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『殺しのアート(1) マーメイド・マーダーズ』(ジョシュ・ラニヨン/新書館モノクローム・ロマンス文庫)感想【ネタばれあり】

殺しのアート(1) マーメイド・マーダーズ (モノクローム・ロマンス文庫)

殺しのアート(1) マーメイド・マーダーズ (モノクローム・ロマンス文庫)

マーメイド・マーダーズ (モノクローム・ロマンス文庫)

マーメイド・マーダーズ (モノクローム・ロマンス文庫)

 
ジョシュ・ラニヨン先生の『殺しのアート(1) マーメイド・マーダーズ』の感想です。
FBIの生きる伝説といわれる上級特別捜査官と、上昇志向の強い捜査官の急造コンビによる、アメリカを舞台にした本格ミステリ。
男性同士の恋愛をテーマにした作品で、ここまでのガチミステリはそうそうお目にかかれません。
 

『殺しのアート(1) マーメイド・マーダーズ』(2018年12月25日発行)

あらすじ

上司であるカール・マニング主任捜査官からの命令で、FBIの生きる伝説と目される上級特別捜査官であるサム・ケネディと行動を共にする事になった美術犯罪班所属のジェイソン・ウエスト。
マニングは上昇志向の強いジェイソンを利用し、疎ましく思っているケネディを失脚させようとしていた。
そんな即席バディが向かったのは片田舎・キングスフィールド。
10年ほど前に”ハントマン”という殺人鬼によって少女が次々と惨殺される事件が発生した街であり、それを犯人逮捕に導いたのが他ならぬケネディだった。
だが再び、同じ街で当時の模倣犯と思わしき少女殺害事件が起こり、住人達を震撼させる。
実はキングスフィールドに縁があり、10年前の事件で親友のハニー・コリガンを失くしていたジェイソンは複雑な感情を抱く。
二人は果たして難事件を解決する事ができるのか?
 

感想

ストーリー

さすが、ジョシュ・ラニヨン先生、今回も期待に違わぬ名作ありがとうございますと拍手を送りたい。
ボーイズラブ(ゲイ小説)とミステリの見事な融合。
最初は反りの合わなかったケネディとジェイソンが、時にぶつかり合い、時に協力し合い、少しずつ距離を縮めつつ、真相に迫っていく過程が鮮やか。
有りがちな感想ですが、上質なサスペンス映画やTVドラマも斯くや。
ラニヨン先生がアメリカの作家という事もあり、舞台であるキングスフィールドの、地方都市ならではのちょっとした閉鎖性や鄙びた感じ、そしてアメリカの文化風習がとてもリアルに描かれている。
あたかもアメリカにワープしてしまったかのような味わい。
翻訳物ならではの洒落た会話も、読書欲を満足させてくれます。
『羊たちの沈黙』など、小ネタも満載で、ところどころでニヤリとさせてくれました。
 
ボーイズラブでは、たとえミステリ要素があっても単なる風味づけで終わってしまう事が多々なんですが、ラニヨン先生の作品はガチの本格ミステリ。
特に本作は、恋愛面よりも、ミステリ面に大きく比重が置かれているのでは思えるくらい。
男性同士の恋愛劇に抵抗がなく、ミステリ作品に興味がある方は、騙されたと思って是非手に取っていただきたい。
絶対後悔はさせませんから。
もちろん、ケネディとジェイソンの関係も見逃せない。
今回はあくまで出会い編という感じですが、ライフスタイル、信条、何もかも違う二人が、これからどのように付き合っていくのか……。
非常に気になります、
 
基本的にはジェイソン視点で語られる本作ですが、最初はケネディはおろか、語り手であるジェイソンも謎だらけ。
読者は冒頭から否応なく引き込まれます。
実は最初、10年前の事件と因縁浅からぬという事で、ジェイソンすら若干疑ってしまったのは秘密です(ミステリ小説だと語り手も信用できない場合があるから)。
シリアルキラー”ハントマン”、殺人現場に残されたマーメードのチャーム、コピーキャットなど、ミステリ好きには堪らないキーワードが散りばめられており、ケネディやジェイソンの捜査もこれでもかというほど丁寧に描写されている。
なぜ第一の被害者は殺され、第二の被害者の命は助かったのかなど、一般ミステリと比べても遜色ないロジックもお見事。
また随所に挿入される緊迫したシーンやアクションなども迫力があり、読者を飽きさせない。
 
