ボーイズラブのすゝめ

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『恋するインテリジェンス(1)』(丹下道/幻冬舎バーズコミックス リンクスコレクション)感想【ネタばれあり】

恋するインテリジェンス (1) (バーズコミックス リンクスコレクション)

恋するインテリジェンス (1) (バーズコミックス リンクスコレクション)

恋するインテリジェンス (バーズコミックス リンクスコレクション)

恋するインテリジェンス (バーズコミックス リンクスコレクション)

 
丹下道先生の『恋するインテリジェンス(1)』の感想です。
架空の国・N国に所属する官僚達の恋を描いた表題作他、短編2編と描き下ろし3編を収録した作品集。
耽美な絵からは想像できない奇抜な設定と勢いで、読者を独特の世界に引きずり込む作品の数々。
様々な作品が集う、百鬼夜行のような(?)ボーイズラブ作品群の中でも、その個性はピカ一だと思います。
 

 

『恋するインテリジェンス(1)』(2014年6月24日発行)

あらすじ

N国外務省の内部部局・国際情報統括官組織は、公式の対外情報機関を持たないN国において事実上の諜報活動を一手に受け持っている。
そこでは色仕掛けにより情報を得るため、ある実習が行われていた。
独自の選抜基準により選出された男性分析官達は(女性分析官の色仕掛け任務はリスクが高いため禁止)、トップキャスト(TC/男側役)とボトムキャスト(BC/女側役)に分類され、バディを組まされる。
そして、夜な夜な特訓に勤しむバディ達。
針生篤と戸堂眞御も、その内の一組だが、彼らの関係は10年前の、ただ一回の実習以降途切れていた。
その時、戸堂のあまりの可愛さに針生がメロメロになってしまった事が原因となり、その後もなにかとギクシャクしてしまう二人だったが……。(表題作「恋するインテリジェンス」)
 

総評

一言で表すと「怪作」。
耽美な表紙イラストから一体どんなシリアスな物語が始まるのかと思っていたら、私の予想からは大きくかけ離れていました。
ボーイズラブというジャンルは、とかく型通りになってしまう事も多く、例えば男子高校物など、男性の集団を扱った作品は枚挙に暇がありません。
だが、本作の場合は、その型を逆手に取ったというか、型をいじり過ぎてぶっ壊しちゃったというか……。
もう、諜報活動に必要な性的訓練をするため、男同士がバディを組んであれやこれやの実習を行うという設定からしてワンパン食らう。
冒頭からツッコミどころ満載だけれど、「ボーイズラブはファンタジー」と100回ぐらい唱えて乗り切るしかない。 
何しろ舞台が国家組織で、このぶっ飛んだ設定ですからね(一応、架空の国だけれど)……、ここまで突き抜けていればいっその事ご立派。
 
ストーリー展開としては「丁寧な心理描写、繊細な心の機微、何それ美味しいの?」という感じですが、それを補って余りあるほど勢いとテンポで、読者を抱腹絶倒させてくれます。
攻めは格好よく、受けは奇麗で可愛いという、その辺はスタンダードを守っているはずなのに、彼らの一挙手一投足が可笑しくて仕方がない。
とにかく彼ら、良くしゃべるんですよね、日常でも、濡れ場でも……。
それがいちいち笑いのツボを突いてくる。
 
特に攻めが受けを褒める時や愛の告白の饒舌さときたら……。
「あやめもわかぬ人の世を照らす一輪の芍薬」とか、「愛を確信したのは、おまえの英知の深淵に捻じ入って、その柔らかな肉壁をすべて余すことなく…、俺のこの核で感じてみたいと思った時」とか、腹筋崩壊しそうになる(これ、笑っていいところなんですよね?)。
丹下先生の言葉のチョイスがいちいち凄まじすぎる。
とりあえず、攻め達の語彙力が豊かなのと、彼らが受けを猛烈愛しちゃってる事だけは伝わってきました。
 
以上のような作品だから、Hシーンも推して知るべし。
台詞も効果音も賑やかです。
集中線などを多用したり、構図なども個性的で、しっとりというよりも、なんだか激しいスポーツを観戦しているような気分になる。
冷静な指示が館内放送で流れる中でのシーンとかもね、この人達、一体何ヤッてるんだと……、もうツッコミ疲れて半笑いするしかない。
でも、それがだんだんとクセになる不思議。
最終的にはトキメキや萌えよりも、笑いを求める自分がいました。
 

恋するインテリジェンス

攻めの針生が終始「眞御タン、カワイイよぉ、はあはあ」としている話(身も蓋もない)。
眞御は確かにツンデレ&いじらしくて可愛んだけれど、このコも大概ぶっ飛んでますね。
どんな育て方をしたら、こんな純粋培養な30代が爆誕するのか……。
10年愛の切なさや悲壮感などはほぼ皆無。
むしろ、なんでこの二人、10年も我慢していたの?(禁句)
冒頭の鳥もちの予想通りの伏線回収と、後輩・武笠の気の毒さにも笑う。
 

