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『ギヴン(5)』(キヅナツキ/新書館ディアプラス・コミックス)感想【ネタバレあり】

ギヴン(5) (ディアプラス・コミックス)

ギヴン(5) (ディアプラス・コミックス)

ギヴン(5) (ディアプラス・コミックス)

ギヴン(5) (ディアプラス・コミックス)

 

『ギヴン(5)』の感想です。
秋彦と雨月、そして秋彦と春樹の一進一退する関係がこの上もなく丁寧かつ繊細に描かれている5巻。
三人の恋の行く末は?
そして、givenはフェスの三次審査を通過できるのか?
 

『ギヴン(5)』(2019年4月15日発行)

あらすじ

雨月の家へ帰れない秋彦のため、彼と奇妙な共同生活を始めた春樹。
フィルターを取り払い、一度素の個人として向き合った二人の生活は殊の外順調に進んでいた。
共同生活がきっかけになり忘れかけていた音楽の楽しさを思い出した秋彦にとって、春樹はどんどんかけがえのない存在になっていく。
フェスの三次審査も迫り、秋彦は雨月への想いに決着をつけようと彼の家へ向かうが……。
 

総評

読了後、とてつもない作品を読んでしまったという感慨でいっぱいでした。
相当なボリュームでしたが一気読み。
givenの演奏が奏でられると共に、それぞれの心情が強烈なリアリティでもって読者の胸に迫ってくる。
とにかく上質な人間ドラマ。
登場人物全員が不器用で愛しかった。
その分、どうしても誰かが泣かなければいけない展開が非常に辛かったけれど。
ボーイズラブというジャンルに抵抗がないなら、ぜひ手に取っていただきたい名作。
できればこれからもgivenのさらなる飛躍と、メンバー達4人の成長を見守っていきたい。
 

code.22感想

タケちゃん、無茶苦茶良い人だなぁ。
失恋が理由で憔悴していた春樹が、失恋した当の本人ある秋彦と一緒に暮らしていたら、友達としては心配にもなる。
 

完全に梶明彦の巣じゃねーかこれ!

なんでお前、梶明彦飼ってんだよ

 
言葉のチョイスも面白いし。
変に秋彦を否定せず、春樹の意向を汲み取れる大人だ。
春樹も自然体でいられる。
そんな二人を目の当たりにして、秋彦は複雑な表情。
タケちゃんは秋彦とは違い、春樹と優しい間柄を築ける。
そう言えば、秋彦は以前もタケちゃんに嫉妬している節がありましたね。
しかし、秋彦はもう少し自分と春樹の関係を見つめ直す必要がある。
 
一方、バンド活動の方はフェスの三次審査を目標に、いよいよ熱が入っていく。
なんか、あらためて思いましたが、立夏って仕切り屋というか王様気質なんだなぁ。
それを許容できる年長組も何気に凄いけれど。
真冬と立夏が恋愛に振り回されず、きちんとメリハリつけられているのが偉い。
二人ともそれだけ音楽馬鹿だからなんだけれど、たとえ年齢を経てもなかなかこうはいかない。
夏季講習でちゃんと互いの想いを確認できたのも功を奏したのでしょう。
 
そして八月も終わりに近づき。
一緒に花火を見に行く年少組。
途中まで付いてきた柊もイイ味出している。
この幼馴染特有の砕けた感じが好き。
真冬、ベーシストの人差し指折らないで(笑)。
 
立夏と一緒にいる真冬は良い顔しますね。
幸せそうだ。
片や、立夏は浴衣を着てきた真冬にドキドキ越してもや…としてる。
なんなんだ、この微妙な反応(笑)。
おまけにバンドに熱中しすぎて、真冬と会話らしい会話をしていなかった事に今さら自己嫌悪。
いや、彼らの場合は演奏がコミュニケーションみたいなものだけれど、それに胡坐をかいているとヤバいですね。
おまけに春樹と秋彦の間のいざこざに気付いてなかった。
こっちが「!!?今なんて!!?」だよ。
あれだけ明け透けだったのに……。
音楽に関しては目端が利くのに、恋愛については朴念仁な立夏(だがそこが可愛い)。
真冬との恋愛経験値の差が浮き彫りになってしまいましたね(生来その手の話に鈍いんだろうけれど)。
 
その頃、ベランダから花火を眺めていた年長組。
雨月の部屋は半地下で防音も効いて、花火大会があったのすら知らなかった秋彦。
秋彦と雨月が二人だけの世界に籠っていた事が象徴されていますね。
そんな世界が永劫続くわけがなく。
けれども、互いが好きだからずっと目を逸らしていた。
 

でももう苦しい。

 
秋彦が春樹に礼を言い、春樹はそれを受け止める。
そうする事でどちらが優位に立つのではなく、対等に向き合えた。
これが彼らの本当のスタートライン。
 

code.23感想

春樹と秋彦の共同生活。
家事分担にも彼らの関係が対等になったのが表れています。
「お前に任せるといっつも同じ味付けになるんだもんなぁ」の春樹の横顔がたまらない。
変な力みが消えて、とても奇麗になった。
「じゃあちゃんと顔洗っておいで」も、彼の優しい声が聞こえてくるようです。
一言、尊い。
 
