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『きのう何食べた?(1)』(よしながふみ/講談社モーニングコミックス)感想【ネタバレあり】

きのう何食べた?(1) (モーニングコミックス)

きのう何食べた?(1) (モーニングコミックス)

きのう何食べた?(1) (モーニング KC)

きのう何食べた?(1) (モーニング KC)

 
『きのう何食べた?(1)』の感想です。
2019年4月5日から西島秀俊さん&内野聖陽さん主演でドラマ化もされる話題作。
 
www.tv-tokyo.co.jp

 
よしながふみさんの作品は『ジェラールとジャック』、『西洋骨董洋菓子店』、『大奥』と評価の高いものばかりですが、この『きのう何食べた?』も負けず劣らずクオリティが高い。
深刻になり過ぎず、テンポの良い展開ではありますが、扱っているテーマは普遍的。
主人公二人がゲイという事で手に取るのを躊躇っている方もいらっしゃるかもしれませんが、ぜひ多くの方に読んでいただきたい作品のひとつです。
 

『きのう何食べた?(1)』(2007年11月22日発売)

総評

弁護士のシロさんこと筧史朗と、美容師のケンジこと矢吹賢二は、アラフォーのゲイカップル。
彼らの食や日常、周囲の人々との交流を通して、ゲイが抱える諸事情や老いていく事についてを描いています。
基本的にはコメディ・タッチですが、扱っているテーマは決して軽くはありません。
単に茶化しているだけの凡作とは違い、彼らの生活や実情にもう一歩踏み込んでいます。
また作者のよしながさんが、作品や登場人物達と真摯に向き合っているのが伝わってくる。
読者を不快にさせず、けれども表現するべきところはする。
その塩梅が絶妙なのも、よしながさんの全作品に渡る共通点。
 

#1感想

もう最初からシロさんに胃袋を掴まれてしまったというか(笑)。
とにかく食べ物の描写が、絵と文章両方が相まって美味しそう!
よしなが先生は『愛がなくても喰ってゆけます。』というグルメ・エッセイも上梓されているので、本当に食べる事がお好きなんだなぁと。
上記の本に掲載されているお店の料理もどれも美味しそうで、実際、私も足を運んでみた事があります(そして期待に違わず美味でした。ご馳走様でした)。
シロさんの料理は奇をてらわず、”THE 家庭料理”という感じが良いですね。
幕間に色々なお料理情報や小ネタも仕込まれているので、真似をして作ってみたくなる事請け合い。
 
シロさんは高身長、ハンサム、弁護士と一見煌びやかなのに、料理上手で倹約家というギャップが良いですね。
老後に備える主夫の鏡。
あとお母さんの強烈さ&斜め上を行くまっすぐさ。
確かに性質の悪い新興宗教の前では、息子がゲイである事も霞むかもしれない。
一方、ケンジも弟気質で憎めない。
ハーゲンダッツ定価で買ってシロさんに怒られたり、シロさんの料理にほわ~となったり。
主役二人のバランスが絶妙で、何気ない会話にも共感と癒しがあります。
 

#2感想

冒頭からシロさんと親しい唯一女性登場という導入が上手い。
シロさんの料理友達・佳代子さんとの出会い。
一定の年齢になってあまりにルックスが良くて色気があるのも、場合によっては毒になるんだなぁと(笑)。
#1、#2連続で「気持ち悪い」って言われちゃってたし(この歯切れの良さが、すごくよしなが作品らしい)。
「私はゲイです!!」に笑ってしまった。
なんだこの安心感(弁護士ですと言われるよりも、ある意味安心なんじゃ……)。
なんだかんだで富永一家に馴染んで、一緒に食卓囲んでいるシロさんが可笑しい。
娘さんのおっちょこちょい具合が母親そっくり。
「ダメよ、お父さん。そんな優しい事言ったら、この人、お父さんの事好きになっちゃう!!」に「え!?」と困惑する両親。
シロさん、大迷惑ですが、富永一家とのなんとも言えない距離感が秀逸でした。
 

#3感想

ケンジの美容室での日常を描いた回。
経営が分からないからずっと独立しないというのが、すごくケンジらしい。
スタイリングの腕は普通だけれど、客商売において根気って大事だから天性の才能がありますね、彼は。
また「とてつもなく難しいお客様」も、実際いそうでリアル。
よしなが先生は、たとえデフォルメしても行き過ぎず、現実味を感じさせるような人物描写が上手い。

ついついお客様へシロさんの事を惚気てしまうケンジが可愛い。
一方、自分がゲイ(しかもネコ)だと美容院の客に知られてシロさんはご立腹ですが……。
 

でも店長は、お客さんに自分の奥さんや子供の話をするよ?
なんで俺だけ、自分といっしょに住んでる人の話を誰にもしちゃあいけないの…?

