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『囀る鳥は羽ばたかない(2)』(ヨネダコウ/大洋図書H&C Comics)感想【ネタばれあり】

囀る鳥は羽ばたかない 2 (HertZ&CRAFT)

囀る鳥は羽ばたかない 2 (HertZ&CRAFT)

囀る鳥は羽ばたかない 2 (H&C Comics  ihr HertZシリーズ)

囀る鳥は羽ばたかない 2 (H&C Comics ihr HertZシリーズ)

 
『囀る鳥は羽ばたかない(2)』の感想です。
少しずつ形を変えつつも、徐々に近づいていく矢代と百目鬼の関係。
ところがその裏で、道心会の跡目問題に絡んだ人々の思惑が不気味に蠢いている。
とうとう矢代が銃撃される事件まで起こり、事態はさらにひっ迫するが……。
 

『囀る鳥は羽ばたかない(2)』(2013年11月1日発行)

あらすじ

ある日、矢代の舎弟・七原と、矢代と何かと衝突する松原組のチンピラの間で小競り合いが起きる。
なにかと衝突する松原組の組長・竜崎を掌で転がし、場を収める矢代だったが、それはこれから始まる抗争の一端に過ぎなかった。
映画館を出たところを、何者かが放った鉄砲玉に銃撃された矢代。
辛くも命の危険は脱するが、責任を問われた百目鬼は小指を詰める事になる。
矢代を失う以上に恐ろしい事などないと改めて自覚する矢代だったが……。
 

総評

第1巻よりも生々しさと血生臭さが格段にアップしています。
その中で矢代と百目鬼の、引いては打ち寄せる波のような関係性がとても奇麗なものとして、読者の目に映る。
また日増しに高まっていく、百目鬼の矢代に対する執着にもドキドキ。
矢代と他の男とのセックスを眉一つ動かす事なく見ていた彼と同一人物とは思えない。
一方、聡い矢代は百目鬼の想いをどこまで汲み取っているのか……、まあ、認めてしまったら傍に置いておけないから、簡単に認めるわけにはいかない。
その辺りの、二人の感情のせめぎ合いがたまらない。
 
しかし、彼らの甘く、酸っぱく、苦い関係にばかり浸っているわけにはいかない。
道心会の跡目問題に端を発したいざこざが、この巻から噴出してきます。
男達それぞれの抱く欲望、そして彼らなりの正義や信念が渦巻いて、物語がより重層的になってきました。
作品全体から漂う緊迫感と熱狂に、こちらが火傷しそう。
 
後半は若き日の矢代と三角の出会い。
「温かい」とは一概に言えないけれど、情の通い合った不思議な関係の二人。
三角がもしいなかったら、矢代は早晩命を落としていたかもしれない。
今思うと、三角って矢代のセーフティネットだったんだなと。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第4話

いきなり百目鬼に警察官の格好をさせたイメクラプレイで始まる第4話。
今回は百目鬼視点のお話です。
表情が変化しない為、今一つ内面を推し量りにくい彼ですが、予想以上にまっすぐな人間。
何のお為ごかしもなく、矢代に対して何かを期待や強要したりするでもなく、ただ泰然としてそこにいる。
基本的に、矢代にとっての性行為=相手に虐げられる行為なので(あえてそういう相手ばかり選んできた)、誰とも違う百目鬼独自のあり方は「自分が変えられてしまうかもしれない」という危機感を生む。
あえて自虐的な言動をとっても、百目鬼がすべて塗り替えてしまうから、矢代にとってはたまらなかったでしょうね。
「じゃあもう髪に触れないですね」という百目鬼に自分の抜け毛を渡したり、警察官のコスプレのまま百目鬼を連れ回す矢代はさすがですが。
冗談にすり替えてしまうのは、矢代の抵抗でもある。
そして百目鬼もまた、矢代の気まぐれな言動をつかみかねている。
こんななりでも、まだ25歳の青年ですから。
矢代も、自分を含めた人間を煙に巻くのに手馴れているから、その辺りは圧倒的な経験値差がある。

