ボーイズラブのすゝめ

ボーイズラブ系のコミックス&小説の感想を中心に。

『交渉人は黙らない』(榎田尤利/大洋図書SHY NOVELS)感想【ネタばれあり】

交渉人は黙らない 【イラスト付】 交渉人シリーズ (SHY NOVELS)

交渉人は黙らない 【イラスト付】 交渉人シリーズ (SHY NOVELS)

交渉人は黙らない (SHYノベルス)

交渉人は黙らない (SHYノベルス)

 
榎田尤利先生の『交渉人は黙らない』の感想です。
発売されてからかなり経ちますが、商業BLの中でも十指に入るほど大好きな作品のひとつ。
辛い過去を持ちながら、時に飄々と、時に熱く依頼人のトラブルを解決していく美貌の交渉人・芽吹章。
高校生の頃から芽吹の事が欲しくてたまらない、後輩でヤクザの若頭・兵頭寿悦。
彼らのベタベタしないけれど、互いの力量をきちんと認めている関係が秀逸。
 

『交渉人は黙らない』(2007年2月23日発行)

あらすじ

司法試験に合格し、検事や弁護士をしていた芽吹章が、両国で「芽吹ネゴオフィス」を始めて数か月。
小さい事務所ながらも、芽吹の卓抜した交渉能力もあり、仕事はなんとか軌道に乗っていた。
そんな彼のもとに突然現れたのが高校時代の後輩・兵頭寿悦。
過去の出来事により、芽吹とは因縁浅からぬ仲な上に、兵頭はなんと両国界隈を取り仕切る周防組の若頭にまで上り詰めていた。
十年以上没交渉だったにもかかわらず、芽吹との距離を強引に縮めてくる兵頭。
今後、事務所には干渉しない事を条件に、芽吹は三日間だけ兵頭の専属交渉人をするという依頼を受ける。
だがその過程で、とある騒動に巻き込まれてしまい……。
 

感想

恋愛面はもちろん、それ以外の要素もきちんと描けるBL作家は貴重ですが、榎田先生もそんな作家の一人。
一般作品も上梓され、評価を得ているだけあり、ボーイズラブという事を度外視しても読み応え抜群です。
 
とりあえず、もう序章からして上手い。
ある老人の視点から始まるのですが、ここで主人公・芽吹の一筋縄ではいかない性格と交渉人としての有能さが、読者に強く刻まれます。
同時に、これから芽吹が平穏な毎日を送るのは難しいなという事も予感させる。
チャーミングだけれど、どこか凄味のある老人の意外な正体が、後程わかるという構成もお見事。
 
一転、本編は芽吹視点。
テンポと歯切れが秀逸で、かつ彼のユーモアと温かさが存分に発揮されていて、読者をどんどん引き込んでいきます。
とにかく澱みない文章で、落語を始めとした話芸も斯くや。
タイトルに偽りなしで、本当に「黙らない」。
腕力的には強くない彼が、交渉能力と度胸を武器に、次々と降りかかるトラブルを解決していく手並みも鮮やか。
時には極道の幹部だって手玉に取るんだから、芽吹にとってチンピラ風情を丸め込むのは、確かに赤子の手を捻るよりも簡単でしょう。
単に相手を叩きのめすのではなく、ターゲットの気分を害さず、しかしあくまで自分の有利な方向に事を進めるのも凄い。
立て板に水の如く、ポンポン飛び出す芽吹の言葉が心地良くて仕方がない。
反面、主人公の活躍を描いた単なる娯楽作品に留まらず、「人と人とが理解し合うには、それがどれだけ近しい間柄であっても、コミュニケーションを取る事から逃げてはいけない」という強いメッセージ性が根底にあるのも良い。
 
キャラクターそれぞれに目を向けてみると、やはり主人公の芽吹のキャラクターが出色で、本作の魅力も彼の人物像に負うところが多い。
私が受けに対して抱く理想をぶち込んでコトコト煮詰めたような人物。
本当に大好き。
「研ぎ澄まされた頭脳と美貌の持ち主ってどんな完璧超人ですか?」という感じですが、彼はその辺のただ奇麗なだけのお人形さんとは違います。
全ての言動に生身の人間としての説得力があり、きちんと血が通っている(それは他のキャラにも言えますが)。
 
図太く反骨精神の塊で、自分がこうと決めたら梃子でも引かない。
ナヨナヨと攻めに頼ろうなんて考えは一切なく、どこかの若頭のように「俺のオンナになれ」なんて言ったら、鼻で笑われそう。
下手に手を出そうものなら、簡単に言いくるめられる事請け合い。
しかし、世の中の酸いも甘いも噛み分けている反面、正義感に溢れ、身内や立場の弱い人間にはこれでもかと情をかける。
常人離れしているばかりではなく、32歳の男性らしく、露出度の高い服を着た若い女の子に鼻を伸ばしてしまうのもご愛敬。
 
そんな彼が、高校生以前はガラスのように繊細で、半分死んだように生きていたというのが衝撃的。
取り返しのつかない親の自殺と、それにまつわる後悔により、彼が生き方を180度方向転換させたプロセスは想像するだけでも壮絶。
そして、芽吹が変わる要因となった、高校時代の兵頭とのたった二度の関り。
どちらのシーンも言葉少なですが、芽吹にも、読者にも、強烈なインパクトを残す。
固定観念をぶち壊され、あまつさえ抱かれた経験は、芽吹にとって「恋愛」なんて生易しいものではなかっただろうけれど、その「痛み」があったからこそ人として息を吹き返したとも言える。
そんな相手を忘れられるわけがない。
兵頭との再会時に芽吹が思い出すのを拒否したのも、内心では兵頭を忘れていなかった証左のように思えてなりません。
 
一方、相手の兵頭ですが……。
彼にとっても、芽吹との邂逅は運命的なものだった。
高校時代、芽吹を守るために、いけ好かない馬場(現・鵜沢)とあえてつるんで、牽制していたというんだから一途。
家庭環境の違いから二度諦めても、それでも芽吹の家の前に何度も行ってしまったというのにもキュンとしてしまいました。
まあ、本人が言う通り、ぶっちゃけストーカーかもしれないし、その後も芽吹の身辺調査していた節がありありですが(笑)。
 
三度目の正直で、こんなに近くに来られては、もう芽吹の事を諦められませんね。
「好き」という言葉以前に、本能的に欲しがっているのが熱烈。
普段は太々しく、底知れぬ迫力を身にまとう彼ですが、芽吹を前にすると途端に10代の頃の直向きさを取り戻してしまう。
芽吹とたこ焼き食べてるシーンなんて、奈良千春先生のイラストと相まって、なんという甘い表情をしているんだか。
いくらでもスマートに振舞えるはずなのに、「俺のオンナになれ」とか、「俺があんたを守る」とか、芽吹がまったく喜びそうにない口説き文句を吐いてしまうのも不器用で何となく微笑ましい。
 
そして、これだけ焦がれ続けた芽吹が、鵜沢に襲われた時の心境を思うと胸が痛い。
まるで大事な宝物を害されたような……。
彼が鵜沢を半殺しにしている姿は、怖いというよりも傷ついた少年のように見える。
暴力やヤクザを忌避する芽吹ですが、それでも兵頭を放っておけない気持ちがとても分かる。
 
また主人公二人を除く脇キャラ達ですが、こちらも負けず劣らず個性的。
「芽吹ネゴオフィス」のスタッフであるキヨとさゆりさん。
ナリは小さいが、頭の切れる少年・智紀。
周防組直営のイメクラで働くアヤカ。
一見穏やかだが、蓋を開ければ超武闘派の兵頭のボディーガード・伯田さん。
兵頭の親代わりの周防組組長・周防忠範。
挙げていたらキリがありませんが、彼らの存在があるからこそ、一つ一つのエピソードが引き立ち、厚みも増します。
両国という舞台も、変に気取っていなくて、人情が感じられるのが良い。
現在の芽吹のキャラクター像にもピッタリ。
お相撲さんが登場するのもこの地ならでは。
 
何はともあれ、数多あるボーイズラブ作品の中においても珠玉の作品だと思います。
このシリーズを未読で、上記の文章に少しでもピンっときた方は是非どうぞ。
 

『DOGS』(里つばめ/大洋図書H&C Comics)感想【ネタバレあり】

DOGS 【電子限定おまけマンガ付】 (HertZ&CRAFT)

DOGS 【電子限定おまけマンガ付】 (HertZ&CRAFT)

DOGS (H&C Comics CRAFT SERIES)

DOGS (H&C Comics CRAFT SERIES)

 
里つばめ先生の『DOGS』の感想です。
同じく里先生の『GAPS』シリーズのスピンオフ作品。
この作品単体で読んでも支障はありませんが、もちろん『GAP』を事前に読んでいた方がより一層楽しめます。
kashiwamochi12345.hatenablog.com
片桐の腐れ縁である強面刑事・矢島千紘が主人公。
ただでさえ倫理観のない片桐に振り回されがちな矢島なのに、恋愛面でもそんな厄介そうな男に行ってしまうとは(笑)。
 

『DOGS』(2016年12月1日発行)

あらすじ

警視庁丸ノ内警察署の矢島千紘は、佐々木秀一というフリージャーナリストの警護を担当する事になる。
生活安全課所属の矢島にとってはイレギュラーな仕事な上に、次々と狙われる佐々木を守りながら、矢島の身も危険に晒される。
事件の裏には公にはできない事情があるようなのだが……。
キャリア組なのにもかかわらず、現場に出張ってくる傲岸不遜な上司・斉藤誉に振り回される矢島。
おまけに、斎藤は矢島に強引なアプローチをかけてきて……。
 

総評

『GAPS』のスピンオフ作品ですが、警察が舞台になっていて『GAPS』とはまた違った味わい。
それにしても矢島よぉ、片桐で苦労しているはずなのに、よりにもよってどうしてそういう面倒くさそうな男に走ってしまうの!?
まあ、彼が惚れていた片桐の姉も凄まじそうなので、曲者を放っておけないんでしょうね。
もしかしなくてもドM?
長谷川とは良い酒が飲めそう。
 
矢島の斉藤に対する感情は「いけ好かないけれど気にあるアイツ」という感じ。
しかし、何度も言うようですが斉藤はかなり厄介な男なので、今後も矢島の心が休まる事はないでしょう。
斉藤の兄も一筋縄ではいかなそうなタイプだし。
斉藤と片桐、どっちがより厄介かと聞かれたら、非常に迷ってしまうレベル。
公権力を持ったジャイアン(違法スレスレも辞さない)と法律なんてクソくらえなジャイアン、どっちがマシなんですかね?
斉藤×矢島は、矢島が荒事に慣れている分、まだバランスが取れている……、のか?
あと斉藤ー長谷川は比較的平和そうだけれど、斉藤ー片桐は確実に互いが気に食わないだろうな。
所謂同族嫌悪。
 
物語の屋台骨となる事件に関しては、正直に言うと結末に釈然としないものを感じます。
ただし、この辺りは里先生も故意になさっているような気がする。
矢島と斉藤、ノンキャリアとキャリアの間にある、どうしても無視できない距離感を表しているようでもあります。
 

DOGS 1

物語の基本的な人間関係と、生活安全課がなぜ佐々木の警護をするのか「表」の理由の説明。
つかみはオーケー。
斉藤と佐々木の間には微妙な空気が流れているけれど、今のところ、矢島と同じく読者も「???」。
あと矢島の後輩・香川は爽やか系イケメンですが、里先生作品の習いで行くと彼も腹に一物抱えてそう。
 

DOGS 2

前回、佐々木を救ってお手柄だったのに、なぜか斉藤に虐められる矢島(ドヤ顔が可愛い)。
そして、間髪入れずにゲスト出演の片桐。
この二人、立て続けに来られると、矢島のメンタルをゴリゴリ削っていきますね(笑)。
友達の車でカー〇ックスした挙句に(長谷川も大変)、自分の姉・清香に対する矢島の甘酸っぱい想いをへし折る片桐が、通常運転過ぎて笑える。
 
だが、今回のメインという事で斉藤も負けてはいない。
誰だ、お前!?
矢島も驚愕するほどの若作り豹変ぶり。
おまけにたった一人でチンピラ集団粉砕するなど、「生活安全課課長」の肩書が……、「生活安全」の意味を懇々と問い詰めたい。
なにしろ若造共をいたぶるのが楽しそうでなにより。
矢島も、そこ、感心するとこ?
執務室の「正義」の額縁がシュールに見える。
あと矢島、斉藤に反抗的な態度を示しつつも、ちゃっかり調教されちゃってますね。
斉藤は斉藤でエロい雰囲気を放っているし。
 

DOGS 3

相変わらず俺様全開な斉藤。
よくこんなジャイアン気質で、縦社会の警察組織を渡ってこられましたね。
 
今回は矢島に対する斉藤の執着が一気に噴出しました。
あらためて読み返すと、執務室のキスシーンにも、斉藤のなかなか複雑な感情が表れていて興味深い。

斉藤の事だから、婦警の森下さんの自分に対する恋愛感情には気づいていただろうし。
余裕ぶっていますが、内心ではまったく脈がなさそうな矢島に対して、焦燥感を感じていたんでしょうね。
 
外務省へ赴く二人。
経済局国際貿易課の室長をしている斉藤兄登場。
兄弟そろってエリート街道ばく進中。
この人も緩い笑顔の下で何を企んでいる事やら……。
矢島に意味深な事を言っているのからも、斉藤の矢島への感情も把握済みなんでしょう。
身辺調査って、なんと殺伐とした兄弟関係。
あと壁を破損するのは、片桐といい、このシリーズの攻めではお約束。
 
上司にキスされるわ、真意は読めないわで、悶々とする矢島。
そこで片桐×長谷川を思い浮かべてしまうのが、矢島もかなり毒されているような……(なんか片桐のせいで、色々なハードルかなり下がってますよね)。
だが、そんな部下の困惑など、斉藤にとっては知った事ではない。
 

警察がごめんで済むと思ってんのか?