 
ケンジの真っすぐな台詞が刺さりました。
また、その後の黙って料理を作るシロさんも素敵なんです。
ケンジへの愛情こもっているのが、料理を作る表情一つから伝わってくる。
千言万語を費やすよりも……、絵の力って凄い。
こんな素敵なパートナーだったら、自慢したくなるのも頷ける。
 

#4感想

ケンジがシロさんが生涯で唯一人付き合った女性(パン屋さん)にやきもちを焼く話。
当人達にとってはすでに過去の話だけれど、ケンジが気にするのも分かるなぁ(相手が良い人ならなおさら)。
もしゲイである事を隠して、女性と結婚していたら……、と語るシロさんはやはり誠実な人。
ケンジが「不倫ってつらいよ」と言っていたのが胸に刻まれているんですね。
美味しいパンは諦めきれないみたいですが(笑)。
 
それはそうと、今回紹介された手作りのイチゴジャム、我が家でも時々作りますが、とても美味しいです。
うちの場合は、砂糖は果物の重量の30%ぐらいを目安にしますが。
パンに付けたり、アイスやヨーグルトにのせたり、紅茶に入れたり、汎用性が高いし、作るのも簡単なのでおススメ。
 

#5感想

年取ったら清潔感とウエイト&健康管理は大事だよという話(あながち間違ってはいない)。
ケンジまたやきもち(前回と違って、シロさんの片思いだったのである意味ヤバい)。
しかし時間は残酷。
ジョニデ、豊川悦司、阿部寛と比べるナルシストのヒロさんに笑う。
でもシロさん演じてるの、あの西島秀俊だから大丈夫(?)。
ケンジの「四十過ぎたら、男の「かっこいい」ってほぼ「痩せてる」って事なのよ」って真理ですよね(女もそうかも)。
シロさんの料理は相変わらず美味しそう。
キャベツとベーコンの煮びたし、キャベツを豆苗にしてもご飯に合います。
 

#6感想

学生時代、ケンジがホストクラブでバイトしていた頃の話。
ケンジのバイト仲間さん、トイレに行くってウソついてそこから逃げたってヒドイ(笑)。
話を聞いていると素質(?)はありそうですが。
残されたのがケンジで良かった、どうやらオイシイ思いをしたようですし。
長年の気がかりが解決して良かったですね、なんか彼も地味に斜め上行っているけれど(天然?)。
とりあえず、ケンジには料理上手で気遣い屋のパートナーがいて、今とっても幸せという事でめでたしめでたし。
 

#7感想

その昔、『お父さんは心配性』という少女漫画がありましたが、『史朗さんは苦労性』というタイトルを進呈したくなる。
夫婦間で妻側のDVがトピックスとなっていましたが、ウェットになり過ぎず日常の風景の中でサラッと問題定義されているのでかえって印象的でした。
周囲の野次馬具合や奥さんが如何にもじゃないのが余計リアルだし。
そういう独特の空気感を出すのが本当に達者。
ケンジはまたまた嫉妬していますが、今回は珍しくシロさんが意趣返ししてました。
確かに逸見さん、イイ男でしたね。
あとさんまの塩焼きと栗ごはんという、秋の超定番メニューが垂涎ものでした、じゅるり……。

#8感想

シロさんと両親の団欒に、こちらも手に汗握る回。
なんか悪気はないんだけれど、いちいち台詞が刺さります(笑)。
シロさんが料理に没入するのも、他者にはぶつけられないモヤモヤをリセットするためだったんですね。
ただその後の佳代子さんの言葉にも一理あって、シロさんのご両親もご両親なりに息子を理解しようと努力してる。
けど距離感が上手くつかめない。
それぐらい”性”はセンシティブな話題なんですよね、特に日本では。
家族ならなおさら。
”性”の問題ではなくとも、家族間や人間関係に葛藤を抱えるすべての人々がハッとさせられるお話だと思います。
いつか互いに「ここ」という立ち位置を見つけられれば良いのですが。