ボーイズラブのすゝめ

ボーイズラブ系のコミックス&小説の感想を中心に。

『構いたくなる背中』(ゆいつ/一迅社gateauコミックス)感想【ネタばれあり】

構いたくなる背中【電子限定描き下ろし漫画付き】 (gateauコミックス)

構いたくなる背中【電子限定描き下ろし漫画付き】 (gateauコミックス)

構いたくなる背中 (gateauコミックス)

構いたくなる背中 (gateauコミックス)

 
『構いたくなる背中』の感想です。
恋人に去られ、男達との刹那的な関係に慰めるサラリーマンと、彼を放っておけない同僚。
二人が互いに惹かれ合っていくプロセスを追った王道ラブストーリー。
 

『構いたくなる背中』(2019年4月15日発行)

あらすじ

ゲイの佐倉は、自分を捨てて女性と結婚するという恋人と破局した後、不特定多数の男達に次々と身を任せる生活を送っていた。
ある晩、男を誘惑していたところ、見知らぬ男に邪魔されてしまう佐倉。
欲求不満で不機嫌になった彼は、なんと社内で件の男と再会してしまう。
その男は部署は違うものの、同じ会社に勤める長谷川だった。
お人好しな性格で佐倉を放っておけない長谷川は「俺と住みませんか?」と提案してくる。
そして、勢いで同居する事になった二人。
最初は長谷川を鬱陶しく思っていた佐倉も、二人の奇妙な同居生活が楽しくなってきて……。
 

総評

一言でいうと、とても勿体ない。
ここで誤解してほしくないんですが、私はこの作品嫌いではない、むしろ大好物の部類です。
肉感的なキャラクター達と濡れ場。
愛嬌と心の奥底に隠した寂しさのバランスが絶妙な受けの佐倉。
彼を優しく包み込む攻めの長谷川。
破綻もなく、手堅くまとまったストーリー。
すべてが水準以上のレベルをキープしていると思います。
ただ好みな作品だけに、もっと話数やエピソードを増やして、主人公二人の人物造形を掘り下げてもらいたかったというのも正直な感想。

彼らの人となりやバックボーンを、もっと知りたかった。
加えて、当て馬である佐倉の元恋人・五十嵐があまり機能しなかったのも惜しい。
あれだけ意味ありげに出てきたのに、最後はなんとなくフェイドアウトしてしまったしなぁ。
例えば、佐倉がなぜあれほどまでに五十嵐にこだわったのか等が描かれていたら、佐倉の荒れた行動に説得力が増し、物語にさらに厚みが出たのではないかと思います。
 
私は作者であるゆいつ先生を本作で初めて知りましたが、良い書き手さんですね。
これからも先生の後続作品を追いかけていきたい。
 

構いたくなる背中 第1話

佐倉の閉塞的な毎日の中に突然現れた長谷川。
泰然とした彼の存在感が印象的。
乱れた生活がもとで、珍しく仕事上のミスを犯してしまった佐倉を、慌てずフォローする姿も良いですね。
仕事ができる男は単純に格好いいし、何より根無し草のような佐倉には長谷川のようにどっしりした人が必要なんだという説得力が生まれる。
無表情の為、佐倉も読者も長谷川の真意が見えず戸惑いますが、彼の一見突拍子のない言動には興味を引かれざるを得ません。
ラスト1ページを丸々使った「俺と住みませんか?」で、次回への期待が膨らみます。
 

構いたくなる背中 第2話

長谷川の部屋で同居生活を始めた二人。
えっ、2週間、一緒のベッドに寝てたの!?(笑)
肉体関係から始まるという展開になっても、まったくおかしくない二人なんですけれどね。
とにかくいまだ恋に至っていないとはいえ、長谷川が佐倉の数々の誘惑にたじろがないのが凄い。
その割に、自分の体温が高いことには照れているし……、やはり長谷川って独特の感受性の持ち主。
 
一方、佐倉はなんだかんだと言いつつも、長谷川との生活に慣れ親しんできている。
共にお鍋をつついたり、トランプしたりと楽しそう。
あどけない表情が可愛い。
性衝動が介在しない関係って、彼にとっては貴重なものなのでしょう。
それでも長谷川を挑発してしまうのは、恋人に裏切られた事による人間不信の根がそれだけ深いという事なんでしょうね。
 
少年のような笑顔や寂しそうな横顔など……、佐倉が見せる様々な表情。
それによって、長谷川が佐倉に対して抱いていた、まるで野良猫を保護するような感情にも変化が生じてきたようで……。
直接的な性行為よりも、無意識の信頼を寄せられた方が、よっぽどクる事ってありますよね。
鉄面皮だった長谷川の表情が徐々に崩れていく様に、ニヤニヤが止まらないラストでした。
 