 
完全にヤ〇ザの台詞(笑)。
しかも、手錠+トイレに監禁とか、どこの世界のAVですか?
本当にありがとうございます(?)。
 

DOGS 4

天下の外務省のトイレでとんでもない目にあっている矢島。
斉藤はとりあえず各方面に謝れ。
矢島が負けん気を発揮してくるので、サドっ気のある斉藤が燃えてしまうのは分かりますが。
それでも途中でやめたのは、矢島のスマホの待ち受けになっている清香の写真を見てしまったからなんでしょうね。
意外と繊細?
いや、繊細な人間は、矢島の股間にそのスマホを押し当てるとかないな(遠い目)。
嫉妬の見せつけ方がいちいち怖すぎる。
 
そんな斉藤に反感を覚えつつも、矢島は翻弄されてしまう。
そして強烈なキスマーク……、皆、見て見ぬふりをしてくれるとは、なんと良い職場(?)でしょう。
 
一方、優しげな外見とは裏腹に、佐々木が本性を見せ始める。
矢島よ、一日の内にまったく別の人間から縛られるの、ねぇねぇ今どんな気持ち?(殴)
ここで真っ先に片桐に助けを求めてしまうのが、なんだかんだ言いつつも腐れ縁。
でも結局、助けてくれないんだ!?(笑)
確かにキスマークつけてこんな状態では、何らかの特殊プレイに見えない事もありませんが。
 
片桐が去った直後、斉藤現る。
矢島も体の自由が利かない状態で、どうして斉藤のツボを突くような言動をしてしまうのか……。
同じような状況に陥ってから、まだ24時間も経っていないのに。
斉藤が矢島を見る視線が、獲物を狙う獣のそれ。
 

DOGS 5

前回に引き続き、妖しい雰囲気になってしまった二人。
ここ、ホテルとはいえ、一応護衛対象兼参考人の部屋……、まあ、言うだけ野暮か。
この期に及んで、斉藤の本音が分からない矢島。
Mな上に天然?
さすがに嫌がらせでここまではしないでしょう。
キャリアがやるにはリスクが大きすぎる。
斉藤のアプローチが分かりづら過ぎるのもありますけれどね。
好きな子を虐める小学生並み。
告白の言葉も不器用だな。
でも熱烈で、普段の斉藤とのギャップに萌えます。
これがあるから、里先生の描く攻めは性質が悪い。

このまま香川が来なければ最後まで致してしまったんでしょうが……、ちくしょう、香川め。
 
片や矢島も、嫌よ嫌よもなんとやらというか……。
「美形が好きで何が悪い!!」って、それ、清香もそうだけれど斉藤にも該当するし(笑)。
片桐はダメでも斉藤は「……」な点で、矢島の気持ちはほぼ確定なんですが。
そんな時、矢島は斉藤が異動する事を知ってしまう。
斉藤が、なぜ矢島を強引とも言える手段で落とそうとしているのかが見えてきました(元々の彼の性格もあるだろうけれど)。
 
捜査令状が取れて、佐々木の仕事部屋を訪ねる矢島と斉藤。
二人きりで閉じ込められるとか、なんというタイミングの妙。
やはり矢島に迫りまくる斉藤でしたが、一応の気遣いは持っているようで。
有能で俺様だけれど、大事な相手には稚拙な手段しか取れない、そんな男の不器用さが出ていて良いですね。
斉藤が矢島に惹かれた理由もとても納得が行きました。
 

DOGS 6

前回ラストではなんとなく大人しかった斉藤なのに、舌の根も乾かぬうちに放尿プレイ強要とかド変態ですね。
メジャーって、一体どこの世界のメジャーですか?
 
そして、事件は決着。
怒涛の展開に矢島もポカーン。
斉藤兄の登場は伏線だったんですね。
大人の駆け引きや打算が見え隠れして、決して爽快なラストとは言えない。
しかし、斉藤はそういう世界に生きているんだなと……。
読者としても、矢島と斉藤との間に見えない壁を感じずにはいられないのですが、だからこそ斉藤は何一つ取り繕わない矢島を手放せないのでしょう。
一方矢島も、佐々木に斉藤を貶められて咄嗟に蹴りを入れた時点で、もう後戻りはできませんね。
 
終盤。
矢島、グタグタ悩んでいたけれど、こうと決めると思いっきり良いなぁ。
自分から行っちゃうんだ。
 

「俺が上なら考えてやる」
「いいぞ」

 
「えっ、まさか矢島×斉藤の下克上!?私のBLもまだまだ甘いなぁ」と若干ワクワクしましたが、そこは斉藤、おいそれとマウントは取らせなかった。
 

俺の家に来るのか?家なら0.1%ぐらいの確率で可能性もあるぞ。

 
譲る気明らかにない上に、家に呼ぶとか罠&斉藤のやりたい放題劇場でしょう。
場所が執務室だからといって、歯止めをかけるとは言っていないけれど。
壁時計の進み具合も何気にエロいなぁ。
その間に何があったのか、さらに詳細を知りたくなってしまう。
 
矢島を抱いて、すっかりデレてしまった斉藤。
「離れるとお前のことばかり考えそうだな」って、甘っ!!
あなた、どこのどちら様?

サドっ子上司はどこへ行った?(すぐに戻ってきそうではあるけれど)
 

今までだって、たいした用もねえのに呼びつけてただろ。
一駅離れたぐらいで改善すんのか。

 
確かにそんな殊勝な玉じゃないよね、斉藤は。
職場が離れた分、矢島の手間が増えるかもしれない(笑)。
 

TRIGGER

タイトルの通り、斉藤が矢島に惹かれる原因となった「引き金」。
想いが通じた途端、見境なくなったバカップル。
異動までのリミットがあるとはいえ、署内で毎日!?
せめて家でヤれ。
まさか職場の方が燃えるとか、そういう感じ?
斉藤にお熱な婦警さんが見たら憤死必至の案件。
 
斉藤、1年もの間片想いしてたんですか……、意外と純愛?
しかしファーストインプレッションが「背中に噛みつきたい」というのが、すでに不穏。
そして見事噛みつかれてしまった矢島、ご愁傷様です。
 
 

『GAPS apples and oranges』(里つばめ/大洋図書H&C Comics)感想【ネタバレあり】

GAPS apples and oranges 【電子限定カラー】 (HertZ&CRAFT)

GAPS apples and oranges 【電子限定カラー】 (HertZ&CRAFT)

GAPS apples and oranges (H&C Comics CRAFTシリーズ)

GAPS apples and oranges (H&C Comics CRAFTシリーズ)

 
里つばめ先生の『GAPS apples and oranges』の感想です。
前作で自分の片桐への想いを薄々自覚した長谷川ですが、片桐の貞操観念のなさなどが気になり、どうしても素直になれない。
一方片桐は、なかなか落ちない長谷川を手に入れるために、ある一手に出ます。
 
このシリーズを読んだ事のない方は、まずは以下の作品から。
 
kashiwamochi12345.hatenablog.com
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『GAPS apples and oranges』(2018年6月1日発行)

あらすじ

片桐の破天荒さに振り回されつつも惹かれていく長谷川。
だが彼女がいる上に、女性にだらしない片桐の姿を見るにつけ、素直に身を任せるわけにはいかないという気持ちが高まる。
片や片桐も、長谷川をなかなか手に入れられない事に、焦燥を感じていた。
そんなある日、長谷川は以前好意を寄せていた元同僚・小林と再会するが、彼女がきっかけで思わぬ騒動に巻き込まれてしまい……。
 

総評

タイトルになっている「apples and oranges」は「あまりにも性質が違い過ぎて相容れないものや比較できないもの」という意味の熟語。
日本語で例えるなら「水と油」。
まさに長谷川と片桐の関係性そのもの。
 
だが、それでも自分の中でどんどん存在感を増していく片桐を無視できない長谷川。
自分の倫理観や男のプライドと、片桐への感情の間で揺れる37歳にニヤニヤ。
そして、今回ついに……。
 
また、そんな長谷川の葛藤を察しつつも、容赦せずガツガツ行く片桐。
顔には出難いけれど、今回はいよいよ長谷川を手に入れようとかなり必死になってますね。
方法自体は相変わらず手段を選ばずという感じですが、なんだかキュンとしてしまう私も手遅れ。
 
三浦も前巻と同じく二人の仲を引っ掻き回しますが、コイツも大概懲りないなぁ。
確かに長谷川と片桐の関係は、傍から見ている分にはすこぶる面白いですが(ヒドイ)。
 

GAPS apples and oranges 1

前回、ペッティングまでしてしまった二人。
しかし、長谷川はなかなか素直になれない。
デリカシー皆無の片桐のせいでもあるんですけれどね。
長谷川と最後までできなかったからってAV見てるし、「やらないんで顔にかけさせて下さい」って、NG続出過ぎていっそ大爆笑。
長谷川も「自分のもの」とか言われてときめいている場合じゃないぞ!
極めつけはEDに関してのあれやこれや……、あちゃあ、それ言ったらアカン奴……。
  
翌日。
三浦、完全にストーカー……、片桐の家から長谷川の事付けてきたんでしょうね。
そして、唐突なサッカー観戦。
片桐が青空の下でスポーツ楽しむとか似合わな過ぎ(競馬、競艇、競輪などは除く)。
しかし、片桐、街中歩いているだけで、今まで関係した女性達と行き当たるとは……。
「従姉妹」はさすがに厳しいでしょう(笑)。
加えて、サッカー競技場では逆ナンされているし。
やはり、長谷川にとって片桐と付き合うのはリスキーすぎる。
しかも三浦がダメ押し。
片桐には一応彼女がいるから、長谷川、確かに今のままでは間男ポジション。
長谷川の倫理観ではありえませんね。
 
そして、長谷川の与り知らぬところで、三浦に男の調達を命じる片桐。
今度は何をするつもりなのか……。
 

GAPS apples and oranges 2

片桐が女性に逆ナンされているのを見てしまい、一人、サッカー場を出てきてしまった長谷川。
「せっかく声をかけてくれた三浦には悪いことしたけど」って、どんだけお人好しなんですか!?
他の二人がアレなので目立ちにくいですが、長谷川も相当オカシイ。
 
そんな時、長谷川は昔の同僚・小林と偶然再会。
小林さん、別の男性と結婚してしまったけれど、実は長谷川が以前惚れていた相手。
しかも離婚して戻ってきたうえに、長谷川へもかなり好意的。
これはさらに泥沼!?
……かと思いきや、長谷川、すでに片桐で脳内キャパがいっぱい。
「これじゃまるで本当に――」とか言っている場合じゃない。
本人、気づいていないのかもしれませんが(もしくは気付かないふりをしているのか)、もう完全に後戻りのできない地点まで来てしまいましたね。
 
一方、その頃、ろくでなし二人は、にわか雨から避難するためラブホにいた。
しかし三浦、興味本位とはいえ、片桐を押し倒すってどんだけ勇者!?
そこは瞬時に返り討ちに合いますが。
「しゃぶれよ。俺のサイズなら余裕だろ」と言われて逃げ出すようじゃ、片桐抱くなんて百万年早いわな。
でも、コイツ、本当に転んでもただでは起きないというか……。
あえて誤解を招くような片桐の写真を長谷川に送り付けて、引っ掻き回す算段。
根っからの愉快犯&享楽主義者ですね。
そして長谷川も、ここで三浦ではなく片桐を着信拒否してしまうのが、片桐を意識しまくり&見も知らぬ女に嫉妬しているようにしか見えないのでした。
 

GAPS apples and oranges 3

三浦、再び長谷川に接触。
ホント自分が楽しむためには勤勉だなぁ。
おまけに長谷川にキスしようとする始末。
長谷川には拒まれてしまいましたが、これで長谷川はやはり片桐以外の男じゃダメなんだなという事が、読者にも三浦にもあらためて強調されます。
ここの三浦の何とも言えぬ表情……。
おちょくったり茶化したりしつつも、長谷川は三浦にとって生まれて初めて情欲を抱いた相手だから、彼なりに複雑な想いがあったのかもしれない。
それでも、お楽しみが優先である事に変わりはないんでしょうけれど。
 
三浦によって、片桐のいるラブホへ無理矢理引っ張ってこられた長谷川。
片桐が発散している雰囲気がヤバい。
もしかしなくてもド修羅場というか……、片桐が長谷川に「試してんの?」と言いたくなる気持ちも分からなくはない。
好意が透けて見えるのに、長谷川がなかなか自分のものにならないんだから、イライラが募るばかり。
長谷川の逡巡は、彼のような男には理解できないでしょうね。
でも、さすがに初めてが三浦の目の前でというのは、ちょっと上級者プレイすぎるような気がしますが(笑)。
 
ここで長谷川のふっとした台詞により、片桐がこのホテルで女を抱いていなかった事と「そうです、お巡りさん、コイツが犯人です」という感じ(?)で三浦の犯行も露呈。
結果、三浦はともかく粉砕されたスマホと、へこんだラブホの壁が可哀想だった。
「やりすぎじゃないすか!?」って、どの口が言う?
むしろ命が助かっただけめっけものというか、頭の毛を刈られなかったのも、三浦が長谷川の本音を引き出したから片桐なりの恩情?
 
このシーンの長谷川の表情がねぇ、ちょっとでもサドっ気ある人間なら追いつめたくなる事請け合い。
片桐が言うところの「俺のこと大好きなのがバレて恥ずかしーって顔」。
長谷川、無意識で片桐の男の本能にガソリンぶっかけて火をつけるような事するから。
というわけで、三浦を部屋から追い出して仕切り直し。
 

GAPS apples and oranges 4

片桐、相当切羽詰まってますね。
もう手でしてもらうだけじゃ我慢できないって……、昨夜、初めてしてもらったばかりだというのに欲張りさん。
まあ、あれだけ気持ち良かったんだから、もっともっとと次を求めてしまうのは無理もありませんが。
片桐の長谷川を求める気持ちが急加速しているのがうかがえる。
 
片や長谷川ですが、片桐を好きなのは確実なんだけれど、組み敷かれるのには男として抵抗がある。
37年間生きてきて、想像もしなかったような事態ですからね。
そこで片桐が……。
 

受け身だと思わなきゃいいんすよ。
こんなカッコいい俺に奉仕されてると思えば気分いいでしょ。

 
正直、長谷川を手に入れる詭弁と取れない事もないですが、案外的は外していない。
長谷川の男のプライドも慮っているようでもあるし……一応、片桐も成長している?

