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『ギヴン(2)』(キヅナツキ/新書館ディアプラス・コミックス)感想【ネタバレあり】

ギヴン(2) (ディアプラス・コミックス)

ギヴン(2) (ディアプラス・コミックス)

ギヴン(2) (ディアプラス・コミックス)

ギヴン(2) (ディアプラス・コミックス)

 
『ギヴン(2)』の感想です。
とうとう読者の前に明かされる真冬の過去。
真冬を苛み続ける後悔と悲哀。
真冬と立夏は葛藤を乗り越えられるのか?
 

『ギヴン(2)』(2016年2月15日発行)

あらすじ

歌詞を担当する事になったものの、それがなかなか形にならない真冬。
そして立夏もまた、階段踊り廊下で真冬の心にずっと住み続ける人間の存在を知り、演奏も不調に陥る。
秋彦と春樹は、二人を奮起させようと試みる。
しかし4人で参加する初のライブの日は刻々と迫っていた。
真冬の過去が明らかになる激動の第二巻。
 

総評

まず冒頭でワンパン食らいました。
誰、これ……。
真冬とは違ったタイプの、他者の人生を変えてしまうような魔性的魅力を身にまとった青年登場。
 
また今回は真冬の過去がいよいよ明かされます。
本作は文章で克明に語るのではなく、小説でいうと行間を読ませるタイプの作品ですが、それでも幼馴染の由紀が真冬にとってどれだけ大きな存在だったのか痛いほど伝わってくる。
描き下ろしの海へ遊びに行く二人を描いた「海へ」もしかり(仲睦まじい様子が、返って胸に刺さる)。
正反対である二人が、互いの心の隙間を如何に埋めてきたか……。
真冬の迸る悲しみ、そして今後も心に刻まれ続けるだろう後悔……、これを歌詞にするのはどんなに難しいか、読者の私ですらわかる。
そんな真冬の姿を逐一目の当たりにしなければならない立夏の立場もかなり厳しい。
二人の懊悩はクライマックスに向かうにつれて加速。
そしてこの巻最大の見どころ、圧巻のライブシーンへと繋がっていく。
真冬の、まるで身を削るような歌声が皆の心を震わせる。
立夏、秋彦、春樹や観客達はもちろん、読者も例外ではなく。
真冬の歌がこれほど人の心を突くのは、それが彼の剥き出しの魂に触れている気分にさせられているからだ。
儚くて、痛々しくて、純度の高い想い。
そして、真冬を包み込む立夏。
これからの展開も波瀾万丈そうな予感がしますが、二人の軌跡を最後まで追いかけたいと思った瞬間でした。
 

code.7感想

冒頭とラストの数コマのとてつもない求心力。
恋はするものではなく、否応なく落とされるものなのだと確信しました。

雨月の存在が秋彦の中であまりにも鮮烈すぎて、春樹と弥生が気の毒になった。
文章的な説明は相変わらずほぼないけれど、これで長々と語ったら返って野暮になってしまいますね。
秋彦は立夏の相談にたびたび乗っていますが、ただでも年齢不相応に大人びた彼の言葉がさらに説得力を増した。
彼も立夏と同じく、運命に出会ってしまった人間だったから……、今の立夏の姿にかつての自分を重ねてしまったのかもしれない。

立夏に発破をかける秋彦がとにかく格好いい。
まだ20歳なのに、この酸いも甘いも嚙み分けた感……、春樹や弥生じゃなくともメロメロです。
笑いを交えつつも、言うべき事は言う。
そんな秋彦とまだまだ青い立夏の対比も良い。
前回は嫉妬に苛まれる”男”の顔をしていましたが、今回はまさに恋に惑う少年のそれ。
「オレは真冬が好きだ」ってツラしてるのか、そうかそうか(ニヤニヤ)。
 
ただ立夏もやはり天然タラシの素質があるようで、自分に恋している笠井さんの頭ぽんっは反則だと思う。
それを窓から見ている真冬の表情が……、この辺りから彼の立夏に対する想いが如実に表れ始めている。

終盤の立夏の肩に寄り掛かる真冬。
彼の指をいじる立夏。
本作のこういうシーンは、凡百のエッチシーンが束に掛かっても敵わないほどドキドキする。
物理的な距離の接近が、二人の心が惹かれ合っているのと呼応しているようだ。
それだけに、立夏は真冬の歌が大好きであると同時に、誰かを想って歌う真冬の声を聴きたくないんだろうな。
複雑な男心。
 

code.8感想

ライブ目前にも関わらず、音楽に関しては引き続き絶不調な立夏と真冬に年長者二人が一肌脱ぐ。
真冬に対する秋彦の「多分過去に決着つけねぇと、詞、書けねぇぞ」。
立夏に対する春樹の「今のお前じゃ、真冬の音に食われるよ」。
読者も察してはいたけれど、正論なだけに耳が痛い。
立夏と真冬の関係は、恋愛に音楽(もしくは音楽に恋愛)が介在する事によって(前にも述べましたが、正確に言うと彼らの恋と音楽は不可分)、バンドを飛躍させるポテンシャルを秘めている。
反面、前回のラストの秋彦によるモノローグ通り、バンドを崩壊させかねない危険性もはらんでいる。