一方、バンドに関しては新曲がとりあえず完成。
しかし、真冬の歌詞はいまだ完成せず。
まあ、妥協できない子ですからね。
ここはじっくり。
そうこうしている内に、深夜に活動できない高校生組は帰宅する時間になりますが……。
なんと、この日は真冬が立夏宅にお泊りする日。
「えっ、展開早すぎじゃない!?」と思いましたが、もちろんあの弥生お姉様が同じ屋根の下にいるのでアレコレできるわけもなく。
それでも夏期講習のセミの話を思い出したり、歯をもの凄い勢いで磨く立夏に、生暖かい笑みが止まりませんでした。
それにしても、こういう超王道なモダモダイベントは何度読んでも滾る。
真冬の「冷静になると急展開だね…」の他人事感には笑いましたが。
真冬が隣で寝てて、立夏が平静でいられるわけがないんですが、クールダウンしてくると、バンドの方に思考が行ってしまうのが彼の音楽馬鹿たる所以だなと。
 
そして、ここで由紀の事をぶっこんでくるキヅ先生はやっぱり只者じゃない。
 

あの時計、由紀んちにあったやつと同じだ

 
この台詞、心臓にナイフを突きつけられたかと思うくらいヒヤッとしました。
そうなんですよね、たとえ歌う事で表現したとしてもそれで終わりじゃないんだ。
あれだけ好きだった人を容易く忘れられるわけがない。
二人の感情は上手に言葉にできないけれど、ただ互いを泣かせたくないのは嘘偽りのない真実で……。
これからも、二人の想いは試され続ける。
 
同じ頃、終電を逃し、部屋へ歩いて帰る事になった春樹と秋彦。
ここの二人、特に秋彦が滅茶苦茶良い顔しています。
そして、どうしてもその豊かな表情が、雨月を愛おしそうに見つめていた昔の彼の姿と重なってしまう。
春樹と一緒にいると、音楽や日常の何気ない出来事が楽しくてたまらない。
それは雨月と過ごす時間からは失われて久しい感情。
雨月を純粋に愛していた気持ちが、春樹へとシフトしていく。
春樹に惹かれる気持ちを押さえられない。
その事に打ちのめされる秋彦の気持ちが痛いほどわかる。
傷つけ傷つけられても、踏ん切りをつけれなかった感情を手放そうとしている事への恐怖、寂しさ、もしかしたら自己嫌悪もあったかもしれない。
でも、秋彦の様子を見ていると、もう後戻りはできませんね。
 

code.24感想

時は9月。
高校は新学期に入り、ライブ審査の日が迫る。
しかし、真冬は歌詞が出来上がらず袋小路にいた。
そんな真冬に立夏がアドバイス。
立夏は音楽やバンド活動に関しては腰が据わっているというか頼りになりますね(恋愛面は真冬に押されがちだけれど)。
他三人の「うわ、かっこいい」にはウケましたが…、立夏、不動のいじられキャラというか愛されてる(笑)。
 
立夏のアドバイスを参考に雨月の家を訪れた真冬だったが、そこにはボロボロな雨月の姿が……。
部屋の中も荒れ果てている。
薄々感じてはいましたが、雨月はもしかしたら秋彦以上に相手に依存していたんでしょうね。
そこから何かを吸収しようという真冬の貪欲さも空恐ろしいですが。
 
これは雨月に合った次の日なのか、それとも数日後なのか分かりませんが。
 

歌詞ならできた。
――いけるよ。

 
えっ、そんな呆気なく!?
……天才同士の作用効果が凄まじすぎて凡人には追いつけない。
そんな中、ライブ審査の場所も日程も決まり、いよいよ緊張感が高まってきましたね。
 

code.25感想

10月に入り、とうとうライブ審査の1日目が始まる。
とりあえず下見にやって来た立夏は、真冬の紹介で柊&玄純と初めて対面するが(実際、柊とは一度顔を合わせているけれど、あの時テンパってたからモブ程度にしか思ってない(笑))。
まあ、どちらも王様気質だから合うわけないわな。
似た者同士というか……、あぁ、だから真冬の立夏に対するあしらい方は堂に入っていたのか、柊で慣れてたから。
ここに至っても、審査システムを理解していない幼馴染組に噴いた。
「へぇ~」って、類友ですね、このコ達!(可愛いな)
 
1日目に出場する柊達と入れ替わりに春樹登場。
ところが下見をサボった秋彦は行方知れず。
 
……やはり雨月の家に行っていたか。
 

code.26感想

二人の関係にケリをつけるために雨月の家にやって来た秋彦。
 

最近、音楽が楽しいんだ

ここから出たい。
ここから出て、違う音楽をやってみたい。

 
……うわぁ、これは雨月にとっては最も厳しい、完膚なき訣別の言葉ですね。
たとえ恋人関係を解消しても、秋彦とは音楽を通して繋がっていたから、なんとか自分を保っていられた。
だが、秋彦は自分達だけの世界から飛び立とうとしている。
理屈が分かるのと、許容できるのとは違う。
ここの雨月の血を吐くような「嫌だ」があまりにも生々しくて泣きたくなる。
 