そんな時、矢代の舎弟・七原が松原組の人間ともめて負傷する。
ここで傷の手当てをした影山と百目鬼がいよいよ初対面。
百目鬼は矢代にとって影山が特別な存在だという事を瞬時に悟る。
しかし、影山はもちろん、矢代の秘めた想いなどには露ほども気づかない。
矢代、百目鬼、影山がおさまっているコマ(影山がうつむいている方)、彼ら3人の関係性を投影しているようでゾクゾクしました。
矢代の「お前の言葉責めってかなりおやじ臭ぇぞ」には笑いましたが、やはりまだ盗聴や盗撮しているのかな?(影山がおやじ臭いのは同意)
それを矢代がどんな心境で見聞きしたのかと想像すると切ない。
 
影山の診療所から帰る際、車中の矢代の憂い顔と、それをバックミラーで見ている百目鬼にも、トキメキすぎて心臓が口から出そうになった。
他の男のせいで矢代がこんな表情しているんだから、百目鬼の心もざわつく。
 

あの人がそうなんですか?

 
直後の口淫シーンで、影山について質問してしまう百目鬼のストレートさが、らしすぎるほどらしい。
そんな百目鬼に対して、矢代も色々と誤魔化せなくなってきている。
二人の微妙な距離感が、また変化の兆しを見せていますね。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第5話

自分の家の廊下で寝ている百目鬼を見つけた矢代。
さすがの百目鬼も、眠っている時は心なしか幼く見える。
百目鬼にこれ以上踏み込まれる事に抵抗を覚えつつも、矢代は百目鬼を手放せない。
この場面で矢代が百目鬼に何をしたかは明確にされませんが(後で明かされる)、下手に直接的なシーンよりも読者の想像力のツボを刺激してくる。
朝の光の中で、矢代自身が晒したがらない、心の芯にある純粋な部分を見たような気がしました。
 
百目鬼が目を覚まし、着せ替えごっこに笑いつつ(いかにもな虎柄(笑))、その後のシーンもヤバかった。
しどけない姿の矢代を前にした百目鬼の様子が明らかにおかしい。
後から読み返すと、このシーンも二人のターニングポイントになっていたんですね。
矢代は普通にリラックスして会話していただけなのに(百目鬼が不能だから)、百目鬼が発する雰囲気はどんどん妖しくなり……。
矢代が百目鬼の好きな女性のタイプを聞いた時、それが最高潮に達する。
 

――脚の奇麗な人が好きです。

 
同じコマに矢代の奇麗な脚が描かれているのが明け透けですね。
一方、百目鬼の恋愛遍歴や初体験(相手は中学校の保健医!)の話を聞いて、矢代の方も高ぶっていき、ついには自慰を始めてしまう。
個人的に、これはもう思い出話を介した前戯のように見えてなりませんが。
ここで百目鬼からストップがかかり、矢代にしてみれば「オイ!(怒)」と文句のひとつも言いたくなるけれど、百目鬼は自分の決定的な変化に気づいてしまったのだから仕方がない。
これはやはり、昨日初めて会った影山の存在も原因になっているのでしょう。
 
そんな訳で、欲求不満を抱えて、事務所にやって来た矢代。
彼の前に現れたのは、七原ともめた松原組の組長・竜崎だった。
矢代と竜崎は肉体関係があった経緯があるが、現在では矢代の方が格上。
七原のいざこざを逆手にとって、竜崎を手玉に取る矢代は堂に入っている。
竜崎は矢代を悪し様に言うけれど、執着の裏返しにしか見えない。
そこで竜崎をひょいぱくしてしまう矢代マジ魔性ですが、竜崎とのセックスの際に想像しているのが百目鬼が女性を抱いている姿なんですよね。
う~ん、倒錯的&竜崎報われない。

 
そこへグッドタイミングというか、バッドタイミングというか、三角も現れる。
百目鬼も含めて矢代と因縁のある男達大集合だ、わ~、スゴイ(遠い目)。
竜崎との情事をあえて皆に見せつける矢代の神経も図太いですが、読者としては百目鬼の微妙な表情変化にハラハラ。
忠犬のはずなのに「待て」が効かなくなってきている。
一方、三角はさすが大物の風格。
 

