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『きのう何食べた?(2)』(よしながふみ/講談社モーニングコミックス)感想【ネタバレあり】

きのう何食べた?(2) (モーニングコミックス)

きのう何食べた?(2) (モーニングコミックス)

きのう何食べた?(2) (モーニング KC)

きのう何食べた?(2) (モーニング KC)

 
『きのう何食べた?(2)』の感想です。
今回は親の病気、同棲など、ライフサイクル的に見ても、かなり重要なテーマが取り上げられていました。
しかし、ゆったりとした空気感は変わらず。
よしなが先生の作品は、いつもながら絵もストーリーも安定していて、読者としても安心して没入できます。
 

 

『きのう何食べた?(2)』(2008年11月21日発売)

総評

前巻に引き続き、シロさんとケンジの生活と食をサラッとコミカルに描きつつも、ところどころで唸らされる。
主人公二人と同世代の読者はもちろん、この作品には様々な境遇の登場人物が登場するので、どの世代の方でも共感しやすいと思います。
この巻で特に印象深かったエピソードは、シロさんの父親がガンの手術を受ける話。
自分の老い。
家族の老い。
目を逸らしたいけれど誰もが経験する出来事。
それを楽観視しすぎる事も悲観視しすぎる事もなく、淡々と示している。
また変にウェッティになったり、説教臭くもないので、読者の心にスッと入ってきます。
シロさんとケンジの関係性が押し付けがましくなく、互いに自然に寄り添っている感じなのも、読んでいて気持ちが良い。
 
料理に関しては、さすが安定のシロさん。
下手に奇をてらった料理本のレシピなどよりも、実用面で格段に優れています。
シロさんの料理は高級な食材などを使わず、旬の食材盛りだくさんなので経済的かつ季節の移り変わりを楽しめる。
一汁三菜(以上)な事が多く、バランスが取れていて健康にも良い。
回が進むにつれて、料理シーンの割合が増し、描写もどんどん詳細になっているような気がします。
それだけシロさんの人生において、料理の占めるウエイトが物理的にも精神的にも大きいという事の表れなのでしょう。
 
個人的には、セロリを持て余すシロさんにうんうんと共感してしまった。
バリエーション持たせるのが結構難しい食材+足が速い。
セロリと牛肉のオイスタソースいためは確かに美味しそう&ご飯に合いそう。
オイスターソースを入れると、大抵なんとかなるというのも頷ける。
 

#9感想

シロさんとケンジの馴れ初め&シロさんが初めて歌舞伎町に行った夜の話。
ガチムチファッション=女子力高いフェミニンファッションが、イコールで結ばれるのは確かにカルチャーショック(笑)。
ゲイ視点で見ると、シロさんの無駄に良いルックスって意味がないんだなと(その方がケンジは安心だろうけれど)。
ナルシストな彼の事だから、これからも現状維持に努めていくでしょう。
 
なにか劇的な事件が起きたわけではなく、ケンジの住んでいた部屋が大雨で浸水→同棲の流れが非常に彼ららしい。
平然を装いつつも、一生分の勇気を振り絞って同棲話を持ち掛けるシロさんも可愛かった。
シロさん自身は忘れてしまっているけれど、初めてシロさんにご馳走してもらった料理をケンジがちゃんと覚えているのに和んだ。
 

#10感想

シロさんが食材のやりくりをして、ケンジが「おいし~」と食べているだけで、なんでこんなに面白いんだろう。
クールな佇まいで、安売りに反応しているシロさんが可笑しい。
気持ちはわかるけれど。
ブリ大根も、厚揚げのみそはさみ焼も美味しそう&お酒に合いそう。
まあ、二人が幸せなら何より。
 