数式は鷹に恋をする

主計局官僚×関税局官僚。
攻めの土門、受けの円、共に美貌、学歴、家柄などがインフレーション起こしていて、平民の私などは「す、すげぇ……」と、呆然とするしかない。
こんな連中がうようよしているとしたら、Kヶ関官界は魔境かなにかとしか思えませんが(違)。
また丹下先生の言葉選びのセンスが、本作でも光っています。
1ページほぼ丸々使った土門の紹介文もスゴイですが、志山に対する土門の口説き文句も凄まじい。
あんな長台詞がおそらく練習する事もなく、滔々と口をついて出てくるんだから、エリート官僚、恐ろしすぎ。
……なんだかエリート官僚のイメージが、現実からあまりにも逸脱しているような気がしないでもないけれど。
ところどころに散りばめられたネタにも、笑わせていただきました。
料亭行って2分で即解決って、議員先生のご機嫌はカップラーメンよりもお手軽ですか?
 
登場人物の中では、なんと言っても受けの円が可愛かった。
数学の天才なのに、世間知らずで恋にも不器用なのがね、土門がヤキモキしたりメロメロになるのも分かります。
あと今回は電話のみの登場ですが、円のパパ・志山次官も濃かった。
とりあえず、30代の息子にハートマーク飛ばしまくるの止めぇ!!(爆笑)
そして、土門と険悪になるのは不可避ですね、分かります。
 

そんなあなたが好きだから

一見非の打ちどころのない攻め・松菱桐次(花を背負いまくっているのに噴き出しましたが)と押せ押せな受け・世古。
しかし、実は桐次には隠している事があり……。
 
桐次がいきなり1ページ使って「ごめんなさいっ、ごめんなさい」と泣き出した時には、世古と同じく「は!?」となりました。
ヘタレ攻めというよりも、泣き虫攻めというか、ピュア攻めというか……。
ヘタレが発覚した後の桐次が、とにかく可愛くて仕方がない。
ギャップ萌えの宝庫のような男。
そんな彼を放っておけない、なんだかんだで面倒見の良い(性的な事も含む)世古に、読者であるこちらもキュンキュン。
事前の二作品があまりにも斜め上な作風だったので、彼らの恋愛が非常に真面に見えるのは気のせいでしょうか?(私の基準が既におかしいのかもしれないが)
 

描き下ろし・シークレットラブレター

「恋するインテリジェンス」の、眞御視点のお話。
針生に片思いしていた頃の複雑な男心。
眞御の可愛らしさ&一途さ炸裂。
彼の脳内ポエムのようなモノローグに所々で噴き出しそうになりましたが、地球と月との間の距離ほど遠回しなお誘い(多分一生気付かれない)や、針生に髪型を褒めてもらっただけで歓喜する様がたまらない。
しかし、こんな眞御を10年見続けて「嫌われている」と思っていたんだとしたら、針生も相当ニブちんなんじゃないかと。 
 

描き下ろし・宣戦布告の午後

円を間に挟んだ、土門と志山次官の直接対決。
普段の志山次官の大物っぷり(マフィアかよ!?)と、親バカっぷりの落差に笑う。
相変わらず息子にハートを連打している志山次官。
「円ちゃんかわいい(ハート)」は、もしかして枕詞か何かですか?
 
だが、土門も負けていない。
志山次官を「お義父さん」と呼び、苛立たせるのは序の口。
登場時の格好いい構図やコマ割りに笑う。
志山次官も、そんな土門を無視。
飛び交う雷(画面効果)。
Kヶ関に漂う緊迫感の無駄遣い、ここに極まれり。
他の職員も怯えてるから、修羅場もほどほどに。
 

描き下ろし・First honey night

眞御を初めて自宅へ呼んだ針生。
官僚って無茶苦茶豪華な家に住んでいるんだなぁ(注目するところはそこじゃない)。
初めて結ばれた時、針生がアレでもセーブして、眞御を抱いていたという事実にドン引き驚嘆する。
こちらとしては、スポーツか格闘技を観戦しているような気分になったんですが、それは……。
 
そうこうしている内に、眞御が到着。
初めてできた恋人にお呼ばれされた緊張感が伝わってきてSo Cute!!
これは針生も歯止めが効かない。
結果、確かに前回、針生が彼なりに自制していたのは分かりました。
とりあえず、その鼻血、拭けよ。
一方、眞御ちゃんは感じやすすぎて、まさかの潮吹き。
っつーか、これ、潮どころか大海原なのが斬新(遠い目)。
荒ぶる波に読者もビックリ。
魚とか跳ねてても不思議じゃない、そんなナニコレ珍百景(?)。