その頃、連絡の取れない秋彦に不安を覚える春樹。
雨月のところへ行ったのを薄々感づいているんでしょうね。
そこで真冬に指摘されて、あらためて自分と秋彦の関係を見つめ直す。
秋彦が暴走した時、自分が彼に手を伸ばしたのは奇麗な感情だけではなく、打算も含まれていたんだと……。
それは仕方ないですよね、春樹だって聖人じゃないんだから。
 
そんな春樹が帰宅すると、ドアの前には秋彦が待っていた。
なんだかすごく安心したのは、私だけではないはず。
ここからの二人が超ラブい。
秋彦も春樹もなんつー表情をしているのか……(萌え)。
でも安易に幸せに浸る事もできない。
今この瞬間も、雨月は孤独に耐えている。
「どうして?お前こそ、ヴァイオリン捨てるのかよ」のヴァイオリンはイコール雨月だから。
 
一方、年少組は公園でフェス1日目を振り返っていた。
立夏は柊と反りが合わないかもしれないけれど、実力を正しく認められるのはさすが。
実力者の演奏に触発された二人だったが、同時になんと真冬が緊張してしまう。
立夏と同じく「えっ、真冬、緊張するんだ!?」と驚きましたが、これは良い緊張感ですね。
立夏が真冬に贈った言葉も良い。
互いを想う気持ちが二人の力になる。
 

code.27感想

フェス二日目。
とうとうgivenの演奏が始まる。
さすがに雨月のヴァイオリンを捨てるのかという言葉にショックを受けた秋彦。
 

そもそも俺が音楽を捨てれば、全部上手くいくんじゃないか?

 
いや、できるわけないでしょう(即答)。
そういう逃げを打ってしまうのが秋彦の弱さですよね。
春樹にも「情けない顔」と指摘されてしまうし。
会場にはもちろん雨月の姿があります。
音楽がきっかけで始まった二人の関係は、やはり音楽でしか決着をつける事はできない。
 
ここからのシーンは圧巻でした。
真冬の歌、最初のライブでは由紀への個人的な想いをぶつけ、聴衆はただただその渦に呑み込まれていった。
しかし今回の演奏は違う。
誰もが抱える普遍的な感情を歌い上げています。
悲しくても、寂しくても、人は立ち止まってはいられない。
真冬の歌には人の弱さや儚さを包み込む優しさがありました。
そして人が明日へ向かう希望も。
 
雨月はその演奏を目の当たりにして、秋彦がこれから何をしたいのか、そして誰と歩んでいたいのかと悟ってしまう。
会場を出る雨月を追いかける秋彦。
そして二人の別れ。
二人の表情、コマ割り、台詞回し、すべてが素晴らしい。
秋彦の言葉も雨月の涙も辛かったけれど、二人が共に過ごした時間は決して無為なものではなかったと確信できる。

秋彦やgivenの音楽の中にも、雨月の存在はこれからも残り続ける。
雨月を癒せる人が今後現れてほしいと思う反面、それを安易に口に出すのもはばかられるような壮絶な余韻でした。
 

code.28感想

結局、givenは審査に落選してしまった。
あの演奏で通らないのだから、音楽の道って本当に険しいなと素人ながらに思いました。
その後、秋彦は春樹の部屋を出る。
うん、それが良いと思う。
秋彦、男のけじめをつけましたね。
そして、より一層音楽にのめりこんでいく。
部屋に関しては、お金を融通してくれるよう親に頼み込んだんですね。
自分で思うほど大人じゃない事を、秋彦は目をそらずに自覚したのでしょう。
あと何気にタケちゃんに彼女ができたようでおめでとうございます。
 
季節は巡り、冬から春へ。
秋彦が出場したヴァイオリンコンクールに足を運んだ春樹(真冬が良い仕事をしてくれました)は、以前とは変化した秋彦に戸惑いを覚え、会場を出てきてしまう。
秋彦を変えたのは誰なのか思い悩む春樹。
いや、それアナタだから!!
三次審査に雨月が来た事に気付いていて、半年ぐらいモダモダしてたんでしょうね。
読者はこの時点でニヤニヤが止まらないけれど。
そこへ春樹を追って、秋彦がやってくる。
この場所、おそらく二人が夜通し歩いて帰った河原ですよね。
もうね、秋彦の言動が恋する思春期まんまで感動通り越して爆笑しました(酷)。
あの透かした誰かさんはどこへ行った?
 

俺が!
生き方を変えたのは!!
お前に見合う男になりたかったからだ

 
どうしてgivenのメンバーは皆、恋愛事でテンパると宇宙飛ばすの!?
顔を真っ赤にする二人……、あぁ、甘酸っぱい。
あの傲岸不遜な秋彦が「さわってもいいですか」、「好きです。俺と付き合って下さい」と律義に敬語を使っている事に悶える。
春樹の返事を見た時はスタンディングオベーションしたいくらいの気分でした。
たくさん傷ついた分、二人とも幸せになれ!!