ボーイズラブのすゝめ

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『囀る鳥は羽ばたかない(4)』(ヨネダコウ/大洋図書H&C Comics)感想【ネタばれあり】

囀る鳥は羽ばたかない 4 【限定版小冊子付】 (HertZ&CRAFT)

囀る鳥は羽ばたかない 4 【限定版小冊子付】 (HertZ&CRAFT)

囀る鳥は羽ばたかない 4 初回限定小冊子付 (H&C Comics ihr HertZシリーズ)

囀る鳥は羽ばたかない 4 初回限定小冊子付 (H&C Comics ihr HertZシリーズ)

 
『囀る鳥は羽ばたかない(4)』の感想です。
互いへの衝動をどんどん抑えがたくなっている矢代と百目鬼。
平田との抗争が激化する中、ある出来事が、二人の関係に決定的な分水嶺を画する。
ページをめくる手が止められません。
 

『囀る鳥は羽ばたかない(4)』(2016年9月30日)

あらすじ

とうとう七原と竜崎の居所を突き止めた矢代達だったが、一足遅く七原は平田の配下に攫われてしまう。
七原を取り戻す為、ある埠頭にたどり着いた矢代と百目鬼。
どうにか七原の命は助かったものの、百目鬼が撃たれそうになった事が原因で、矢代は自分でも予想以上のショックに見舞われる。
それが引き金になり、さらに抜き差しならなくなっていく二人。
矢代と百目鬼、互いだけが存在する部屋で、いよいよ二人の関係性に決定的な変化が生じてしまう。
 

総評

主人公二人の関係に平田との抗争と、あっちもこっちも目が離せない第4巻。
最終的には、とうとうそうなってしまったかと……。
まあ、矢代の気持ちの高ぶりと百目鬼のギラついた目を見ていれば、いつそうなってもおかしくなかった。
それでも、百目鬼、何か月も絶えたんだろうから、げに凄まじき矢代に対する執着心。
矢代も幸せになってもらいたいけれど、彼も何が自分の幸せなのか分からないような壮絶な人生を送ってきたから。
ただでも30歳過ぎての軌道修正は難しいのに、彼の場合はなおさら欲しいものを欲しいなんて言えない立場。
この閉塞感に満ちた想いと人生に、ヨネダ先生がどんな答えを用意しているのか気になって仕方がありません。
 
またこの巻には限定版特典が付いていて(ありがたい事に電子書籍版にも付いている)、百目鬼視点の「遠火」というお話。
百目鬼が矢代を初めて目にした際のエピソード。
百目鬼にとって矢代という人物が、どれだけ鮮烈な存在なのか、そして百目鬼の業の深さが分かる。
何もかも空っぽな(それゆえに性欲も失われた)百目鬼の心を揺らすのは矢代だけ。
矢代、本当に罪な男だよ。
最後のコマ、若干頬を染める百目鬼がかーわいい。
この時は矢代も、自分が百目鬼にここまで入れあげる事になるとは思いもよらなかっただろうけれど。
20代の勢いと一途さ、凄まじい。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第17話

互いへの激情を押し隠して、あくまで冷静に徹しようとする二人がスリリング。
しかし、若い百目鬼は偽る事に失敗している。
百目鬼の世話を一手に引き受けるというのは、嫉妬と独占欲がなせる業。
また矢代も、百目鬼の瞳に仄見える欲望に内心慄きつつも、反面心地よいと思ってしまっているのではないでしょうか?
 