 
何だか良い雰囲気の二人でしたが、そこへお邪魔虫二人の上司である野村さんから電話が入る。
マジ休日出勤とかどうでも良いです(真顔)。
しかも電話越しに長谷川の喘ぎ声を聞いちゃうとかうらやまけしからん!!
いや、野村さんもまさか受話器の向こうで部下二人が乳繰り合っている(古)とは想像もしてないだろうけれど。
 
例の如く、寸でのところで逃げ出す長谷川。
 

勃ちが悪いからって、当然のように下にされてたまるか!
って、なんでやること前提で考えてんだ、俺。

 
一人ノリツッコミお疲れ様です。
でも、肉体関係を持つ事へのハードルは下がっているようで……、つい最近までフェラした口でキスされて吐いていた人とは思えません。
残された問題は、片桐の女関係ぐらい?
 
そして翌日の休日出勤。
片桐の王子様具合に今さらながら吹く。
無駄にキラキラしてますね。
これ、片桐の機嫌のバロメーターにもなっているような……。
しかも「俺もお前と仕事するのは好きだよ」なんて、意中の長谷川に言われてしまえばね。
片桐の中で後半部分の「好きだよ」がリフレインしているような気がしないでもない。
しかし、そこでまたまた×∞三浦が……。
コイツ、絶対タイミングうかがってたんだろうなぁ。
 
三人がワチャワチャしている間にお昼休み。
小林さんとランチの約束をしていた長谷川は、一度は部屋を出るものの、忘れ物を取りに戻る。
そこで、片桐が三浦を通して男を調達していた事を知ってしまう。
この二人が組んで、自分に隠れてこそこそやってるんだから、何か企んでいるとしか思えませんね。
 

GAPS apples and oranges 5

顔面偏差値は高いが貞操観念は底辺の二人によるランチ風景。
 

黒いカード、チラ見せして、ホテルに直行が定番コースだろ。

 
そんな世界の摂理語るような顔してクズ発言されてもな。
三浦に「どんな生き方してきたんすか?」なんて言われたらおしまいですよ。
 
一方、小林さんと食事をしていた長谷川は……。
この人も大概トラブル体質ですよね(遠い目)。
ある意味、片桐とはお似合いかも。
小林さんの超ヤバイ元旦那出現。
コイツを見ただけで、小林さんの苦労が察せられる。
それにしてもこの作品、今さらながら色恋絡みの刃傷沙汰が頻発(主に片桐のせい)。

そこへ片桐と三浦の新旧王子様コンビが颯爽と現れる。
さすが腐っても鯛というか……、二人とも、ちょっと場慣れしすぎてない?(笑)
どんな人生を歩んできたのか聞くだけ野暮ですが、とりあえず片桐の友人の刑事・矢島と連携して犯人確保。
これでめでたしめでたし……かと思いきや、ちょっと警察、詰めが甘すぎ!!
間一髪で長谷川は凶刃を逃れるも、かばった長谷川がケガを負ってしまう。
暴漢への報復を見ていると大丈夫そうで一安心ですが……つーか、これ、どっちが犯罪者だか分かんないなぁ。
 
その夜、事情聴取も終わって、やっと解放された三人。
三浦が片桐に手柄を譲るなんて明日は槍でも降るんじゃないかと思ったら……。
そこは三浦、ブレなかった。
盗聴器……、三浦、もはや長谷川が自分の上司だって事忘れてませんか?(それ以前に人として……)
 
片や、長谷川はランチ前に聞いた片桐と三浦の話を懸念していたが、とりあえず片桐が男のところに行く気配がないのでホッと胸を撫で下ろす。
おまけにこのシーンの片桐の表情と台詞、「あぁ、こういうの長谷川のツボにドンピシャだよね」という感じ。
三巻まで読んでいると、片桐ならずとも長谷川の好みは大体把握できるようになってきました。
 

…それ、風呂とか面倒だろ。
手伝うから。

 
……これは!!(ゴクリ)
 
こうして片桐の部屋に戻ってきた二人でしたが……。
長谷川も読者も、汚部屋の住人の住まいを甘く見ていたのでした。
風呂場汚いとかムードぶち壊し(爆笑)。
傷口から雑菌入るってどんだけ!?
十中八九「見せられないよ!」なレベルなんだろうな。
 
しかし、そこで片桐が三浦に男を用意させていた意外な理由が明かされる。
いや、良い話風にしているけれど、片桐、やってる事はかなりえげつないですからね。
彼女と別れたいからってハニトラ仕掛けるとか……。

とりあえず長谷川にバレなきゃいいかぁ(私も完全に片桐に毒されているな)。

長谷川もついに自分の気持ちを素直に認める。
なんだかんだ言いつつも幸せそうな二人で〆。
 

Drops

凄い焦らしプレイを見た。
ええ、ここで待て次巻!?
そんな殺生な……。
まあ、長谷川の生娘も真っ青の初々しさに免じて許してあげよう(何様?)。
怪我の加減は片桐の事だから想定内でしたが、こういう言い方されると絆されちゃうだろうな。
なにより怪我が軽かったのが嬉しいって……、早速糖度が増している二人。
 

『GAPS RISKY DAYS』(里つばめ/大洋図書H&C Comics)感想【ネタバレあり】

GAPS RISKY DAYS 【電子限定おまけマンガ付】 (HertZ&CRAFT)

GAPS RISKY DAYS 【電子限定おまけマンガ付】 (HertZ&CRAFT)

GAPS RISKY DAYS (H&C Comics CRAFTシリーズ)

GAPS RISKY DAYS (H&C Comics CRAFTシリーズ)

 
里つばめ先生の『GAPS RISKY DAYS』の感想です。
前作『GAPS』の感想は↓から。
kashiwamochi12345.hatenablog.com
会社では王子様、しかし実態は欠点を上げたらキリがない、アブナイ部下・片桐から迫られる普通の会社員・長谷川。
そこへ片桐に負けず劣らず強烈なキャラをしている「第三の男」が現れ、長谷川の生活はさらに波乱に満ちていく。
 

『GAPS RISKY DAYS』(2017年1月6日発行)

あらすじ

一見仕事ができる爽やか長身イケメンだが、実際の性格は破綻しており問題行動の多い部下・片桐に振り回される長谷川。
おまけに電車の中で偽装痴漢の罠に落ちそうになるなど踏んだり蹴ったり。
そんな長谷川の前に、新たな部下・三浦玲央が現れる。
なんと彼は痴漢容疑をかけられた長谷川を、片桐と共に救ってくれた男だった。
押しが強い一方、人当たりも良く、すぐに部署に馴染んでしまった三浦。
だが、実は彼も相当な食わせ者。
長谷川と片桐の関係を知った三浦は、興味津々でちょっかいをかけ始める。
 

総評

「長谷川、厄介な男を惹きつけるフェロモンでも出してるのか!?」と問いたださずにはいられない第二巻。
誘蛾灯のように次々と変な人を引っかけてきちゃいますね。
今回初登場の三浦もとんでもない人間だった。
なんせあの片桐と並んで遜色ないマイペース&自分勝手っぷりで二人の仲を引っ掻き回します。
しかし三浦のおかげで若干進展したようなので、ある意味、二人のキューピットと言えなくもない(長谷川にとっては迷惑極まりないが)。
 
もちろん、元祖・横暴男である片桐も負けてはいない。
相変わらず長谷川の都合などはお構いなしに迫ってくる。
でもその中に、彼の不器用さが長谷川がなかなか靡かない事への苛立ちが垣間見えて、何となくキュンとしてしまうというか……。
はっ、いけないいけない、長谷川と同じく絆されている!?
 

GAPS RISKY DAYS 1

冒頭から偽装痴漢の罠に引っかかりそうになる長谷川。
本当についていないというか、37歳は男性の厄年ではないはずなんですが……。
けれども、偽装犯の上を行く片桐も凄まじい。
 
昨日、片桐の負った傷(女性絡みの刃傷沙汰でほぼ自業自得)がきっかけとなり、距離が近づいたかに見えた二人。
だがカップル成立までの道はまだまだ遠い。

なんせ長谷川を酔わせて、あれこれヤッちゃおうという男ですからね、油断できない(今回は長谷川の「ハードタッチ」により返り討ちにあっていましたが)。
でも片桐、睡〇姦もできる状況だったのに手を出さなかったんだから、彼なりに気を使っている?(気の使い方がオカシイ)
 
そんな二人の前にニューカマ―・三浦が登場。
この時点では、長谷川と片桐の関係は与り知らないのですが、二人の間に割って入ったり、片桐の現彼女の話を持ち出してきたりと、片桐にとってはすでに目障りな存在。
何となく片桐から不穏な空気が漂ってきた。
 

GAPS RISKY DAYS 2

仕事の編成で、離れ離れになってしまった長谷川と片桐。
おまけに長谷川が新入りの三浦ばかり構うものだから、片桐の雲行きがいよいよ怪しい。
 
今回、片桐は長谷川を本当に好きなんだなという事が伝わってきました。
「尊敬している人に誉められたらやる気出ますよ」なんて、あんなに素直に言われたらたまりません。
嘘じゃないのが伝わってくるから、長谷川も冷たくできない。
一方、長谷川の事を即物的に欲しがったり、クズな言動をとってしまうのもまた、片桐のありのままの姿なんですよね。
その振り幅の大きさに、長谷川は翻弄される。
 

…お前とじゃ、俺だけだっていう錯覚もできねえよ。

 
これはもう、自分だけだと信じさせてくれたら、片桐のものになっても良いって言ってるような……。
 
片桐も策士だから、長谷川を手に入れるために如何様にも方法をとれそうなものなのに。
時に長谷川のツボをものすごい勢いで連打してくる反面、彼が本当に求めている言葉をあげられないのが、不器用というかなんというか……。
 

GAPS RISKY DAYS 3

あぁぁ、とうとう片桐爆発。
三浦の清々しいほどのダメ人間っぷりも吹っ飛ぶ破壊力。
元祖・王子様は伊達じゃない(やってる事は王子様からはほど遠いですが)。
ただやきもち焼いているだけなら「可愛い」だけで済むのに、片桐はこれがあるから怖いんだ。
 
長谷川のある種の逃げの姿勢も容赦なく指摘して、彼を動揺させるし(指摘するのは良いとして、会社の備品は大事に扱いましょう)。
長谷川の手間をわざと増やした挙句、見下すような言動をとった三浦にブチ切れるし。
あのメンタル鋼のアイドル系クズ・三浦の青ざめて冷や汗垂らす姿も、なかなかお目にかかれないでしょう。
まあ、尊敬する長谷川をこき下ろされて怒髪天を突いたのもあるけれど、片桐の根底にあるのは「長谷川さんが俺を一番に構ってくれないのやだよーーー!!うわぁぁあぁぁん!!」という事なんでしょうね。
 

GAPS RISKY DAYS 4

長谷川と片桐の間に微妙な空気が流れる中、前回あれほど恐ろしい目にあったのに、二人の関係を嗅ぎつけて長谷川にちょっかいをかけてくる三浦。
コイツの辞書には「懲りる」とか「学習能力」といった言葉は載ってないんでしょうか?
人生順風満帆すぎて、スリルを求めているタイプなんですかね。
飲み会で酔った長谷川の写真を、軽率に片桐へ送ったりとか……。
前回、自分が長谷川に色々やらかして、片桐に前髪消滅させられそうになったの憶える?
おまけに長谷川にムラムラする始末。
余計話がややこしくなるから!!(読者としては大歓迎ですが←え?)
三浦の気持ちも分からんでもないけれど。
長谷川さん、男を知って(未遂)、匂い立つような色気と恥じらいが漂い始めたような……。
 
そこへ間一髪やって来た片桐は文句なしにカッコよかったんですが……。
 

お前と3Pはねえから。

 
言ってる内容は、やっぱりいつもの片桐だった。
でも、ずっと避けられていた片桐が迎えに来てくれて、長谷川も嬉しかった様子。
一方、片桐が長谷川を避けていた理由を要約すると「好きな子の自分しか知らない顔を見たかった」という事ですよね。
やってる事はえげつないけれど、今さらながら好きな子虐める小学生みたいだな、片桐。
 

GAPS RISKY DAYS 5

前回から続いて押せ押せの片桐と、流れでパチスロに行く事になった長谷川。
だから、なんで自分の貞操をわざわざ危機に晒すような賭けをしちゃうのかな~!?
ここからの片桐は、ただのギャンブル狂いなのか、長谷川を手に入れるために懸命になっているのか、正直微妙ですが(笑)。
結局、パチスロは大当たりした長谷川の勝ち。
しかし片桐の「勝ってもっと一緒にいたかったな」という言葉に長谷川がキュンとしちゃったので、片桐は試合に負けて、勝負に勝ったと言えるかもしれない。
 

――なあ、片桐、俺は別にその…、普通に過ごすだけなら全然…。

 
長谷川が片桐に心を開きそうになった瞬間、まったく「普通」じゃない雰囲気になって、あまりのタイミングにちょっと笑ってしまった。
若造共、知らないとはいえとんでもないのに絡んでしまいましたね。
長谷川に手をかけた途端、吹っ飛んだチンピラA。
プラス、片桐が割れたガラスをチンピラBの頸動脈辺りにあてた途端、長谷川と一緒にいて「普通」はあり得ないと思いました。
 
何とか切り抜けて、片桐のマンションにたどり着いたものの、そこはまた汚部屋だし、長谷川も疲労困憊。
 

お前といると本当に疲れる。
ーー…お前なんか好きになりたくない。

 
これは片桐に「好き」って告白しているようなものなんだけれど、長谷川のそのまま正直な気持ちでもあるんでしょうね。
片桐と付き合うのは、社会通念的にも、長谷川の年齢的にも、その他色々な意味でしんどすぎる。
だが、そこで長谷川を気遣って引くような片桐ではない。
 

