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『ギヴン(4)』(キヅナツキ/新書館ディアプラス・コミックス)感想【ネタバレあり】

ギヴン(4) (ディアプラス・コミックス)

ギヴン(4) (ディアプラス・コミックス)

ギヴン(4) (ディアプラス・コミックス)

ギヴン(4) (ディアプラス・コミックス)

 
『ギヴン(4)』の感想です。
年少組二人がゆっくり互いへの想いを育む中、年長組が大変な事になってます。
真冬の「ちゃんと確かめないと、だ、だめに、なるから」はけだし至言。
秋彦の暴走、春樹の報われない献身に痛みを感じつつも、ページをめくる手が止められませんでした。
 

『ギヴン(4)』(2018年1月15日発行)

あらすじ

秋彦の下で音楽をとめどなく吸収する真冬が目にしたのは、行き詰まり互いを傷つけ続ける秋彦と雨月の関係だった。
彼らの辛さを汲み取った真冬は、立夏に対する想いや自分の追求する音楽を育んでいく。
一方、図らずも秋彦と雨月の確執に巻き込まれた春樹は、秋彦に押し倒される。
雨月との関係に疲弊する秋彦を癒したいと体を差し出す春樹だったが、寸でのところで秋彦に拒絶されてしまう。
心を引き裂かれた春樹が、己の恋情に終止符を打つためにとった行動は……。
 

総評

とにかく急展開の4巻。
年少組のピュアピュアな恋愛にほっこりしていたら痛い目見るよ。
春樹は読者が感情移入しやすいキャラなので、秋彦の暴挙は正直かなり腹に据えかねました。
あんな健気な成人男性をいじめちゃいかん。
ぶっちゃけた話、あのシーンで最後まで至ってたら、バンド自体終わっていたでしょう。
春樹の「お前がバンドメンバーじゃなきゃ捨ててる…」というのも、大概音楽馬鹿だと思いますが。
キヅ先生も秋彦にあそこまでやらせるのとは、クリエイターとして容赦ないなと。
押し倒すまでは有りがちな展開だけれど、後の「お前に言ってもどうにもならない」で完膚なきまでに春樹を打ちのめしてますからね。
正直かなりの大博打だったなと感じますが、それに勝ってしまうのがキヅ先生の凄さの所以。
 

code.17感想

雨月の才能の凄まじさと、秋彦と雨月が付き合いだした経緯から破局までが描かれています。
今までは秋彦→雨月にスポットが当てられていましたが、ここで雨月が二人の関係をどのように考えているのか明かされます。
無限の才能を有し、他者を凌駕する圧倒的な存在であるからこそ、限界が見えてしまう雨月が哀しい。
ただ恋心の赴く間にいられたら良かったけれど、同じフィールドで高みを目指す者同士だからこそ、秋彦はどうしても雨月に嫉妬せずにはいられない。
そして、そんな秋彦の苦しみに何もしてやれない雨月。
愛する者を最も脅かすのは自分自身……。
こんな別れ方、未練が残らないわけがない。
二人が二年間も荒れた生活を送ってしまった気持ちが分かる。
 
秋彦と春樹の車中での会話。
春樹、雨月の存在も、秋彦と雨月が同居ている事も知らなかったんですね。
おそらく秋彦はそれも意図的に隠してたんだろうな、うわぁ……。
ここでの天才談議と春樹の秋彦評。
 

なんてゆうか秀才ではあるんだけど、器用貧乏な感じ

 
アイタタタ……。
秋彦が一見平然としているのは、これまで同じ件で何度も思い詰めてきたからなのだと思う。
しかし、いくら思い詰めても、雨月との差は一向に縮まらず、精神が摩耗してしまったような……。
ここで春樹に手を伸ばす秋彦と、それを反射的に避ける春樹が、秋彦の春樹に対する甘え(春樹に惹かれつつも、雨月から逃げている部分が大きい)を本能的に拒絶しているように見える。
やはりキヅ先生の感情表現は繊細だなと感心してしまいました。
 

互いの存在が、この世で一番互いを追いつめていることに気付いた

 

けれどもう、二度とあれ以上はないだろう

 
P.32の上段のコマ、秋彦の笑顔がヤバい。
本当に雨月の事が好きなんだなというのが伝わってくる。
だが普通の人間なら流してしまうような事も、雨月の鋭い感受性は掬い取ってしまう。
そして、一度気づいてしまったら、妥協する事はできない。
天才ゆえの孤独と切なさ。
そんな雨月を見て、もう一人の天才である真冬は何を思っただろう?
 

なんで、すごく上ノ山くんにあいたい

 
真冬と立夏の今後も心配でならない。
二人にはできれば違う未来を模索していってもらいたい。
 

code.18感想

高校での夏休みの補習。
真冬と立夏は久しぶりに顔を合わせる。
最近、真冬はずっと秋彦のところに入り浸っていていたんですね。
うわぁ、雲行きが怪しい……。
 

まじで俺が怒ってないと思ってんの

 
どちらかが不満を抱いているのに有耶無耶にしてしまうの、年齢関係なくやってしまいがち。
後になって取り返しがつかなくなってしまうのは分かっているのに。
恋愛に限らずですが、人間関係って本当に難しい。
しかし、真冬はここで偉かった。
 