矢代の拳銃を取りに、彼を自宅へ向かった百目鬼が見たものは、引き出しいっぱいの大人の玩具。
矢代本人曰く、これでも「普通」の部類らしい。
今更だけれど、矢代、普段一体どんなプレイを……、知りたいような知りたくないような。
これには百目鬼もため息をつくしかないけれど、彼はその引き出しにひっそり入っていたコンタクトレンズケースに気づく。
裏に書かれていたイニシャルK.Kですべてを察する百目鬼。
百目鬼の野生の感コワッ!!
矢代に関する嗅覚は猟犬並みですね。
どんな淫猥なおもちゃの数々よりも、単なるコンタクトレンズケース一つが百目鬼を打ちのめす。
複雑な男心。
 
一方、ソープランドで竜崎を見つけて問い詰める七原。
昔気質の彼には、組長である平田が、仮にも杯を交わした矢代を消そうとしたのが信じられない。
ここで竜崎の矢代に対する想いが爆発する展開が熱い。
矢代はヤクザに向いていない=矢代は自分とはまったく違う生き物だと、竜崎が思っているという事。
七原も竜崎の矢代への尋常ではないこだわりを汲み取り、殺そうとしていたのを拳一発で済ませる(それでも元・ボクサーの拳は十分凶器だろうけれど)。
七原、漢だね。
 
だがソープランドを出たところで、七原は例の二人組に連れ去られてしまう。
七原、無事でいて!!
 

囀る鳥は羽ばたかない 第18話

今回は七原と矢代の出会いの物語。
七原は元々矢代と険悪だった坂巻という男の下にいたんですね。
初対面の「…まっ、まさか、おっ、俺に一目惚れし…」にくっそ笑いました。
矢代の滅茶苦茶品定めしている視線にも。
大丈夫、七原、明らかに矢代のタイプじゃないから!!(矢代は屈折した男が好きだから、どちらかというと正反対のタイプ)
からかい甲斐のある玩具がせいぜいというか……、でもこの二人の雰囲気、嫌いじゃない。
 
七原の兄貴分だった坂巻は一見人当たりが良いんだけれど、とんだ食わせ物でしたね。
よりによって平田の女に手を出した上に、金や貴金属を盗んで姿を消してしまう。
おまけに、自分を慕っていた弟分・七原に罪を着せていくという卑怯ぶり。
もちろん、七原は平田の配下にボコボコにされますが、そこに現れたのが矢代。
だが、七原はそこで己の信念を貫き通す。
 

悔しいっ。
死にたくねぇ…っ。
助けて欲しい…っ。
もう痛えのは嫌だ!!
……でも、アンタに助けは求めねえ。

 
その後、逃亡していた坂巻が捕まり、とりあえず七原は解放される。
坂巻がこれ以上七原を巻き込まなかったのも、一寸の虫にも五分の魂だったのかな?
坂巻の居場所を平田に垂れ込んだのは、なんと矢代だった。
助けを求めない相手だからこそ助けるって、矢代のひねくれ具合も相当ですね。
ここでもじもじしている矢代に、現在の片鱗が見えて笑ってしまった。
結局、矢代とヤる気満々じゃないか(矢代からしたらお呼びじゃないけれど)。
 
七原はあらためて側に置いてくれるように、矢代へ頭を下げる。
 

お前ってホント人見る目ないね。

 
単純バカだけれど、今の極道では稀有な気質を持つ七原は、矢代の心の琴線にも触れたんでしょうね。
あと蛇足ですが、矢代には今後運転させてはいけない。
絶対だ(よくあれで免許が取れましたね)。
 
時間は現在に戻って……。
七原が落とした携帯を見つけた矢代達。
このシーンで、百目鬼の重戦車っぷりに矢代がさり気なくブレーキをかけようとしているんですが、おそらく焼け石に水だと思うんですけれど。
それはそうと、いよいよ矢代と竜崎が再開する流れにドキドキします。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第19話

竜崎が潜伏しているソープランド・クリスタルへ足を踏み入れた矢代。
このフロントのお兄さん、一日の内に二度も痛い目に合ってしまって少しお気の毒。
竜崎に再会した矢代、容赦ない……。
ただでさえ八方塞がりの相手に「吠えるな、負け犬」って、Sっ気炸裂な矢代の横顔があまりにも女王様で、思わずひれ伏したくなりますが。
 
