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『ギヴン(1)』(キヅナツキ/新書館ディアプラス・コミックス)感想【ネタバレあり】

ギヴン(1) (ディアプラス・コミックス)

ギヴン(1) (ディアプラス・コミックス)

ギヴン(1) (ディアプラス・コミックス)

ギヴン(1) (ディアプラス・コミックス)

 
『ギヴン(1)』の感想です。
2019年7月からフジテレビ”ノイタミナ”他でアニメ化。
ノイタミナ枠では初のBL作品。
ある学生バンドを中心とした青春ストーリー。
名作・良作の多いノイタミナ枠なのでかなり期待しています。
 
given-anime.com
 

 

『ギヴン(1)』(2014年12月15日発行)

あらすじ

高校生離れしたギターの腕を持つ上ノ山立夏。
しかし、技術が向上すると共に失われていく情熱に、彼は倦んだ生活を送っていた。
そんな時、立夏は高校の階段の踊り場で、隣のクラスの佐藤真冬と出会う。
音楽の知識はほとんどないにもかかわらず、玄人はだしなギターを持った真冬は、立夏にギターの指導を請う。
当初は煩わしいと思いつつも、お人好しの立夏は真冬を同じバンドのメンバーである梶秋彦や中山春樹に引き合わせるなど、ついつい面倒を見てしまう。
そんなある日、ひょんなきっかけから真冬の歌を聞いた立夏の世界は一変した。
独特の歌声に魅了された立夏は、真冬をバンドへ誘うが……。
  

総評

第一巻という事で、真冬と立夏の出会いや真冬が本格的にバンドに加入するまでが中心となったストーリー。
いわば物語の導入部で、真冬、立夏、秋彦、春樹のバックボーンは詳らかにされていませんが、非常に惹きつけられます。
ベースにあるテーマはシリアスであるにもかかわらず、そこかしこにコメディが仕込まれていてスラスラと読めてしまう。
 
個性的な登場人物達やコマ割り&台詞回しのテンポの良さ。
また、なんと言っても彼らの奏でる音楽で、読者をぐいぐい引っ張っていく。
少なくとも、第一巻に関しては恋愛以上の比重で、音楽やバンド活動の様子が描かれています。

立夏の真冬に対する想いが音楽とは不可分なので、それもむべなるかなというところですが。
とにかく演奏シーンは、作者であるキヅ先生の並々ならぬこだわりが感じられる。
彼らの表情からアイコンタクト、コマの空白部分に至るまで。
マンガなのでもちろん音は鳴らないけれど、聞こえないはずの曲が紙面を通して伝わってくる。
そして、彼らの音に無性に触れたくなる。
まだまだ彼らの活動は始まったばかりですが、他者の熱情を煽りかき回すような……、それぐらいのポテンシャルを秘めている。
 
各キャラクターに目を向けてみると、突出して強い印象を残しているのが真冬。
ポメラニアンのような愛くるしさと、時折表に出る諦観まじりのアンニュイさのギャップ。
心の琴線に触れるような歌声と謎めいた過去も相まって、立夏がぶんぶん振り回されるのもわかる。
立夏もまだ高校二年生なのに、どエライ出会いをしてしまいましたね。
真冬はまさに「オム・ファタール(運命の男)」。
また真冬と立夏の兄貴分である秋彦と春樹もイイ味を出している。
秋彦、春樹、立夏の姉・弥生の三角関係(?)も気になります。
 

code.1感想

かなり冒険している初回だと思います。
キャラクターの情報などをほとんど提示させず、少ないながらも熱のある演奏シーンと真冬&立夏二人のやり取りの軽妙さで一話もたせてしまった。
真冬なんて当初「ギター教えて野郎(仮)」だし(笑)。
最終コマでやっと本名が明かされているのも上手い。
とにかく真冬の言動の先が読めず「なんだ、この子!?」と読者が思った時は、小動物じみた佇まいと澄んでいるけれど底の知れない瞳に捕らわれてしまっている。
立夏もきっとこんな感じで真冬を捨て置けなくなったんだろうなと共感。
 

code.2感想

立夏、秋彦、春樹のセッション、雰囲気がある。
しかし単にシャレオツ感を追及しているのではなく、合間に挟まれる軽口が良い。
秋彦、「嵐を呼びたい。裕次郎のように」って、お前いくつなんだ!?
それを聞いている真冬の目があまりにもキラキラしていて子供のよう。
 
自分から真冬を避けたくせに、いざ姿が見えないと動揺する立夏が可笑しい。
一方、真冬はしばらく音信不通だったと思えばバンドへひょっこり顔を出したり、「上ノ山君の方が格好良かったよ」となんの含みもなくヘラっと笑ったり……。
なんか本人無自覚で男心のツボをガシガシ押してくる。
小悪魔というか……、魔性というか……。
ホント罪な男だよ。
 
立夏の姉・弥生、初登場。
BLなのに、そのナイスバディにくぎ付け。
弟をこき使うジャイアーニズム、嫌いじゃない。
 

code.3感想

バンドマンは金が命(機材を買うために入用だから)という事で真冬がバイトを進められる。
この子、真面にバイトなんてできるんかいな?
立夏、相変わらず真冬と意思の疎通が取れず(笑)。
しかし、真冬の歌を聞いて、彼の世界は一変してしまう。
この見開きと次のページに、立夏と同じくぞわっとした。
一瞬で心臓をわしづかみにされた感が伝わってくる。
立夏にとっては喜怒哀楽すらも吹っ飛ばされ、ただただ衝撃だったんでしょうね。
間髪入れず、真冬をバンドに勧誘するがはてさて?
 