ちゃんと確かめないと、だ、だめに、なるから

 
この必死な表情を見ただけで、真冬が立夏をどれほど大切に思っているかがわかる。
秋彦と雨月の関係が、自分達に重なってしまった。
同じ轍は絶対に踏みたくない。
それに対して、立夏は自己嫌悪に陥っているけれど、これは仕方がない。
秋彦にすら嫉妬してしまうのは、それだけ真冬が好きな事の証拠だから。
ここのキスシーンも良い。
最終的には真冬から行っちゃうの……、以前から気付いていたけれど、真冬、ポメラニアンの皮を被った肉食獣ですね(犬は元々雑食だけれど)。
はあ、立夏は真冬にもうメロメロですよ。
 
一方、年長組。
秋彦は相変わらず爛れた生活を送ってますな。
しかし、不可抗力とはいえ、他の女とのエッチシーンを春樹に電話で聞かせるってどうなの!?
自暴自棄になのは分かるが、あまり春樹を傷つけないでほしい。
秋彦への想いにまったく希望を見出せない春樹。
そんな時、タケちゃんに別のバンドのサポートメンバーをやらないかと誘われる。
しかも、そのバンドに春樹の元カノがいるとな!?
……荒れそうな予感しかしない。
 

code.19感想

前回、恋人として一山超えた真冬と立夏ですが、バンド活動の方も順調。
真冬も音楽をどんどん吸収して、創作欲は留まるところを知らない。
以前の曲は由紀への想いという個人的な感情を歌い上げたけれど、次は……。
言語表現が追い付かないのが可愛い(笑)。
まあ、真冬は感性優先の子だから。
 
片や、春樹はサポートメンバーの件を受けるか否か考えあぐねている上に、他メンバーの非凡さを目の当たりしてしまう。
その先にあるのは、とてつもない疎外感。
おそらく、読者が最も感情移入しやすい登場人物は春樹だと思う。
だからこそ、読んでいる身としては居たたまれない胸苦しさ。
 
そんな時、春樹の家に雨月に殴られた秋彦が「泊めてくれ」とやってくる。
ここからは有体に言ってTHE ど修羅場。
秋彦、自分は秘密を抱えているくせに、春樹にはそれを許さないってあかんやろぅ……。
 

お前も!!
お前、俺のこと好きなくせに逃げんの

 
春樹に惹かれつつも自分は春樹のものになれないのに、独占欲は人一倍。
この辺、雨月に別れを告げられたトラウマも相まって、もう秋彦の言っている事は滅茶苦茶。
 

code.20感想

前回から引き続き、春樹を押し倒した秋彦。
この回、読んでいて本当に辛かった……。
歯止めを失った秋彦が、手加減無しに春樹の尊厳を傷つけるから。
なのに秋彦の頭の中は雨月の事でいっぱいって残酷過ぎる。
それがわかっていても、春樹は手を差し伸べようとする。
秋彦の事がどうしても好きだから……。
 

お前に言ってもどうにもならない

 
この秋彦の台詞は弁護のしようがない。
これは絶対言っちゃいけない、春樹の心をズタズタにするには十分すぎる一言でした。
あれだけ甘えて、気を持たせて……、春樹を対等な存在として見ているなら決してしてはいけない数々。
謝る論点もズレてるしなぁ。
結局、真冬の由紀に対する想いと同じく、当事者である秋彦と雨月の二人がケリをつけなければいけない問題。
そこに春樹を巻き込んでしまった。
秋彦の前ではあくまで事務的に処理しようとする春樹の表情が切ない。

その後。
春樹に「帰れ」と言われたのに、居座り続ける秋彦に不覚にも噴き出してしまった。
いや、そこは帰ろうよ!!(笑)
ホント繊細なんだか、図太いんだか。
朝になっても部屋に帰ってこない春樹に痺れを切らした秋彦は、周囲の人間にLineで尋ねまくるが見つからず。
そこへ春樹が帰宅。
 
えっ、髪、切った!?(タモさんかよ)
 

code.21感想

秋彦への想いの象徴である髪を断ち切った春樹。
さすがの秋彦も、春樹に対して距離を取りあぐねるが……。
そりゃあ、あれだけの事されれば春樹も怒る。
一般成人男性に聖母のような無償の愛を求めて、寸前ではねつけるって……、文章にしたらあらためてスゴイ秋彦の所業。
おまけに再度「帰れ」と宣告する春樹に「行くとこないからしばらく泊めて」って……。
いっそ清々しいほどのクズっぷりだな、秋彦(遠い目)。
 

お前がバンドメンバーじゃなきゃ捨ててる…

 
いや、ホントにね。
どれだけ春樹を惨めにすれば気が済むのか?
 
そして、彼らの感情は如実に音楽に出てしまうので、givenの演奏もギクシャクする。
くわえて周りの天才達と自分を比較し、アイデンティティを見失いそうになる春樹。
そんな彼に助け舟を出すのが、なんと彼を傷つけた当の秋彦なのに驚嘆する。
ここでああいう事が言えてしまうのが本当にズルい。
斜に構えているくせに、驚くほど真っすぐなんですよね。
 
ここから二人の奇妙な生活がスタートする。
今まで春樹は恋心ゆえにフィルターを通して秋彦を見ていたと思うんですが、それを一度取っ払い、秋彦の素の部分をどんどん知っていくのが良い。
秋彦がやった事は客観的に見て許し難い事だけれど、二人の関係を変化させる何かしらの意味があったのだと思える。
秋彦は自分の腕に胡坐をかく事なく、真摯に音楽と向き合っていた。
男飯は不器用な秋彦なりの気遣いでしょうか?
これじゃ春樹も秋彦を嫌いになる事ができない。