一方、捕らわれた七原。
この犯人の二人、バカ!?
七原を消すつもりだから油断しているんだろうけれど、今回の事件の事実関係をペラペラペラペラ。
しかし、平田が道心会及び三角を裏切って、別の組織に寝返ろうとしているとは……。
下手したら自分もただでは済まないのに……、平田の抱えている恩讐にあらためて慄然としました。
 
場面は再びクリスタル。

俺としちゃ、お前は結構ヘタレだと思ってたから意外だったけどなぁ。
いくら追いつめられたとしてもさ。
見直したよ、竜崎。
やればできるじゃん。

 
もの凄く高度な飴と鞭を見たような気がするよ、ママン……。
無論、矢代は竜崎の自分に対する執着も先刻承知済み。
なんだかんだ言って、付き合いが長い二人。
矢代の「お前と俺、どっちが長生きするだろうな」にも、単純に好き嫌いなどでは語れない繋がりを感じます。
 
竜崎を張っていた刑事から、七原の情報を聞き出した矢代達は、ある埠頭にやってくる。
いよいよ例の二人組との直接対決。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第20話

ボーイズラブとは思えない迫力のカーチェイスに大興奮。
矢代の様子は一見凪いでいるんだけれど、視獲物を狙うハンターの目をしている。
まるでチェスのように、相手を追いつめていく手管にハラショー。
もちろん、百目鬼もアクション面で大活躍。
「全っ然逃げ切れる気がしねぇっ」と犯人を恐れさせる猟犬っぷり。
 

「腕、折れてんの?」
「はい、折りました」
「どうせ折るなら、足にしとけよ。逃げんだろ?」

 
怖っ!!
「二人のコンビネーション最高!!」とかニヤニヤしている場合じゃないくらい、圧倒的な暴力と冷酷さで敵を追いつめていく矢代。
だが隙を突かれて、膠着状態に。
ここで百目鬼が命の危険にさらされた時の矢代の表情が、後々効いてくる。
この真っ白になった一瞬の横顔。
間髪置かず、矢代にも銃弾が飛んでくるけれど、そこで彼をかばったのがなんとか自力で逃げ出した七原。
事前に第18話を読んでいたから、七原なら身を賭して本能的にそうするだろうなと、とても納得できたシーンでした。
この辺りの物語構成が本当にお見事。
とりあえず怪我は負ったものの、七原も無事で良かった。
正直、七原、死亡フラグ立ちまくってましたからね(笑)。
 

「礼は尺八でいいっす」
「百目鬼ー、もういいから、このバカ病院ー」

 
いつもの矢代と七原の空気も戻ってきて束の間ホッとしました。
しかし、飄々とした風景を見た後だと、続く矢代のマッドさが際立つ。
敵である二人を取り込もうとするんだから、やはり凡百とは違う。
二人組の渇望するものを瞬時に読み取ったのも、矢代の中に彼らと同類の部分があるからなんでしょうね。
 
影山の診療所に向かう車中、平田が矢代を殺そうとしている事を嘆く七原。
「子を殺す親があっちゃいかんでしょう」というごく当たり前な台詞に、彼の真っ当さを感じます。
極道に身を置いていても、ギリギリのラインを超えないでいる七原を矢代は評価しているんでしょうね。
ここで矢代は七原の言葉を肯定するけれど、そこに親という存在に傷つけられてきた七原や百目鬼の過去がオーバーラップしてきてやり切れない。
 
七原を影山のところへ送り届けて、二人きりになった矢代と百目鬼。
ここからぶっちゃけドエロ&切なさ満載でした。
百目鬼の死に自分は耐えられないと疑似体験してしまった矢代。
舎弟が傷ついただけでこれほど動揺してしまうのは、極道にとってはただでさえ死活問題。
おまけに、誰とも距離を置いて生きてきた矢代にとって百目鬼を大切に思う事は、アイデンティティ崩壊の危機に等しい。
自らの破滅を招きかねないのに、それでも目の前の男に惹かれる気持ちを抑えられず、矢代は百目鬼のほほの傷にそっと触れたり、舌を這わせる(百目鬼を慰撫しているようにも見える)。
片や百目鬼の瞳も、矢代を自分のものにしたいとギラついている。
対して一見冷静に見える矢代の視線のアップには溜息しか出ない。
自分達二人の限界を悟った諦念が垣間見える。
先ほどの騒動の熱も相まって、車中で激しく互いを求めあう二人。
  