見ててやすから、最後までイケよ、竜崎。

 
いや、普通に無理でしょ……。
おやっさん、怖すぎ(震)。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第6話

あっ、やっぱりイケなかったんだぁ……と思いつつ始まった第6話。
百目鬼が矢代と竜崎のセックスにムカついたのを、矢代自身も察するけれど、そこは見て見ぬふりをしてしまうんですね。
あまりに踏み込み過ぎると後戻りできなくなるから……。
片や、百目鬼も内心追いつめれている。
矢代の傍らにいるために、彼に絶対欲情しないって、なにその凄まじい逆説。
彼もまた、真っすぐなんだけれど歪んでいるというか、それとも歪んでいるのに真っすぐというか……。
 

側にいたい。
なんでもする。
否定もしない。
だからずっと近くにおいて欲しい。

 
無償の愛を捧げようとしている様が信仰を思わせるけれど、その対象である矢代は人の業の権化みたいな存在だし、矢代が他の男と一緒にいる時に見せる百目鬼の焦燥がそれを裏切っている。
人間は欲張りな生き物だから。
 
矢代と三角の会話も、百目鬼を駆り立てる。
百目鬼は相変わらずの無表情だが、やはり色々と隠し切れず矢代への想いが漏れてきてしまっている。
当然、三角もそれはお見通し。
まあ、三角からすれば、百目鬼はおろか矢代でさえ若造だから。
さすがの三角も百目鬼が不能であるとは思いもよらなかったようですが、確かに返って難儀ですよね。
肉体関係が介在した方がまだ分かりやすかった。
 
七原について、再び影山の診療所を訪れた百目鬼は久我と出会う。
どうして七原の傍にいるのかと久我に聞かれた百目鬼が……。
 

頭は優しくて強くて奇麗な人です。

 
その言葉に最初は爆笑していた久我も、百目鬼の矢代に対する愚直なまでの心酔ぶりを感じて、思わず謝罪してしまう。
ここまで凛とした姿勢で臨まれたら、何も言えなくなってしまいますね。
思わず見惚れてしまった。
百目鬼、凄い。
狂信と紙一重と判断する読者もいるだろうけれど、百目鬼の心に巣くう矢代の姿があまりにも美しすぎて、そう判断するのをどうしても躊躇ってしまう。
 
久我は百目鬼を気に入って飲みに誘うが、久我の安い挑発に乗ってしまう矢代が可愛くて仕方がない。
 

二度と戻ってくんな、バーーーカ。

 
百目鬼が絡むと、あの男どもを手玉に取っていた矢代も思春期の少年のようになってしまう。
そのギャップも魅力的。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第7話

前回に引き続き、バーにいる百目鬼、影山、久我。
「頭は分かりにくい人だから」の百目鬼の表情が何気にたまらない。
矢代に対する好意、戸惑いなど、様々な感情が読み取れる。
 
百目鬼と影山によるさしの会話。
百目鬼が矢代を理解するのに欠かせないシーン。
なぜ久我に惹かれたのか聞かれた影山が「多分、俺とは違う人間だからだろ?」と言ってしまうのが……。
ある種の同類ゆえに矢代と影山は結びついた反面、矢代の想いが報われる日は絶対に来ない。
話を聞いていると、影山なりに親友として矢代を大事に思っている。
「矢代の自己完結は、ガキの頃から備わった自己防衛なんだろうな」なんて台詞からも、一元的には矢代の内面をこの上もなく理解しているのが伝わってくる。
だが影山は肝心なところが分かっていない。
 

あいつだけは高校の時のガキのままの気がしてる。

 
この台詞が矢代の耳に入ってしまったのが残酷だ。
裏を返せば、影山は高校生のままではない。
なんだか影山が矢代に対して、兄か父親のような慈愛を向けているようにも見える。
影山はある種の本質を突いているけれど、それがどこから発露しているものなのかまでは考えが至っていない(おそらく矢代の不幸な境遇が理由だと思っている)。
そんなすれ違いを放っておけない百目鬼の青臭さがこれまた良いんですが。
 