まさに諸刃の剣。
春樹も言っていますが、秋彦、大博打に出ましたね(もしかしたら、秋彦は過去に同じような事を経験しているじゃないかと深読み)。
 
そしてライブまであと七日。
秋彦と雨月の関係性、マジ分からん。
同居して、おまけに一緒のベッドに寝ているだと!?
うわぁ、恋人以上に互いの心に食い込んでいるというか……、これは彼らのどちらかに恋する人間からすればたまらないですね。
 

code.9感想

真冬、由紀、柊、玄純の関係が明確になる。
磁石の両極が引かれ合うように共にいるのが当たり前だった真冬と由紀。
「ふたりだけの摂理の中で、ふたりの世界は完結していたように思う」という文章にゾクリ。
この上もなく安定しているはずなのに、ちょっとした弾みで粉々になりそうな危うさ。
硬いけれど脆いダイヤモンドのように。
二人を誰よりも近くで見ていた柊は、危険性を察していた。
その危惧を嘲笑うかの如く、ある日、破滅はあっという間に忍び寄ってくる。
P.80の1ページ丸々使った柊のモノローグと由紀の部屋の様子にゾクゾクしました。
ここに至っても、詳細をさらけ出さず、あくまで読者の想像力を煽り続けるキヅ先生の手法にも慄然とする。

ライブへ柊を誘う真冬に気やすい態度をとる柊。
ずっと由紀に捕らわれ続けた真冬が、立ち直る兆しを見せた事がこの上もなく嬉しかったのでしょう。
疎遠になってしまったけれど、柊にとって今も変わらず大事な幼馴染なんですよね、真冬も由紀も。
 
そしてライブ当日。
主要登場人物が一堂に会し、何かが起こりそうな予感がヒシヒシ伝わってくる。
結局、真冬の歌詞は完成せず。
立夏がはじめて見せた妥協に反発する真冬。
しかも真冬のギターの弦まで切れてしまう。
弦は二人の絆を象徴する小道具だっただけに……、読者である私も息を呑んでしまった絶望感。
 

code.10感想

表紙の由紀のピン、雰囲気が半端ない。
過去の真冬の心象風景っぽさも感じる。
この世には自分と由紀しか存在していないかのような盲目さ。
 

あ、ヤバい。――もう、これ、だめ……

 
このモノローグ、立夏のものか、真冬のものか、それとも両者のものなのか判然としませんが、読者の声すらも代弁していました。
ここで春樹が間髪入れずナイスフォロー。
 

切れたら直せばいいだろ!

 
さすがバンド最年長。
これは惚れる。
そうなんですよね、一見立夏が真冬に一方的に振り回されいるように見えますが、実は真冬のギターの弦を直す=真冬が新たな一歩を踏み出すきっかけを作ったのは立夏の方。
この鮮やかな逆転劇がニクイ。
この弦は立夏が張り直さないと意味がない。
二人のギクシャクした空気も綻んで……、というか甘酸っぱいモードに突入。
立夏の不器用さとまっすぐさが愛しい。
 
その裏でなんだか年長組も良いムード。
秋彦、こういう事、素で言うから性質悪いわぁ……。
なんなんだ、このぶっきらぼうだけれど世界一イかす死亡フラグは。
これは春樹でなくともキュンキュンする。
しかしライブ会場に居合わせた弥生は、秋彦の態度に疎外感を感じているようで……、秋彦を巡る人間模様も嵐の予感。
 
ラストはとうとうライブ開幕。
柊のブワッと完全にシンクロしました。
ここで次回に続くって殺生な……。
リアタイで追っていた読者諸氏は3か月ほど待たされたんですよね(掲載誌が既刊だったから)。
テンション上げるだけ上げておいて放置プレイ……、想像しただけでもツラすぎる。
 

code.11感想

表紙のマイクの前に立つ真冬。
これは是非カラーで載せてもらいたかった。
モノクロームだった彼の世界が変わるのを示唆しているような気がしてならない。

まず冒頭から泣かされる。
真冬と由紀の幼少期から破綻に至るまで。
 

「じゃあ俺のために死ねるの?」

 
この上もなく思い合っていたはずなのに、ちょっとしたボタンの掛け違いからあんな事になってしまうなんて……。
こんなの、真冬でなくとも心が壊れてしまう。
二度と会えないのに、街のそこかしこに由紀の気配を感じてしまう。
これは呪いにも似て……。
自分も由紀も許せない。
でも許したい。 
そして、すべてを取っ払った後に残ったのは「さみしい」という一言。
由紀に対する真冬の奇麗な感情も醜い感情も、すべてが歌と一体化し、ラストに向けて昇華されていく。
暴力的なまでに他者を引き込む歌声に、観客も、読者も、ただ呆然と聞き入る事しかできない。
まさに雨月が言う通り「こいつは才能を与えられた側の人間だ」。
 
また歌っている最中、真冬は立夏に対する自分の想いも自覚する。
ここまで、立夏が真冬の事情に深く立ち入りすぎなかった展開には拍手を送りたい。
たとえ惹かれ合っていても、彼らは個々の独立した人間なのだから。
 

ありがとう。ここまで連れてきてくれて。

 
真冬がやっとたどり着いた地点に立夏がいるという構成に心を打たれる。
二人のキスと真冬の涙。
おそらく真冬は由紀の件があってから、きちんと泣けたのは初めてなのではないかと推察(あまりにもショックが大きすぎて)。
読者である私は「いいよー!いいよー!」とひたすら悶えるだけ(キモい)。
まだ二巻なのにこの感慨はなんだろう?
それだけこの作品の密度と満足度が高い事の証左だろうけれど。
 
ラストの真冬&柊も良かった。
真冬と由紀、互いをこの上ないほど大切に思っていたのに、すれ違ってしまった二人の感情がリアルで人間の業を感じる。
 

俺、今、新しい好きな人がいる

 
立夏、報われて良かったね(これからも色々ありそうだけれど)。