個人的にはジェイソンと”ハントマン”マーティン・ピンクの会見が印象深かった。
自己顕示欲の権化のような怪物と渡り合う緊張感。
このシーンのみならず、丁々発止の駆け引きが登場人物間で頻繁になされるのでスリル満点。
ボーイズラブ作品で、恋愛の絡まないシーンが恋愛シーンと同じくらいの、もしくはそれ以上のインパクトを読者へ残すって相当ですよ。
 
ただしここで誤解していただきたくないのは、ジェイソンとケネディの恋愛描写が疎かにされているのでは決してないという事。
腕利きだが一匹狼であるケネディ。
上司の命令により彼を見張るジェイソン。
いわばマイナスからのスタートの二人ですが、少しずつ、本当に少しずつ、三歩進んで二歩下がるぐらいのテンポで惹かれ合っていく。
そのじれったさに読者もヤキモキさせられる。
互いに20世紀カリフォルニア印象派が好きなど、意外な共通点で距離が縮まったり、裏腹に仕事の上下関係を持ち出されて決裂したりと、それぞれの心の動きが説得力豊か。
 
Hシーンは洋物という感じですが、違和感は特になし。
肉感的でぶっちゃけエロい。
最初は刺々しいと感じていたケネディのアフターシェーブローションの香りを、最終的にはジェイソンが離れがたいと思ってしまうなど、五感と心情が結びついたエロス。
紆余曲折ありつつ、なんとか両想いになれた二人ですが、生き方がまるで違うので何かとこれからももめそう。
まあ、それが読者の楽しみに繋がるんですけどね(笑)。
 
ひとつ疑問が残ったのは、思わせぶりに登場したドクター・カイザーの存在。
異常犯罪者や神話などに造詣が深く、ジャック・オ・ランタンに異常な執着を見せるなど、なかなか思わせぶりな人物造形なんですが。
これからも二人に絡んできてくれるのではないかと少し期待しています。
 

キャラクター

紋切り型のキャラクターが一人としておらず、容疑者や事件関係者、脇役に至るまで息遣いが聞こえてきそうな存在感が感じられ、ミステリに重厚感を与えています。
まずは攻めのジェイソン。
鋭いブルーアイを持つイケおじ。
最初は何を考えているのかさっぱり分からず、切れ者ゆえの独断専行や得体の知れなさが前面に押し出されているんですが、物語が進行するにつれて人間味や優しさが見えてくる。
敵を作りやすいのは、根底に不器用さがあるからなんでしょうね。
中盤から終盤、ジェイソンに何気ない思いやりを見せたり、彼を救おうとして口が滑ったり、必死になったりと、意外性連発でニヤニヤが止まりませんでした。
おまけにラストでは渾身のデレを見せてくれる。
普段は思わせぶりな会話をしていた人が、まさかあんな率直な告白するとは思わなかった。
そのギャップに萌え。
「本当に好きな相手=自分が傍にいてはいけない」という難儀な人。
なんだかジェイソンに多大な夢見ているような気がしないでもない。
あと年齢のためか、それとも生来の気質ゆえか、エロがなんだかねちっこい(笑)。
 
そして、受けのジェイソン。
鼻っ柱の強いじゃじゃ馬33歳。
少数の美術犯罪班の中でも出世頭。
ケネディとの超有能コンビ、良いですね。
彼のアートの知識や人脈も事件に一役買っていた。
シリーズ名にも「アート」と入っているので、これからもそうした描写に期待したい。
ケネディに対等に扱ってもらえない事に葛藤してましたが、外野から見れば大事にされているのは火を見るよりも明らかなんだけれど……。
意外と鈍感?
10年前の事件で親友を失くしていたり、あるきっかけにより銃恐怖症の気があったり、彼も色々とこじらせていますね。
ティーンの時に片思いしていたバクスナーにこだわってしまっている点などもとても人間臭い。
しかし、ジェイソンよりもかなり若く、率直さや思いっきりの良さもあるので(それが原因で危険な目に合ってますが)、これからも彼を引っ張っていってくれるのではないかと思います。
ケネディも自分にないジェイソンの青臭さに惹かれた節があるし。