そこで矢代参上。
久我には「特に」近づくなってそれ完全に焼きもち。
あと久我が、影山の心を奪っていった人間だというのもあるんだろうな。
百目鬼が影山に少し似ている部分があるのも合わせると、矢代の心境はかなり複雑そう。
 
影山達と別れて夜の街を歩く矢代と百目鬼。
ここの百目鬼の目を通した矢代が本当に奇麗なんだ……。
 

どうして分からないんだろう。
こんなに奇麗で、こんなに一途な人が傍にいるのに。
どうして気付かないんだろう。
どうして俺は、こんなに腹が立って、少し苦しいんだろう。

 
うわぁ、矢代も恋愛には疎いけれど、百目鬼も相当だ。
女性関係は豊富そうだが、中学で童貞を奪われて以来、真面な恋ってした事があるのかな?
ほぼ初恋に近い感情の動きで、こちらが赤面しそうになる。
その相手が矢代だというのが、一筋縄ではいかない。
 
シマにある映画館でピンク映画を見る二人。
口淫させてくれと平然と言ってのける矢代に百目鬼は慌てる。
ここの百目鬼の表情変化、1巻の頃からは考えられない。
 

…まあ、そんなに嫌んなったんならもうしねぇけど。

 
嫌じゃないから困ってるんです!
おまけに百目鬼に追い打ちをかけるように、矢代が「他の男のところへ行く」と言い出す。
それを百目鬼は反射的に止めてしまう。
もちろん、矢代は断る。
現状、百目鬼が矢代を独占できるはずがない。
この辺の二人のせめぎ合い、本当に興奮する。
 
しかし、そこで百目鬼を拒否しきれないのが、矢代の優しさであり、弱さでもある。
ジュースを買ってきて、百目鬼の肩に頭を預ける矢代の安らかな寝顔といったら……。
百目鬼もどんどん矢代沼にはまらざるを得ないだろうなぁ。
百目鬼の表情、完全に恋する男のそれ。
 
そんな、百目鬼の飲んだレモンジュースの甘酸っぱいような、苦いような雰囲気にずっと浸っていたいけれど、そうは問屋が卸さず。
映画館から出た矢代を拳銃で狙う何者か。
次回急展開。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第8話

何者かが差し向けた鉄砲玉に、矢代が撃たれてしまった。
傷つき、気を失った矢代を見ている百目鬼がヤバい。
もし矢代に何かあったら、間違いなく狂うだろうなと予感させる絶望塗れの横顔。
「…嫌だ…っ」と矢代にすがる百目鬼は、まるで子供のように頼りない。
矢代を失くかもしれない恐怖に震える百目鬼を、朦朧とした意識の中で「ホントかわいー奴…」と表情を微かに緩める矢代。
この人、百目鬼に見守られながらなら、あっさり笑顔で逝ってしまいそうでゾッとしました。
 
そこで「かわいー」と連動して、自分が義父に犯された記憶を思い出してしまうのが……。
世の中のどんなに醜い部分や辛い部分を知ったところで、「知る」のと「受け入れる」のとは違う。
矢代は人間なら感じて当然の理不尽に対する怒りを、すべて飲み込んで生きてきた。
そうでもしないと遣り切れなかったのが悲しすぎる。
 
矢代を護り切れなかった百目鬼を、兄貴分の七原は痛めつけ、指を詰めるように命令する。
ここで百目鬼はまったく躊躇わない(失血止めすらしない)。
なぜなら、百目鬼にとって矢代を失うより恐ろしい事もなったから。
矢代の盾にすらなれたかった自分への断罪でもあったんだろうな。
百目鬼の思い詰めた視線。
矢代の為なら何事も厭わない狂犬が誕生したのを感じる。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第9話