無理ですよ。
俺が長谷川さんを好きなんだから。
当然、長谷川さんも俺を好きじゃねーと。

 
ホント清々しいほど自分勝手ですね。
まさにジャイアーニズムの申し子。
しかも、それが長谷川が最も求めていた言葉だから本当に始末に悪い。

片桐も厄介だけれど、長谷川も大概拗らせているというか、面倒くさいなぁ。
そこが可愛いんだけれど。
だから片桐も図に乗ってやりたい放題。
さすがに後ろの穴は無理でしたが……、いきなり本丸に突入するようなものだからね(?)。
つーか、自分が無理な事、人に強いるなよ(笑)。
 
そこへ再度、三浦が現る。
コイツも普通にストーカーですね(笑)。
長谷川達がチンピラに絡まれたところ動画に撮ってるし。
そして、何気に今回一番の衝撃。
えっ、童貞だったの!?
というか、むしろ「今までやりたいって思ったことないんですけど」に衝撃を受けたんですが。
それで生まれて初めてムラっときたのが長谷川ってヤバいわぁ……。
あとアレも片桐よりデカいとか……、片桐が毛嫌いする要素だらけ。
 

MELT

第5話の続きで良い雰囲気の二人。
長谷川の「普通」の基準とか、「わかんねぇよ」と泣いちゃうところとか、ちょっと乙女入ってますね。
37歳にしての初めて尽くしですから、戸惑ってしまうのも分かりますが。
あとね、長谷川に手でしてもらっている片桐の表情は必見。
誰ですか、アレ!?(驚嘆)
不覚にも片桐に萌えちゃったじゃないか!!
なんつー幸せそうな顔してくれるのさ!!
やべぇ、どんな殺し文句よりも片桐の本音が駄々洩れで、こっちが赤面する。
そしてラスト……、これは長谷川に「おめでとうございます」と言っていいのか?
長谷川も、片桐への気持ちが如実に表れてしまったというか、これぞまさしく「身体は正直だな」というヤツですかね?(ゲス顔)
 

『囀る鳥は羽ばたかない(6)』(ヨネダコウ/大洋図書H&C Comics)感想【ネタばれあり】

囀る鳥は羽ばたかない 6 (HertZ&CRAFT)

囀る鳥は羽ばたかない 6 (HertZ&CRAFT)

囀る鳥は羽ばたかない(6) (H&C Comics ihr HertZシリーズ)

囀る鳥は羽ばたかない(6) (H&C Comics ihr HertZシリーズ)

 
ヨネダコウ先生の『囀る鳥は羽ばたかない(6)』の感想です。
肉体関係を持った後、矢代に置いていかれた百目鬼。
百目鬼の存在を振り払うように、全てにケリをつけるために動く矢代。
平田との抗争にいよいよ決着の時。
そして、矢代と百目鬼の関係は新たなステージへ……。
 

『囀る鳥は羽ばたかない(6)』(2019年5月1日発行)

あらすじ

真相を察した三角によりじわじわと追いつめられていく平田。
ついには三角を裏切って三和会と盃を交わす話もご破算になり、共謀していた豪多組の組長・仲本を殺害してしまう。
平田に仲本殺害の罪を擦り付けられ、豪多組の残党に狙われる矢代。
そんな彼が銃撃されたところを間一髪救ったのは、捨ててきたはずの百目鬼だった。
矢代は百目鬼を拒みつつも、再び行動を共にする事になるが……。
 

総評

第6巻も読み応え抜群でした。
様々な人間達の打算や策謀。
ボーイズラブ作品の中でも、そのストーリーテリングの巧みさは抜きんでています。

長かった平田との戦いにもとうとう決着がつきました。
作品内時間ではおそらく数日である事が信じられないぐらいの密度と熱量。
矢代と平田の対決、そして三角の平田に対する断罪も凄かった。
平田の所業はどう見積もっても最悪で、到底同情できるような人間ではない。
だが、一人の人間に長年執着し、それでも振り向いてもらえなかった末路を思うと、なんとも言えない苦さと虚しさが胸を去来します。
 
矢代と百目鬼の関係も、今まで以上に痛々しかった。
「好き」や「愛している」という感情で動くには、あまりにも壮絶な人生を歩んできた矢代。
最も癒してくれるはずの相手が、矢代の今までの人生とアイデンティティを脅かすというのが酷すぎる。
ただ現時点で百目鬼ができるのは、矢代をひたすら追いかける事だけで。
百目鬼が矢代を愛し、守ろうとすればするほど、矢代を傷つける。
この二人がどうしたら幸せになれるのか……、読者である私にも見当がつかない。
 
ラストの展開も悲しかったものの、「やはりそうなったか……」と静かに納得している自分もいる。
これは矢代という人間が生きていく上で必要なプロセスだったんだなと。
しかし、これからもこの作品はもちろん続いていくので、二人の歩む道はまたいつか交差する。
その時、彼らがどうなるのか、楽しみで仕方がありません。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第29話

冒頭、幼少時の大人びた百目鬼と、現在矢代に置いていかれて寄る辺を失くした子供のような彼の対比が秀逸。
けれども、ここで引き下がるようなら、百目鬼も最初から矢代みたいな厄介な男に惚れてない。
矢代に捨てられて狂犬度がアップした彼の視線にゾクゾク。
甘栗(仮名)もイイ感じに百目鬼を煽ってくれる。
 
後半は「ここで黒羽根の姪のトモちゃんの話題が絡んできたかぁ」と驚嘆。
さすがヨネダ先生、展開に穴がない。
そうですよね。
三角ほどの男が、平田の証言を易々と鵜呑みにするわけがなかった。
しかも半身とも言えた黒羽根に関わる事なんだから。
平田については部下として情をかけつつも、長年警戒してきたというわけですか。
どう転んでも、尋常な神経ではないですね。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第30話

三角が平田の外堀を埋めていく。
表立っては動けなくても、三和会の幹部も使って、やり方は如何様にもあるという感じ。
矢代を見張らせていた二人組も、一見ギャグ要員かと思いきや、とんでもない連中でした(ガクブル)。
彼らの車の荷物シートみると「銃刀法とは……」と茫然としてしまう。
一方、平田は豪多組の仲本と決裂寸前。
どんどん追い込まれていきますね。
まるで蟻地獄。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第31話

前回に引き続き、おじさん達の怖い駆け引き。
まあ、三和会の盃が受けられない以上、平田に仲本とつるんでいるメリットはないわけで(逆にデメリットしかないし)仲本を殺害。
ホント先に殺ったもん勝ちの世界。
おまけにその罪を矢代に被せる念の入れよう。
おかげでパパン(三角)は矢代の事が心配でしょうがない。
その親心が、平田の矢代に対する憎悪に一層火をつけるんですが。
 
ここで三角の前に姿を現す平田の面の皮にも驚かずを得ない。
平田には現状三角の反対勢力を味方に付けるぐらいしかできないが、それを一切表に出さない度胸は、もはや常人には理解不能。
おまけに矢代に恨みのある刑事・井波まで投入してくるとは……。
このシリーズって、捨てキャラが本当にいませんね。
ヨネダ先生の作る緻密な物語構成に脱帽。
 
そして後半は、すべてを置き去りにして、一人決戦の場所に赴こうとする矢代。
通して読むと、矢代なりの目算があるんですが、水臭い事この上ない。
矢代なりに周囲の人間を大事に思っての行動でもあるけれど……。
舎弟である七原達からしたら無力感半端じゃないでしょうね。
 
そんな矢代の前に現れたのが、やっと追いついた百目鬼。
このシーンの百目鬼の顔つきが、以前と明らかに違う。
二人が別れて時間的にはそれほど経過していないのに、凄味が急激に増した。
人間って決定的な「何か」があると、短時間でここまで変わってしまうものなんだなと。
それを目の当たりにしてしまい、何だか空恐ろしささえ感じてしまう。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第32話

矢代と百目鬼のやり取り。
このシーン、コマ割り、画面効果、テンポなど、すべてが最高。
 
予想はしていたけれど、どちらにとっても痛い。
ことさら露悪的になり、百目鬼を傷つけるような言葉を次々に吐く矢代。
だが、矢代の側を離れないと決めてしまった百目鬼はもう揺るがない。
純粋でひたむきな中にも、矢代を何があっても手放さないというエゴを感じます。
たまらなく魅力的なんですが、それと同時に矢代が感じる脅威もさらに増していく。
 
一方、影山診療所の面々。
七原、やっぱりアホの子だなぁ。
場が和むから大好きだけれど。
ビッチが良くてヤ〇マンがダメって、どういう基準なの?(まあ、確かに矢代にはないけれど)
しかし、付き合いが長いだけあって、矢代の事はよく見ている。
確かに、矢代と影山の腐れ縁の秘訣は、影山が矢代の事を分かっているようで分かっていない、そして分かっていないようで分かっている……、その逆説のバランスにあるんでしょう。
そして影山の、百目鬼×矢代の関係の把握してなさ加減に笑う。
核心突いてるくせに、本当に微妙な匙加減で外してきますね、この人。
 
ラストは矢代の命令で、平田を拉致しに来た甘栗達。
いよいよ物語もクライマックスが近い。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第33話

空港近くの倉庫にやって来た矢代達。
涼しげな顔を装っていても、矢代の体はボロボロ。
巻数は重ねてはいますが、銃撃からまだそう経っていないはず。
おまけにずっと極限状態が続いている。
 
ここでは前回とは一転、百目鬼が年相応の青年の表情を見せる。
矢代が弱っているのもありますが、彼が強がりではなく本音で語っているのを悟っているんでしょうね。
百目鬼が矢代に膝枕してあげているのが、第4巻のアパートでのシーンと重なる。
短い間の出来事なのに、二人とも随分遠くまで来てしまったような気がします。
 
百目鬼に「人を好きになるのって、お前はどんな感じだ?どんな風に好きになるんだ?」と尋ねる矢代。
矢代にとってはそれが「痛み」であるように、百目鬼にとっても矢代への想いがそうなりつつある。
ここまでだけでも胸に響く名シーンなんですが、さらに素晴らしいのはこの後。
次の瞬間、百目鬼にとって矢代は「痛み」のみに留まらず、「癒し」でもある事が証明される。

 

…妹は良かったな、お前がいて。

 
これは幼少期に性的虐待を受けていた矢代が、同じ境遇にいた百目鬼の妹に自分を重ねて呟いた台詞なんですが、この一言によって百目鬼は救われる。
凄いのは、矢代は百目鬼を救おうなどという意図はまるでなく、ただ素直な心情を吐露しただけだという点。
だがそれが、百目鬼をこの上もなく癒してしまう。
単なる偶然と言ってしまえばそれまでなんですが、まるで奇跡を見た時のような感慨を覚えるのは私だけでしょうか?

しかし、そんな柔らかな時間は長くは続かない。
矢代は百目鬼の隙を見計らい、銃を奪って突き付ける。
 

簡単に抑えつけられる人間に、銃口を向けられる気分はどうだ?

 
二人っきりの倉庫に銃弾が鳴り響く。
そして、いよいよ矢代と平田の一騎打ち。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第34話

矢代 vs 平田。
身内どころか、三和会まで巻き込んで、どちらかがこの世から消えなければ、もう収まりがつかない局面。
手に汗握る緊張感。
ここでは矢代の切れ者ぶりが存分に発揮される。
甘栗達を利用して、短時間の内に平田の全財産を奪ったのにはゾクゾクしました。
あれだけ生きるか死ぬかの瀬戸際にいながら、裏でこれほどの策を弄していたというのが恐ろしい。
しかも、甘栗達に裏切らせない底知れなさがあるんだから只者じゃない。
 
一方、平田は後がない上に、矢代への憎しみは増すばかり。
彼が矢代を憎悪するのは、やはり三角への執着ゆえだった。
矢代がただの愛人だったらまだ良かったけれど、三角の隣に立つべく、自分を差し置いて極道の世界で上り詰めていくのは許し難い。
折角、黒羽根まで殺したのに……。
このシーンの平田は、もう保身なんて考えていない。
ただただ矢代への怨讐の権化。
 
片や、矢代も死に場所を求めてる風なのが……、もう言葉も出ません。
矢代にとっては、生きる事即ち苦界にいる事だった。
安易に「死を選ぶ事は罪」なんて言えないのと、それでも生きて幸せになって欲しいという気持ちが、私の中でもせめぎ合いました。
しかし、やはりそこで矢代を命を賭して助けてしまうのが百目鬼という男で。
そして矢代も、百目鬼になにかがあれば我を忘れる。
矢代にとって一人の男に縛られて、あまつさえ幸せになるなんて事はあり得ない夢物語であり、今までの人生を全否定する事態。
つまり百目鬼は物理的には矢代を救えても、精神的には殺す事にもなりかねない。
辛すぎる。
 

囀る鳥は羽ばたかない 第35話

冒頭、百目鬼が矢代を間一髪で救う事ができた経緯。
矢代が弾を外したのは想定内でしたが、七原、イイ男だな。
この期に及んで、百目鬼が矢代と関係したのを羨ましがっているのはどうかと思いますが(笑)。
 
その頃、とうとうラスボスならぬ三角が直接打って出ましたね。
道心会の会長・立木も息を引き取り、跡目問題も決する。
三角の平田への処遇は……、これは考えうる限り一番残酷な断罪ですね。
最後まで徹底して眼中に入れない。
平田のこの何十年かは、一体なんだったのか……。
彼の自業自得とはいえ、三角の恐ろしさをまざまざと思い知りました。
 
最後に矢代。
影山との関係は、今回の件で完全に吹っ切れたんでしょうね。
影山の言った「身内」というのが、実にしっくりくる。
相変わらず分かってないくせに、本質に肉薄してくるな、影山。
 
