ボーイズラブのすゝめ

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『GAPS』(里つばめ/大洋図書H&C Comics)感想【ネタバレあり】

GAPS (HertZ&CRAFT)

GAPS (HertZ&CRAFT)

GAPS (H&C Comics CRAFTシリーズ)

GAPS (H&C Comics CRAFTシリーズ)

 
里つばめ先生の『GAPS』の感想です。
今年37歳になる会社員の長谷川は、平穏な毎日を送りつつも、年齢により身に降りかかる衰えを感じ始めていた。
ある日、彼は会社の後輩で仕事もできるイケメン・片桐の、とんでもない秘密を知ってしまい……。
破天荒な片桐と、彼に振り回される、お人好しな片桐の関係が秀逸。
 

『GAPS』(2015年9月1日発行)

あらすじ

会社員の長谷川直幸は同僚にも慕われ、仕事もとりあえず順調。
しかし突然EDになってしまい、付き合っている彼女との関係に支障をきたすなど、自分の老いを直視する事になる。
体力と気力を取り戻す為、にわかにランニングなどもしてみようと試みるが、ある晩、公園で暴力沙汰に出くわしてしまう。
しかも、その渦中にいたのは、会社の後輩である片桐聡だった。
有能で性格も優しいイケメン・片桐の二面性を知ってしまった長谷川。
おまけに、そんな片桐になぜか懐かれてしまい、長谷川の穏やかな毎日は一変してしまう。
 

総評

名は体を表すというか、もの凄いギャップを見た。
とにかく攻めである片桐のアクの強さが半端ない。
ボーイズラブというジャンルでも、二面性のあるキャラは引きも切らないですが、その中でも彼の振り切れ具合はかなりのハイレベル。
会社での爽やかな王子様キャラとの落差。
俺様気質の自信家で口も悪い。
無精ひげを生やし、ギャンブル狂いで汚部屋の住人。
女にだらしなく、暴力沙汰も辞さない。
あまつさえ、原因となる何らかの葛藤や暗い過去があるわけでもなく、あっけらかんと壊れている。
だが、長谷川への感情にはおそらく嘘はなく、言っている事もクズではあるが決して妄言ではない上、長谷川が触れられたくない核心をバシバシ突いてくる。
物語を読み進める内に、長谷川だけではなく、読者ですらも、そんな片桐からどんどん目が離せなくなってしまうのが始末に悪い。
 
一方、長谷川の人物設定も上手い。
仕事はできるが、極々一般的な30代後半の男性(かなりお人好しが過ぎるきらいがありますが)。
けれども、実はEDになってしまったり、家族から結婚を急かされるなど、行き詰まりも感じている。
そんな彼にとって、常識なんてクソくらえな片桐の与えたインパクトは尋常ではなかった。
 
例えるなら、モノクロームの世界に突如現れた極彩色。
それを忘れろというのは無理な話で、片桐の存在が長谷川の中でどんどん大きくなる。
片桐の破天荒な言動の数々に、長谷川の胸の動悸が「これはもしかして恋?」と誤作動(?)を起こしても不思議ではない。
おまけにそんな片桐が、常時攻め手からめ手で迫ってくるのだから、長谷川からしたらたまったものではない。
 
とにかく片桐の行動と同じく、先がまったく読めないジェットコースターのような作品。
二人の関係が果たしてどうなっていくのか、気になって仕方がありません。
 

GAPS 1

まず冒頭からして、主人公の長谷川がEDという事にワンパン食らいます。
ボーイズラブでは、なかなかお目にかかれない設定。
おまけに長谷川、お腹周りも多少気になりだすお年頃で、本当に良くも悪くも普通のアラフォーなんですよね。
だが、そこが面白い。
そして、あらゆる意味でキラキラしたパーフェクト人間・片桐との対比も上手い。
こんな人間が傍にいたら、否でも自分の衰えを自覚せざるを得ない。
長谷川には、片桐が眩しく見えて仕方がない。
 
ところが物語は急展開。
片桐のぶっ壊れ具合が洒落にならない。
一見穏やかな口調と、やっている事のえげつなさとのギャップが、もはやホラー。
勢いとはいえ、長谷川、なぜ自宅に連れてきてしまったのか?(笑)
まあ、読者として外から見ている分には、長谷川の狼狽っぷりが楽しくてならないんですが(ヒドイ)。
 