code.4感想

秋彦と弥生の交際が仄めかされる。
バイクから降りる時、手を貸したり髪を整えてあげたりと、世話焼きというか、秋彦がモテる理由がわかりました。
それを目の当たりにした春樹は嫉妬メラメラですが、もげるのはヤバいと思うの(笑)。
 
片や、立夏が真冬にバンド加入をあっさり断られていて爆笑。
おまけに、真冬のラインやメアドを知らない(春樹は知っている)のを突っ込まれてさらに撃沈。
まあ、真冬も大概だけれど、立夏もコミュニケーション能力は高くないから、互いの心情がわからなくても仕方がない。
読者としてはそのモダモダ感が良いのだが。
ここで「音楽はコミュニケーションだよ?」とアドバイスできる春樹は良い兄貴。
そして頭わしわしのシーンで、秋彦の天然タラシっぷりを再認識しました。
 
春樹に指摘を受けてすぐに真冬の下に駆けつけてしまう立夏、良いですね。
青春&甘酸っぱい。
ところがそこで偶然、真冬の過去を知る少年と鉢合わせ。
真冬はその場をとっさに走り去る。
ここから終盤までの真冬の驚愕、怯え、慟哭など、様々な心情が入り混じった感情表現の繊細さはお見事。
真冬がバンドをやりたくない理由、そしてギターの持ち主・吉田とはいったい何者なのか?
立夏と同じく、真冬を放っておけない気分にさせられました。
剥き出しの感情をぶつける立夏と、彼の至近距離で歌う真冬にも心を揺すぶられる。
下手なラブシーンよりも強烈な破壊力。
 

お前に会ってから、多分俺はぐちゃぐちゃだ。

 
立夏、おそらく茨の道ですがもう戻れませんね。

code.5感想

弥生の鬼姉モードと恋する乙女モードに爆笑しましたが可愛い。
これは男子大学生もギャップにやられるわ……。
 
立夏に恋する笠井さん登場。
それに伴って、真冬が若干ヤキモキモードになったのは意外でした。
今までは立夏→真冬が強調されていましたが、前回でやはり何某かの心情の変化があった模様。
それでも「今、お前のために曲作ってんだよ」で、テンション急上昇なのが音楽馬鹿だなと。
目が無茶苦茶輝いている(笑)。
 
中盤の焼肉シーンにも笑いました。
ゴゴゴゴゴって、その効果音、バンドマンガじゃない、バトルマンガのや……。
欠食児童共(?)に話をまったく聞いてもらえない春樹が気の毒。
春樹へソッと肉を差し出す真冬の優しさが胸に染みる。
そんなコメディシーンから一転、部屋に戻った春樹は酔っぱらい秋彦に押し倒される。
春樹が衝撃を受けたのはわかりますが、なんなんだ、その宇宙のトーン?(爆笑)
まあ、春樹が言う通り、後はベッタベタな展開なのですが、むしろそこがイイ!
 
ラスト、あくまでゴシップレベルだけれど、真冬の過去の一端が発覚。
これは確かにすべてが順調に言っていたところで、冷や水を浴びせられたような気分。
 

code.6感想

前回に引き続き、ショックを隠せない立夏。
しかし、ここでこの似顔絵を入れるキヅ先生のセンス、尋常じゃない。
一方、真冬のバイト先にcode.4で登場した真冬の幼馴染・柊が登場。
普段は見せない真冬の愁いを帯びた面持ちが、彼の過去と相まって読者の不安を掻き立てます。
 
とりあえず真冬の過去については棚上げになりましたが、バンド活動の方は極めて順調。
真冬の歌に潜む激情に触発され、立夏達の演奏や作曲にも力が入る。
 

俺、アレ聴くとほんっといたたまれないんスよ。
すげーイイなとも思うんスけど、腹の底がムカムカするっつか、何っか叩き壊したくなるっつか、およそ穏やかな感情とは言えないような

 
イヤ、それ限りなく恋に似た感情だから(即答)。
立夏と秋彦の気の置けない関係性も良いですね。
本物の兄弟みたい。
 
中盤の歌詞に挑戦する事になった辺りから終盤にかけて、真冬の魔性がさらにパワーアップしている。
春樹も結構タジタジ。
なんなんだ、あの儚げな表情と醸し出される色気。
二人が出会った階段の踊り場で、あんな告白されたら立夏もたまらない。
 

本当に、本当に好きな人がいたんだ。
まだ、俺はこれ以上の言葉を持てないけど、伝えたいことはあるって思った、から。

 
ここの嫉妬に燃える立夏の表情がスゴイ。
少年ではなく、完全に”男”の顔をしている。
いつか暴発しそうな熱量。
恋情はもちろん、真冬と自分以外の人間が音楽で繋がっているのが許せないんでしょうね。
 

人物プロフィール、ラフ画、おまけ四コマの感想

ページ数も多く、とても充実した内容。
立夏と弥生、顔そっくりなんですね。
男体化、女体化って……、立夏、幼い頃、絶対着せ替えごっことかされてそう(笑)。
四コマも小気味よく笑わしてくれる。
本編の展開がどうしても重くなってしまうので良い息抜き。
皆の個性もさらに浮き彫りになっています。
姉持ち同士の立夏&春樹と一人っ子同士の真冬&秋彦も意外と良いコンビ。