百目鬼とは……やはりそうなっちゃうか、というのが正直なところです。
悲しいのだけれど、予感はしていました。
あの口八丁手八丁の矢代が「頭を打って憶えていない」なんて子供みたいな嘘を吐く点に、返って強い拒絶を感じる。
だからこそ、百目鬼は引き下がらざるを得なかったんでしょうね。
 
そして、物語は新たなステージへ。
なんか、新生・矢代に不覚にも(?)ときめいてしまいました。
男前度&色気度がアップしてませんか?
百目鬼の詳細は不明だけれど、意味深な手と頬のアップが気になります。
 

飛ぶ鳥は言葉を持たない

入院中の百目鬼と七原の会話。
七原、ところどころアホだけれど、本当に良い兄貴分だな。
それに、やっぱり矢代の事をよく理解していますね。
いちいち当を得た事を言う。
 
百目鬼も、今の自分では矢代を追いつめるだけという事を悟ってしまった。
しかし、ラストの鋭い横顔を見ると、矢代を諦める気は毛頭なさそうでちょっと安心する。
さらにヤバイ世界に踏み込む事になりそうですが……、今でもかなり男前なのに、この先、どんな進化を遂げるのか?
とにかく先の展開が楽しみで仕方がありません。
 

『GAPS』(里つばめ/大洋図書H&C Comics)感想【ネタバレあり】

GAPS (HertZ&CRAFT)

GAPS (HertZ&CRAFT)

GAPS (H&C Comics CRAFTシリーズ)

GAPS (H&C Comics CRAFTシリーズ)

 
里つばめ先生の『GAPS』の感想です。
今年37歳になる会社員の長谷川は、平穏な毎日を送りつつも、年齢により身に降りかかる衰えを感じ始めていた。
ある日、彼は会社の後輩で仕事もできるイケメン・片桐の、とんでもない秘密を知ってしまい……。
破天荒な片桐と、彼に振り回される、お人好しな片桐の関係が秀逸。
 

『GAPS』(2015年9月1日発行)

あらすじ

会社員の長谷川直幸は同僚にも慕われ、仕事もとりあえず順調。
しかし突然EDになってしまい、付き合っている彼女との関係に支障をきたすなど、自分の老いを直視する事になる。
体力と気力を取り戻す為、にわかにランニングなどもしてみようと試みるが、ある晩、公園で暴力沙汰に出くわしてしまう。
しかも、その渦中にいたのは、会社の後輩である片桐聡だった。
有能で性格も優しいイケメン・片桐の二面性を知ってしまった長谷川。
おまけに、そんな片桐になぜか懐かれてしまい、長谷川の穏やかな毎日は一変してしまう。
 

総評

名は体を表すというか、もの凄いギャップを見た。
とにかく攻めである片桐のアクの強さが半端ない。
ボーイズラブというジャンルでも、二面性のあるキャラは引きも切らないですが、その中でも彼の振り切れ具合はかなりのハイレベル。
会社での爽やかな王子様キャラとの落差。
俺様気質の自信家で口も悪い。
無精ひげを生やし、ギャンブル狂いで汚部屋の住人。
女にだらしなく、暴力沙汰も辞さない。
あまつさえ、原因となる何らかの葛藤や暗い過去があるわけでもなく、あっけらかんと壊れている。
だが、長谷川への感情にはおそらく嘘はなく、言っている事もクズではあるが決して妄言ではない上、長谷川が触れられたくない核心をバシバシ突いてくる。
物語を読み進める内に、長谷川だけではなく、読者ですらも、そんな片桐からどんどん目が離せなくなってしまうのが始末に悪い。
 
一方、長谷川の人物設定も上手い。
仕事はできるが、極々一般的な30代後半の男性(かなりお人好しが過ぎるきらいがありますが)。
けれども、実はEDになってしまったり、家族から結婚を急かされるなど、行き詰まりも感じている。
そんな彼にとって、常識なんてクソくらえな片桐の与えたインパクトは尋常ではなかった。
 
例えるなら、モノクロームの世界に突如現れた極彩色。
それを忘れろというのは無理な話で、片桐の存在が長谷川の中でどんどん大きくなる。
片桐の破天荒な言動の数々に、長谷川の胸の動悸が「これはもしかして恋?」と誤作動(?)を起こしても不思議ではない。
おまけにそんな片桐が、常時攻め手からめ手で迫ってくるのだから、長谷川からしたらたまったものではない。
 
とにかく片桐の行動と同じく、先がまったく読めないジェットコースターのような作品。
二人の関係が果たしてどうなっていくのか、気になって仕方がありません。
 

GAPS 1

まず冒頭からして、主人公の長谷川がEDという事にワンパン食らいます。
ボーイズラブでは、なかなかお目にかかれない設定。
おまけに長谷川、お腹周りも多少気になりだすお年頃で、本当に良くも悪くも普通のアラフォーなんですよね。
だが、そこが面白い。
そして、あらゆる意味でキラキラしたパーフェクト人間・片桐との対比も上手い。
こんな人間が傍にいたら、否でも自分の衰えを自覚せざるを得ない。
長谷川には、片桐が眩しく見えて仕方がない。
 
ところが物語は急展開。
片桐のぶっ壊れ具合が洒落にならない。
一見穏やかな口調と、やっている事のえげつなさとのギャップが、もはやホラー。
勢いとはいえ、長谷川、なぜ自宅に連れてきてしまったのか?(笑)
まあ、読者として外から見ている分には、長谷川の狼狽っぷりが楽しくてならないんですが(ヒドイ)。
 

GAPS 2

長谷川、巻き込まれ型主人公のテンプレを爆走中。
自宅に泊まらせた時点で、片桐が長谷川を「色々な意味で大丈夫な人」認定してしまっているのは想像に難くない。
元々、片桐は長谷川を尊敬していたようで……、とんでもないのに懐かれてしまいましたね、長谷川。
 
それにしても、片桐の変わり身の早さには本当に驚かされる。
皆、騙されてる騙されてる。
まさに入れ食い状態。
見ているこちらが人間不信に陥りそう。
しかし、再度確認したくなるですが、本当に彼のバックグラウンドって闇がないんでしょうか?
なんかお姉さんも清楚系ビッチという事で、かなり凄まじそうなご家庭なんですが……。
 
後半も片桐の行動にドッキドキ(not ときめき)。
姉ちゃんとお気に入りの長谷川さんに無礼を働いたからといって、相手の車のフロントを笑顔でぶっ壊すなよ。
終始青ざめている長谷川には悪いけれど、ここまでいくといっそ爽快。
本性と仮面の狭間で、どういう風に折り合いをつけているのか、凡人には皆目わからん。
片桐的には、長谷川が理解してくれればそれで良いらしい(長谷川にとっては、まったく良くありませんが)。
 

GAPS 3

前回の凶行も相まって、片桐の事がより分からなくなった長谷川。
それでも、長谷川は片桐を理解しようと試みる。
というか、上司だからといって普通そこまでするか!?
もしかしなくても、警察に付き出していてもおかしくないレベルですよ(その警察に友達がいるというのが、またシュール)。
片桐も大概ヤバいけれど、長谷川のお人好し具合も相当だと思うんですが……。
流れで片桐の汚部屋の片づけをしたり、競馬や食事、買い物をして丸一日一緒に過ごしたり(しかも何となく楽しそうだし)。
 
おまけに、その過程で彼女の浮気を知ってしまい、よりにもよって片桐にEDの事もバレてしまう。
長谷川、お祓いに行く事をおススメしたくなるくらい気の毒。
しかも、浮気の真相を探るために入ったラブホで、長谷川と片桐はおかしな雰囲気になってしまい……。
ここの長谷川がまた、なんだか嗜虐心を煽るイイ表情してくるんだ。
変に媚びたり、30代の一般男性を逸脱しないながらも、なんとなくクるものがある。
ただでも片桐は長谷川に対して好意を抱いているのに、これは十中八九サドな片桐の心の琴線かき鳴らしちゃいましたね。
 

…長谷川さん、こないだ俺、面白いAV見たんですよね。上司喰っちゃうやつ。

 
彼女の裏切りに打ちのめされた上に、隣の部屋で貞操の危機に陥る長谷川。
あらためて考えなくとも、スゴイ構図&展開。
 

GAPS 4

前回に引き続きノリノリの片桐。
ここで長谷川が頭突きをかますとは予想外でしたが……、あの片桐ですら鳩が豆鉄砲食らったような顔してましたからね。
こういうところが片桐の関心を買わずにはいられないと思うんですけれど、当の長谷川本人は絶対気づかないだろうなぁ。
 
仕事は相変わらず忙しく、彼女の事もあって、長谷川の悩みは尽きない。
しかし、そこで引くような殊勝な男ではない片桐。
それどころか、チャンスとばかりに付け込んでくる。
ラブホで長谷川に逃げられた直後、間髪置かずに女の子を呼んじゃう+刃傷沙汰になるなど、クズである事に変わりはないんですが。
長谷川に対する迫り方が、これまた絶妙なんですよね。
強引ながらも、年下ならではの甘えも取り混ぜて、頼られると無碍にできない長谷川のツボを押してくる。
己がクズである事すら「あなただけには本当の自分を見せてます」アピールに利用しているというか、これをすべて故意にやっているんだろうから本当に知能犯ですね。
そして、長谷川の厄介さが身に染みつつも、案の定、それに絆されてしまう長谷川。
ダメンズにハマっていく典型を見ているようだ。
 

GAPS 5

軽口や減らず口は叩きつつも「片桐も意外と余裕がないんじゃないの?」と思った回。
長谷川にやたらと彼女と別れるように勧めているし。
他者にまったく執着しなさそうな片桐は、普段のお遊びならそこまでこだわらないでしょうに。
 
片桐にとって、今までの人生は絶えずイージーモードだったのではないかと推測しますが、長谷川に出会って、初めてままならないものを感じたんじゃないかな?(それすら、長谷川は楽しんでそうだけれど)
同時にろくでもない自分を、ブーブー言いつつも受け入れてくれるのも、また長谷川だけで。
これは片桐が長谷川の事を手放せなくなってしまっても不思議ではない。
 
長谷川が乗っていてもお構いなしに法定速度オーバーで車を走らせる片桐のシーンは、長谷川が片桐との関係からもう降りられない事の暗喩のように思える。
鎌倉へのドライブデート(?)も命がけ。
最近、比較的大人しかった片桐ですが(すでに基準がオカシイかもしれませんが)、やはり滅茶苦茶なのは変わらないと釘を刺されたよう。
しかし、その直後に甘い台詞を振りまくという波状攻撃。
いい加減、長谷川や読者の心臓も持ちません。
長谷川さん、若くない上にEDになっちゃうくらい繊細なんだから、もう少し労わってあげようよ(片桐には無理か)。
ラストでもさり気なく爆弾を落としてくるし。
 

俺のことが好きなんじゃないんですか?

  

GAPS 6

前回ラストの台詞をあっさり否定する長谷川に笑う。
恥じらいも何もあったものじゃない。
百万歩ぐらい譲っても、苦労する未来しか見えませんしね。
むしろ、こんな片桐と友達やろうとしてるだけスゴイ。
なんせ長谷川を彼女ときっぱり別れさせるために、友達の矢島から借りた車の中で即ヤッちゃおうというロクデナシですよ。
ヤツの「だらしねぇ体。エッロいなぁ」に激しく同意したくなってしまう自分を殴りたい。
 
しかし、片桐に一矢報いている(?)長谷川も、なかなかどうしてやるなぁ。
攻めに迫られて嘔吐する受けって、初めて出会ったような気がします。
まあ、男にフェラされた直後にキスされた男性の反応は、通常ならこんなものでしょうが。
それに一切たじろがない片桐も、ホントどんなメンタルしてるのか……。
「しっかし、あれぐらいで吐くなんて、今までどんだけ上品なセックスしてきたんですか」って、お前こそどんな特殊状況下で致してきたんですか?
おまけに「彼女さんも欲求不満になる訳だ」と、容赦なく長谷川のコンプレックスを抉ってくる。
 
だが、そんな最低男である片桐の存在が、どうしても頭から離れない長谷川。
彼女と別れ話をしていても、浮かんでくるのは片桐の言葉ばかり。
「あんな奴、好きになる訳がない」と自分に懸命に言い聞かせている時点でお察し。
片桐がケガをしたと聞いて(懲りずにまた女性絡みの刃傷沙汰)駆けつけてしまうし……。
 
その後、長谷川は片桐をあらためて振ろうとしますが、これ、客観的には告白しているようにしか見えない。
片桐の言う通り、「嫌よ嫌よも好きのうち」というか。
「普通の上司と部下に戻ろう」というのも、結局、完全に関係を断てない事の証左だし。
なんだかんだと言いつつも、片桐のような人間が傍にいたから、長谷川も彼女との別れを引きずらず自然体でいられたんでしょう。
だからこそ、片桐のような男は、図に乗らずにはいられない。
 

REVERSE

6話の直後。
なんでこの流れで、片桐の家に上がって酒飲んじゃうんですか、長谷川さん!?
片桐の誠実顔に何度騙されれば気が済むのか!?
ラブホや鎌倉であった事、ちゃんと覚えてますか!?
チョロインの称号を差し上げたくなる37歳会社員男性。
天然にもほどがある。
これは片桐に付け込まれても仕方がないかも。
ラストは珍しく片桐が痛い目に合っていて、これもまた一興。
 

『俺が好きなら跪け』(里つばめ/大洋図書H&C Comics)感想【ネタバレあり】

俺が好きなら跪け (HertZ&CRAFT)

俺が好きなら跪け (HertZ&CRAFT)

俺が好きなら跪け (H&C Comics CRAFTシリーズ)

俺が好きなら跪け (H&C Comics CRAFTシリーズ)

 
里つばめ先生の『俺が好きなら跪け』の感想です。
銀行員である同僚同士の物語。
受け攻め共に一筋縄ではいかないカップル。
二人が折に触れては繰り広げる駆け引きに大興奮。
また、お仕事物としても読み応え有り。
 

『俺が好きなら跪け』(2018年9月1日発行)