#11感想

冒頭からセロリを駄目にしてダウナーなシロさんに爆笑。
傍から見たら、恋人と喧嘩した時と同じぐらいのテンション……、どんだけ落ち込んでるんですか!?
今回は生来の負けず嫌いと成り行きから、厄介事を背負ってしまったシロさん。
依頼人と毎月一度遊園地でデート(恋愛要素皆無)って軽く拷問。
それでも弁当を用意してしまうのが、彼らしいというかなんというか……。
基本的にはコメディですが、離婚により手放した息子が元夫の再婚相手と中睦ましくしている……、その様子を眺める母親の姿が心に刺さりました。
この前後の数コマは、線は最小限だけれど密度が濃い。
しかしシロさんの「あ…、味がしない…」とケンジの幸せそうな表情で、深刻になり過ぎずに〆ている。
これぞよしなが作品の真骨頂という感じ。
 

#12感想

「シロさん、まだセロリについて葛藤してるんかい!?」という出だしから始まったお話。
弁護士事務所の事務員・志乃さんの正体(?)が判明。
え~~~っ、これで20歳そこそこ?
高校時代のあだ名が”ちーママ”で笑う。
きっと、ちょっと派手めの美人さんなんですよ(おざなりなフォロー)。
携帯、スマホの扱い方で世代を把握するって分かる。
ちなみにセロリは浅漬けにしても美味しいですよ。
 

#13感想

結局、ヒデちゃんはなんでお金を貸してくれなかったんだ!?
まるで喉に小骨が刺さったかの如く、気になります。
若い頃ならキレていた言葉にも寛大になったのは、人生経験のなせる業でしょうね(逆に気が短くなる人もざらですが)。
単に流すのが上手くなったという説もあるけれど。
 

#14感想

シロさんがケンジと付き合う前に別の恋人と同棲していた時の話。
伸彦……、「いるいる、こういう人!」という感じでリアルというか……、他人事ながら地味にイラっとくる。
洗濯機の詰まりもあるある。
シロさん、器用なのに、反面とても不器用なのが伝わってくる。
 
比べて今現在、自分の好みとは正反対だけれど、自分の料理を「美味しい美味しい」と食べてくれる優しいパートナーが傍にいてくれる。
 

いろいろあって、四十になる頃、こいつに会ったのがよかったんだろうな

 
人の繋がりって、往々にしてそういうもの。
 

#15感想

シロさんの父親が食道ガンにかかっている事が発覚。
こういう時に事務的に動いてしまうのも、意外に平気な自分が「人でなしなんじゃないか?」と悩んでしまうのも分かる。
たとえ家族が病気だとしても自分には自分の生活があり、時間は止まってくれず、流れ行くものだから。
シロさんの「秋っぽい献立になってきたなあ…」という台詞に、知らず人生をオーバーラップさせてしまう。
こんな時、シロさんの傍にケンジのように話を聞いてくれる相手がいて本当に良かったと思います。
 

#16感想

シロさんの父親が食道ガンの手術を受ける回。
コミカルだけれど、病気の家族を抱える人の姿がリアルに活写されています。
シロさん、手術に備えて二日分の料理を用意するのが、さすが主夫というかなんというか……。
肉じゃが、ほうれん草のおひたし、大根とホタテのサラダ、とうふとわかめの味噌汁、炊きこみごはんって、滅茶苦茶定番メニューですが美味しそう。
こういう時でも、料理に関しては一切手を抜かないのがシロさんらしい。
シロさんのお母さん、相変わらずぶっ飛んだ人ですが、気持ちは分かります。
まったくタイミングの読めない間歇泉(かんけつせん)には笑いましたが。
あと自己啓発とか、エビ養殖とか、一巻で出てきた新興宗教とか、息子としては堪らないだろうな(なんとなくオレオレ詐欺とかにも引っ掛かりそう)。
 
でもお父さんの事が大好きなんですよね。
こういう危機の時には、家族の意外な一面が垣間見えたりする。
近くにいるからこそ、見えない部分もあるから。
とりあえず、手術が無事成功して良かった良かった。