囀る鳥は羽ばたかない 第21話

引き続き、車中の矢代と百目鬼。
ここでワンクッション入れるのが、ヨネダ先生、やはり書き手として凄いなと感心してしまいました。
矢代の絶望に満ちた横顔を丹念に追っていく流れが凄い。
百目鬼の真意については次回に持ち越しですが、人気のない高架下に車を停めて、再び求めあう。
百目鬼は丹念に奉仕するが、それは自分の体を蔑ろにしてきた矢代にとっては耐えられたい事で……。
とうとう前だけではなく、後ろ間で舐められてしまい……、これは百目鬼が矢代を手に入れたいという情動の表れ。
矢代にとっては慣れた行為のはずなのに、百目鬼は彼が知っている、どの男とも違っていた。
だがそれは矢代にとっては、終わりの始まりでもある。
まさに快感と絶望の波状攻撃に苛まれる矢代。
 
一方、その頃。
三角さん、矢代の事張ってたのねぇ……。
舎弟もあまりボスの怒りに油を注がないで……、百目鬼が矢代に手を出した事にムカつく三角に笑う。
「許さんぞ、俺は~」って、まるで娘(?)が大事で仕方ない親バカの図。
しかし、跡目問題で表立って動けないのに、独自で真相に迫っていくのはさすが。
それにしても、矢代も相当だけれど、平田といい、天羽といい、三角も大概男にモテモテですね。
この人もまた、相手の人生を根底から覆してしまうオムファタール(運命の男)的カリスマだから。
恋情ではなくとも、彼の唯一になりたいという気持ちは理解できる。

三角自身は今ひとつピンっと来ていないようだけれど(そこがまた良い)。
三角の秘書である天羽も、地味に鬱屈を抱えていそう。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第22話

冒頭、車内での情事を百目鬼はどう思っていたのかが明かされます。
この縦に長いコマ割り、彼が奈落へ急速落下していくような心情が表現されているようでドキッとする。
あえて影山の家を離れた意図にも萌えました。
以前、診察室で奉仕した時は「すみません、先生に見られるような所で…」なんて宣っていたのに、今度は嫉妬の炎がメラメラ。
 

こんなに誰かを求めることが、この先あるんだろうか。

 
百目鬼の度を越した執着こそが、彼自身の唯一の人を奪っていくという皮肉。
でも、走り出した想いは加速していくばかり。
最高 of 最高。
眠ってしまった矢代を自分のねぐらに連れていくのも、百目鬼の独占欲の表れでしょうね。
ここでは二人の間を阻むものは何もない。
百目鬼の部屋が、矢代が第1巻所収の「漂えど沈まず、されど鳴きもせず」で住んでいたアパートを彷彿とさせるのも、彼がまたあの時のように何かを諦めようとしている事の象徴か?
シャワーを浴びたばかりの百目鬼の全裸を見て、矢代があらためて自分と百目鬼の対格差を自覚したり、おかゆを食べさせ合ったり、膝枕だったりと、一見ラブラブなんだけれど、もちろん違う。
まるで死刑宣告までのカウントダウンが進んでいるようで、読者としても気が気ではない。
矢代は百目鬼を手放す事を暗に仄めかしているし……。
 
そして、ついに矢代のフェラに反応してしまった百目鬼。
彼の話を聞いていると、もう大分前から後戻りなんてできなくなっていたのが分かる。
それでも必死に取り繕ってきた。
ただ矢代の傍にいたかったから。
 

せっかくだし、セックスするか。

 
この時がいよいよ来てしまったか……。