あらすじ

東都銀行に勤める松田は女性にだらしなく、性格にも難ありだが、優秀な銀行員。
そんな彼が目下ライバル視しているのが同期の加藤。
自分以上に女性にもてて、涼しげな顔で大口契約をものにしてしまう加藤は、松田にとって目の上のたん瘤でしかない。
ところがある日、残業で行内に残っていた松田は、当の加藤から告白されてしまい……。
 

総評

2019年現在、私が最も注目している作家の一人である里先生の著作。
先生が描かれるキャラは一筋縄ではいかないタイプが多いんですが、本作の主人公である松田と加藤もその例に漏れず。
分かりやすい「優しさ」やステレオタイプの「実は良い人でした」的な展開などは皆無。
それどころか、それぞれベクトルは違うものの、ぶっちゃけ人としてはアウトな部分も見受けられる。
松田は上昇志向が強く、何をするのにも手段を選ばないところがあるし。
加藤も無表情の下で何を考えているか分からないし。
 
しかし、それでも読者の目に魅力的に映るのが、「里先生マジック」とでも表現すればいいのか……。
物語が進行していく内に垣間見える、仕事に対する熱量や恋愛面で見せる一途さや、ちょっとした可愛げなど。
違った一面を発見するたびに、どんどん惹きつけられていく。
 
そんな食えない二人が繰り広げる駆け引きからも目が離せない。
加藤の真意が汲み取れず、松田はイライラ、読者はドキドキ。
だが松田も負けてはおらず。
仕事でねじ伏せてやろうと食らいつく。
それが加藤をさらに昂らせてしまうとも知らず……。
そのいわば無限ループがあまりにも美味しすぎて、終始ニヤニヤが止まりません。
 

俺が好きなら跪け 1

いやぁ、初回から松田の性格の悪さが炸裂ですね(笑)。
まあ、このぐらいアクが強くなければ、嫉妬と羨望が渦巻く出世競争の荒波を渡り切るのは難しいのかもしれませんが。
女性ともかなり遊んでいるようだけれど、芯の部分は冷めている。
無能な先輩に彼女を寝取られて腹は立っても、彼女自体にはまったくこだわってはいないようだし。
 
そんな松田が懸命になる数少ない要因が、仕事と加藤への対抗心。
この時点では加藤が鉄面皮の裏側の内面が汲み取りにくいですが、彼が松田のどこに惹かれたのかは分かるような気がします。
恋情がこもらないまでも、あんな視線を向けられれば、クールな加藤も煽られるだろうな。
そして、ラストの加藤の告白が、二人の新たな関係のはじまりを告げる。

俺が好きなら跪け 2

深夜の職場で、いけ好かない加藤に告白&キスされた松田。
だからといって、ここで恥じらうような殊勝さは一切なく、加藤との関係において「勝った!!」とマウント取ろうとしているのが実に彼らしい。
彼女を寝取った先輩に対する報復も手抜かりなく、そしてえげつない。
ビッチを切れて、ウザい先輩もコテンパンにできるという一挙両得。
ここまで突き抜けていると、いっそ清々しい。
 
だが、松田も加藤の前では調子が狂う。
松田に告白してきたくせに、相変わらず悠然としている加藤。
そうかと思うと、松田の皮肉に激昂したクソ同期から彼をかばったり。
加藤の真意が見えずに戸惑う松田。
それでもなけなしの負けん気を発揮するものの、性的な欲望を抱かれているのは承知しているので、二人っきりになるとどうしても加藤の一挙一動にビクついてしまう。
そんな松田を見る加藤の目がね、これまたたまらない。
まさに獲物をターゲットロックオンした猛禽類のそれ。

静かな中にも、機会があれば今にも喉笛に噛みついてやろうと虎視眈々と狙っている。
この緊張を孕んだ距離感に萌えるなという方が無理。
 

俺が好きなら跪け 3

前回、二人っきりの会議室で、加藤に「鍵かけろ」と言われて、「鍵?なんで…」って……。
ここまで来て、鍵かけてやる事とっつったら一つしかないだろ、松田~!!
いつもはあんなに強かなくせに、こういう時に限ってなんでここまでチョロいのか?
おまけに、加藤の手管に翻弄されて、簡単にイかされてしまうし……。
策を弄した(というほど大した事してませんが)加藤もビックリ。
 
しかし、そこで変に乙女チック路線に入らず、「なら仕事で叩きのめしてやるよ!!」と奮起するのが加藤の良いところ。
今回は、彼の仕事に対する予想外の一本気さや誠実さが、凄く出ていたと思います。
悪態を吐きつつも有能さを認めている加藤に「お前と仕事してみたかったんだよ」と言われて、内心嬉しかったんだろうなという事が察せられたり。
仕事に対するスタンスの違いで、加藤と衝突したり。
この対等に渡り合っている感が大好き。
加藤は加藤で、セクハラ発言や軽くストーカー行為をかましつつも、松田と関わるうちに無表情な中に感情の片鱗が滲むようになってきた。
  

俺が好きなら跪け 4

加藤がどうしてそこまで松田に執着するのか明かされます。
彼にとって仕事は割とどうでも良くて、あくまで魚(松田)を釣るための手段でしかない点に慄く。
 
製薬会社の御曹司という立場。
努力せずとも、なんでも水準を遥かに超えた結果を出してしまう自分。
やっかみと陰口を叩くしか能のない同僚。
そんな色褪せた世界の中で、加藤にとって唯一自分に噛みついてくる「めんどうくさい」松田だけがビビットな存在だった。
親の後を継ぐのが既定路線の加藤と、「俺は俺のために仕事してんだよ」と嘯く松田の対比。
これは加藤のような人間が、松田の事を是が非でも手に入れてやると執着しても不思議ではない。
松田、無意識とはいえ、とんでもないのもを落としてしまいましたね。
 
後半は一転。
別れた彼女から逆襲されて、出勤禁止にまで追い込まれる松田。
仕事が順調に行っていただけに痛恨ですが、これは自業自得&因果応報というか……。
そんな失意の松田のもとへ、加藤がやってくる。
嵐の予感しかしません。
 

俺が好きなら跪け 5

松田を手に入れるためなら遠慮も躊躇もない加藤。
手段なんてどうでも良い彼だから、この機に乗じて抱きに来たというのも本心なんだろうけれど。
なんだかんだと言いつつ松田が心配だったのもうかがい知れる。
 
ここの濡れ場もヤバい。
加藤の言動は相変わらず容赦ないながら、反面、松田大好きオーラが駄々洩れ。
大業な表現はないものの、表情や言動の端々から滲み出ている想い。
ホントなんつー蕩け切った顔で松田を見ている事か……、それを松田が知らないのが、これまたにくい。

片や、松田はエロ可愛さMAX。
抵抗しつつも、加藤との体の相性はバッチリなので、ついつい流されてしまう。
あれだけ女慣れしているモテ男なのに……、普段との落差にキュンキュンする。
加藤がムカつくのは変わらないようですが、反面、気になって仕方がない様子。
 
そこで加藤はできる男なものだから、さらに畳みかけてくる。
 

お前はもう逃げられないんだよ。諦めろ。

松田、俺、あと2年もしたら親の会社に戻るだけれど、そのとき松田も一緒に来いよ。

 
加藤ほどの男にこんな事言われたら、さすがの松田も絆されるわ……。
ここで俺様強引攻め×流され受けでハッピーエンドかと思いきや、……さすが里先生、そうは問屋が卸さなかった。
 
次の瞬間、絶えず傲岸不遜だった加藤の意外な一面が明かされて大爆笑不可避。
松田の前では「金で解決したんだよ」とか、何事もなかったかのような顔しておいて、実は松田を助けるために土下座までしていた事が発覚。
へぇ~~~、はぁ~~~、ほぉ~~~(ニヤニヤ)。
惚れた松田の前では、やはり格好つけてたかったんだろうね。
普段は俺様マイペースでどこか超然とした彼が、とても身近な存在に感じられる。
こんな表情もできるんだねぇとしみじみ。
いつもと違って前髪を降ろしている事もあり、なんだか幼くも見える。
レアな赤面顔も相まって、松田でなくともからかいたくなります。
まさにギャップ萌えの宝庫のような男・加藤。
 
しかし、そこは曲者の加藤。
単に茶化されるだけでは済ませなかった。
 

僕と結婚して下さい!

 
この時の二人の表情の対比も絶妙でした。
跪いているのに「してやったり!」といった風な加藤と、衆人環視の中で男にプロポーズされて、青ざめ赤面する松田。
甘くはならず、どこか勝負チックな雰囲気が、この二人にピッタリ。
これからも、彼らはこんなシーソーゲームを続けていくんだろうなというのが感じられるラスト。
 

リテイク

5話の続きで、屋外デート(?)する二人。
平常運転の駆け引きだけれど、どことなく甘さが漂っているのは気のせいか?
高級腕時計の見返りが「俺のスマイル」なところは、さすが松田というか……。
それを本気に受け止めてしまっていそうな加藤……、もはやこの二人のやり取りは夫婦漫才にしか見えない。
 
その後も、加藤の松田に対する求婚は続く。
顔に出にくいけれど、加藤も必死なんだな。
何しろ、人生を共にしたいという希望のもと、アタックしている相手ですからね。
一見なんでもそつなくこなしてしまう男だからこそ、率直な「俺を好きになって」にグッとくる。
これは、松田が陥落する日も、そう遠くないでしょう(というか、すでに陥落している?)。
 

『OFF AIR イエスかノーか半分か』(一穂ミチ/新書館ディアプラス文庫)感想【ネタばれあり】

OFF AIR ?イエスかノーか半分か? (ディアプラス文庫)

OFF AIR ?イエスかノーか半分か? (ディアプラス文庫)

OFF AIR~イエスかノーか半分か~

OFF AIR~イエスかノーか半分か~

 
一穂ミチ先生の『OFF AIR イエスかノーか半分か』の感想です。
『イエスかノーか半分か』シリーズの同人誌収録作品や、付録ペーパーやブックレット、ブログに掲載された短編&ショートショートまで集めた作品集。
甘々から少し切ない物語まで作風も豊富。
大変ボリューミーで、ファンには嬉しい一冊。
シリーズ未読の方は、まず下記の三作から。
kashiwamochi12345.hatenablog.com
kashiwamochi12345.hatenablog.com
kashiwamochi12345.hatenablog.com
 

『OFF AIR イエスかノーか半分か』(2017年9月10日発行)

総評

同人誌や付録ペーパーなど、場合によっては入手困難な媒体に発表された短編などを収録した作品集。
ショートショートなども合わせて20作以上。
おまけに、三巻以降で計と潮が半同棲を始めた新居の間取りや、二人の設定ラフ画まで掲載。
『イエスかノーか半分か』シリーズが好きだけれど、見逃してしまった読者にとっては歓喜せざるを得ない一冊。
また、既読のファンも、多くの作品が一挙にまとめられているので、作品世界にどっぷりと浸る事ができます。

シリーズ全体を通して、様々な時期の二人や、本編とはまた別の角度から切り取った物語など、趣向も凝らされています。
この一冊を読むと、本編を再び読み返したくなる事請け合いです。
 

熱帯ベッド

計が結婚式の司会の仕事を翌日に控えた夜の、二人のラブラブ。
寝室ひとつとっても、声を商売道具にした計のプロ意識の高さが垣間見える。
そして、そっち方面では、相変わらず潮の掌で踊らされる計が面白い。
職場ではあんなにできる男なのに、どうしてプライベートではこんなにチョロいのか……。
あられもない声を出したくないからって、潮の口でふさぐって、それ、潮の思うツボだから。
 
計を独り占めできるのは潮だけに許された特権。
確かに売れっ子アナウンサー・国江田計の自分オンリーワン視聴の生放送って贅沢すぎ。
冒頭の一編からこの糖度って、最後のページをめくるまで、私の脳と心臓は持つのだろうかと心配になりました。
 

きょうのできごと

二人の特別ではないけれど、かけがえのない一日。
一時的に喉の調子がおかしくなった計。
そんな彼を面倒みる潮は、オカンみが凄いというか、なんだかんだ言いつつも献身的で優しい。
潮が作る料理も、凝ったメニューではないんだけれど、大らかで温かみがあって彼の人柄を表している。
「きょうのできごと」というより、むしろ「きょうの料理」というか……。
ポーチドエッグののったマフィンやストーブで煮込み料理など、軽く飯テロなレベル。
痛んだ喉用のはちみつ大根漬けにも、アナウンサーを生業にする計への愛情が感じられる。
まあ、計が喉をからした原因の半分ぐらいは潮にあるんですけれどね、主にベッドの上で酷使されたという意味で。
 

This little light of mine

スケジュールがなかなか合わず、潮と共に過ごせない予感に一抹の寂しさを感じていた計。
そこへ、突然潮が現れて、二人は珍しく外でデートする事になる。
忘年会の途中なのに、コートも忘れて、潮について行っちゃう計が可愛すぎる。
親鳥に条件反射で付いていく雛みたい。
潮も計のために人気のない場所を選んだり、コーヒーを用意したりと、相変わらず出来た彼氏っぷり。
運河沿いの倉庫街というのもなかなか乙なもの。
ここで安易に青姦とかに流れないのも良い。
どうせ家に帰ったらイチャイチャするだろうけれど。
 

なんにもいらない

オールアイニード

二人のクリスマス前後のお話。
期間限定のアナウンサーカフェでギャルソンをやる事になった計。
ラテアートにも挑戦。
プライドがエベレスト級だから、絶対予習していくタイプだと思ったら案の定。
何かと器用な潮に、後ろから抱きすくめられながら指導を受ける計の姿が、映画『ゴースト』とオーバーラップしてニヤニヤが止まらない。
その他にも、潮のクリスマスプレゼントを一生懸命思案したり、潮が作ったクリスマス用プロジェクションマッピングを見て本人に会いたくなったりと、計の潮大好きエピソードがいっぱい。
毒舌は変わらずですが、普通に惚気ぶっこんでくるから油断できない。
あと今回は珍しく、国江田さんがお仕事で読み間違いをしていましたね。
確かに「サンタ」と「サタン」は紛らわしいですが。
おまけに、時はクリスマス。
これからも毎年このネタでいじられそう。
早速、直後の「オールユーニード」でネタにされているし(笑)。
 