詰めた指の手当ての為、影山のもとへやって来た百目鬼。
ここで影山に謝罪するのも、矢代の見舞いに来てほしいと頼むのも、非常に一本気な彼らしい。
 
一方、矢代は一命をとりとめ、意識を取り戻す。
開口一発の台詞がさすが矢代ですが、それに答える三角もやはり只者じゃない。
そして矢代を撃った犯人探しが本格的に始まりますが、関係者を取り巻く空気が胡乱ですね。
何かとんでもない事が始まろうとしている気配。
 
ここからは三角の回想。
彼と矢代との出会いの物語。
初対面からして強烈。
竜崎、第5話と同じくこの時も三角に見られてたのかぁ。
三角は今も他者を黙らせる迫力があるけれど、この頃の凶暴性ヤバイ。
一見静かなのに、いつ爆発するか分からない恐ろしさ。
そんな彼に平然と絡んでいく矢代も怖いもの知らず。
雪の降る中、全裸で寝っ転がっている矢代と、それを持ち帰る三角。
どちらも同じくらい尋常じゃない。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第10話

三角の事務所に連れてこられた途端、下っ端はおろか幹部クラスまで誑かしてしまった矢代。
19歳にしてこれなんだから末恐ろしい。
矢代が極道を選んで肉体関係を結んでいる理由に、変に納得してしまった。
あぁ、矢代ならそう考えるだろうなと。
三角は矢代を手懐けようとするが(三角曰くペットのしつけ)、矢代の方はどこ吹く風。
じゃじゃ馬ここに極まれり。
それだけに、彼が見せた影山のコンタクトレンズケースへのこだわりが、三角と読者の目を引きます。
 
現・組長の平田(当時は若頭)と矢代の因縁も、ここが発端だったんだと思うと感慨深い。
平田の弟分に手を出して、自分に本気になった彼に嫌悪を覚えた途端、罠にはめた矢代。
自分に好意を持つ人間を陥れる、破滅的な彼の生き様が痛すぎる。
それで本当に狂ってしまえればいっそ楽だったんだろうけれど、矢代はギリギリで踏みとどまってしまったから余計に辛い。
 
金と欲、暴力に塗れ、どんどん極道の世界に染まっていく矢代。
そんなある日、彼は影山の家の土地が、平田達のターゲットになっている事を知る。
影山ってやはり矢代の心の一番奇麗な場所に巣くい続ける存在なんだなと思いました。
それは矢代の心身が汚されたとしても、絶対不可侵な領域。
矢代は平田に手を引かせるため、三角に土下座までやってのける。
まあ、三角も甘くないから矢代の要求をあっさり呑むわけがない。
最終的には、矢代が三角と杯を交わし舎弟になる事で手打ちにする。
暗に「利を示せ」というのが極道らしいですが、彼らなりの筋をきちんと通す三角の在り方に男達は惹かれていくのでしょう。
 

俺はな、困ったことにお前を気に入ってる、人間として。

 
矢代と三角の関係も大変興味深い。
愛人であり、親子であり、師弟であり、ペットと主人であり……。
互いに1番になる事はないけれど、情で結ばれている。
矢代が本当の意味で癒される事はないが、一緒にいて楽な存在なんでしょうね。
そして、おそらく三角もそれは同じで……。
最後の「しょーがねームスコだ」には笑ってしまいましたが。
 
場面は改めて現在に戻り……。
矢代の周囲の男達は、皆不穏な空気をまき散らしていますね。
それぞれの思惑が錯綜している。
その中で矢代の入院している部屋だけが光に溢れているのが印象的。
影山がお見舞いに訪れるが、なんだかんだで百目鬼の事を考えてしまう矢代。
百目鬼が指を詰めた事を矢代が知って、画面がどんどん闇に沈んでいく演出が凄い。
 
時間は変わって、夜の病室で矢代をじっと見つめる百目鬼。
ここで矢代が撃たれてから初めて泣く。
指を詰めた時ですら、激痛にもうめき声ひとつあげなかったのに。
百目鬼の純粋すぎるひたむきな想い、矢代には堪えたでしょうね。