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『きのう何食べた?(4)』(よしながふみ/講談社モーニングコミックス)感想【ネタバレあり】

きのう何食べた?(4) (モーニングコミックス)

きのう何食べた?(4) (モーニングコミックス)

きのう何食べた?(4) (モーニング KC)

きのう何食べた?(4) (モーニング KC)

 
『きのう何食べた?(4)』の感想です。
時に笑い、時に唸らされる素敵なお話と、滅茶苦茶使えるレシピがいっぱいな一冊。
献立の栄養バランスの良さ、そして材料も一般的なもの(しかも旬の食材)が多く、メニューに困った時にも大助かり。
 

『きのう何食べた?(4)』(2010年10月22日発売)

総評

今回はシロさんのお母さんも割と大人しく(笑)、まったりと読めた一冊。
しかし、親だけではなく、自分の老いもなんとなく意識し、主役二人が一生添い遂げるにはこの先どうしていくべきか?
それを考えさせる巻でもありました。
個人的に最も印象深かったのは#32。
互いに相手を大事にしようと考えるシロさん&ケンジに心が温まり、思わず口角が緩みました。
その気持ちをいつまでも大事にすれば(それが結構難しいんですが)、慎ましくとも楽しく幸せな人生が送れると思います。
  

#25感想

シロさん&ケンジが同じくゲイカップルのヨシくん&テツさんと会食する話。
当初は「別に男4人が同じテーブル囲んで、調味料やインテリア、ファッションの話をしていても気にならないなぁ」と思っていたけれど、このお店、確かに女性同士かカップルしかいないから目立ってしまうかもしれない。
性嗜好は横に置くとしても、人間というのはなにかと固定観念に捕らわれがちだから。
またシロさん達を話題にしたカップルも特に悪気はないんだろうけれど、それが返って忍びないというか。
ケンジの謝り癖も、結構前から気になっていたんですが、彼の大らかさの表れでもある。
人間って多面的でつくづく興味深いと思いますが、シロさんが度量の小ささみたいなものに自己嫌悪してしまうのも分かるなぁ(私はどちらかというとシロさんの性格に近いから)。
しかし、シロさんは自省できたり、きちんとケンジの良さがわかる分、人間ができていると思う。
己を顧みる事から目を逸らしてしまう人も少なくないから。
 
今回のメイン・メニューは煮込みハンバーグ。
我が家の場合はタマネギをしっかり炒めてしまいますが、あまり火を通さずあえて食感を残すのも良いかも。
このきのこソースも難しくありませんが、ハンバーグだけではなく、他のレシピにも使えそうで汎用性が高い。
 

#26感想

前回に引き続き、ヨシくん&テツさんが登場。
今度はシロさん&ケンジの自宅でお食事会の巻。
オーガニック食材使いまくりで、料理の腕も玄人はだしなヨシくんに対して、気後れやちょっとの対抗心みたいなものを抱いてしまうのも共感します。
普段はほとんど目分量なのに、レシピ本チェックしてしまったり……、これもあるあるですね。
食材も奮発してって……、ブロッコリー1個236円、ピーマン1袋350円、卵1パック980円、とうふ1パック1260円って高ッ!!!
まあ、野菜に関しては、高騰しているとこれぐらいになっているのも見かけますが、私にはとても手が出せないなぁ(遠い目)。
いつもどおりが一番という事で……、器の小さな男を脱却しようとしているシロさんに笑いました。
 
メニューは”酒とたまごときゅうりのおすし”、”筑前煮”、”なすとパプリカのいため煮”、”ブロッコリーの梅わさマヨネーズ”、”かぶの海老しいたけあんかけ”と十分豪華&色のバランスも奇麗だと思います。
お酒にも合いそうですし(ここ重要)。
ケンジもシロさんの料理を自慢できて嬉しそうだし。
けれども、テツさん、褒めてくれるのはありがたいですが、指摘が鋭すぎてシロさんとの関係が嫁と姑みたいになってます(笑)。
 
ここで、ヨシくん達が、弁護士であるシロさんに養子縁組について相談したかった事が種明かしされます。
二人とも他者に対して気遣いができる人達。
派手さはないが、気心の知れた味わい深いカップル。
しかし、柔和なヨシくんの「僕が今まで歯をくいしばって稼いできた金です。故郷の両親には、びた一文だって渡したくない」という台詞に、彼がこれまで舐めてきた苦渋が垣間見える。
二人はシロさん達よりも年配っぽいから、自分自身の生き方を貫くのはより大変だった事でしょう。
シロさんも色々思うところがあったようで……、これからもヨシくん&テツさんにはシロさん&ケンジの良き先輩でいて欲しい。
 

#27感想

シロさんが風邪をひいて、ケンジが看病する話。
「今、彼氏がカゼひいてるんですよ~~~~~~(ハートマーク)」という台詞、ここだけ抜き出すとケンジが人でなしみたいで可笑しい!
まあ、常日頃はシロさんが家事のイニシアティブ握っているから新鮮な気持ちなのは納得できるけれど。
滅多に料理しない人間の手際の悪さと危なっかしさ、そしてそれを見守る気が気ではない主夫の構図は、王道だけれど面白い。
”鶏肉と卵と三ッ葉の雑炊”、”卵焼き”、”ほうれん草の白和え”と、甘い味や卵料理がかぶっていたり、メニューのバランスがいまいちなのもご愛敬。
シロさんへの愛もたっぷり詰まってますしね!
 