オールユーニード

「オールアイニード」の対になる作品で、こちらは潮視点。
正月休みに、計と潮が計の実家へ行く話。
もしかしなくても一大事ですが、気負わず、しかししみじみと温かい話になっているのが大変このシリーズらしい。
三巻で潮の家庭の事情を知った後だと、また違った感慨が胸を過る。
ナチュラルな自分を受け入れてもらえるのが、どんなに貴重な事なのかを再確認できる作品。
 
電話出演で片鱗を感じてはいましたが、計の母親・正枝さんが非常に面白い。
独特なテンポと発想の持ち主ですが、良い味出しています。
息子である計との関係も絶妙で、変に甘やかす事も美化する事もせず、この距離感を保つのは、彼を一己の人間としてきちんと認めていなければできない。
こういう人が母親だからこそ、計も外と内のギャップに折り合いをつけて生きてこれたのではないかと思う。
正枝さん自身は「自分は変わっている」という自覚があって、おそらくそれに葛藤を覚えた時期もあっただろうけれど、そんな彼女を支えるお人好し過ぎるほどお人好しなお父さんも素敵。
 
息子の恋人・潮に対する、それぞれのスタンスも興味深い。
正枝さんにとっては、計が素の自分を見せられる潮という存在がいてくれるだけで嬉しかったでしょうね。
それこそ男女なんて関係なく。
自分に似た計が、孤独な人生を歩むんじゃないかと内心心配だっただろうから。
お父さんはお父さんで、カニ鍋の食べ方を見ただけで、潮の人となりを悟るのが凄い。
正枝さんの夫を長年しているだけはあります。
 

「連れてきてくれて、ありがとう。俺、お前もお前の親も、好きだ」

 
潮にこう言ってもらえて、計も嬉しかったでしょうね。
 

ぼくの太陽

メモリーズ

小学生時代の計、潮、竜起が、それぞれテレビ局に社会科見学に行く話。
三人とも、今のキャラが完全に出来上がってますね。
竜起がうざ可愛い。
計の飼っている猫の完成度も凄い。
100円と世間体を天秤にかける小学生(普通、防犯カメラまで気にするか!?)。
二人とも、アナウンサーになるなんて思いもよらない様子。
潮の面倒見の良さも、すでにこの頃から。
 

イミテーション・ゴールド

カメラマン・錦戸さん視点のお話。
本編では明かされなかった彼の一面が綴られています。
口は悪いけれど、やはり良い人ですね。
現場では超強気ですが、女系家族の中でいまいち立場が弱いのも微笑ましい。
 
個人的には、例の同期と未だに付き合いが続いていたのには驚きました。
どんなに相手が落ちぶれても、当時の同僚に感じた輝きは、彼にとっては「イミテーション」では決してなかったんだろうな。
たとえ仕事や私生活が充実しても、錦戸さんがずっと縛られてきたものに、なんとも言えない人生の苦さを感じる。
彼の奥さんも、それを察しているようなのがこれまた深い。
 

ぼくの太陽

ついに、二巻で語られていた、計の黒歴史のひとつ「ラブホで元素の周期表をセクシーに読む企画」の全貌が明らかに。
一見恥じらいつつも、腸煮えくりかえってたんだろうな(笑)。
それを動画サイトで聞いている彼氏。
新手のプレイですか?
あと、これまた計が潮に知られたくなかったお仕事「お上品な口調で官能的な絵満載の美術展のナビゲーションをする音声ガイド」とかね。
それを偶然入った美術館で、潮が聞いてしまうという……。
これも一種のラッキースケベ?
その他にもどんな仕事だって、計は悪態吐きつつも実直かつ完璧にこなしちゃうんだぞ、どうだ、俺の彼氏は凄いだろうという、つまりは潮の惚気いっぱいのお話。
音声ガイドのせいもあって、潮もいつも以上に滾ってます。
はいはい、ご馳走様としか言いようがない。
 

その他掌篇

ねないこだれだ

第一巻で計の正体を悟りつつも、その事を黙っている潮の話。
二人のキーアイテムの一つであるアクセント辞典に、計の似顔絵を描いた時の心境が綴られています。
潮が「国江田さん」と「オワリ」、両方大好きだという事がよく伝わってくる。
「俺はお前に、何をしてやれる?」という潮の計に対するスタンスは、この頃から一貫していますね。
 

真夜中のラブレター

第一巻所収の「両方フォーユー」で、潮がアメリカにとんぼ返りした時の計視点。
潮の家で、彼が描いた自分の似顔絵を偶然見つけた計。
うわぁ、これ潮本人よりも、計の方が居たたまれない気分になりますね。
イラストに潮の愛が如実に表れていそう。
計がすぐにでも潮の顔を見たくなっちゃう気持ち、分かります。
でも、会えるのはまだ先。
甘酸っぱい。
 

あなたの知らない世界

第二巻の「そうちゃん」ネタ。
竜起、怖いもの知らず過ぎ。
カウントが折り返しになった時点で「ギャーーー!!!」と悲鳴を上げたくなりました。
下手なホラーより背筋が寒くなるのはなぜ?
そうちゃん、カウント0になったら、一体何をする気だったのか?
知りたかったような……、知りたくなかったような……。
そうちゃん、マジで自然現象も操りそうな底知れなさがありますからね。
 

世界をとめて

第二巻で計の記憶が戻った直後の話。
普段の二人の日常がどれほどかけがえのないものなのか、失いそうになって初めて分かる。
潮が計だけに、花火の動画のディレクターズカット版を見せてあげるのが良い。
いつもは仕事に対して愚痴をこぼさない潮が本音を表すのも、計が彼にとって特別な人だから。
 

Change The World

第二巻で計と潮がもめた時、温泉に行ってしまった潮を計が追いかけてくる直前の話。
潮にとって、計ってビックリ箱みたいな存在なんだなと。
計への想いを語る潮の内心があまりにも雄弁で、こちらが赤面したくなります。
 

特別に試食させていただきました

ぽんぽん飛び交う国江田計のキャッチコピーが楽しく、テンポの良いショートショート。
でも、スタッフ(潮)、試食というよりも、毎回完食しているような気がしないでもない今日この頃。
 

VOICELESS

最も有効なしゃっくりを止める方法。
でも、この方法を計に施せるのは潮だけという……。
仕事先では使えないのが、唯一にして最大の難点。
 

JUST LIKE a Chocolate

バレンタインと潮が嫉妬する話。
バレンタインチョコの交わし方があまりにも計らしくて爆笑。
超効率重視。
色気もへったくれもない。
ゴデ〇バの名前の由来も一刀両断。
まあ、確かに超マニアックな羞恥プレイとしか思えませんが。
潮もバレンタインは一見平気そうなのに、そこには妬くんだ(笑)。
潮自身も結構羞恥プレイ好きそうですが、やはり独り占めしておきたい模様。
 

おうちのあかり

第三巻で二人が半同棲を始めた後。
計が目撃した不思議な夜のお話。
幸せだけれど儚い、一瞬の邂逅。
確かに夢や幻かもしれないけれど、そこで見た光景や潮の母親の輝く笑顔は、計にとって紛れもない「リアル」だったから。
それを胸に抱きながら、計はこれからも潮を愛し続けていくのでしょう。
 

カントリーロード

潮と彼の祖母の語らいと、彼が新しい「おうち」を見に行く話。
潮のおばあちゃん、軽やかで、孫の事を温かく見守っていてくれて素敵。
娘や婿である潮の両親に対して、複雑な想いもあっただろうけれど、幸せな時があったのも確かで。
それを潮に教えてあげられるのは彼女だけ。
潮の父親も、彼の秘書も、その点は不器用そうだから。
こういう小さなエピソードの積み重ねが、いつかきっと雪解けをもたらしてくれる。
 

オールフィクション

NHK様は偉大だというお話と、竜起はやはり只者じゃなかった件。
冒頭の(※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係がありません)がシュール。
でもNHKが伏字になっていない時点でお察し(笑)。
竜起は男前なんだか、単にザッパーなんだか、……まあ、九分九厘後者なんでしょうが、選挙特番に新たな伝説を刻んだ事は確実。
 

放送上の演出ではありません

生放送中にとんでもない爆弾を投げてくる竜起と、それを見事に打ち返す計(後で大乱闘必至)。
局内でも密かに名物コンビで通ってそう(計が切れそうですが)。
 

くにえだくんとあそぼう

計と潮の、安上がりだけれど甘~い遊戯(not エロ)。
まあ、ゲーム後はエロにはなだれ込みそうですが。
なんだかんだで素直かつ真面目な計と、要領の良い潮。
プレイスタイルに、二人の性格がよく出てますね。
 

太陽がいっぱい

なんとなく懐かしいサンシャイン池崎ネタ。
国江田計のうそっこ個人情報。
捏造のはずなのに、貯金額とキャッシュの暗証番号が微妙にリアルでイヤ(笑)。
ラストのオチも……、まさかのリバ!?
 

はつなつの星座

第三巻後のお引越し話。
荷物運びから事務手続きまで、ほとんど潮任せな点に爆笑。
色々やらかしたとはいえ、これでもキレない潮って、やっぱ偉大だななぁ。
本人、これでまったく無理していないっていうのが凄い。
懐が深いを通り越して、もしかして底が抜けてませんか?
そして、二人の新居にちゃっかり出入りしている竜起。
でも、もちろん、初夜だから追い出される(笑)。
「営む」、「営まない」でイチャイチャする二人にニヤリ。
 

bless you

18歳の頃の二人のニアミス。
ここで「運命的な出会い」とかやっちゃうと返って冷めてしまうんですが、必要以上にドラマティック&非現実的ではないのが一穂先生らしい。
心の琴線に触れるか触れないか……。
そのあやふやさの匙加減がお見事。
 

デイドリームビリーバー

描き下ろし作品。
「ザ・ニュース」のOPの続きをずっと作りたがっていた潮が、とうとう作業に着手し、完成させた話。
「ザ・ニュース」のOPは、二人にとっても思い出深い作品。
二人の脳裏にも、自分達の出会いから今までの色々な出来事が過ったのではないでしょうか?
様々な人々に接し、紆余曲折を経る事によって、人として成長してきた計と潮。
それが作品に反映された事は、想像に難くありません。
 
完成した続編を見て、潮の父親は何を感じたでしょうか?
潮と彼の父親は今回直接言葉を交わしていないけれど、そこには会話と同じくらい、もしくはそれ以上に濃厚なコミュニケーションがあったのではないかと感じずにはいられませんでした。
そして、潮の父親がさらに潮を理解するのに一役買う計。
潮、本当に素敵なパートナーを得ましたね。
本作はこの一冊の追尾を飾るのに相応しい作品だと思います。
一穂先生にとって計と潮が主人公のお話はこれで書き収めかもしれませんが、二人はこれからも共に歩み、物語はこの先もずっと続いていくんだなと信じられる、そんな余韻を残してくれるラストでした。
 

『その恋、自販機で買えますか?』(吉井ハルアキ/三交社Charles Comics)感想【ネタばれあり】

その恋、自販機で買えますか?【特典付き】 (シャルルコミックス)

その恋、自販機で買えますか?【特典付き】 (シャルルコミックス)

その恋、自販機で買えますか? (Charles Comics)

その恋、自販機で買えますか? (Charles Comics)

 
吉井ハルアキ先生の『その恋、自販機で買えますか?』の感想です。
元々は個人のSNSで発表され、人気に火のついた作品。
自動販売機補充員(28)×会社員(32)の年下攻め。
アラサーが滅茶苦茶可愛い恋愛しています。
 

『その恋、自販機で買えますか?』(2019年2月25日発行)

あらすじ

会社人の小岩井歩は、意を決して、自分の勤務する会社に出入りする自動販売機補充員の山下諒真に声をかける。
実は歩はゲイで、山下にずっと惹かれていた。
幸い山下も歩に好意的で、ラ〇ンのアドレスを交換したり、一緒に食事へ行ったりする仲になる。
だが、恋に臆病な歩は、なかなか積極的になれないでいた。
一方山下も、歩がとても大事にしているストラップの贈り主に嫉妬してしまい……。
 

総評

このレベルの作品でSNSで読めるなんて、つくづく良い時代になったなあと感動。
とにかく主人公二人がかわうぃーーー!!!
アラサー男子が、まるで思春期のようにモダモダした恋愛を繰り広げています。
彼らの不器用な言動すべてが愛おしい。
気になる相手に声をかけるのにもいちいち勇気を振り絞ったり、反対に相手の心が読めなくて、最初の一歩が踏み出せなかったり……。
読者は彼らのもどかしくも甘酸っぱい交流を、ひたすら固唾を呑んで見守るのみ。
 
ストーリー的には、大事件やひねった展開があるわけではないけれど、丁寧な心理描写やエピソードの積み重ねが好感度を抜群。
派手さはないものの、かゆい所に手が届く。
「そうそう、こういうのが読みたかったの」と、恋愛物の醍醐味を思い出させてもらいました。
ストラップの伏線などは、張り方も回収の仕方も上手いなと感心してしまいました。
登場人物の人数も、主人公二人に歩の同僚かつ相談相手の大石さん(既婚者)と必要最小限ですが、それが返って功を奏していて、二人の恋愛に集中できます。
 
吉井先生の絵柄も大好き。
美麗というわけではないんですが愛嬌がある。
表情のバリエーションも豊か。
反面、変に誇張しすぎてもいない。
こういう、外見的にはどこにでもいそうな普通の男性が、恋愛に一生懸命向き合っている姿にキュンキュンしてしまいます。
 

その恋、自販機で買えますか? 第1話

歩が山下に初めて声をかけてから、食事の誘いにOKするまで。
何気ない風を演じて山下に声をかけた歩が、内心では心臓バクバクだった事に、読者であるこちらもドキドキ。
 
自分はゲイだけれど、相手はどういうつもりで接してくれているのか……。
山下の好意の正体が分からず戸惑ったり。
ラ〇ンの返答一つにも緊張や喜びを感じたり。
そんな歩に共感を覚えずにはいられませんでした。
 