GAPS 2

長谷川、巻き込まれ型主人公のテンプレを爆走中。
自宅に泊まらせた時点で、片桐が長谷川を「色々な意味で大丈夫な人」認定してしまっているのは想像に難くない。
元々、片桐は長谷川を尊敬していたようで……、とんでもないのに懐かれてしまいましたね、長谷川。
 
それにしても、片桐の変わり身の早さには本当に驚かされる。
皆、騙されてる騙されてる。
まさに入れ食い状態。
見ているこちらが人間不信に陥りそう。
しかし、再度確認したくなるですが、本当に彼のバックグラウンドって闇がないんでしょうか?
なんかお姉さんも清楚系ビッチという事で、かなり凄まじそうなご家庭なんですが……。
 
後半も片桐の行動にドッキドキ(not ときめき)。
姉ちゃんとお気に入りの長谷川さんに無礼を働いたからといって、相手の車のフロントを笑顔でぶっ壊すなよ。
終始青ざめている長谷川には悪いけれど、ここまでいくといっそ爽快。
本性と仮面の狭間で、どういう風に折り合いをつけているのか、凡人には皆目わからん。
片桐的には、長谷川が理解してくれればそれで良いらしい(長谷川にとっては、まったく良くありませんが)。
 

GAPS 3

前回の凶行も相まって、片桐の事がより分からなくなった長谷川。
それでも、長谷川は片桐を理解しようと試みる。
というか、上司だからといって普通そこまでするか!?
もしかしなくても、警察に付き出していてもおかしくないレベルですよ(その警察に友達がいるというのが、またシュール)。
片桐も大概ヤバいけれど、長谷川のお人好し具合も相当だと思うんですが……。
流れで片桐の汚部屋の片づけをしたり、競馬や食事、買い物をして丸一日一緒に過ごしたり(しかも何となく楽しそうだし)。
 
おまけに、その過程で彼女の浮気を知ってしまい、よりにもよって片桐にEDの事もバレてしまう。
長谷川、お祓いに行く事をおススメしたくなるくらい気の毒。
しかも、浮気の真相を探るために入ったラブホで、長谷川と片桐はおかしな雰囲気になってしまい……。
ここの長谷川がまた、なんだか嗜虐心を煽るイイ表情してくるんだ。
変に媚びたり、30代の一般男性を逸脱しないながらも、なんとなくクるものがある。
ただでも片桐は長谷川に対して好意を抱いているのに、これは十中八九サドな片桐の心の琴線かき鳴らしちゃいましたね。
 

…長谷川さん、こないだ俺、面白いAV見たんですよね。上司喰っちゃうやつ。

 
彼女の裏切りに打ちのめされた上に、隣の部屋で貞操の危機に陥る長谷川。
あらためて考えなくとも、スゴイ構図&展開。
 

GAPS 4

前回に引き続きノリノリの片桐。
ここで長谷川が頭突きをかますとは予想外でしたが……、あの片桐ですら鳩が豆鉄砲食らったような顔してましたからね。
こういうところが片桐の関心を買わずにはいられないと思うんですけれど、当の長谷川本人は絶対気づかないだろうなぁ。
 
仕事は相変わらず忙しく、彼女の事もあって、長谷川の悩みは尽きない。
しかし、そこで引くような殊勝な男ではない片桐。
それどころか、チャンスとばかりに付け込んでくる。
ラブホで長谷川に逃げられた直後、間髪置かずに女の子を呼んじゃう+刃傷沙汰になるなど、クズである事に変わりはないんですが。
長谷川に対する迫り方が、これまた絶妙なんですよね。
強引ながらも、年下ならではの甘えも取り混ぜて、頼られると無碍にできない長谷川のツボを押してくる。
己がクズである事すら「あなただけには本当の自分を見せてます」アピールに利用しているというか、これをすべて故意にやっているんだろうから本当に知能犯ですね。
そして、長谷川の厄介さが身に染みつつも、案の定、それに絆されてしまう長谷川。
ダメンズにハマっていく典型を見ているようだ。
 