#28感想

シロさんが年越しそばに添える天ぷらに難儀する話。
作品内時間で言うと、3巻からほぼ1年が経過してしまったのか。
月日の流れが速い。
シロさんのお母さんによる天ぷらのコツに爆笑。
「思いきりよ!!」
……確かにこのお母さん、あらゆる意味で思いきり良いから(むしろ良すぎだから)。

シロさんが石橋を叩いて叩いて叩き壊すぐらい慎重なのも頷ける。
これぞ”THE 反面教師”という感じ。
 
それにしても、シロさん、年末の忙しい時期に天ぷらをきちんと手作りするのがエライ。
我が家は大抵でき合いのものを買ってきてしまうから。
エビのかき揚げは少し失敗してしまいましたが、ケンジが美味しい美味しいと食べてくれるんだからオール・オーケーなんじゃないかな?
ケンジの寛容なところは本当に良いですね。
自分を含めて、現代人って余裕がない人が多いから。
 
ラストは花園神社へのお参り。
ベタベタしてはいないけれど、なんだかんだ言ってラブラブな二人。
 

#29感想

シロさんがテレビ出演を誘われる話。
「並んでもかまわない法律相談所」って確かにヤバいですよね、『きのう何食べた?』のドラマ化したのテレ東だし(違)。
確かにシロさんは有名になりたくないでしょう。
ゲイである事を除いても、自分の生活ペース乱されるの嫌なタイプ。
しかし、このプロデューサー、いかにもテレビマンという感じの押しの強さで、今一つ不器用なシロさんはどういう風に断るのかと興味津々でしたが……。
オチはそう来たか!!
そう言えば、安孫子さん、#9にシロさんが初めて歌舞伎町に行った時のモブに輪郭などが似てる!!
もし意図的にやっているとしたら、こういうお遊びは大好き。
そして、世間て本当に狭いですね。
 
今回のメニューでは、長ネギのコンソメにが一番気になりました。
旬のものなら、こういうシンプルな料理が最もンマイ!!
 

#30感想

シロさんが大先生からリンゴをおすそ分けされる話。
第一話から大先生と若先生一家のモヤモヤした関係はなんとなく察していましたが、やっぱりなぁ……。
早くに夫を亡くした嫁と息子が懸命に生きていく細腕繁盛記みたいな物語なら単に良い話で終わるけれど、よしなが先生の作品はそれで終わらないから。
息子の嫁を紹介された時は、悲しいとはいかないまでも、なんとなく虚しい気持ちになったんでしょうね。
若先生らしい無神経さもさる事ながら、大先生の意見もある種の独りよがりだし。
決して険悪ではないけれど微妙な距離感。
しかし、血が繋がろうとも別々の人間なのだから、その辺りは割り切らないと仕方がないのかもしれないと、ちょっとアンニュイな気分になりました。
シロさんの正論に、大先生が「そんな努力までして、あのお嫁さんと仲良くなりたくなんかない!」と即答したのには笑いましたが。
身も蓋もないけれど、テンポが絶妙すぎて、あまり嫌な感じがありませんでした。
 

#31感想

シロさんが佳代子さんからタダのタマネギを貰えて、雨の日でもご機嫌な冒頭から始まります。
富永父と富永娘がシロさんに出くわした時の「ゲイの!」に爆笑。
出会いが出会いだったからやむを得ないのかもしれないけれど、この父親にしてこの娘という感じ。
これだけ失礼だと、いっそ清々しい。
 
富永娘も30歳という事で、こちらも孫問題で若干もめ気味(どこも一緒だなぁ)。
親の気持ちも分かりますが、子供からしたら親の都合で(そればかりではないだろうけれど)アレコレ言われるのは確かに嫌ですね。
シロさんもあらためて色々と考えてしまう。
ケンジは子供が欲しいんだなぁ(子煩悩そうではある)。
結婚や子孫を残す事に対するスタンスは人それぞれだから……、これから色々と話し合っていかなければいけませんね、この二人も。
 

#32感想

ケンジの勤める美容室の経営者・ヒロちゃんの株が急落した話。
アンタ、不倫してたんかい!?(しかも複数回!?)
ヒロちゃん、バレてないと思ってるけど、正直甘いですね。
思春期の娘は目敏い&傷つきますよ。
ケンジも若い頃はヤンチャを繰り返していたらしいですが、「俺、ヒロちゃんの全面的な味方じゃないからね。別れるつもりが無いんなら、パートナーは大事にしなよ」と毅然と言える姿がカッコイイ。
ヒロちゃんも「奥さんだって、俺の事ちっともかまってくれないんだも~~~ん!!」とか言ってる場合じゃない。
二児の父親なら、もう少しちゃんとしましょう。
 
一方、一人でナポリタンを食すシロさん(それにしても、”シロさん”と”ヒロちゃん”てなんだか紛らわしい)。
具だくさんのナポリタン、美味しいですよね。
「ケンジの存在ってつくづく健康に良いぜ」に笑う。
一人で食べるとどうしても手抜きしがちになるけれど、ケンジがいると味とバランスを心掛けた手料理を振舞う。
これを”愛”と言わずして、何を”愛”というのか?
日々の生活を積み重ねるにしたがって、シロさんとケンジの両者とも、互いを大事にしたいという想いが膨らんでいっているのにほっこりしました。

 
そして、この巻最後のレシピは、夜遅くに帰宅したケンジにシロさんが作ってくれた梅茶漬け。
巻末を飾るのに相応しい、気取らず温かな一杯。