一方、山下は歩と違い、どちらかというと無表情なんですが、ちょっとした動作に感情がのってくるタイプ。
たとえば歩を食事に誘う時、手をギュッと握りしめたり、歩の答えを待ってじーっと見つめているのにも、緊張感が漂っています。
また、彼の目を通して見た歩のキュートな事この上ない。
女性的というわけではなく、素朴な可愛らしさ。
それだけで、山下がこの時点で、歩に対してかなりの好意を抱いているのが伝わってきます。
彼が鉄面皮ゆえに、最後の「っしゃ!!」も効果的。
「良かったね!」と、まるで友達の恋を応援しているような気分になる。
 

その恋、自販機で買えますか? 第2話

念願の食事に行って、二人はどんどん打ち解けていく。
場所がいかにもなデートスポットではなく、居酒屋でカレーライスを一緒に食べるというシチュエーションも、この作品にピッタリ。
取り留めない話をしながら、互いの事を少しずつ知っていく過程にキュンキュン。
ちょっとした言動から、相手の優しさや心遣いが伝わってくるのも格別。
山下への気持ちがいちいち顔に出てしまう歩はもちろん、無表情なのに心中では歩にときめいている山下がたまらん。
そして、彼は相当なムッツリと見た。
 
後半は急展開。
山下が好きだからこそ、歩はゲイである事を告げ、また山下も勢いに乗って、自分の想いを告白してしまう。
このシーンの指先の動きが絶妙(くっついたり離れたり)。
真っ赤になる歩も可愛い。
しかし、恋に不慣れな歩は、返事を保留にしてしまう。
 
出会ったばかりで、まだまだ距離感を測りかねる二人。
歩の思わせぶりなストラップの存在も、読者の興味を誘います。
 

その恋、自販機で買えますか? 第3話

前回の告白により二人のもどかしさ全開。
返事は保留にされてしまったものの、ストレートに歩へ向き合う山下が男前。
映画デートでも、なかなかの包容力を見せてくれる。
 
でも、実際は不安でいっぱい。
このシリーズ、当初は山下の真意が分からず歩の方が困惑を覚えていたのが、この回ではその関係性が逆転しているように見える。
「あの、オレ、本気ですからね」の、眉尻を下げたちょっと頼りなさげな表情だったり、歩の例のストラップを気にしたり。
歩の事を加速度的に好きになっていくのに、勢いのままにした告白が微妙な結果に終わり……。
宙ぶらりんになったおかげで不安になっていくという、山下の心情変化に大変説得力があるし、山下の違った側面も見えてきました。
 
ラストはまたまた急展開。
電車が運転見合わせになり、急遽山下の家に行く事になった歩。
恋愛物ではド定番のイベントですが、ニヤニヤが止まらない。
 

その恋、自販機で買えますか? 第4話

よく考えたら、好きな相手の家に行くって、かなり大事なんじゃ…!?

 
歩さん、今頃、気づいたんかい!!(笑)
コンビニの棚に並ぶゴムも見ないふり見ないふり。
 
片や、山下も想いを寄せる歩を家に泊めるのだから意識しまくり。
恋愛初心者の歩はいまいち疎いですが、山下はより具体的に色々妄想しちゃったんでしょうね。
それに煽られて、歩の羞恥心も膨らんでいく。
 
その後も、彼シャツならぬ彼スウェット(体格差に萌え)に始まり……。
ひょんな事から山下の上から下までくまなく目撃してしまった歩(ナニが凄かったんですかね、ニヤニヤ。←セクハラ案件)。
リラックスした山下の笑顔。
互いを意識しつつ、背中合わせで眠る二人。
王道ハプニングの連続で、お腹いっぱい夢いっぱい(?)。
 
特に、やっぱりストラップの事が気になって仕方がない山下や、彼の「…好きになってくれたらいいのになぁ、オレのこと」にはキュンとしました。
これは、歩じゃなくても絆されるわ……。
 

その恋、自販機で買えますか? 第5話

お泊り以降、なんだか壁のできてしまった歩と山下。
互いの事が大切だからこそ、一歩引いてしまう気持ち、すごく分かる。
 
前回までもそうでしたが、歩の感情と連動した表情の目まぐるしい変化に、読者もぶんぶん振り回されます。
特に夜の街で、山下と偶然顔を合わせてからの一連。
山下に優しくされてときめいたり、次の瞬間には山下に距離を取られて悲しくなったり、まるで感情のジェットコースター。
好きだからこそ、相手の一挙手一投足に反応してしまう。
「時間をとらせちゃったね。ごめんね」の、余裕を装った年上の仮面と、次のページの子供のように傷ついた表情の対比も上手い。
これは山下ならずとも、放っておけなくなります。

そして、やっと明かされるストラップの来歴。
あぁ、そういう事だったんだなぁと……、大どんでん返しはありませんが、この二人にピッタリなエピソード。
そして笑っちゃ悪いけど、真実を知った後の山下の表情に爆笑。
うわぁ、これは恥ずかちい……。
歩の怯えや恥じらいも理解できますが、もっと早く言ってあげれば良かったのに(笑)。
 
そんな訳で憂いも解消し、結ばれる二人。
このシーン、初めてのキスも、歩の敬語交じりの告白も、いちいちぎこちなくて悶えます。
そして、再び山下の家に行く事になった歩。
果たしてどうなる?
 

その恋、自販機で買えますか? 第6話

32歳童貞処女の破壊力、マジぱない。
物慣れないしぐさや言葉で、男の劣情のスイッチ押しまくり。
彼シャツ&生足で、前回の時よりも進化(?)してるし。
歩の言動すべてが、山下のツボにサクサク刺さっていて笑った。
「止めないでほしい」って、いや、頼まれずとも止められない止まらないから!!
 
今回は初心者の歩を考慮して素股でしたが、彼を気遣いつつも適度に強引な山下の塩梅が最高でした。
二人が互いの名前を呼び合っているだけで萌える。
いやぁ、年下攻めって本当にいいもんですね~。
 
ラストのベランダでのシーンもラブラブ。
こういう感情の擦り合わせって、お付き合いする上で非常に大事ですよね。
 

描き下ろし

祝・合体!!(もっとオブラートに包め)
 
もうね、歩のあまりの健気さとチャーミングさに語彙力が死にました(大体いつも死んでますが)。
ネットで男同士のやり方を調べるのは良いとして、当の山下に「準備の仕方を教えてほしい」とは、ちょっと天然が過ぎるのでは!?
そりゃあ、山下も「オレがしますよ、洗浄」となります。
 
今回、唯一の不満は、この洗浄シーンが割愛されていた点。
WHY!?なぜ!?
こうなったら、長年研ぎ澄ましてきた妄想力で脳内補完するしかない。
それでも歩の本音を汲み取ろうとする山下は天晴な男気ですが、歩本人に「あの………、俺も山下くんと、し、したいから…」なんて可愛い顔で言われたら、なけなしの理性も砕け散ります。
むしろ、健康な20代成人男性が、こんな恋人の傍でよく1か月も耐えたもんだ。
 
吉井先生の描くHシーンがこれまた楽しい。
がっついているんだけれど、下品にならず。
二人が相手を本当に好きなんだなとホッコリ。
歩も無事初体験が済んでなにより。
それどころかあまりにも気持ちが良すぎて、「もしかしてM……」と悩みは尽きませんが。
相方も洗浄で若干Sに目覚めたようなので、ちょうど良いバランスなんじゃないでしょうか?(笑)
 

『おうちのありか イエスかノーか半分か3』(一穂ミチ/新書館ディアプラス文庫)感想【ネタばれあり】

おうちのありか?イエスかノーか半分か(3)? (ディアプラス文庫)

おうちのありか?イエスかノーか半分か(3)? (ディアプラス文庫)

おうちのありか ~イエスかノーか半分か (3)~ (ディアプラス文庫)

おうちのありか ~イエスかノーか半分か (3)~ (ディアプラス文庫)

一穂ミチ先生の『おうちのありか イエスかノーか半分か3』の感想です。
今回は、今までいつも計を支えてくれた潮が窮地に陥ります。
明かされた潮の意外な過去。
計を守るために、別れを決意する潮。
果たして、計は潮を取り戻す事ができるのか?
 

『おうちのありか イエスかノーか半分か3』(2016年6月30日発行)

あらすじ

付き合い始めてから二年。
公私ともに順調な計と潮。
しかし一転、計が衆議院の解散総選挙に出馬するという記事が週刊誌に掲載された事により、周囲はにわかにざわつき始める。
時同じくして、潮に来た仕事のオファーが立て続けにキャンセルされる事態に……。
潮はその裏に、ある人物の思惑がある事に気付く。
おまけに、計のプライベートの秘密まで握られてしまい……。
潮は計を守るために、別れを決意するが……。
 

感想

今回は主人公二人はもちろん、読者にとっても辛いストーリーでした。
いつも後ろでどっしり構えていてくれる潮がいないだけで、こんなに安定感を欠き、ここまで不安を煽られるとは……。
そんな潮の出自が明かされた今作。
電話出演のみではあるものの、家族の姿が垣間見えた計と比べて、潮についてはバックグラウンドがまったく見えなかったため「何かがあるな」とは予想していましたが。
二人の幸せなシーンとは反比例して、前半からせり上がってくるような胸騒ぎ。
そして、彼が背負うものは想定以上に重かった。
 
潮が訥々と語る過去が悲しい。
ただただ親に恨みつらみをぶつけるのではなく、一個人としての生き方を認めつつも、決定的な面でどうしても相容れない親子の姿が切ない。
読んでいて、一穂先生、本当に上手いなと思うのは、潮の父母を安易に悪役にするわけではなく、かといって必要以上に美化するでもなく、その塩梅が非常にリアルな点。
 
どうして潮の両親は、そこまで無茶をせざるを得なかったのか?
たとえ人の子の親だとしても、万能な人間ではないという、当たり前だけれど残酷な事実が胸に迫る。
本作の後半を読むと、その事情が見えてくるのですが、それを知っても全面的に受け入れるのは難しい。
もっと違う道がなかったのか?
ましてや、父母の置かれた状況を知らなかった潮なら、なおさらそう考えずにはいられなかったと思います。
潮と彼の父親、両方の気持ちが理解できるからこそ、読者も遣る瀬無さを味わう。
 
こうした割り切れない想いや自分の在り方を突き詰めてきたからこそ、潮はあれほど度量の広い男になり得たんだろうな。
本人も自覚している通り、潮が計との別れを選んだのはエゴとも言えるけれど、それでも自分が惚れた、アナウンサーとして進化し続ける計を失くしてしまう事はどうしてもできなかった。
潮は計の一部分だって失えないのは、前巻ですでに証明済みですし……、そういう、ある意味、欲張りな男なんです、潮は。
また、母を守れなかった父のようにどうしてもなりたくなくて、自分は精一杯愛する人を守ろうしたんだと思います。
いつもは飄々としている潮の、計に対する拙いけれど深い、そんな愛に感動を覚えました。
 
まあ、守られた計にしてみたら「勝手に決めやがって!ふざけんな!」という感じでしょうが(笑)。
今回の計は本当に格好良かった。
潮に別れを告げられた直後、あまりにも傷つく彼に、読者であるこちらも胸が痛みます。
ですが、基本的には潮を諦めようなんて選択肢は鼻っから存在しないのが、実に彼らしい。
しかし、もし潮と出会わなければ、計はこれほどまでに何かに貪欲になる事ができただろうか?
ここまで形振り構わぬ行動に出られただろうか?

そう考えると、今回の展開は非常に感慨深い。
 
計からしたら、潮の父親の思惑などはもちろん与り知らぬし、「潮=自分の安全地帯」を奪っていく者は、須らく敵なんですよね。
計が潮を取り戻そうとするのは、もはや生存本能に近い。
それは、当の潮であっても止められない熱量で。
だからこそ、計が潮のもとへたどり着く過程の尋常ではない必死さや、潮の父親に切った啖呵に心を揺すぶられました。
そして、お姫様(潮)を攫って行く姿は、まさに王子様。
これは潮でなくとも惚れ直します。
潮の父親もぼやいていますが、息子さん、色々な意味でとんでもないのを引っかけてきちゃいましたね。
 
本作のテーマは、タイトルにもある通り「おうちのありか」。
計と潮が様々な時間を共有した家が、あまりにも呆気なく壊されてしまったのにはショックを受けました(本当に自分でも驚くほど衝撃的だった)。
二人のこれまでの思い出が、走馬灯のように脳裏を駆け抜けたぐらい。
「一穂先生、容赦ないな」と、計と同じく打ちのめされました。
でも、読み進めていく内に、それはどうしても必要なプロセスだったのだと、読者は悟ります。
家を失っても涙を流す事すらできない不器用な潮を、計があえてひっぱたいて泣くように仕向けてあげるシーンにジーンときました。
互いが互いを支える、本当に良いカップル。
 
そして、相手がいる場所こそが、自分達の還るべき「おうちのありか」であるという答えに、二人は最終的にたどり着く。
それぞれの理由から、ありのままの自分を受け入れてもらえる場を持てなかった、どこか不安定な計と潮が、出会い、恋をして、やっと手に入れた、かけがえのない居場所。
「居場所=人生の軸足」を手に入れたからこそ、計はアナウンサーとして、潮はアニメーション作家として、より輝く事できる。
 
そんな二人が、新たな住処を手に入れて、再びスタートを切った事に胸が熱くなりました。
子供の頃の潮が家族と住んでいた家が、新居になっているというのも良いですね。
潮達一家がかつて壁に残した手形。
時は皆に平等に流れ、取り返しのつかない事もあるけれど、そこには幸せだった頃の痕跡が残り続ける。
今は道を分かってしまっても、いつかは父親とも理解し合えるのではないかという余韻を残しつつ。
とても素敵な大団円でした。