GAPS 5

軽口や減らず口は叩きつつも「片桐も意外と余裕がないんじゃないの?」と思った回。
長谷川にやたらと彼女と別れるように勧めているし。
他者にまったく執着しなさそうな片桐は、普段のお遊びならそこまでこだわらないでしょうに。
 
片桐にとって、今までの人生は絶えずイージーモードだったのではないかと推測しますが、長谷川に出会って、初めてままならないものを感じたんじゃないかな?(それすら、長谷川は楽しんでそうだけれど)
同時にろくでもない自分を、ブーブー言いつつも受け入れてくれるのも、また長谷川だけで。
これは片桐が長谷川の事を手放せなくなってしまっても不思議ではない。
 
長谷川が乗っていてもお構いなしに法定速度オーバーで車を走らせる片桐のシーンは、長谷川が片桐との関係からもう降りられない事の暗喩のように思える。
鎌倉へのドライブデート(?)も命がけ。
最近、比較的大人しかった片桐ですが(すでに基準がオカシイかもしれませんが)、やはり滅茶苦茶なのは変わらないと釘を刺されたよう。
しかし、その直後に甘い台詞を振りまくという波状攻撃。
いい加減、長谷川や読者の心臓も持ちません。
長谷川さん、若くない上にEDになっちゃうくらい繊細なんだから、もう少し労わってあげようよ(片桐には無理か)。
ラストでもさり気なく爆弾を落としてくるし。
 

俺のことが好きなんじゃないんですか?

  

GAPS 6

前回ラストの台詞をあっさり否定する長谷川に笑う。
恥じらいも何もあったものじゃない。
百万歩ぐらい譲っても、苦労する未来しか見えませんしね。
むしろ、こんな片桐と友達やろうとしてるだけスゴイ。
なんせ長谷川を彼女ときっぱり別れさせるために、友達の矢島から借りた車の中で即ヤッちゃおうというロクデナシですよ。
ヤツの「だらしねぇ体。エッロいなぁ」に激しく同意したくなってしまう自分を殴りたい。
 
しかし、片桐に一矢報いている(?)長谷川も、なかなかどうしてやるなぁ。
攻めに迫られて嘔吐する受けって、初めて出会ったような気がします。
まあ、男にフェラされた直後にキスされた男性の反応は、通常ならこんなものでしょうが。
それに一切たじろがない片桐も、ホントどんなメンタルしてるのか……。
「しっかし、あれぐらいで吐くなんて、今までどんだけ上品なセックスしてきたんですか」って、お前こそどんな特殊状況下で致してきたんですか?
おまけに「彼女さんも欲求不満になる訳だ」と、容赦なく長谷川のコンプレックスを抉ってくる。
 
だが、そんな最低男である片桐の存在が、どうしても頭から離れない長谷川。
彼女と別れ話をしていても、浮かんでくるのは片桐の言葉ばかり。
「あんな奴、好きになる訳がない」と自分に懸命に言い聞かせている時点でお察し。
片桐がケガをしたと聞いて(懲りずにまた女性絡みの刃傷沙汰)駆けつけてしまうし……。
 
その後、長谷川は片桐をあらためて振ろうとしますが、これ、客観的には告白しているようにしか見えない。
片桐の言う通り、「嫌よ嫌よも好きのうち」というか。
「普通の上司と部下に戻ろう」というのも、結局、完全に関係を断てない事の証左だし。
なんだかんだと言いつつも、片桐のような人間が傍にいたから、長谷川も彼女との別れを引きずらず自然体でいられたんでしょう。
だからこそ、片桐のような男は、図に乗らずにはいられない。
 

REVERSE

6話の直後。
なんでこの流れで、片桐の家に上がって酒飲んじゃうんですか、長谷川さん!?
片桐の誠実顔に何度騙されれば気が済むのか!?
ラブホや鎌倉であった事、ちゃんと覚えてますか!?
チョロインの称号を差し上げたくなる37歳会社員男性。
天然にもほどがある。
これは片桐に付け込まれても仕方がないかも。
ラストは珍しく片桐が痛い目に合っていて、これもまた一興。