構いたくなる背中 第3話

佐倉の元恋人・五十嵐の影が見え隠れする第3話。
内心動揺する佐倉でしたが、長谷川の存在に安らぎを覚える。
長谷川って五十嵐とは真逆のタイプですからね。
 

「笑って放さないでください」
「ハハっ、昔のことだし泣くかよ~。カッコわり」
「格好悪いところ、俺には見せていいですから」

 
……あぁ、こんな風になんの衒いもなく言われたら、強がっていた仮面もすべて剥がれ落ちてしまう。
五十嵐を愛していたのに、捨てられるのが怖くて本音を言えなかった。
本当はもっと大事にされたかった。
 

人を好きになるのって怖い。

 
片や、長谷川も、他の男に対する佐倉の想いを聞かされて傷つく。
そして自分に口づけてきた佐倉に答えて、押し倒してしまう。
ここの長谷川の、良心の呵責にまみれた顔が半端ない。
肉欲を軽く凌駕する罪悪感。
ここまで真面目で、誘惑に流されない攻めというのもそうそういません。
 

構いたくなる背中 第4話

キスをしてしまった事により、一緒に暮らせなくなってしまった佐倉と長谷川。
とりあえず、ちゃんと話し合いましょう(ボーイズラブで発生するもめ事は、8割方それで解決する)。
意思の疎通がとれず、泥沼にハマってしまう二人。
佐倉はまた男漁り始めてしまった上に、元凶の五十嵐も登場。
意味ありげに現れた割りには、こいつもかなりの勘違い野郎ですね。
まあ、そのおかげで佐倉もようやく自分の長谷川に対する気持ちに気づけたんですが。
しかし、長谷川の律儀さが今回ばかりは仇となって、二人の仲はどんどんこじれていくばかり。
佐倉はせっかく頑張ったのに、なんだか気の毒になってしまいました。
それにしても、五十嵐、しつこいですね。
己が捨てた佐倉を、彼なりに気にしているのかもしれないけれど、なんだかなぁ……。
 

構いたくなる背中 第5話

一見仲良さげに見える佐倉と五十嵐の姿(大いなる勘違い)を目撃した長谷川の心は千々に乱れ、ついに仕事でミスをしてしまう。
そこで彼をフォローしたのは佐倉。
第1話と対になっているのが良いですね。
この辺り、佐倉の笑顔と健気さがたまらない。
 

もう一晩限りの相手は必要なくなった。
カウンセリング成功だな。
ありがと、短い間だったけど楽しかった。

 
今まで相手にどこか遠慮がちだった彼らなら、そこですべてが終わってしまってもおかしくなったけれど、今回ばかりは違った。
訥々と語り合いながら、誤解を解いていく二人が初々しい。
 

お前のこと、好きになったから…。

 
真っ赤な顔した恋するサラリーマン、美味しいですむしゃむしゃ。
それに対する、長谷川の答えも最高。
本当に不器用ですが、この上もなく誠実な男ですね。
 
両思いになった二人は、長谷川の部屋でめでたく結ばれる事に……。
この緊張感に満ちた微妙な空気(笑)。
そして佐倉に押されて、わたわたする長谷川がなんだか可愛い。
彼らの場合は佐倉の方が何かと経験豊富そうだから、性行為でも受けがイニシアティブを取る事が多くなりそう。
それもまた良きかな。
 
ラストは二人のラブラブ同棲生活。
長谷川を迎える佐倉の満面の笑顔が眩しい。
 

描き下ろし

佐倉のお色気満載。
トイレで自慰する姿に鼻血。
長谷川も、あんな卑猥な姿見えられたらたまらない。
第5話ラストの影響もあってか、佐倉からなんだか団地妻的な(?)エロティシズムを感じてしまう。
長谷川との優しいセックスに自分を大事にしてくれていると喜びを覚える反面、彼をもっともっと欲しくなってしまう佐倉。
本来ならセーフセックスが鉄則ですが、ボーイズラブはファンタジーだから。
おそらく長谷川は今までもまっすぐに生きてきたと思われますが、いきなりこれだけエロい恋人ができたら、そりゃあ箍も外れてしまうでしょうよ。
 

電子限定版描き下ろし

同僚と行った居酒屋のトイレで致してしまう二人(性格には素股)。
酔っぱらった事により、衆人にエロ可愛い姿を晒す佐倉。
さすがの長谷川も嫉妬して、佐倉をトイレの個室に連れ込んでしまう。
そこでも無意識に長谷川を煽りまくるから、フラフラになってしまったのはある意味自業自得。