百目鬼が年相応の青年の表情を見せる。
矢代が弱っているのもありますが、彼が強がりではなく本音で語っているのを悟っているんでしょうね。
百目鬼が矢代に膝枕してあげているのが、第4巻のアパートでのシーンと重なる。
短い間の出来事なのに、二人とも随分遠くまで来てしまったような気がします。
 
百目鬼に「人を好きになるのって、お前はどんな感じだ?どんな風に好きになるんだ?」と尋ねる矢代。
矢代にとってはそれが「痛み」であるように、百目鬼にとっても矢代への想いがそうなりつつある。
ここまでだけでも胸に響く名シーンなんですが、さらに素晴らしいのはこの後。
次の瞬間、百目鬼にとって矢代は「痛み」のみに留まらず、「癒し」でもある事が証明される。

 

…妹は良かったな、お前がいて。

 
これは幼少期に性的虐待を受けていた矢代が、同じ境遇にいた百目鬼の妹に自分を重ねて呟いた台詞なんですが、この一言によって百目鬼は救われる。
凄いのは、矢代は百目鬼を救おうなどという意図はまるでなく、ただ素直な心情を吐露しただけだという点。
だがそれが、百目鬼をこの上もなく癒してしまう。
単なる偶然と言ってしまえばそれまでなんですが、まるで奇跡を見た時のような感慨を覚えるのは私だけでしょうか?

しかし、そんな柔らかな時間は長くは続かない。
矢代は百目鬼の隙を見計らい、銃を奪って突き付ける。
 

簡単に抑えつけられる人間に、銃口を向けられる気分はどうだ?

 
二人っきりの倉庫に銃弾が鳴り響く。
そして、いよいよ矢代と平田の一騎打ち。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第34話

矢代 vs 平田。
身内どころか、三和会まで巻き込んで、どちらかがこの世から消えなければ、もう収まりがつかない局面。
手に汗握る緊張感。
ここでは矢代の切れ者ぶりが存分に発揮される。
甘栗達を利用して、短時間の内に平田の全財産を奪ったのにはゾクゾクしました。
あれだけ生きるか死ぬかの瀬戸際にいながら、裏でこれほどの策を弄していたというのが恐ろしい。
しかも、甘栗達に裏切らせない底知れなさがあるんだから只者じゃない。
 
一方、平田は後がない上に、矢代への憎しみは増すばかり。
彼が矢代を憎悪するのは、やはり三角への執着ゆえだった。
矢代がただの愛人だったらまだ良かったけれど、三角の隣に立つべく、自分を差し置いて極道の世界で上り詰めていくのは許し難い。
折角、黒羽根まで殺したのに……。
このシーンの平田は、もう保身なんて考えていない。
ただただ矢代への怨讐の権化。
 
片や、矢代も死に場所を求めてる風なのが……、もう言葉も出ません。
矢代にとっては、生きる事即ち苦界にいる事だった。
安易に「死を選ぶ事は罪」なんて言えないのと、それでも生きて幸せになって欲しいという気持ちが、私の中でもせめぎ合いました。
しかし、やはりそこで矢代を命を賭して助けてしまうのが百目鬼という男で。
そして矢代も、百目鬼になにかがあれば我を忘れる。
矢代にとって一人の男に縛られて、あまつさえ幸せになるなんて事はあり得ない夢物語であり、今までの人生を全否定する事態。
つまり百目鬼は物理的には矢代を救えても、精神的には殺す事にもなりかねない。
辛すぎる。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第35話

冒頭、百目鬼が矢代を間一髪で救う事ができた経緯。
矢代が弾を外したのは想定内でしたが、七原、イイ男だな。
この期に及んで、百目鬼が矢代と関係したのを羨ましがっているのはどうかと思いますが(笑)。
 
その頃、とうとうラスボスならぬ三角が直接打って出ましたね。
道心会の会長・立木も息を引き取り、跡目問題も決する。
三角の平田への処遇は……、これは考えうる限り一番残酷な断罪ですね。
最後まで徹底して眼中に入れない。
平田のこの何十年かは、一体なんだったのか……。
彼の自業自得とはいえ、三角の恐ろしさをまざまざと思い知りました。
 
最後に矢代。
影山との関係は、今回の件で完全に吹っ切れたんでしょうね。
影山の言った「身内」というのが、実にしっくりくる。
相変わらず分かってないくせに、本質に肉薄してくるな、影山。
 
百目鬼とは……やはりそうなっちゃうか、というのが正直なところです。
悲しいのだけれど、予感はしていました。
あの口八丁手八丁の矢代が「頭を打って憶えていない」なんて子供みたいな嘘を吐く点に、返って強い拒絶を感じる。
だからこそ、百目鬼は引き下がらざるを得なかったんでしょうね。
 
そして、物語は新たなステージへ。
なんか、新生・矢代に不覚にも(?)ときめいてしまいました。
男前度&色気度がアップしてませんか?
百目鬼の詳細は不明だけれど、意味深な手と頬のアップが気になります。
 

飛ぶ鳥は言葉を持たない

入院中の百目鬼と七原の会話。
七原、ところどころアホだけれど、本当に良い兄貴分だな。
それに、やっぱり矢代の事をよく理解していますね。
いちいち当を得た事を言う。
 
百目鬼も、今の自分では矢代を追いつめるだけという事を悟ってしまった。
しかし、ラストの鋭い横顔を見ると、矢代を諦める気は毛頭なさそうでちょっと安心する。
さらにヤバイ世界に踏み込む事になりそうですが……、今でもかなり男前なのに、この先、どんな進化を遂げるのか?
とにかく先の展開が楽しみで仕方がありません。